「第一話:宝探姫」(2009/07/22 (水) 12:21:35) の最新版変更点
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第一話:宝探姫
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「ぐわっ!!?」
参加者と思われるハウリン型が蒼貴の鎌と盗まれた自分の十手の二刀流で切り伏せられる。彼女は一体何があったのかもわからず、ライフを削られ、なす術もなく倒れる。
『よし。上手く倒したな』
「はい。誰にも見られておりません」
『上出来だ。とは言っても俺達は戦闘を可能な限り、避けて気づかれない様にお宝を頂く事が重要だ。自分の存在を誰にも知られてはならないつもりでかかれ』
「わかっています」
俺達はサマーフェスタというイベントのため、神姫センターにいた。
サマーフェスタとはバトルロンドで使用されるフィールドを複数連結させ、一つの大規模な島フィールドを作り出して行われる一大イベントである。
そこでは海水浴エリアと戦闘エリアに分けられ、海水浴エリアでは神姫達が海水浴を楽しんだり、大会の一つとして一番美しい神姫を選ぶミスコンに出場したりと夏らしいイベントを行い、戦闘エリアではバトルイベントを催している。
バトルイベントといってもただのバトルロンドではなく、かなり変則的なルールのイベントとなっている。
使用可能な神姫は一機、複数機持っている場合は修復なども補給ポイントでのみメンバーチェンジ可能な事となっている。武装制限に関してはランク制度がこの場に限り解除され、何でもありとなったExクラス方式。
この大型フィールドの中に『財宝』と呼ばれるものがあり、他の参加者よりも先にそれを手に入れる事が勝利条件となっており、それを手に入れた神姫とそのオーナーはまぁまぁな賞金と副賞を貰う事ができる。
そんな訳でそれを目当てにした人間達がこのイベントに大量に参加している。俺も真那もそのクチだ。
――今回は奴とは敵同士だからあまり会いたくはないがな……。
俺は苦笑をしながら真那の顔を思い浮かべる。あいつは「賞金をゲットしてお酒を飲むの!」とはしゃいでいた。酒のためなら執念を何倍も燃やす彼女は、俺にとって他の誰よりも恐ろしい。正直、関わりたくないものである。
「オーナー、このハウリン、『宝』を持っていました」
蒼貴は考え事をしている俺に報告をしつつ、倒れているハウリン型の懐から小さな財宝と思しきものを盗み取ると自分の転送用ポケットにそれを入れた。
その瞬間、神姫センターの中にあるイベントブースにいる俺の目の前にある画面に宝のデータが転送されてくる。それは神姫センターでのみ使用が可能なポイントGEM十個分の代物だった。
どうやらハウリン型が持っていた代物は結構レアリティの高いもののようだ。
『でかした。この調子で宝も盗め。財宝も大事だが、こういうのを稼ぐのも忘れるな』
「了解です」
勝利条件は『財宝』の入手なのだが、その他に『宝』も存在する。
配置されたイベント用の神姫やこのイベントに参加した同業者から『宝』を奪ったり、隠されている『宝』を発見したりする事でそのイベントでのみ手に入る神姫用のパーツやGEMを手に入れる事ができるのだ。
このイベントでは単純に財宝を手に入れる以外にもこうした宝を集めるという楽しみ方もあり、実際、イベントのために限定生産される神姫パーツ狙いの人間も結構、いるのである。
『それと投擲武器は現地調達の方が良い。そいつから棘輪を頂いておけ。取っておけば後で役に立つだろう』
「はい」
俺は蒼貴にハウリンが持っている装備品を剥ぐ様に命じた。痕跡を極力残さないためにも使用する武器は可能な限り、他人の物を使うに限る。
