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「オワリとハジマリ その3」(2009/09/19 (土) 12:18:02) の最新版変更点
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*オワリとハジマリ その3
「ソフィは零に操られているんだ!!」
そこに現れたのは、シェイドだった。
「てめえ、こいつの仲間か!もしそうなら、お前を…」
怒りに震えるヤクトを、落ち着きを取り戻したリオーネがとめた。
「まて、様子が変だ。マーメイドと違って、あいつは攻撃する意思を持っていない」
ほぼ無傷のソフィに対し、シェイドは無事な状態ではない。それは、シェイド自身が零によって攻撃されたという証拠でもあった。
「…お前、悔しくないのかよ?あいつは、おいらたちを攻撃した…」
「分かっているが、今はそれどころではないだろう。それに、彼女がイリーガルとしたら、こんなことを言い出さないはずだ」
リオーネの一言で、ヤクトの怒りは少しだけ納まった。
改めて、リオーネはシェイドに質問をした。
「どうしたんだ、いったい何がおきたんだ」
「実は…」
シェイドが話そうとしたそのとき、ソフィがマリーの首を突き刺そうとした。
「このっ…」
しかしその瞬間、ソフィは急に倒れてしまった。
「…なんだ?どうして倒れた?」
近くによって、倒れたソフィの体を調べるシェイド。よく見ると、ソフィの胸元に小型の針のようなものが刺さっていた。
「こんなこともあって、麻酔銃を用意してよかったです」
何事もなかったような顔をして、マリーは微笑んだ。どうやら、彼女の悲鳴は演技だったようだ。
「とはいえ、零の催眠が解けたわけではないですけど…」
「…じゃ、わけを話してくれよ、前にやったあのことも含めてな」
ヤクトは怒りを抑えながら、シェイドに質問を浴びせた。
「分かった」
シェイドは零の眼光について話し始めた。シェイドの話だと、零の左目にはロボットを操る催眠光線が内臓されているという。シェイドはバイザーでそれを防いだが、ソフィはまともに光線を浴びてしまったため、零の部下と化したらしい。
「…私に催眠が効かないと知った零は、操られたソフィを利用して同士討ちを仕掛けた。奴は自分の部下になるもの以外は容赦なく切り捨てるようだ」
「これじゃあ、まともに近づくこともできやしねえな。どうするよ、だんな?」
ヤクトがにやっとした顔つきで、リオーネのほうを見た。
「…そうだな、まず、奴の眼光を防がないと意味がないな。それにはゴーグルのようなものが必要だが…」
「それなら、いいものがあります」
そう言ってマリーが取り出したのは、なんと自分のメガネのスペアだった。
「…おい、それで防げるなんていうんじゃねえだろうな?」
「え?よく分かりましたね。実は私がかけているこのメガネは催眠防御が可能なんです。ですから、これをかけて零の催眠光線を防げば…」
「じょ、冗談じゃねえ!」
メガネケースを差し出されたヤクトの表情は、青ざめていった。
「おいらはメガネ属性なんかなりたくねえぞ!?大体こんなのかけても似合わねえしよ」
「ヤクト、我慢しろ。もしお前が催眠にかかるようなことがあったら、こちらも手が着けられなくなる」
リオーネの説得に、ヤクトは渋々従った。
「分かったよ、ったく、どうしてこんな目にあわなくちゃいけねえんだよ…」
スペアのメガネをかけるヤクト。その様子を見ていたマリーは喜んだ。
「ヤクトさん、とても似合ってますよ」
「う、うるせえな」
顔を真っ赤にして、ヤクトはうつむいていた。
「とにかく急がなければならない、零が中枢を制圧する前に見つけ出さないと…」
「そうだな、探す場所はもう限られてるんだ。ここだって、そんなに広いわけじゃないんだろ」
「ああ、ここは中枢に近い場所だからな、おそらく奴は裏側辺りにいるはずだ」
このあたりの面積は現実世界に換算してもそれほど広い場所ではない。零もそれを承知しているはずだ。
「そういうことだな、じゃ、やることはひとつだ。みんな、さっき話した通りの作戦で行くぞ」
二手に分かれて、次々と零がいる場所へと出発していく一同。しかし、最後に出発しようとしたヤクトを、シェイドが引き止めた。
「待て」
