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「ねここの飼い方 ~ネメシスの憂鬱・ファイルⅠ~」(2009/02/16 (月) 02:04:30) の最新版変更点
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一言で言うならば、其処は、暗闇。少々埃っぽい、がらんどうの空間。
照明の類は一切ないが、壁の隙間から漏れてくるぼんやりとした僅かな光が、その光景を辛うじて認識させる程度の明かりを提供している。
その光景……倒れた肢体の上に圧し掛かかられ、組み敷かれている、この状況。
圧し掛かっている彼女……そう、彼女は潤みを帯びた、何処か熱っぽいその眼で私を見つめている。私はまるで蛇に睨まれた蛙のように、その全身を強張らせ身動きできずにいる。
それは……私が……
「えぇと……。何故私は、こんな風になってるのですか……」
「なんや……もう忘れて、しもうたん……?」
そんな私のココロを無視するかのように、彼女は高級な陶磁器を愛でるような、優しく優美な手付きで頬をゆるりと……撫で上げてゆく。普段の明朗快活な彼女からは考えられないほど、艶やかで官能的な吐息と共に。
それはまるで甘い毒薬のように、私の脳髄を痺れさせる。
「わ、忘れてはいません。ですが……ひぁっ!」
ボディラインに沿って指先で軽く撫でられただけなのに、私のカラダは激しい電流を流されたかのように、過敏に反応してしまう。
「ふふ、敏感なんやねぇ……。ネメシスちゃんは。
今からウチがもっと開発したるさかい、チカラ抜いて全てを任せて……な?」
頭の中が靄に包まれたような感覚に陥り、思考が回らなく……いや、愛しい主人に調教された結果の、雌の本能が首を擡げ、理性を奪ってゆく……。
……それは、その……私が……押し倒されている……光景。
どうして、こんな事になってしまったのだろう。
「あん……せっかくのえっちなんやし、上の空にならんといて、な」
***ねここの飼い方 ~ネメシスの憂鬱~
『ファイルⅠ・1日目』
「それじゃ、行ってきます」
「はい。行ってらっしゃい、アキラ」
日々冷え込んでくるとはいえ、まだまだ柔らかみを帯びた朝日が差し込む部屋の中、それは何時のように毎朝繰り広げられる、ささやかな気持ち……思い遣りを交換する、言葉。
だけども、今日は少し様子が違う。アキラの手には何時もの四角い通学用鞄はなく、かわりにその小柄な身体がすっぽり入ってしまいそうな、大きなボストンバッグを重そうに肩からさげている。
それに、まるで夢見る少女のように焦点がぼんやりとした瞳。でも表情はとても嬉しそうに綻んでいて。
「お留守番、お願いね」
「はい……」
そう、アキラは旅にでてしまう。そして私は、それに付いていく事が……出来ない。
何時でも、常に、一緒に居たいのに。嬉しそうなアキラの顔を見るのは、少し……ほんの少しだけ、辛い。
「……ごめんね」
ポツリと寂しげな呟きが、私にはまるで、哀しい叫び声のように聞こえる。
自分でも気づかないうちに下げてしまっていた顔を上げると、そこには困り顔を浮かべたアキラの顔が迫ってきていて。
「アキ……ラ…?」
そのまま、違いの粘膜が……優しく、触れ合う。
「ん……ぁ」
ほんの数秒の、大事な時間。名残惜しくも、離れてしまう。
「これで機嫌直して、ね?」
アキラはしてやったりとばかりに、まるで悪戯っ子のような表情を浮かべている。
そんな風に言われたら、私は何も言えないじゃないですか。
だから、せめて
「……帰ってきたら、10倍返しで」
自分でも判るほど真っ赤になったであろう顔をぷぃと背けながら、そんな我侭を言う事くらいしか出来ない。
「うん。楽しみにしてるから」
そんな私の気持ちに気づいているのかいないのか、アキラはとても嬉しそうで。先程よりも、少しだけ顔が紅いように見える。もしかして……
「風邪ですか?それなら行かない方がいいですよ、きっと。そしたら私が看病してあげます」
「もぅ……馬鹿」
お互いくすりと笑いあう。
