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「第十話 女神の誕生」(2009/11/15 (日) 00:23:35) の最新版変更点
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ここに1つの計画があった。その名を『Princess Weapon計画』
神姫を兵器として利用しようとする計画だ。
当時は極秘とされていたが失敗に終わった計画
どこからか流れた情報により少し神姫を齧った程度の人でも知る所となったが、一種の都市伝説の類として今や信じる者すらいない眉つばの話だ。
少しだけ時を戻そうクロエの因縁となった7年前へと
♦
7年前、とある国の某所
「で、どこまで進んだの?クロエ」
計画の為に用意された研究室の一室、そこには白衣を纏ったクロエがパソコンの画面を睨んでいた。
「ん?あと少しなんだけど、やっぱり強度の問題がクリア出来ない。素材の見直しが必要かもな。メティスはどうなんだ?」
メティスと呼ばれた女性が微笑んだ。計画で神姫の人工知能等のプログラムを担当している。
「私?私はもう出来ているわよ。あとはあなたの素体待ちってところ」
クロエの担当する設計はメティスに比べ大いに後れを取っていた。
「はぁ、嫌味を言いにわざわざ来たのか?」
クロエがパソコンの横に置いてあった冷めきった珈琲に口を付けると不味そうな顔をする。それを見たメティスが笑った。
「まさか、応援に来たのよ。餞別にコレ持って来てあげたんだから泣いて感謝してね」
笑顔のメティスから薄い書類の束を受け取る。それは計画の仲間であるレイドからのものだった。
「泣いて感謝するかは内容しだ・・・い・・・まさか!これ本当に?」
その書類に目を通すと信じられない、いや待ちに待った嬉しい事が書いてあった。
「1時間くらい前に届いたばっかりの報告よ。あなたが求める条件全てをクリアする新素材よ」
「さすがレイド、いつか豪華な夕食を奢ってやる。これで出来る。メティスこの素材いつ用意できる?」
「今すぐにでも出来るって聞いてるけど?」
「じゃあ今すぐ・・・って言いたい所だけど一度設計を見直さないといけないから・・・」
「見直し?どうして?設計は出来てるんじゃないの?」
不思議そうな顔をするメティス、それに含んだ笑みを返すクロエ
「出来てる事は出来てるけど、妥協して設計してたから一から設計して最高のモノを作って見せる。だから3日くれ」
「了解、それじゃ三日後を楽しみにしてるわね」
♦
二週間後、研究室内。
そこで彼女は生まれた。計画に必要なもの全てを積み込んだ最高にして最強を約束された美しい神姫、いや兵器として彼女は作られた。
彼女が起動し最初に見たのは二人の男女の姿。
「俺達が見えるか?」
男の声に彼女は肯き返事をした。
「はい、見えます。私のオーナーはどちらの方なのでしょうか?」
彼女の反応に二人は嬉しそうな顔をし、そして男が何か困ったような顔をした。
「あ、そうか、制作に夢中でオーナーを誰にするか決めていなかった」
「そう言えばそうだったわね」
何かを考え込む二人、先ほどの会話からどうやら目の前にいる二人はオーナーではなく彼女を作った父と母のようだ。
「あなたで良いんじゃない?私はそういうの向いてないし」
「あ~そう言えばそうだったな、確か熱帯魚プレゼントしたら三日で全滅させてたな」
「失礼な、一週間よ」
「誇る事じゃないだろ。まったく、そういう訳だ。俺が君のオーナーだ」
どうやら父が私のオーナーになるようだ。母でなくて良かったと思った事は母には秘密だ。
「初めましてオーナー、オーナーの事は何とお呼びすれば良いでしょうか?」
「堅苦しいのは嫌いだからクロエと呼んでくれ」