それに何やらイリーガルくさい馬鹿や得体の知れない武器を使う阿呆も多い。そうした奴らに備えてこちらの武装を整えたり、弱体化させたりと準備も必要だ。
正直、まともに相手にしていたら俺たちは絶対に勝てない。卑怯な手を使ったり、漁夫の利を狙ったりしなくてはやってられん。
『よし。蒼貴。装備は整ったらまた姿を隠せ。自分の力を弁えて上手い状況になったら動けよ』
「はい」
ハウリンから自分が使えそうな装備を巻き上げた蒼貴はそれを持ってすぐに洞窟の物陰へと姿を消した。
どこぞの誰かと鉢合わせるかはわからんが、会ったら会ったでどんな戦力差であろうとも俺達の頭脳戦で目にものを見せてやるさ。
「オーナー、燃えてるのね」
「まぁな。せっかくのイベントだし、稼いでおけば後々、楽になる。お前にもきっちり働いてもらうからな」
「それは言われるまでもないけど、財宝ってどんなものなの?」
「さぁな。それを手に入れれば、そいつの勝ちってのは確かだ。俺としてはGEMがそこそこ手に入れば、安泰だがね。金は杉原からバイトでもらっている訳だし」
「それもそうね。でも財宝が何なのかは見てみたいなぁ」
「そこまではやりこむつもりはねぇよ。まぁ、お前らが見つけたらそれはそれでいいが」
そう。あれから杉原のバイトをする事になってから収入が前のコンビニのレジ打ちのバイト時代よりも段違いに高くなってくれたおかげでお金に困る事はなくなっていた。
真那もそれのおかげで賞金絡みの話を持ち込む事もなくなり、それに関しての問題に巻き込まれる事はなくなっていた。
今回のサマーフェスタは純粋に楽しむために来ているに過ぎない。真那は「財宝を手に入れてやるんだから!」と意気込んでいたが、俺の場合は蒼貴と紫貴がそうしたければそれでも構わないが、面倒くさいというのが本音だ。
そんな事を考えながら、俺は蒼貴と紫貴二人で集めてきたお宝のリストを確認する。
神姫センター及びそれに連なる神姫ショップでのみ使うことの出来る専用ポイントGEM百九十三個。センター内の福引を一枚につき、一回する事ができる福引チケット十二枚。期間限定パーツが多数。
一日で手に入る量としては十分過ぎる量だった。その内、五割以上は蒼貴が他人から失敬させてもらったのは内緒だ。
その間にも蒼貴はフォートブラッグタイプから盗み出した拳銃を無防備な紅緒タイプの神姫に放ち、さらに盗んだ棘輪を二つ投げつけ、さらに自身の苦無も投げつける。襲い掛かる三つの武器は順番に銃弾が鎧の隙間に入り込んで素体そのものにダメージを与え、棘輪が足に食い込んで体制を崩させ、最後に投げた苦無が紅緒タイプの首に突き刺さり、ダウン状態に追い込み行動不能に陥れる。
その隙に蒼貴が姿を現し、倒れた彼女の懐からお宝と反撃スキルを使うことの出来る脇差『怨徹骨髄』を盗み出すと再び姿を消した。
「それにしても本当に蒼貴って物を盗むのが得意よね。ここまで私は器用にはなれないわ。この前もアサルトカービンを盗まれて、それでやられちゃったし」
「お前にはお前の長所があってあいつの長所はあれだってだけだ。蒼貴はお前みたいに高性能なパーツやCSCが無い。あいつはな、あの技術を努力で身につけて、やっと他の奴らと互角以上になれたんだ」
蒼貴の相手の物を盗み出す特別な技術に感心した様に、それでいてうらやましそうな目で見ている紫貴に蒼貴の技が何であるのかを俺は語る。
あの頃の蒼貴は何も出来なかった。回避する事すらままならず、前のオーナーのせいで恐怖を刷り込まれてしまったただのダメ神姫でしかない。そんな中で俺が与えた特訓をこなして恐怖を克服し、パーツが無い厳しい状況の中で勝ちを得てきたのである。
今は紫貴という姉妹と一緒に練習試合をしていてその技に磨きをかけている所だが、努力家の蒼貴は最初から性能の高く、それを当てにしがちな紫貴を上回っている。そう思うのも仕方の無い事なのかもしれない。
