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「ねここの飼い方 ~ネメシスの憂鬱・ファイルⅩⅣ~」(2009/11/04 (水) 23:05:46) の最新版変更点
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「――――なぁ、静香ちゃん」
エルゴ店内にも降り注ぐ、秋のまどろむような柔らかな日差しの中、真っ白に燃え尽きた男が1人。
「はい店長さん、何でしょうか?」
返すは、満たされた顔で肌が健康的にツヤツヤと光り輝く、少女が1人。
「ネメシスちゃんとココちゃん…………何してたんだ?」
やっと真っ白な状態から戻り始めた頭から、やっとの事でその言葉を捻り出す。
店長がフリーズする前に見た光景は、過激なSM衣装に身を包み、何か白濁としたモノでベトベトになったネメシスの姿と、奥で同じくメイド服をベトベトにしてダウンしているココの姿だった。
その後ネメシスには何かを訪ねられた気がするのだが、記憶の混乱によって詳細を殆ど覚えていない。しかもその間にココは更に奥に引っ込んでしまったようで、再度その姿を確認する事は出来ない。
そして、現在残っているのは何か白濁とした液体で無残に汚れている机と、その白濁液の中に転がっている神姫サイズのディルドーのような物体だけ。だがコレだけでも何が行われていたか想像、いや妄想をかきたてるには十分な材料だろう。
「ひ・み・つ、です♪」
わざとらしく唇に指を軽く当て、可愛くウィンクしてみせる静香さん。
「でもそうですね……『色々と、凄かった』ですよ♪」
にふふ、とたっぷり堪能しましたといわんばかりの微笑を湛える。質問をした筈の店長は反対にあんぐりと口を開け、再びフリーズ状態になる。
やがて、フリーズ状態の解ける前兆か、立っている状態なのに貧乏強請りの如く、カタカタと小刻みに動き出す店長。
「…………ぅ」
「う?」
何事だろうと、ひょいと顔を近づける静香さん。それが限界の糸を切ったのかもしれない。
「うおおおおおおおおおおお!!!俺もネメシスちゃんとココちゃんのにゃんにゃんシーンみたかったぁぁぁぁ!!!」
荒ぶる漢の魂からの絶叫が、まだ人気の少ない店内に恐々と響き渡る。
「――――マスターぁ……」
「……う゛ぁ」
と、店長が魂の底から紅蓮の炎を吹き上げたのも、ほんの一瞬だった。
次の瞬間には、店長の魂の熱さをも凌駕する怒気を持った存在が後ろに居たからだ。
「じぇ……ジェニーささささ……。違っ、違うんだこれはぁぁぁぁ!?!?!?」
最高潮のテンションで真っ赤になっていた顔からは血の気が引き、一瞬のうちに真っ青になってしまっている。
対照的にジェニーさんは、怒気と臆面もなく絶叫してしまった自らのマスターに対する恥かしさで、その顔を耳まで真っ赤に染めている。そして何時の間にか装備しているジェネシスボディからはジェネレータフル稼働で過剰状態の電力が、時折バチバチという鋭い音と共に、見た目も鮮やかに放出されている。
そして店長の慈悲を求める懇願に対し、ほんの一呼吸だけ、天使のように微笑む。それは、これから死にゆく店長への手向けだったのかもしれない。
「―――問答……無用ぉ!!!!!!!!!!!」
「あぎゃーっ!!!!?」
最大出力のリボルクラッシュを受け、一瞬で吹き飛び、まるで漫画のように黒コゲになる店長。
「……全く、マスターはスケベなんですから。でも他人の神姫見て欲情するくらいなら何で私に手を出してくれないんでしょう私なら人型ボディもあるんですからもっと満足させてあげられるのに私のへたれなマスターは……」
店長を吹き飛ばした後、毒気が抜けたのか急にしおらしくなり、もじもじと顔を赤らめながらなにやらブツブツと独り言を呟くジェニーさん。最早お約束のコントと言わざるを得ない日常がそこにあった。