「私はメティスで良いわ」
「分かりましたクロエ、それにメティス、それでは私の名は?」
「君の名はネメシスだ」
「ネメシス……良い名前です」
「それでは改めてよろしく頼むネメシス」
「よろしくね、ネメシス」
「はい、よろしくお願いしますクロエ、メティス」
♦
起動から一ヶ月、ネメシスは神姫用の演習場でネイキッドを相手に起動の翌日から毎日、演習を重ねていた。
演習場には無残に破壊されたネイキッドが9機、転がっていた。
ネイキッドには共通点がある。全て斬り捨てられているのだ。
ネイキッドを斬り捨てた片刃の大剣一つを持って地を駆けるネメシスに狙いを定め撃たれるマシンガンの速射、その高速の牙を難なく表情一つ変える事無く避けながら接近、そしてマシンガンを斬り無力化、そこで雌雄は決したがそこで終わりではなかった。無力となったネイキッドの胸に無言で剣を突き立てた。返り血の様にネイキッドから噴き出たオイルがネメシスを染め上げる。
『ネイキッド十機ノ破壊ヲ確認、演習ヲ終了ヲシマス』
演習の終わりを告げる機械音声、ネメシスが演習場を出るとクロエがタオルを持って待っていた。
「お疲れ様、素晴らしい成績だ」
差し出されたタオルを受け取り、顔に付いたオイルを拭き取る。
「ありがとうございます」
「そろそろ演習にも飽きただろう?」
「そうですね。プログラムされたネイキッドの相手は飽きてきました」
ネメシスの言葉に苦笑するクロエ
「正直だな」
「そういう性格ですから」
「そうか、そんなネメシスにプレゼントだ」
「プレゼント?」
「あぁそうだ。君の装備が完成した」
「本当ですか?」
待ち望んでいた事に表情一つ変えないネメシス
「喜んでいるのか?」
「えぇ大変に喜んでいます」
クロエがため息を吐いた。
「はぁ、もう少し感情を表に出す努力も必要だな」
「努力します」
♦
ネメシス起動、3ヶ月が経ったある日の事
「実戦データが欲しいな」
ネメシスの演習が終わり研究室に入るなりクロエが言った。言われたメティスと遊びに来ていたレイドがきょとんとした。
「いや、実戦データって公式のバトルロンドには出られないぞ?」
「そうそう、レギュレーションに引っ掛かって終わりよ」
レイドとメティスが問題点を指摘する。
「普通の神姫と戦ってどうするんだよ。ネメシスは兵器として作ったんだぞ?公式戦でのデータなんか採るだけ無駄だろ」
「じゃどうするんだ?」
「あるだろ、一つだけ」
二人の頭上に?が浮かぶ。
「ブラックロンドだよ。噂に聞けばかなり過激なものだそうだ。本体の破壊は当たり前、実銃と変わらない威力の武装、装甲車のような装甲を持ったものもいて、そこで使用された武装の多くは神姫犯罪に使われるという。まさに実戦データを採るのに最適の場所じゃないか」
饒舌になるクロエだが問題があった。それをレイドが指摘する。
「それは分かった。しかしどうやって入る気だ?ブラックロンドはマフィアが仕切っている事が多いらしいから場所は分かっても会員や関係者でもない限りそう簡単には入れないぞ」
クロエが苦い顔をした。
「そこまで考えなかったのか、お前は頭は良いんだが、どうも抜けている所があるな」
「仕方ないよ。天才って言っても万能じゃないんだし」
「お前らバカにしてんのか?」
「いやいや、考えは良いんだ。ただ詰めが甘い」
「そうは言ってもマフィアの知り合いなんていないぞ?」
悩むクロエとレイドを見ていたメティスが意を決したように立ち上がった。
「ふぅ、良し!私が何とかしよう」
「「なんとかってどうするんだ?」」
「蛇の道は蛇って言うでしょ、任せといて」
♦
一週間後、暗い路地裏でネオン看板が一際目を引く店、その中にクロエとネメシス二人の姿があった。メティスの言うとおりどうにかなった。その理由は不明だが。