「そっか……。何だか悪い事を言っちゃったわね……」
俺の言葉に紫貴が落ち込む。言葉の意味はわかっていても認めたくない。そんな顔だ。
「別にあいつの目の前で言った訳じゃねぇんだから気にすんな。ただ、目の前の時は気をつけてなよ?」
「うん……」
「そんな重く考えるなって。お前はまだあいつを傷つけていない。次から気をつければいいだけだ。それに得てして他人の長所ってのはうらやましく思うもんさ。蒼貴だってお前の長所を当てにしている一方でお前と同じ様にうらやましいって思っているだろう。いいか? お前には始めから高性能なCSCとパーツが搭載されている。それはお前には生まれつき、優れた才能が込められてあるってこった。だから、努力していけば、蒼貴並に強くなれるさ」
「そうかな……?」
「当たり前だ。問題なのはそれを認め合う事さ。今のお前らは互いの無い物を補い合っているって事実をな」
落ち込む紫貴を励ますために彼女に才能について語る。
こいつには生まれ持った才能がある。彼女はまだまだ生まれたばかりの甘えん坊だ。これから頑張っていけば蒼貴と肩を並べるぐらいの優秀な神姫になれるだろう。
確かに努力の差は開いているが、それもこいつの努力次第で時と共に縮まっていく。
「まぁ、気晴らしに行ってきな。……おい。蒼貴。そろそろ紫貴に変わってやれ。結構、疲れたろう?」
俺は紫貴の気分転換のために蒼貴のバッテリー残量を見ながら交代の指示を出す。かなり地味にそれでいて虎視眈々と狙う戦いでも長時間に渡ればさすがに消耗もする。
彼女と交代して戦って頑張ろうという気持ちを持てば少しは明るくなるだろう
『それもそうですね……。わかりました。少々お待ちください。今から補給ポイントに移動いたしますので』
「ああ。無理せずにな」
蒼貴に念を押すと俺は通信を切り、紫貴を見た。俺の言葉が効いたのか、どうにかして自信を持とうとしていた。
それを見た俺は「その調子だ」と笑顔に書き込んでそんな表情を紫貴に向けた。
「悩んでいても始まらねぇ。まずは動こうぜ? ウダウダしていてもしょうがねぇ」
「そうだよね。頑張ってくるっ」
「おう。他の連中をバッサバッサなぎ倒しまくって、そんでもって宝をかっぱらって、俺を楽させてくれよな?」
「はいっ!」
最後の一言ですっかり元気を取り戻した紫貴は俺にウインクを投げかけると相棒であるエアロヴァジュラを持ち上げて見せる。
その態度からもう、大丈夫な事を確信した俺は、今度は蒼貴を見る。彼女は岩の陰に隠れながら、交代のための補給ポイントの前にいるジルダリアタイプの神姫に狙いを定めていた。彼女は周りに敵がいないために無防備な背中を晒し、背伸びをしていた。
蒼貴はそれを見ると棘輪、脇差を両手に持つ。そして、襲いかかる。
まず、棘輪を投げつけ、次に脇差を放ち、さらに拳銃を左手に、鎌を右手に持ち、拳銃を連射しながら走り出した。
その瞬間、ジルダリアタイプは棘輪に驚いて回避する。しかし、それを予期していたかの様に回避した先から脇差が飛び出して彼女の腿に突き刺さる事で拘束し、さらにそれを投げつけた主 蒼貴が放つ弾は的確にジルダリアタイプのアーマーが付けられていない箇所を当てて体勢を崩させる。
しかし、彼女も負けようとは思わず、奇妙な形をした武器 アレルギーペダルを銃撃のあった方向に突き出す。
その攻撃は蒼貴を襲うかに見えたが、それはもう手遅れで、無駄な反撃だった。腕に銃弾が当たった影響でその攻撃の速さは失われており、彼女はそれを上手く鎌に絡めて上へと弾き飛ばし、さらに飛び上がってそれを掴むとそのまま、上からの刺突を仕掛けた。
落下速度も乗ったその攻撃はジルダリアタイプの腹につきささり、彼女を戦闘不能に追いやり、彼女の戦いを花の如く、散らした。