そんな幸せで大切な光景。こんな毎日が、何時までも続けばいいのに……
「……そこなお二人さん。お熱いのは結構だけど、早くしないと修学旅行に送れちゃうわよ」
「「っ!?」」
突然の言葉に、瞬間フリーズドライにされたマグロのように固まる、私とアキラ。
2人して錆び付いたように回らない首を、ギギギと無理矢理声のしたドアの方へと回すと、そこには呆れ顔の風見美砂……さん、が……
「お……おねぇ……さま、何時……から……」
顔をイチゴみたいに真っ赤にして、半分涙目になりつつ訪ねるアキラ。いや、それは聞いたらダメなような……
風見はやや此方への視線を外して、ポリポリと頬をかきながら
「…………ぇーと、『ごめんね』の辺りから?」
……殆ど全部だ。
「……ぁ……」
「「あ?」
「……ぷしゅぅ」
真っ赤な顔のまま、酸欠の魚みたいに口をパクパクさせたかと思うと、そのままバタリと倒れるアキラ。
「アキラぁ!?」
「ちょっとアキラちゃんっ!?しっかりっ!?」
「……それじゃ、一週間ばかりアキラちゃん借りてくからね~」
「誰も貸しませんっ!……でも、楽しんできてください、アキラ」
玄関に居並ぶ2人。私は飛行ユニットを装備して、2人と同じ目線で見送りをしようとしている。
結局アキラはあの後すぐに復活したものの、トンでもない所を恋敵に、またしても見られてしまった。一生の恥辱だ……。
そのアキラはまだ顔が真っ赤だが、時間が余りないので休んでいるわけにもいかないと、急いで出て来たのだ。
「うん。……それじゃ、いってきます。ネメシス」
ほんの少しだけ寂しそうだけど、それでも雰囲気からは嬉しさが溢れているアキラ。
せっかくの旅行なのだから、大切な人に出来るだけ楽しんできて欲しいのもまた、私の真実。だから
「いってらっしゃい、アキラ」
見送りは、精一杯の笑顔で。愛しい貴女に、少しでも心配をかけないように。
集合場所へと、やや早足で歩き出す2人。それもすぐに角の交差点を曲がり、2人の姿は見えなくなる。
名残惜しいがこのまま居てもエネルギーの無駄だと思い、家の中へ引き返そうとした時、アキラが交差点の壁から、ひょいと顔だけを見せ、完熟イチゴのように愛らしく真っ赤な顔で
「10倍返し、楽しみにしているからっ!」
と、凄く恥ずかしそうに告白すると、キャー言っちゃったなどと悲鳴にも似た声と共にフェードアウトする。
「……えぇと……、ドウシヨウ……」
こんな時、どんな表情と感情の処理をすればいいのだろう。
思考がオーバーロードしそうになる一方、顔が自分の意図とは全く違う歪みを起こしていく。
日々冷え込みが厳しくなっていく、そんな気候の中、私の身体は理解不能の発熱と異様な汗……冷却液の噴出がダラダラと止まらないでいた。
「…………と言う訳なのですが、私はどうすれば」
「どうすればと言われても…………。どうしましょう……」
あれから1人で暫く考えてはみたものの、結局答えなど出ず。
人に訪ねてみるにしても、私自身の知り合いは殆どおらず、まさか『あの』ねここに相談するわけにもいかず。
結局、私が足を伸ばしたのは、ホビーショップエルゴだった。
此処の店長とジェニー氏には以前大変お世話になったし、他に相談出来そうな人が居ないと判断した訳だ。
特にジェニー氏はうさ大明神様と呼ばれ、この界隈の神姫の面倒を良く見ており、慕われているという。そんな彼女に相談すれば何かしらの答えなり、ヒントが見つかるかと思ったのだが……
「そういう方面の相談ならむしろ私がしたいと言いますか、あの人ヘタレで手を出してくれませんし、それなのにラストさんとは……。あ、今のは何でもありませんよ、えぇ忘れてください」
彼女も彼女で、色々と鬱憤が溜まっているらしい。
ちなみにその散々に言われている店長は私が来た段階で何やら手が離せない緊急修理中との事で、店の方には出てきていない。しかし来客の少ない平日の昼間であり、緊急事態で尚且つジェニー氏が有能とはいえ、物販店舗の店番を神姫1人に任せると言うのは防犯上どうかと思えるが……
「何だ、本当におらんな。全く緊急事態とはいえ顔が出せないなら繋ぎぐらいしておくべきだろうにな、あの愚弟は」