「さて、と。お二人のコントも堪能した事ですし。…………あんな面白い事する人は、っと」
それまで傍観を決め込んでいた静香さんだったが、2人のドタバタがひと段落したのを受けて、携帯電話を取り出し短縮ボタンの操作を行い、何処かへ電話をかけ始める。
「――――あ、もしもし戸田ですが。――えぇ、お久しぶりです……鈴乃さん」
***~ネメシスの憂鬱・ファイルⅩⅣ~
「……ぅ、ぁ」
ゆっくりと全身が再起動していく、この感覚。ぼんやりと開けた瞳が見た物は、木目模様が鮮やかな、知らない天井。
「あら……ようやくお目覚めでして、ネメシスちゃん」
「…………、ッ!?」
その僅かな嘲笑の音色を含んだ声を聴いた瞬間AIが緊急警報を訴え、動揺した私は勢いよく起き上がり、この声の主と距離を取ろうとする。だがいきなり激しい動作を行おうとした為か、それともまだ身体制御関係の方が起動しきってなかったのか、足腰がおぼつかずバランスを崩し倒れそうなってしまう。
「――っと。大丈夫ですか」
「あ……嗚呼、すまないメイド」
だが地面への固い衝撃はなく、代わりにぽよんとした心地よい柔らかさが私を包む。どうやら倒れかけた私を、アガサがその胸に抱くようにして受け止めてくれたようだ。……しかもゆったりとしたメイド服のせいで、外から一見しただけでは判らないのだが、この質量感は私よりもかなり大きい――負けた。
「? どうしましたか、そんな顔をして」
彼女はそんな私の心を知るわけもなく、心配そうな顔で此方を見つめてくる。
「いや、別に何でもな……」
「あらあら、ネメシスちゃんも十分なサイズをお持ちですから、然程気にしなくても宜しいですのに。世の中にはもっと小さくて悩んでる人が沢山おられますのよ?」
「くぁ……ッ」
袖で顔を隠すようにしながら、くすくすと愉快そうな笑い声を漏らす鈴乃。彼女も人の心を読めるとでも言うのだろうか……
「嗚呼、それと先程の衣装は相当に汚れておりましたから、貴方が気を失っている間に綺麗にして着替えさせておきまして」
そう言われて自分の姿を確認すると、確かにあの卑猥なボンテージ姿から、着慣れた赤と黒のボディスーツに着替えさせられている。
「……感謝する」
顔が赤くなるのを自覚しつつも、一応の謝意を表す。
「いえお構いなく。貴方の痴態をまた1つ拝ませて頂いたのですから、そのくらい当然のお礼ですわ」
「なっ、あっ……あうぅぅぅ……」
その余りの返答ぶりに、酸欠になった魚みたいに口をパクパクしてしまう。やはり謝意を表すべきではなかったかもしれない。
「とまぁ、楽しむのも程々にして……話を進めましょう?」
それまで会話をにこやかに楽しんでいた顔から一転し、視線を向けられただけでゾクリと悪寒を感じるような、鋭く冷ややかな瞳で私を見つめてくる。
「……嗚呼」
そのいきなりの豹変ぶりに対し、私は気圧されないように返事するのが精一杯だった。
「戦闘形式は公式仮想A準拠。フィールド選択はランダム。デスマッチ形式でよろしくて」
「了解した。……しかし何処かの店舗に移動しなくていいのか?」
和室の部屋を見渡すが、バトル装置のような物は見当たらない。それ以前に公式A準拠という事は店舗に設置されているような大型機器が必須の筈で、普通は一般家屋に存在する物ではない。
「あら、何を仰るのかと思えば。ご心配には及びませんわ」
そう言うと同時に、何時の間にか手にしていたリモコンらしき道具のボタンを操作すると、前方の衾がバンと勢いよく開き、何十畳もある巨大な和室が露になる。
そして中央部の畳が左右にスライドして収納されたかと思うと、その畳があった場所から重厚な機械音と共に大型の専用筐体がせり上がってくる。
「なッ……」
そのあまりの出来事に、言葉が出ない。私には想像も出来ない世界もあるのだと、つくづく思えた。