蒼貴は銃弾で穴が開き、アレルギーペダルと脇差『怨徹骨髄』が突き刺さったジルダリアから宝を剥ぎ取って補給ポイントに真っ直ぐ戻り、転送装置に立つと俺と紫貴の下へ帰ってきた。
「蒼貴、ただいま戻りました。確保したGEM等の報告ですけど……」
「固い事を言うなよ。普通にただいまって言ってみ? 別に何かの任務か何かじゃねぇし」
帰ってきて早々、堅苦しい事を言う真面目な蒼貴に俺は笑いながら、普通に話す様に勧める。それを聞いた蒼貴は何か安心した様子で柔らかな笑顔に変わった。
「……ただいま。オーナー」
「ああ。おかえり」
「おかえり。蒼貴。いっぱい取ってきたみたいじゃない?」
「私も負けてはいられないわね。でも、これから一発逆転しちゃうんだから。見ててよ?」
「……はい」
「それじゃ、オーナー行ってくるわ」
「あいよ。稼いできな」
蒼貴が暗い顔をしている。それは何か紫貴が来てから自分が彼女に取って代わられるんじゃないかと恐れているように見える。
そんな悪いように考えて落ち込まずに少し肩の力を抜いた方がいいんだが、そう思うのも無理はないかもしれない。
紫貴はOMESTRADA社の技術を詰め込んだ最新鋭の試作機だ。蒼貴は性能ではどうしても彼女には劣ってしまう。
人はより良い物を求める。だから旧式であるものは捨て去られる。
彼女はそれを本能的にわかっていて、その内、自分もそうなっていく運命なんだと悩み、苦しんでいるのだろう。
「お前が考えている事を当ててやろうか? 高性能な紫貴がいれば自分なんて役立たずになってしまうなんてバカな事を思い浮かべていたんだろ?」
「……はい」
「っははは!! やっぱ、姉妹だわ。お前ら」
「え……?」
「紫貴も似たような事を言っていたんだよ。お前の技に勝てないから悔しいってさ。あいつには確かに性能はあるが、技がねぇんだ。お前に技があって、性能が無い様にな。確かに紫貴の奴に武装破壊は仕込めたが、お前の持つ武装奪取の戦術はあいつには出来なかったよ。つまりな、武装を奪って相手を覆していくその技はお前だけのものなんだ。だからそれがある限り、お前が紫貴に劣るなんて事はないんだ」
「オーナー……!」
俺が笑い飛ばし、蒼貴に自分がどういう力を持っているのかを語る。
力と技の二本柱。人はどちらかを行く事になる。それを選び進んでいって他の選択肢を羨ましがってもそれは無いものねだりだ。ならば、今進んでいる道でいかにして立ち回るか、それを考えた方が現実的だ。
神姫でも同じだ。金がなければ武装は買えないし、性能のいい躯体も手に入らない。しかし、そうだからといって勝負が決まるとは限らない。
それは他ならない蒼貴が証明したはずである。
「それに俺が何でお前を世話しているのか覚えているか? 俺をこの世界に引きずり込んだ責任、まだ取ってもらってねぇんだぞ?」
「はい……! この責任、必ず取ってみせます……!!」
「かたっくるしいのは無しだ。今はサマーフェスタ。祭りだ。楽しもうぜ?」
「はい! 楽しみます!!」
「その調子だ」
一つだけ言わなかった事がある。『宝』はもう手に入れてしまっているという事だ。
それは財宝でもGEMでもない。
目の前のサファイアと今、負けじとGEMを稼いでいるアメジストだ。この二つの宝石が今じゃ、俺の宝だ。最初は嫌々だったのに、な。
経験は無駄にはならない。思い出は残り続ける。この上ない宝は今、この手にある。それは真那、緑など多くの絆を引き寄せてくれた。
これから先、この二つの宝石は何を見せてくれるのか、楽しみだ。
「オーナー!」
そんな事を思い浮かべていると蒼貴が呼んでいる声が聞こえてきて頭から現実に戻される。彼女を見ると紫貴が何かと戦っている映像を指差しているのが見えた。
そこで紫貴と戦っているのは……二丁拳銃しか持っていないゼルノグラードタイプの神姫だった。