クラブ・ビヨンド。表向きはただのクラブだがその地下にはある種の人間を熱狂させる施設が存在している。
地下賭博闘技場、そこでは一攫千金を狙う違法な賭けが行われる。その対象は神姫のバトルロンド、通称ブラックロンドと呼ばれている。
「酷い臭いだ」
人の波を歩くクロエの鼻を衝く煙草と人の合わせた異臭は気分を不愉快にさせる。
「ですね。私もこの場所は好きではありません」
「データ採取の為とは言え、頻繁に来たいとは思わないな」
この世の劣悪を集め煮詰めた様な地下を隠すかのような煌びやかな照明、手にチケットを握り熱狂する人々、その先にあるのは地下の中央に置かれた円形の闘技場。
スクラップ場の様な闘技場では二体の神姫が戦っている。公式のバトルロンドではない相手を撃ち、斬り、砕き、活動を停止させただのスクラップにするブラックロンド。
♦
「みな様お待たせいたしました!当クラブのチャンピオン、ディスデモニアの登場です!」
闘技場に一体の紅いストラーフが舞い降りた。それに熱狂する観客達
「キシシシッ」
紅いストラーフが笑う。現在五十連勝し、その全てが相手神姫のCSCを砕く完全破壊で勝利を収めている。残虐な神姫として暴虐皇帝の二つ名を持つチャンピオンだ。
「さぁ今日の挑戦者、ネメシスの登場です!」
ネメシスの入場、観客達の冷めた反応に意を返さずチャンピオンの目の前に立つ。
「キシシッ、アンタさ、せめて三分はもってよね。最近どいつもこいつも一分も持たなくてつまんないんだよね」
ディスデモニアの挑発にネメシスは何も言わない。いや聞いてすらいない。瞑想に耽っていた。
「おい、無視してんじゃねーぞ!」
渋々目を開きネメシスがディスデモニアを見る。
酷く怒った顔をしている。ネメシスがある事を思い出した。ここに来る前にレイスから授かった言葉だ。たぶんこういう時に使うのだろうとネメシスは判断した。
「喋るな、弱く見える」
短く簡潔な言葉、それはディスデモニアを激昂させるのに十分だった。
「なん・・・だと・・・この野郎!」
ネメシスに飛びかかろうとするディスデモニア、しかし一抹の理性はあったらしい。こみ上げる怒りを何とか抑え込み一際強く睨む。
「粉々に砕いてやる!」
♦
両者共に一度自分のコーナーに戻り、始まりの鐘が鳴るのを待つ
「クロエ、何故彼女は怒っていたのでしょうか?」
「何故って、それは相手の逆鱗に触れる様な事を言ったからだろう。それにしてもまさかネメシスがあんな事を言うとは思わなかった」
「レイスに教わったのです。そしてそれを使うのはあの時だと判断しました。何か間違っていたでしょうか?」
「いや、何も間違っていない」
「それは良かったです」
「ネメシス、コンディションはどうだ?」
この闘技場で破壊され無残な残骸を晒している神姫が敷き詰められた地面を踏み締める。ネメシスの足元に転がる顔の半分を砕かれた神姫の光を失った右目がネメシスを映す。そこから恨み辛み、憎悪と憤怒、この闘技場で死んだ神姫のあらゆる負がこちらに話しかけてくるようだ。
「ネメシス?どうした?」
「あまり、気分の良いものではありませんね」
兵器として生まれたとはいえ神姫、同じ神姫の死体の山を見て気分は良くない。
「そうか、まるで地獄の底の様な場所だものな、でもな亡霊どもにこう言ってやれ――――とな」
クロエに言われた言葉をネメシスが深呼吸し力強く吐いた。
「喚くな亡霊、我が名はネメシス、復讐の女神の名を持つ神姫なり」
不思議とネメシスの一抹の不安が打ち消された。
そうだ。私はネメシス、生まれながらに最高と最強を約束された神姫、足元で残骸を晒す神姫とは全てがネジ一本、髪の毛一筋から違うのだ。
『lady Fight』
始まりの鐘が鳴った。
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