「さぁ、これで準備は整いましてよ。
対戦相手は、そうねぇ……因縁のあるのは緋夜子なんですし、貴方が行きなさい」
「わ、わたくしですかっ!? こ、こんな野獣の前に1人で出るなんて考えられませんわっ!」
言うに事欠いて何を言い出すんだ、この飛鳥は。私は無言の抗議を行うように、ずいと前に進み出る。
「はぅ!?」
その時、再び私の前に立ちはだかるメイド服姿の神姫が1人。
「私がお相手すると言った筈です。――――それに緋夜子は、私の大切な妹ですから」
アガサは滑らかな動作でハンドガンを抜き放ち、鋭い眼光と共に、隙のない動作で此方を制する。
「く……ッ」
「……まぁ緋夜子はすぐ暴走しますし、勝手な事ばかりして後始末は何時も此方に回ってきますし、色々と問題児なのですが」
「ガーン!ひ、酷いですわお姉様っ!?」
と、何か思い出したのか急に呆れ顔でブツブツ言い始めるアガサ。彼女たちも何やら色々あるらしい。
「――――それでも、大切な妹よ。……彼女も、私が守ります。よろしいでしょうか、お嬢様」
「えぇ。それが貴方の信念というのなら」
と、最後には爽やかな微笑と共に、そう彼女は締めくくった。
「……なら、私は2対1でも構わない」
その言葉に対し、驚いたように目を丸くする鈴乃。
「ちょっと貴方、本気かしら?
緋夜子はまだしも、アガサはトリプルエースの称号持ちよ。舐めて掛かると痛い目にあうわ」
「それが、そのメイドの信念なのだろう。
――だが、私が用があるのは、そこの緋夜子だ。ならば私は、私自身の通を貫く」
短い時間が、強い意志を持つ視線が交差する。やがて折れたのは彼女の方だった。
「――――わかったわ。そこまで言いますのなら、許可致しましょう。でも流石に純粋な2対1では一方的蹂躙過ぎて面白くありませんから……貴方にはこれを進呈して差し上げましょう」
そういうと、私からは机の影になっている所を何やらゴソゴソと探り始める。
やがて首根っこを掴まれ、まさに借りてきた猫の如く、だらりと全身を伸ばした状態で出て来たモノは、私の予想を超えるモノだった。
「ね、ねここぉ!?」
「にゃっ」
私の驚きに、カリカリと食べていたおやつを飲み込み、無邪気な返事を返すねここ。だが何故、ねここがこんな所に居るのだろうか。
「風見さんは私のご友人でして。修学旅行の間、その彼女からどうしてもと言われまして、ねここちゃんをお預かりしていますの。彼女も退屈していらしたようですし、今回のタッグ相手に丁度宜しいかと思いますわ」
「あー、ネメシスちゃんなの~。やっほー☆」
いかにも善意でやってあげました、と言わんばかりの態度な鈴乃と、事情も知らずにスマイルを売りつけてくるねここ。
だが私やアキラの名前を知っていた彼女の事だ。私とねここのソリが絶対的に合わない事も知った上での行動だろう。これは相手を有機的戦力として頼れない所か、下手をすれば純粋な2対1よりも分が悪くなる可能性すら存在する。
「ねぇ、ねここちゃん。そこにいるネメシスちゃんが、貴方と一緒にバトルして欲しいと仰ってるの。なんでも彼女にとっては、とても大事な戦いなんですって。優しい貴方なら、勿論手伝って貰えるわよね?」
「了解なのっ!ネメシスちゃんが大変なら、ねここが全力でお手伝いしてあげるの☆」
そんな私の不安を余所に、非常に優しい声でねここに事情を説明している鈴乃。一緒にバトルという部分はともかく、それ以外の言葉の内容は概ね事実であり、それに今までの経験から、下手に何か言えば言うほど相手の思う壺に嵌ってしまう為、迂闊に反論も出来ない。
更に少なくとも表面上は善意である故、拒絶する事も出来ない。覚悟を決めるしかなかった。
「さぁ、舞踏会の準備は整いましてよ。
貴方たちがどんな華麗な円舞曲(ワルツ)を踊ってくださるか、興味深い所ですわ」