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第一話:宝探姫
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「ぐわっ!!?」
参加者と思われるハウリン型が蒼貴の鎌と盗まれた自分の十手の二刀流で切り伏せられる。彼女は一体何があったのかもわからず、ライフを削られ、なす術もなく倒れる。
『よし。上手く倒したな』
「はい。誰にも見られておりません」
『上出来だ。とは言っても俺達は戦闘を可能な限り、避けて気づかれない様にお宝を頂く事が重要だ。自分の存在を誰にも知られてはならないつもりでかかれ』
「わかっています」
俺達はサマーフェスタというイベントのため、神姫センターにいた。
サマーフェスタとはバトルロンドで使用されるフィールドを複数連結させ、一つの大規模な島フィールドを作り出して行われる一大イベントである。
そこでは海水浴エリアと戦闘エリアに分けられ、海水浴エリアでは神姫達が海水浴を楽しんだり、大会の一つとして一番美しい神姫を選ぶミスコンに出場したりと夏らしいイベントを行い、戦闘エリアではバトルイベントを催している。
バトルイベントといってもただのバトルロンドではなく、かなり変則的なルールのイベントとなっている。
使用可能な神姫は一機、複数機持っている場合は修復なども補給ポイントでのみメンバーチェンジ可能な事となっている。武装制限に関してはランク制度がこの場に限り解除され、何でもありとなったExクラス方式。
この大型フィールドの中に『財宝』と呼ばれるものがあり、他の参加者よりも先にそれを手に入れる事が勝利条件となっており、それを手に入れた神姫とそのオーナーはまぁまぁな賞金と副賞を貰う事ができる。
そんな訳でそれを目当てにした人間達がこのイベントに大量に参加している。俺も真那もそのクチだ。
――今回は奴とは敵同士だからあまり会いたくはないがな……。
俺は苦笑をしながら真那の顔を思い浮かべる。あいつは「賞金をゲットしてお酒を飲むの!」とはしゃいでいた。酒のためなら執念を何倍も燃やす彼女は、俺にとって他の誰よりも恐ろしい。正直、関わりたくないものである。
「オーナー、このハウリン、『宝』を持っていました」
蒼貴は考え事をしている俺に報告をしつつ、倒れているハウリン型の懐から小さな財宝と思しきものを盗み取ると自分の転送用ポケットにそれを入れた。
その瞬間、神姫センターの中にあるイベントブースにいる俺の目の前にある画面に宝のデータが転送されてくる。それは神姫センターでのみ使用が可能なポイントGEM十個分の代物だった。
どうやらハウリン型が持っていた代物は結構レアリティの高いもののようだ。
『でかした。この調子で宝も盗め。財宝も大事だが、こういうのを稼ぐのも忘れるな』
「了解です」
勝利条件は『財宝』の入手なのだが、その他に『宝』も存在する。
配置されたイベント用の神姫やこのイベントに参加した同業者から『宝』を奪ったり、隠されている『宝』を発見したりする事でそのイベントでのみ手に入る神姫用のパーツやGEMを手に入れる事ができるのだ。
このイベントでは単純に財宝を手に入れる以外にもこうした宝を集めるという楽しみ方もあり、実際、イベントのために限定生産される神姫パーツ狙いの人間も結構、いるのである。
『それと投擲武器は現地調達の方が良い。そいつから棘輪を頂いておけ。取っておけば後で役に立つだろう』
「はい」
俺は蒼貴にハウリンが持っている装備品を剥ぐ様に命じた。痕跡を極力残さないためにも使用する武器は可能な限り、他人の物を使うに限る。
それに何やらイリーガルくさい馬鹿や得体の知れない武器を使う阿呆も多い。そうした奴らに備えてこちらの武装を整えたり、弱体化させたりと準備も必要だ。