と、自動ドアが開いて入ってくるなり、暴言とも取れる過激な内容を良く通るハスキーな声で1人喋り出す金髪の女性。
「すみません、お姉さん。ラス……いえ、凛奈さんの調子が急に悪くなられてしまいまして、仕方なく……」
「フム……まぁ今回はしょうがあるまいか。私としても、アイツが調子が悪いままでは些か困るしな」
どうやら独り言ではなく、レジ前のジェニー氏に言っていたようだ。そのジェニー氏がお姉さんと呼んでいる所からして、恐らく彼女は店長の姉、もしくはそれに類するほど親密な仲の人間なのだろう。……もっともアキラのように半ば勝手に呼んでいる存在もあるからして、確定は出来ないだろうが。
「あ、ネメシスさんは初めてでしたね。此方は私のマスター……店長のお姉さんで、日暮秋奈さんと申します」
2人を見つめる私の視線に気づいたのか、ジェニー氏が彼女の紹介をしてくれる。
「ネメシスと申します、以後お見知り置きを」
きちんと視線を通して、一礼する。それに対して彼女はその鋭い眼で、私をまるで品定めでもするかのように、ジロリと見つめてくる。
やがてニヤリと禍々しい笑みと共にその口を開く、が……
「フン……あの時の小娘か。
あの時は実に薄暗い殺気を出していたものだが、今は随分と……春めいているな。
まぁ、満たされているならそれも良かろうよ」
「は?」
いきなり何を言い出すのだろう、この人は?
「なぁに、以前戦った時の貴様は実に歯応えがあると感心したのでな。
我欲に埋もれた、貪るような戦り方など、随分心躍った程にはな」
「以前、戦った……?」
ポツリと、心の声が零れる。
「嗚呼、そうだ。ウチの馬鹿も随分と無様な負け方だったから記憶に無くとも無理は無いがな。
あの馬鹿の脳髄を貫いた時の貴様の逸物の表情なぞ、実にいい肴だったぞ」
「……あの時の」
ギリ、と思わずキツく奥歯を噛み締める。今となっては忌まわしい、私の過去。
「……ほぅ」
彼女は私の睨みに臆する事も無く、逆に感心した風に眼を細める。
「なかなか良い目だ。だが、今が小奇麗に日和っているからとて過去が綺麗になるでもなし……贖罪等と眠たい事は言わんが受け入れる事だな。それもお前だ」
「はぁ……そうです、ね」
向こうから吹っ掛けてきたのにその台詞は釈然としないものがあるが、此方としても別にそんな気がない以上、やりあっても不毛だろう。それに彼女の言うことは、至極当然……であるのだから。
「まぁ、挨拶は済んだし説教もガラではないか。ほれ、ジェニー。用件を聞いてやれ」
「いえ、用件は既にお聞きしたのですが、その……私の手には余る問題でして」
(手はないのだが)もじもじと顔を赤くしながら、ややしどろもどろに答えるジェニー氏。
「お前の手に余る問題というと……嗚呼、色恋沙汰か。
その事に関しちゃ、お前もあの愚弟も小学生レベルでサッパリだからな。全く不甲斐ない」
更に縮こまるジェニー氏と、反対にどんどん態度の大きくなる秋奈氏。
「コレも何かの縁だ、私が相談に乗ってやらんこともない。
なぁに、そこで縮こまってる、自らの進展すら全くないヤツよりマシだと思うが?」
あっという間にジェニー氏を看破してしまい、自分のペースに巻き込んでこの場を支配した彼女。
此処は人生経験の差、なのだろうか。それにあの店長の姉ならば、きっと信頼できる人物に違いない。
……後に述懐する。この決断こそがターニングポイントだった。
……色々な意味において。
「わかりました。相談をお願いしたいのですが……」
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一言で言うならば、其処は、暗闇。少々埃っぽい、がらんどうの空間。
照明の類は一切ないが、壁の隙間から漏れてくるぼんやりとした僅かな光が、その光景を辛うじて認識させる程度の明かりを提供している。
その光景……倒れた肢体の上に圧し掛かかられ、組み敷かれている、この状況。
圧し掛かっている彼女……そう、彼女は潤みを帯びた、何処か熱っぽいその眼で私を見つめている。私はまるで蛇に睨まれた蛙のように、その全身を強張らせ身動きできずにいる。