「何だ、まだ用があるのかよ」
「…この前のことだが…」
シェイドが言いかけたとき、ヤクトは首を振って答えた。
「ああ、あのことか。別に悪気があってやったわけじゃないんだろ。それに、おめえが悪い奴じゃないって分かったから、理由は聞かねえ。今は相棒のことに気を使うんだな…」
そう言うと、ヤクトは不動のシートに乗り込み、シェイドの前から去っていった。
「…」
シェイドはただ何も言わず、ヤクトたちの後姿を見送るしかなかった。
「さて、邪魔者がいない間にはじめるか」
そのころ、中枢の入り口に到着した零は、手元に残ったイリーガルを使ってアクセスできる場所を探していた。
「どうだ、中枢への入り口は見つかったか?」
イリーガルは首を横にふった。
「やはり一筋縄ではいかないようだな…」
そのとき、何者かがイリーガルの集団に向かって来た。
「何者だ?!」
イリーガルを次々と吹き飛ばして近づいていく人物が誰なのかを、零は問いただした。
「やはりここにいたか、零!」
「…お前は、戦車タイプ」
零の前に近づいたリオーネは、そのままギガントアームを振り下ろした。しかし、アームは無様に空回りしただけだった。
「甘いな、怒りに身を任せてはあたるものもあたらぬぞ」
リオーネの攻撃をかわしながら、零は余裕を見せるかのように笑みを浮べた。
『こいつ、自分の攻撃をいとも簡単にかわすとは…。あなどれんな』
「君はしつこいんだな、もうこれ以上余の邪魔をしないでほしいものだな」
零の言葉に踊らされるかのように、リオーネの攻撃は次々とかわされていった。それと同時に、リオーネ自身に焦りが見え始めていた。
「いい加減にあきらめたらどうだ?こんなことをしていても、特にならんぞ」
零の言葉に腹を立てたのか、リオーネは無言で零の頭上に拳を振り下ろした…。
「…な!?」
しかしその拳は零に届かなかった。それどころか何かに当たった感触さえ感じる。
「これはいったい…」
戸惑っているリオーネはこのまま拳を振り下ろそうとした。しかしその直後、見えない何かにアームをつかまれ、拳を握りつぶされた。
「余が丸腰のままここにいると思っていたのか?もしものときにために最強のボディガードを連れてきているのだ」
零は慢心相違のリオーネの前に立ち、右腕をゆっくりと上げた。
「もう楽しめなくなるのは残念だが、お前たちが五月蝿く飛び回っている姿に飽き飽きしているのでね。今ここで使わせてもらうぞ」
零は右腕を上に上げ、大声で叫んだ。
「出でよ、黒き守護神、ゼルガカイザー!!」
零が叫んだ瞬間、目の前に黒と金のカラーリングを施されたロボットがまるで蜃気楼のように姿を現した。
「こ、これは…」
「そうだ、これは余を護るために生み出された最強の守護神、ゼルガカイザーだ。神姫などの様々なパーツを組み合わせて製作したロボットだが、その強さは折り紙つきだ」
神姫のパーツ…リオーネはカイザーの姿を見て驚いていた。確かに基本パーツこそドラゴン型合体ロボットであるゼオではあるものの、ボディにはいろいろな神姫やロボットのパーツが組み合わされている。そのためなのか、異形な姿に見えた。
「さて、いよいよフィナーレを飾らせてもらう。まずはお前たちを倒してからゆっくり中枢にアクセスすることにするよ」
零はカイザーに指令を出した。
「さあカイザーよ、このはた迷惑な神姫を破壊してしまえ!!」
カイザーは奇妙な声を上げ、口を開いた。そこには大口径のビーム砲が一門現れ、リオーネに向けて発射しようとしていた。
「くっ、ここまでか…」
そのとき、どこからかビームが飛んできて、カイザーの背中に直撃した。
「む?どうしたというのだ?」
零はビームが飛んできた方向を見た。そこには、不動の姿があった。
「まんまとかかりやがったな、仮面野郎!!こいつは囮だってこと気づかなかったみたいだな」
コックピットで仁王立ちしているヤクトが、あかんベーをした。
「何を言っているのだ?どう見えてもお前らのほうが不利ということには変わりないはずだ!」
「はたしてそうかな」
よろよろとリオーネが立ち上がった。
「自分がここで戦っているうちに何がおきたのか、身をもって知るがいい」
リオーネの言葉に呼応したかのように、一瞬、周りの空間がゆがみ始め、しばらくして元の状態にもどった。
「こ、これは…!お前達、何をした?!」