正直、まともに相手にしていたら俺たちは絶対に勝てない。卑怯な手を使ったり、漁夫の利を狙ったりしなくてはやってられん。
『よし。蒼貴。装備は整ったらまた姿を隠せ。自分の力を弁えて上手い状況になったら動けよ』
「はい」
ハウリンから自分が使えそうな装備を巻き上げた蒼貴はそれを持ってすぐに洞窟の物陰へと姿を消した。
どこぞの誰かと鉢合わせるかはわからんが、会ったら会ったでどんな戦力差であろうとも俺達の頭脳戦で目にものを見せてやるさ。
「オーナー、燃えてるのね」
「まぁな。せっかくのイベントだし、稼いでおけば後々、楽になる。お前にもきっちり働いてもらうからな」
「それは言われるまでもないけど、財宝ってどんなものなの?」
「さぁな。それを手に入れれば、そいつの勝ちってのは確かだ。俺としてはGEMがそこそこ手に入れば、安泰だがね。金は杉原からバイトでもらっている訳だし」
「それもそうね。でも財宝が何なのかは見てみたいなぁ」
「そこまではやりこむつもりはねぇよ。まぁ、お前らが見つけたらそれはそれでいいが」
そう。あれから杉原のバイトをする事になってから収入が前のコンビニのレジ打ちのバイト時代よりも段違いに高くなってくれたおかげでお金に困る事はなくなっていた。
真那もそれのおかげで賞金絡みの話を持ち込む事もなくなり、それに関しての問題に巻き込まれる事はなくなっていた。
今回のサマーフェスタは純粋に楽しむために来ているに過ぎない。真那は「財宝を手に入れてやるんだから!」と意気込んでいたが、俺の場合は蒼貴と紫貴がそうしたければそれでも構わないが、面倒くさいというのが本音だ。
そんな事を考えながら、俺は蒼貴と紫貴二人で集めてきたお宝のリストを確認する。
神姫センター及びそれに連なる神姫ショップでのみ使うことの出来る専用ポイントGEM百九十三個。センター内の福引を一枚につき、一回する事ができる福引チケット十二枚。期間限定パーツが多数。
一日で手に入る量としては十分過ぎる量だった。その内、五割以上は蒼貴が他人から失敬させてもらったのは内緒だ。
その間にも蒼貴はフォートブラッグタイプから盗み出した拳銃を無防備な紅緒タイプの神姫に放ち、さらに盗んだ棘輪を二つ投げつけ、さらに自身の苦無も投げつける。襲い掛かる三つの武器は順番に銃弾が鎧の隙間に入り込んで素体そのものにダメージを与え、棘輪が足に食い込んで体制を崩させ、最後に投げた苦無が紅緒タイプの首に突き刺さり、ダウン状態に追い込み行動不能に陥れる。
その隙に蒼貴が姿を現し、倒れた彼女の懐からお宝と反撃スキルを使うことの出来る脇差『怨徹骨髄』を盗み出すと再び姿を消した。
「それにしても本当に蒼貴って物を盗むのが得意よね。ここまで私は器用にはなれないわ。この前もアサルトカービンを盗まれて、それでやられちゃったし」
「お前にはお前の長所があってあいつの長所はあれだってだけだ。蒼貴はお前みたいに高性能なパーツやCSCが無い。あいつはな、あの技術を努力で身につけて、やっと他の奴らと互角以上になれたんだ」
蒼貴の相手の物を盗み出す特別な技術に感心した様に、それでいてうらやましそうな目で見ている紫貴に蒼貴の技が何であるのかを俺は語る。
あの頃の蒼貴は何も出来なかった。回避する事すらままならず、前のオーナーのせいで恐怖を刷り込まれてしまったただのダメ神姫でしかない。そんな中で俺が与えた特訓をこなして恐怖を克服し、パーツが無い厳しい状況の中で勝ちを得てきたのである。
今は紫貴という姉妹と一緒に練習試合をしていてその技に磨きをかけている所だが、努力家の蒼貴は最初から性能の高く、それを当てにしがちな紫貴を上回っている。そう思うのも仕方の無い事なのかもしれない。
「そっか……。何だか悪い事を言っちゃったわね……」
俺の言葉に紫貴が落ち込む。言葉の意味はわかっていても認めたくない。そんな顔だ。