それは……私が……
「えぇと……。何故私は、こんな風になってるのですか……」
「なんや……もう忘れて、しもうたん……?」
そんな私のココロを無視するかのように、彼女は高級な陶磁器を愛でるような、優しく優美な手付きで頬をゆるりと……撫で上げてゆく。普段の明朗快活な彼女からは考えられないほど、艶やかで官能的な吐息と共に。
それはまるで甘い毒薬のように、私の脳髄を痺れさせる。
「わ、忘れてはいません。ですが……ひぁっ!」
ボディラインに沿って指先で軽く撫でられただけなのに、私のカラダは激しい電流を流されたかのように、過敏に反応してしまう。
「ふふ、敏感なんやねぇ……。ネメシスちゃんは。
今からウチがもっと開発したるさかい、チカラ抜いて全てを任せて……な?」
頭の中が靄に包まれたような感覚に陥り、思考が回らなく……いや、愛しい主人に調教された結果の、雌の本能が首を擡げ、理性を奪ってゆく……。
……それは、その……私が……押し倒されている……光景。
どうして、こんな事になってしまったのだろう。
「あん……せっかくのえっちなんやし、上の空にならんといて、な」
***ねここの飼い方 ~ネメシスの憂鬱~
『ファイルⅠ・1日目』
「それじゃ、行ってきます」
「はい。行ってらっしゃい、アキラ」
日々冷え込んでくるとはいえ、まだまだ柔らかみを帯びた朝日が差し込む部屋の中、それは何時のように毎朝繰り広げられる、ささやかな気持ち……思い遣りを交換する、言葉。
だけども、今日は少し様子が違う。アキラの手には何時もの四角い通学用鞄はなく、かわりにその小柄な身体がすっぽり入ってしまいそうな、大きなボストンバッグを重そうに肩からさげている。
それに、まるで夢見る少女のように焦点がぼんやりとした瞳。でも表情はとても嬉しそうに綻んでいて。
「お留守番、お願いね」
「はい……」
そう、アキラは旅にでてしまう。そして私は、それに付いていく事が……出来ない。
何時でも、常に、一緒に居たいのに。嬉しそうなアキラの顔を見るのは、少し……ほんの少しだけ、辛い。
「……ごめんね」
ポツリと寂しげな呟きが、私にはまるで、哀しい叫び声のように聞こえる。
自分でも気づかないうちに下げてしまっていた顔を上げると、そこには困り顔を浮かべたアキラの顔が迫ってきていて。
「アキ……ラ…?」
そのまま、違いの粘膜が……優しく、触れ合う。
「ん……ぁ」
ほんの数秒の、大事な時間。名残惜しくも、離れてしまう。
「これで機嫌直して、ね?」
アキラはしてやったりとばかりに、まるで悪戯っ子のような表情を浮かべている。
そんな風に言われたら、私は何も言えないじゃないですか。
だから、せめて
「……帰ってきたら、10倍返しで」
自分でも判るほど真っ赤になったであろう顔をぷぃと背けながら、そんな我侭を言う事くらいしか出来ない。
「うん。楽しみにしてるから」
そんな私の気持ちに気づいているのかいないのか、アキラはとても嬉しそうで。先程よりも、少しだけ顔が紅いように見える。もしかして……
「風邪ですか?それなら行かない方がいいですよ、きっと。そしたら私が看病してあげます」
「もぅ……馬鹿」
お互いくすりと笑いあう。
そんな幸せで大切な光景。こんな毎日が、何時までも続けばいいのに……
「……そこなお二人さん。お熱いのは結構だけど、早くしないと修学旅行に送れちゃうわよ」
「「っ!?」」
突然の言葉に、瞬間フリーズドライにされたマグロのように固まる、私とアキラ。
2人して錆び付いたように回らない首を、ギギギと無理矢理声のしたドアの方へと回すと、そこには呆れ顔の風見美砂……さん、が……
「お……おねぇ……さま、何時……から……」
顔をイチゴみたいに真っ赤にして、半分涙目になりつつ訪ねるアキラ。いや、それは聞いたらダメなような……
風見はやや此方への視線を外して、ポリポリと頬をかきながら
「…………ぇーと、『ごめんね』の辺りから?」
……殆ど全部だ。
「……ぁ……」
「「あ?」
「……ぷしゅぅ」
真っ赤な顔のまま、酸欠の魚みたいに口をパクパクさせたかと思うと、そのままバタリと倒れるアキラ。