「ここのシステムをダウンする作業を別の場所で行ったのだ、そのためにはアクセスする時間が必要だったがな」
不敵な笑みを浮べるリオーネ。やはり、闇雲に一人で敵陣突破を強行したのではなかったのだ。
「おいらの仲間がここの中枢にアクセスしてくれたおかげで、何とか復帰することができたんだ。てめえの計算通りいくと思ってたのか?」
ヤクトが誇らしげに答えた。
「なるほど…、これもすべて計算のうちにはいっていた、というわけか…。まさか余がこんな些細なことに気づかなかったとは…な」
動揺など見せずに顔を上げる零。もはや彼が率いていたイリーガルはほぼ全滅している。この様子ではおそらくバグも同じ状態だろう。
「もうここにいるのはてめえだけだ、いい加減に降参したらどうだ?」
しかし、零はヤクトの忠告に耳を貸すことはなかった。
「降参?この余が降参か?見くびられたものだな」
「どういうことだ?」
「こんなことで余が計画をとめると思っているとしたら、大きな間違いだ。切り札を使わせてもらうぞ」
零はマントを脱ぎ捨てると、カイザーを呼び寄せ合体した。
「見よ、これが余の最終形態、『カイザーゼロ』だ。これでお前たちもただではすまなくなったぞ」
高らかに雄たけびを上げる零。この姿はもはや悪魔と言っても過言ではなかった。
「…こんなのありかよ」
「4枚の翼に2本の尾、それに3本の角を持った化け物か、これが奴の最後の手段というわけか」
「それにしても、どこから角や尻尾が生えてくるんだよ?どこからかパーツ持ってこないと無理だって」
「…ここがどこなのか忘れたのか…」
リオーネとヤクトのつっこみをよそに、カイザーゼロは翼を広げ、ここから飛び立とうとしていた。
「しまった、こんなことをしている間に!」
「お前たちを始末することはたやすいが、まずはアクセス元を見つけなければな」
どうやら零は、ここで戦うよりも、アクセス元を削除することを優先するらしい。もしそんなことになれば、非武装のマリーの身に危険が生じるだけでなく、そこを利用してハッキングする可能性が高くなる。
『この周辺はそんなに広いわけではない。マリーの居場所を探すのにそれほど時間はかからないはずだ。もしも見つかったとすれば…』
「いけない、早く奴を止めなければ!!」
リオーネは急いでカイザーゼロの下まで突進した。
「無謀だな!お前一人でとめることなどできるものか!!」
カイザーゼロはそのまま飛び立とうとしたが、リオーネのミサイルによってそれを阻止された。
「くっ、追う行際の悪いやつめ!」
零もレーザーで応戦する。しかしリオーネはそれにかまわず突進していく。
「リオーネ…、お前まさか、死ぬ気じゃねえだろうな?!」
次々と装備を破壊されていくリオーネの姿を見て、ヤクトは不安を感じていた。
「やめろリオーネ、これ以上ダメージを受けるとお前は…」
しかし、リオーネは口元に笑みを浮べて静かに言った。
「…今からこいつに一撃を放つ。もし失敗したら、後は…」
その瞬間、カイザーゼロの胸からレーザーが放たれ、リオーネの右肩を貫いた。
「…まだまだ…」
傷みに耐えながら、リオーネは残された左のギガントアームに装備されているタングステンバンカーをカイザーゼロめがけて討ち放った。
「至近距離のタングステンバンカー、受けるがいい…!!」
そして、零にあたった瞬間、鋼鉄の左腕は音もなく崩れていった。
「…リオーネ…」
その状況をヤクトはただ、見ているしかなかった。
「零、お前の負けだ…」
しかし、タングステンの直撃を受けたはずの零は、なぜか余裕の笑いを漏らしていた。
「残念だったな、あと少しで余を倒せたものの…」
そしてその瞬間、カイザーゼロの片腕がリオーネの腹部を貫いた…。
「ほんの数ミリ、内側にずれていたら危なかった。ほんの数ミリ…な」
腹を貫かれたリオーネは、静かにその場に倒れた。
「命だけは奪わずにいてやる。これ以上、余の邪魔をするのなら話は別だが…」
ゆっくりと宙に浮かんだカイザーゼロは、そのままアクセスエリアへと飛んでいった。
その場には、大ダメージを受けたリオーネと、途方にくれているヤクトと不動だけが残された。
「ば、馬鹿やろう、こんなところで、こんなところでやられる奴が、あるのかよ…」
だが、ヤクトの言葉にも、リオーネは返すことはなかった…。