***[[Web拍手!>http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=nekoko01]]
[[続く>ねここの飼い方 ~ネメシスの憂鬱・ファイルⅩⅤ(改訂版)~]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]
「――――なぁ、静香ちゃん」
エルゴ店内にも降り注ぐ、秋のまどろむような柔らかな日差しの中、真っ白に燃え尽きた男が1人。
「はい店長さん、何でしょうか?」
返すは、満たされた顔で肌が健康的にツヤツヤと光り輝く、少女が1人。
「ネメシスちゃんとココちゃん…………何してたんだ?」
やっと真っ白な状態から戻り始めた頭から、やっとの事でその言葉を捻り出す。
店長がフリーズする前に見た光景は、過激なSM衣装に身を包み、何か白濁としたモノでベトベトになったネメシスの姿と、奥で同じくメイド服をベトベトにしてダウンしているココの姿だった。
その後ネメシスには何かを訪ねられた気がするのだが、記憶の混乱によって詳細を殆ど覚えていない。しかもその間にココは更に奥に引っ込んでしまったようで、再度その姿を確認する事は出来ない。
そして、現在残っているのは何か白濁とした液体で無残に汚れている机と、その白濁液の中に転がっている神姫サイズのディルドーのような物体だけ。だがコレだけでも何が行われていたか想像、いや妄想をかきたてるには十分な材料だろう。
「ひ・み・つ、です♪」
わざとらしく唇に指を軽く当て、可愛くウィンクしてみせる静香さん。
「でもそうですね……『色々と、凄かった』ですよ♪」
にふふ、とたっぷり堪能しましたといわんばかりの微笑を湛える。質問をした筈の店長は反対にあんぐりと口を開け、再びフリーズ状態になる。
やがて、フリーズ状態の解ける前兆か、立っている状態なのに貧乏強請りの如く、カタカタと小刻みに動き出す店長。
「…………ぅ」
「う?」
何事だろうと、ひょいと顔を近づける静香さん。それが限界の糸を切ったのかもしれない。
「うおおおおおおおおおおお!!!俺もネメシスちゃんとココちゃんのにゃんにゃんシーンみたかったぁぁぁぁ!!!」
荒ぶる漢の魂からの絶叫が、まだ人気の少ない店内に恐々と響き渡る。
「――――マスターぁ……」
「……う゛ぁ」
と、店長が魂の底から紅蓮の炎を吹き上げたのも、ほんの一瞬だった。
次の瞬間には、店長の魂の熱さをも凌駕する怒気を持った存在が後ろに居たからだ。
「じぇ……ジェニーささささ……。違っ、違うんだこれはぁぁぁぁ!?!?!?」
最高潮のテンションで真っ赤になっていた顔からは血の気が引き、一瞬のうちに真っ青になってしまっている。
対照的にジェニーさんは、怒気と臆面もなく絶叫してしまった自らのマスターに対する恥かしさで、その顔を耳まで真っ赤に染めている。そして何時の間にか装備しているジェネシスボディからはジェネレータフル稼働で過剰状態の電力が、時折バチバチという鋭い音と共に、見た目も鮮やかに放出されている。
そして店長の慈悲を求める懇願に対し、ほんの一呼吸だけ、天使のように微笑む。それは、これから死にゆく店長への手向けだったのかもしれない。
「―――問答……無用ぉ!!!!!!!!!!!」
「あぎゃーっ!!!!?」
最大出力のリボルクラッシュを受け、一瞬で吹き飛び、まるで漫画のように黒コゲになる店長。
「……全く、マスターはスケベなんですから。でも他人の神姫見て欲情するくらいなら何で私に手を出してくれないんでしょう私なら人型ボディもあるんですからもっと満足させてあげられるのに私のへたれなマスターは……」
店長を吹き飛ばした後、毒気が抜けたのか急にしおらしくなり、もじもじと顔を赤らめながらなにやらブツブツと独り言を呟くジェニーさん。最早お約束のコントと言わざるを得ない日常がそこにあった。