「別にあいつの目の前で言った訳じゃねぇんだから気にすんな。ただ、目の前の時は気をつけてなよ?」
「うん……」
「そんな重く考えるなって。お前はまだあいつを傷つけていない。次から気をつければいいだけだ。それに得てして他人の長所ってのはうらやましく思うもんさ。蒼貴だってお前の長所を当てにしている一方でお前と同じ様にうらやましいって思っているだろう。いいか? お前には始めから高性能なCSCとパーツが搭載されている。それはお前には生まれつき、優れた才能が込められてあるってこった。だから、努力していけば、蒼貴並に強くなれるさ」
「そうかな……?」
「当たり前だ。問題なのはそれを認め合う事さ。今のお前らは互いの無い物を補い合っているって事実をな」
落ち込む紫貴を励ますために彼女に才能について語る。
こいつには生まれ持った才能がある。彼女はまだまだ生まれたばかりの甘えん坊だ。これから頑張っていけば蒼貴と肩を並べるぐらいの優秀な神姫になれるだろう。
確かに努力の差は開いているが、それもこいつの努力次第で時と共に縮まっていく。
「まぁ、気晴らしに行ってきな。……おい。蒼貴。そろそろ紫貴に変わってやれ。結構、疲れたろう?」
俺は紫貴の気分転換のために蒼貴のバッテリー残量を見ながら交代の指示を出す。かなり地味にそれでいて虎視眈々と狙う戦いでも長時間に渡ればさすがに消耗もする。
彼女と交代して戦って頑張ろうという気持ちを持てば少しは明るくなるだろう
『それもそうですね……。わかりました。少々お待ちください。今から補給ポイントに移動いたしますので』
「ああ。無理せずにな」
蒼貴に念を押すと俺は通信を切り、紫貴を見た。俺の言葉が効いたのか、どうにかして自信を持とうとしていた。
それを見た俺は「その調子だ」と笑顔に書き込んでそんな表情を紫貴に向けた。
「悩んでいても始まらねぇ。まずは動こうぜ? ウダウダしていてもしょうがねぇ」
「そうだよね。頑張ってくるっ」
「おう。他の連中をバッサバッサなぎ倒しまくって、そんでもって宝をかっぱらって、俺を楽させてくれよな?」
「はいっ!」
最後の一言ですっかり元気を取り戻した紫貴は俺にウインクを投げかけると相棒であるエアロヴァジュラを持ち上げて見せる。
その態度からもう、大丈夫な事を確信した俺は、今度は蒼貴を見る。彼女は岩の陰に隠れながら、交代のための補給ポイントの前にいるジルダリアタイプの神姫に狙いを定めていた。彼女は周りに敵がいないために無防備な背中を晒し、背伸びをしていた。
蒼貴はそれを見ると棘輪、脇差を両手に持つ。そして、襲いかかる。
まず、棘輪を投げつけ、次に脇差を放ち、さらに拳銃を左手に、鎌を右手に持ち、拳銃を連射しながら走り出した。
その瞬間、ジルダリアタイプは棘輪に驚いて回避する。しかし、それを予期していたかの様に回避した先から脇差が飛び出して彼女の腿に突き刺さる事で拘束し、さらにそれを投げつけた主 蒼貴が放つ弾は的確にジルダリアタイプのアーマーが付けられていない箇所を当てて体勢を崩させる。
しかし、彼女も負けようとは思わず、奇妙な形をした武器 アレルギーペダルを銃撃のあった方向に突き出す。
その攻撃は蒼貴を襲うかに見えたが、それはもう手遅れで、無駄な反撃だった。腕に銃弾が当たった影響でその攻撃の速さは失われており、彼女はそれを上手く鎌に絡めて上へと弾き飛ばし、さらに飛び上がってそれを掴むとそのまま、上からの刺突を仕掛けた。
落下速度も乗ったその攻撃はジルダリアタイプの腹につきささり、彼女を戦闘不能に追いやり、彼女の戦いを花の如く、散らした。
蒼貴は銃弾で穴が開き、アレルギーペダルと脇差『怨徹骨髄』が突き刺さったジルダリアから宝を剥ぎ取って、フォートブラッグタイプから奪った拳銃を捨てると、補給ポイントに真っ直ぐ戻り、転送装置に立つと俺と紫貴の下へ帰ってきた。