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*オワリとハジマリ その3
「ソフィは零に操られているんだ!!」
そこに現れたのは、シェイドだった。
「てめえ、こいつの仲間か!もしそうなら、お前を…」
怒りに震えるヤクトを、落ち着きを取り戻したリオーネがとめた。
「まて、様子が変だ。マーメイドと違って、あいつは攻撃する意思を持っていない」
ほぼ無傷のソフィに対し、シェイドは無事な状態ではない。それは、シェイド自身が零によって攻撃されたという証拠でもあった。
「…お前、悔しくないのかよ?あいつは、おいらたちを攻撃した…」
「分かっているが、今はそれどころではないだろう。それに、彼女がイリーガルとしたら、こんなことを言い出さないはずだ」
リオーネの一言で、ヤクトの怒りは少しだけ納まった。
改めて、リオーネはシェイドに質問をした。
「どうしたんだ、いったい何がおきたんだ」
「実は…」
シェイドが話そうとしたそのとき、ソフィがマリーの首を突き刺そうとした。
「このっ…」
しかしその瞬間、ソフィは急に倒れてしまった。
「…なんだ?どうして倒れた?」
近くによって、倒れたソフィの体を調べるシェイド。よく見ると、ソフィの胸元に小型の針のようなものが刺さっていた。
「こんなこともあって、麻酔銃を用意してよかったです」
何事もなかったような顔をして、マリーは微笑んだ。どうやら、彼女の悲鳴は演技だったようだ。
「とはいえ、零の催眠が解けたわけではないですけど…」
「…じゃ、わけを話してくれよ、前にやったあのことも含めてな」
ヤクトは怒りを抑えながら、シェイドに質問を浴びせた。
「分かった」
シェイドは零の眼光について話し始めた。シェイドの話だと、零の左目にはロボットを操る催眠光線が内臓されているという。シェイドはバイザーでそれを防いだが、ソフィはまともに光線を浴びてしまったため、零の部下と化したらしい。
「…私に催眠が効かないと知った零は、操られたソフィを利用して同士討ちを仕掛けた。奴は自分の部下になるもの以外は容赦なく切り捨てるようだ」
「これじゃあ、まともに近づくこともできやしねえな。どうするよ、だんな?」
ヤクトがにやっとした顔つきで、リオーネのほうを見た。
「…そうだな、まず、奴の眼光を防がないと意味がないな。それにはゴーグルのようなものが必要だが…」
「それなら、いいものがあります」
そう言ってマリーが取り出したのは、なんと自分のメガネのスペアだった。
「…おい、それで防げるなんていうんじゃねえだろうな?」
「え?よく分かりましたね。実は私がかけているこのメガネは催眠防御が可能なんです。ですから、これをかけて零の催眠光線を防げば…」
「じょ、冗談じゃねえ!」
メガネケースを差し出されたヤクトの表情は、青ざめていった。
「おいらはメガネ属性なんかなりたくねえぞ!?大体こんなのかけても似合わねえしよ」
「ヤクト、我慢しろ。もしお前が催眠にかかるようなことがあったら、こちらも手が着けられなくなる」
リオーネの説得に、ヤクトは渋々従った。
「分かったよ、ったく、どうしてこんな目にあわなくちゃいけねえんだよ…」
スペアのメガネをかけるヤクト。その様子を見ていたマリーは喜んだ。
「ヤクトさん、とても似合ってますよ」
「う、うるせえな」
顔を真っ赤にして、ヤクトはうつむいていた。
「とにかく急がなければならない、零が中枢を制圧する前に見つけ出さないと…」
「そうだな、探す場所はもう限られてるんだ。ここだって、そんなに広いわけじゃないんだろ」
「ああ、ここは中枢に近い場所だからな、おそらく奴は裏側辺りにいるはずだ」
このあたりの面積は現実世界に換算してもそれほど広い場所ではない。零もそれを承知しているはずだ。
「そういうことだな、じゃ、やることはひとつだ。みんな、さっき話した通りの作戦で行くぞ」
二手に分かれて、次々と零がいる場所へと出発していく一同。しかし、最後に出発しようとしたヤクトを、シェイドが引き止めた。
「待て」
「何だ、まだ用があるのかよ」
「…この前のことだが…」
シェイドが言いかけたとき、ヤクトは首を振って答えた。