「さて、と。お二人のコントも堪能した事ですし。…………あんな面白い事する人は、っと」
それまで傍観を決め込んでいた静香さんだったが、2人のドタバタがひと段落したのを受けて、携帯電話を取り出し短縮ボタンの操作を行い、何処かへ電話をかけ始める。
「――――あ、もしもし戸田ですが。――えぇ、お久しぶりです……鈴乃さん」
***~ネメシスの憂鬱・ファイルⅩⅣ~
「……ぅ、ぁ」
ゆっくりと全身が再起動していく、この感覚。ぼんやりと開けた瞳が見た物は、木目模様が鮮やかな、知らない天井。
「あら……ようやくお目覚めでして、ネメシスちゃん」
「…………、ッ!?」
その僅かな嘲笑の音色を含んだ声を聴いた瞬間AIが緊急警報を訴え、動揺した私は勢いよく起き上がり、この声の主と距離を取ろうとする。だがいきなり激しい動作を行おうとした為か、それともまだ身体制御関係の方が起動しきってなかったのか、足腰がおぼつかずバランスを崩し倒れそうなってしまう。
「――っと。大丈夫ですか」
「あ……嗚呼、すまないメイド」
だが地面への固い衝撃はなく、代わりにぽよんとした心地よい柔らかさが私を包む。どうやら倒れかけた私を、アガサがその胸に抱くようにして受け止めてくれたようだ。……しかもゆったりとしたメイド服のせいで、外から一見しただけでは判らないのだが、この質量感は私よりもかなり大きい――負けた。
「? どうしましたか、そんな顔をして」
彼女はそんな私の心を知るわけもなく、心配そうな顔で此方を見つめてくる。
「いや、別に何でもな……」
「あらあら、ネメシスちゃんも十分なサイズをお持ちですから、然程気にしなくても宜しいですのに。世の中にはもっと小さくて悩んでる人が沢山おられますのよ?」
「くぁ……ッ」
袖で顔を隠すようにしながら、くすくすと愉快そうな笑い声を漏らす鈴乃。彼女も人の心を読めるとでも言うのだろうか……
「嗚呼、それと先程の衣装は相当に汚れておりましたから、貴方が気を失っている間に綺麗にして着替えさせておきまして」
そう言われて自分の姿を確認すると、確かにあの卑猥なボンテージ姿から、着慣れた赤と黒のボディスーツに着替えさせられている。
「……感謝する」
顔が赤くなるのを自覚しつつも、一応の謝意を表す。
「いえお構いなく。貴方の痴態をまた1つ拝ませて頂いたのですから、そのくらい当然のお礼ですわ」
「なっ、あっ……あうぅぅぅ……」
その余りの返答ぶりに、酸欠になった魚みたいに口をパクパクしてしまう。やはり謝意を表すべきではなかったかもしれない。
「とまぁ、楽しむのも程々にして……話を進めましょう?」
それまで会話をにこやかに楽しんでいた顔から一転し、視線を向けられただけでゾクリと悪寒を感じるような、鋭く冷ややかな瞳で私を見つめてくる。
「……嗚呼」
そのいきなりの豹変ぶりに対し、私は気圧されないように返事するのが精一杯だった。
「戦闘形式は公式仮想A準拠。フィールド選択はランダム。デスマッチ形式でよろしくて」
「了解した。……しかし何処かの店舗に移動しなくていいのか?」
和室の部屋を見渡すが、バトル装置のような物は見当たらない。それ以前に公式A準拠という事は店舗に設置されているような大型機器が必須の筈で、普通は一般家屋に存在する物ではない。
「あら、何を仰るのかと思えば。ご心配には及びませんわ」
そう言うと同時に、何時の間にか手にしていたリモコンらしき道具のボタンを操作すると、前方の衾がバンと勢いよく開き、何十畳もある巨大な和室が露になる。
そして中央部の畳が左右にスライドして収納されたかと思うと、その畳があった場所から重厚な機械音と共に大型の専用筐体がせり上がってくる。
「なッ……」
そのあまりの出来事に、言葉が出ない。私には想像も出来ない世界もあるのだと、つくづく思えた。
「さぁ、これで準備は整いましてよ。