「蒼貴、ただいま戻りました。確保したGEM等の報告ですけど……」
「固い事を言うなよ。普通にただいまって言ってみ? 別に何かの任務か何かじゃねぇし」
帰ってきて早々、堅苦しい事を言う真面目な蒼貴に俺は笑いながら、普通に話す様に勧める。それを聞いた蒼貴は何か安心した様子で柔らかな笑顔に変わった。
「……ただいま。オーナー」
「ああ。おかえり」
「おかえり。蒼貴。いっぱい取ってきたみたいじゃない?」
「私も負けてはいられないわね。でも、これから一発逆転しちゃうんだから。見ててよ?」
「……はい」
「それじゃ、オーナー行ってくるわ」
「あいよ。稼いできな」
蒼貴が暗い顔をしている。それは何か紫貴が来てから自分が彼女に取って代わられるんじゃないかと恐れているように見える。
そんな悪いように考えて落ち込まずに少し肩の力を抜いた方がいいんだが、そう思うのも無理はないかもしれない。
紫貴はOMESTRADA社の技術を詰め込んだ最新鋭の試作機だ。蒼貴は性能ではどうしても彼女には劣ってしまう。
人はより良い物を求める。だから旧式であるものは捨て去られる。
彼女はそれを本能的にわかっていて、その内、自分もそうなっていく運命なんだと悩み、苦しんでいるのだろう。
「お前が考えている事を当ててやろうか? 高性能な紫貴がいれば自分なんて役立たずになってしまうなんてバカな事を思い浮かべていたんだろ?」
「……はい」
「っははは!! やっぱ、姉妹だわ。お前ら」
「え……?」
「紫貴も似たような事を言っていたんだよ。お前の技に勝てないから悔しいってさ。あいつには確かに性能はあるが、技がねぇんだ。お前に技があって、性能が無い様にな。確かに紫貴の奴に武装破壊は仕込めたが、お前の持つ武装奪取の戦術はあいつには出来なかったよ。つまりな、武装を奪って相手を覆していくその技はお前だけのものなんだ。だからそれがある限り、お前が紫貴に劣るなんて事はないんだ」
「オーナー……!」
俺が笑い飛ばし、蒼貴に自分がどういう力を持っているのかを語る。
力と技の二本柱。人はどちらかを行く事になる。それを選び進んでいって他の選択肢を羨ましがってもそれは無いものねだりだ。ならば、今進んでいる道でいかにして立ち回るか、それを考えた方が現実的だ。
神姫でも同じだ。金がなければ武装は買えないし、性能のいい躯体も手に入らない。しかし、そうだからといって勝負が決まるとは限らない。
それは他ならない蒼貴が証明したはずである。
「それに俺が何でお前を世話しているのか覚えているか? 俺をこの世界に引きずり込んだ責任、まだ取ってもらってねぇんだぞ?」
「はい……! この責任、必ず取ってみせます……!!」
「かたっくるしいのは無しだ。今はサマーフェスタ。祭りだ。楽しもうぜ?」
「はい! 楽しみます!!」
「その調子だ」
一つだけ言わなかった事がある。『宝』はもう手に入れてしまっているという事だ。
それは財宝でもGEMでもない。
目の前のサファイアと今、負けじとGEMを稼いでいるアメジストだ。この二つの宝石が今じゃ、俺の宝だ。最初は嫌々だったのに、な。
経験は無駄にはならない。思い出は残り続ける。この上ない宝は今、この手にある。それは真那、緑など多くの絆を引き寄せてくれた。
これから先、この二つの宝石は何を見せてくれるのか、楽しみだ。
「オーナー!」
そんな事を思い浮かべていると蒼貴が呼んでいる声が聞こえてきて頭から現実に戻される。彼女を見ると紫貴が何かと戦っている映像を指差しているのが見えた。
そこで紫貴と戦っているのは……二丁拳銃しか持っていないゼルノグラードタイプの神姫だった。
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