「ああ、あのことか。別に悪気があってやったわけじゃないんだろ。それに、おめえが悪い奴じゃないって分かったから、理由は聞かねえ。今は相棒のことに気を使うんだな…」
そう言うと、ヤクトは不動のシートに乗り込み、シェイドの前から去っていった。
「…」
シェイドはただ何も言わず、ヤクトたちの後姿を見送るしかなかった。
「さて、邪魔者がいない間にはじめるか」
そのころ、中枢の入り口に到着した零は、手元に残ったイリーガルを使ってアクセスできる場所を探していた。
「どうだ、中枢への入り口は見つかったか?」
イリーガルは首を横にふった。
「やはり一筋縄ではいかないようだな…」
そのとき、何者かがイリーガルの集団に向かって来た。
「何者だ?!」
イリーガルを次々と吹き飛ばして近づいていく人物が誰なのかを、零は問いただした。
「やはりここにいたか、零!」
「…お前は、戦車タイプ」
零の前に近づいたリオーネは、そのままギガントアームを振り下ろした。しかし、アームは無様に空回りしただけだった。
「甘いな、怒りに身を任せてはあたるものもあたらぬぞ」
リオーネの攻撃をかわしながら、零は余裕を見せるかのように笑みを浮べた。
『こいつ、自分の攻撃をいとも簡単にかわすとは…。あなどれんな』
「君はしつこいんだな、もうこれ以上余の邪魔をしないでほしいものだな」
零の言葉に踊らされるかのように、リオーネの攻撃は次々とかわされていった。それと同時に、リオーネ自身に焦りが見え始めていた。
「いい加減にあきらめたらどうだ?こんなことをしていても、特にならんぞ」
零の言葉に腹を立てたのか、リオーネは無言で零の頭上に拳を振り下ろした…。
「…な!?」
しかしその拳は零に届かなかった。それどころか何かに当たった感触さえ感じる。
「これはいったい…」
戸惑っているリオーネはこのまま拳を振り下ろそうとした。しかしその直後、見えない何かにアームをつかまれ、拳を握りつぶされた。
「余が丸腰のままここにいると思っていたのか?もしものときにために最強のボディガードを連れてきているのだ」
零は慢心相違のリオーネの前に立ち、右腕をゆっくりと上げた。
「もう楽しめなくなるのは残念だが、お前たちが五月蝿く飛び回っている姿に飽き飽きしているのでね。今ここで使わせてもらうぞ」
零は右腕を上に上げ、大声で叫んだ。
「出でよ、黒き守護神、ゼルガカイザー!!」
零が叫んだ瞬間、目の前に黒と金のカラーリングを施されたロボットがまるで蜃気楼のように姿を現した。
「こ、これは…」
「そうだ、これは余を護るために生み出された最強の守護神、ゼルガカイザーだ。神姫などの様々なパーツを組み合わせて製作したロボットだが、その強さは折り紙つきだ」
神姫のパーツ…リオーネはカイザーの姿を見て驚いていた。確かに基本パーツこそドラゴン型合体ロボットであるゼオではあるものの、ボディにはいろいろな神姫やロボットのパーツが組み合わされている。そのためなのか、異形な姿に見えた。
「さて、いよいよフィナーレを飾らせてもらう。まずはお前たちを倒してからゆっくり中枢にアクセスすることにするよ」
零はカイザーに指令を出した。
「さあカイザーよ、このはた迷惑な神姫を破壊してしまえ!!」
カイザーは奇妙な声を上げ、口を開いた。そこには大口径のビーム砲が一門現れ、リオーネに向けて発射しようとしていた。
「くっ、ここまでか…」
そのとき、どこからかビームが飛んできて、カイザーの背中に直撃した。
「む?どうしたというのだ?」
零はビームが飛んできた方向を見た。そこには、不動の姿があった。
「まんまとかかりやがったな、仮面野郎!!こいつは囮だってこと気づかなかったみたいだな」
コックピットで仁王立ちしているヤクトが、あかんベーをした。
「何を言っているのだ?どう見えてもお前らのほうが不利ということには変わりないはずだ!」
「はたしてそうかな」
よろよろとリオーネが立ち上がった。
「自分がここで戦っているうちに何がおきたのか、身をもって知るがいい」
リオーネの言葉に呼応したかのように、一瞬、周りの空間がゆがみ始め、しばらくして元の状態にもどった。
「こ、これは…!お前達、何をした?!」
「ここのシステムをダウンする作業を別の場所で行ったのだ、そのためにはアクセスする時間が必要だったがな」
不敵な笑みを浮べるリオーネ。やはり、闇雲に一人で敵陣突破を強行したのではなかったのだ。