対戦相手は、そうねぇ……因縁のあるのは緋夜子なんですし、貴方が行きなさい」
「わ、わたくしですかっ!? こ、こんな野獣の前に1人で出るなんて考えられませんわっ!」
言うに事欠いて何を言い出すんだ、この飛鳥は。私は無言の抗議を行うように、ずいと前に進み出る。
「はぅ!?」
その時、再び私の前に立ちはだかるメイド服姿の神姫が1人。
「私がお相手すると言った筈です。――――それに緋夜子は、私の大切な妹ですから」
アガサは滑らかな動作でハンドガンを抜き放ち、鋭い眼光と共に、隙のない動作で此方を制する。
「く……ッ」
「……まぁ緋夜子はすぐ暴走しますし、勝手な事ばかりして後始末は何時も此方に回ってきますし、色々と問題児なのですが」
「ガーン!ひ、酷いですわお姉様っ!?」
と、何か思い出したのか急に呆れ顔でブツブツ言い始めるアガサ。彼女たちも何やら色々あるらしい。
「――――それでも、大切な妹よ。……彼女も、私が守ります。よろしいでしょうか、お嬢様」
「えぇ。それが貴方の信念というのなら」
と、最後には爽やかな微笑と共に、そう彼女は締めくくった。
「……なら、私は2対1でも構わない」
その言葉に対し、驚いたように目を丸くする鈴乃。
「ちょっと貴方、本気かしら?
緋夜子はまだしも、アガサはトライエースの称号持ちよ。舐めて掛かると痛い目にあうわ」
「それが、そのメイドの信念なのだろう。
――だが、私が用があるのは、そこの緋夜子だ。ならば私は、私自身の通を貫く」
短い時間が、強い意志を持つ視線が交差する。やがて折れたのは彼女の方だった。
「――――わかったわ。そこまで言いますのなら、許可致しましょう。でも流石に純粋な2対1では一方的蹂躙過ぎて面白くありませんから……貴方にはこれを進呈して差し上げましょう」
そういうと、私からは机の影になっている所を何やらゴソゴソと探り始める。
やがて首根っこを掴まれ、まさに借りてきた猫の如く、だらりと全身を伸ばした状態で出て来たモノは、私の予想を超えるモノだった。
「ね、ねここぉ!?」
「にゃっ」
私の驚きに、カリカリと食べていたおやつを飲み込み、無邪気な返事を返すねここ。だが何故、ねここがこんな所に居るのだろうか。
「風見さんは私のご友人でして。修学旅行の間、その彼女からどうしてもと言われまして、ねここちゃんをお預かりしていますの。彼女も退屈していらしたようですし、今回のタッグ相手に丁度宜しいかと思いますわ」
「あー、ネメシスちゃんなの~。やっほー☆」
いかにも善意でやってあげました、と言わんばかりの態度な鈴乃と、事情も知らずにスマイルを売りつけてくるねここ。
だが私やアキラの名前を知っていた彼女の事だ。私とねここのソリが絶対的に合わない事も知った上での行動だろう。これは相手を有機的戦力として頼れない所か、下手をすれば純粋な2対1よりも分が悪くなる可能性すら存在する。
「ねぇ、ねここちゃん。そこにいるネメシスちゃんが、貴方と一緒にバトルして欲しいと仰ってるの。なんでも彼女にとっては、とても大事な戦いなんですって。優しい貴方なら、勿論手伝って貰えるわよね?」
「了解なのっ!ネメシスちゃんが大変なら、ねここが全力でお手伝いしてあげるの☆」
そんな私の不安を余所に、非常に優しい声でねここに事情を説明している鈴乃。一緒にバトルという部分はともかく、それ以外の言葉の内容は概ね事実であり、それに今までの経験から、下手に何か言えば言うほど相手の思う壺に嵌ってしまう為、迂闊に反論も出来ない。
更に少なくとも表面上は善意である故、拒絶する事も出来ない。覚悟を決めるしかなかった。
「さぁ、舞踏会の準備は整いましてよ。
貴方たちがどんな華麗な円舞曲(ワルツ)を踊ってくださるか、興味深い所ですわ」
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