「おいらの仲間がここの中枢にアクセスしてくれたおかげで、何とか復帰することができたんだ。てめえの計算通りいくと思ってたのか?」
ヤクトが誇らしげに答えた。
「なるほど…、これもすべて計算のうちにはいっていた、というわけか…。まさか余がこんな些細なことに気づかなかったとは…な」
動揺など見せずに顔を上げる零。もはや彼が率いていたイリーガルはほぼ全滅している。この様子ではおそらくバグも同じ状態だろう。
「もうここにいるのはてめえだけだ、いい加減に降参したらどうだ?」
しかし、零はヤクトの忠告に耳を貸すことはなかった。
「降参?この余が降参か?見くびられたものだな」
「どういうことだ?」
「こんなことで余が計画をとめると思っているとしたら、大きな間違いだ。切り札を使わせてもらうぞ」
零はマントを脱ぎ捨てると、カイザーを呼び寄せ合体した。
「見よ、これが余の最終形態、『カイザーゼロ』だ。これでお前たちもただではすまなくなったぞ」
高らかに雄たけびを上げる零。この姿はもはや悪魔と言っても過言ではなかった。
「…こんなのありかよ」
「4枚の翼に2本の尾、それに3本の角を持った化け物か、これが奴の最後の手段というわけか」
「それにしても、どこから角や尻尾が生えてくるんだよ?どこからかパーツ持ってこないと無理だって」
「…ここがどこなのか忘れたのか…」
リオーネとヤクトのつっこみをよそに、カイザーゼロは翼を広げ、ここから飛び立とうとしていた。
「しまった、こんなことをしている間に!」
「お前たちを始末することはたやすいが、まずはアクセス元を見つけなければな」
どうやら零は、ここで戦うよりも、アクセス元を削除することを優先するらしい。もしそんなことになれば、非武装のマリーの身に危険が生じるだけでなく、そこを利用してハッキングする可能性が高くなる。
『この周辺はそんなに広いわけではない。マリーの居場所を探すのにそれほど時間はかからないはずだ。もしも見つかったとすれば…』
「いけない、早く奴を止めなければ!!」
リオーネは急いでカイザーゼロの下まで突進した。
「無謀だな!お前一人でとめることなどできるものか!!」
カイザーゼロはそのまま飛び立とうとしたが、リオーネのミサイルによってそれを阻止された。
「くっ、追う行際の悪いやつめ!」
零もレーザーで応戦する。しかしリオーネはそれにかまわず突進していく。
「リオーネ…、お前まさか、死ぬ気じゃねえだろうな?!」
次々と装備を破壊されていくリオーネの姿を見て、ヤクトは不安を感じていた。
「やめろリオーネ、これ以上ダメージを受けるとお前は…」
しかし、リオーネは口元に笑みを浮べて静かに言った。
「…今からこいつに一撃を放つ。もし失敗したら、後は…」
その瞬間、カイザーゼロの胸からレーザーが放たれ、リオーネの右肩を貫いた。
「…まだまだ…」
傷みに耐えながら、リオーネは残された左のギガントアームに装備されているタングステンバンカーをカイザーゼロめがけて討ち放った。
「至近距離のタングステンバンカー、受けるがいい…!!」
零の額めがけて打ち込まれるタングステン。
「…リオーネ…」
その状況をヤクトはただ、見ているしかなかった。
「零、お前の負けだ…」
だが、額にタングステンの直撃を受けたはずの零は、なぜか余裕の笑いを漏らしていた。
「残念だったな、あと少しで余を倒せたものの…」
タングステンが打ち込まれるよりも速く、カイザーゼロの片腕がリオーネの腹部を貫いていたのだ。そのため、リオーネは止めを刺すことができなかったのだろう。
「ほんの数ミリ、内側に入っていたら危なかった。ほんの数ミリ…な」
腹を貫かれたリオーネは、静かにその場に倒れた。
「命だけは奪わずにいてやる。これ以上、余の邪魔をするのなら話は別だが…」
ゆっくりと宙に浮かんだカイザーゼロは、そのままアクセスエリアへと飛んでいった。
その場には、大ダメージを受けたリオーネと、途方にくれているヤクトと不動だけが残された。
「ば、馬鹿やろう、こんなところで、こんなところでやられる奴が、あるのかよ…」
だが、ヤクトの言葉にも、リオーネは返すことはなかった…。
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