「アキラぁ!?」
「ちょっとアキラちゃんっ!?しっかりっ!?」
「……それじゃ、一週間ばかりアキラちゃん借りてくからね~」
「誰も貸しませんっ!……でも、楽しんできてください、アキラ」
玄関に居並ぶ2人。私は飛行ユニットを装備して、2人と同じ目線で見送りをしようとしている。
結局アキラはあの後すぐに復活したものの、トンでもない所を恋敵に、またしても見られてしまった。一生の恥辱だ……。
そのアキラはまだ顔が真っ赤だが、時間が余りないので休んでいるわけにもいかないと、急いで出て来たのだ。
「うん。……それじゃ、いってきます。ネメシス」
ほんの少しだけ寂しそうだけど、それでも雰囲気からは嬉しさが溢れているアキラ。
せっかくの旅行なのだから、大切な人に出来るだけ楽しんできて欲しいのもまた、私の真実。だから
「いってらっしゃい、アキラ」
見送りは、精一杯の笑顔で。愛しい貴女に、少しでも心配をかけないように。
集合場所へと、やや早足で歩き出す2人。それもすぐに角の交差点を曲がり、2人の姿は見えなくなる。
名残惜しいがこのまま居てもエネルギーの無駄だと思い、家の中へ引き返そうとした時、アキラが交差点の壁から、ひょいと顔だけを見せ、完熟イチゴのように愛らしく真っ赤な顔で
「10倍返し、楽しみにしているからっ!」
と、凄く恥ずかしそうに告白すると、キャー言っちゃったなどと悲鳴にも似た声と共にフェードアウトする。
「……えぇと……、ドウシヨウ……」
こんな時、どんな表情と感情の処理をすればいいのだろう。
思考がオーバーロードしそうになる一方、顔が自分の意図とは全く違う歪みを起こしていく。
日々冷え込みが厳しくなっていく、そんな気候の中、私の身体は理解不能の発熱と異様な汗……冷却液の噴出がダラダラと止まらないでいた。
「…………と言う訳なのですが、私はどうすれば」
「どうすればと言われても…………。どうしましょう……」
あれから1人で暫く考えてはみたものの、結局答えなど出ず。
人に訪ねてみるにしても、私自身の知り合いは殆どおらず、まさか『あの』ねここに相談するわけにもいかず。
結局、私が足を伸ばしたのは、ホビーショップエルゴだった。
此処の店長とジェニー女史には以前大変お世話になったし、他に相談出来そうな人が居ないと判断した訳だ。
特にジェニー女史はうさ大明神様と呼ばれ、この界隈の神姫の面倒を良く見ており、慕われているという。そんな彼女に相談すれば何かしらの答えなり、ヒントが見つかるかと思ったのだが……
「そういう方面の相談ならむしろ私がしたいと言いますか、あの人ヘタレで手を出してくれませんし、それなのにラストさんとは……。あ、今のは何でもありませんよ、えぇ忘れてください」
彼女も彼女で、色々と鬱憤が溜まっているらしい。
ちなみにその散々に言われている店長は私が来た段階で何やら手が離せない緊急修理中との事で、店の方には出てきていない。しかし来客の少ない平日の昼間であり、緊急事態で尚且つジェニー氏が有能とはいえ、物販店舗の店番を神姫1人に任せると言うのは防犯上どうかと思えるが……
「何だ、本当におらんな。全く緊急事態とはいえ顔が出せないなら繋ぎぐらいしておくべきだろうにな、あの愚弟は」
と、自動ドアが開いて入ってくるなり、暴言とも取れる過激な内容を良く通るハスキーな声で1人喋り出す金髪の女性。
「すみません、お姉さん。ラス……いえ、凛奈さんの調子が急に悪くなられてしまいまして、仕方なく……」
「フム……まぁ今回はしょうがあるまいか。私としても、アイツが調子が悪いままでは些か困るしな」
どうやら独り言ではなく、レジ前のジェニー女史に言っていたようだ。そのジェニー女史がお姉さんと呼んでいる所からして、恐らく彼女は店長の姉、もしくはそれに類するほど親密な仲の人間なのだろう。……もっともアキラのように半ば勝手に呼んでいる存在もあるからして、確定は出来ないだろうが。
「あ、ネメシスさんは初めてでしたね。此方は私のマスター……店長のお姉さんで、日暮秋奈さんと申します」
2人を見つめる私の視線に気づいたのか、ジェニー女史が彼女の紹介をしてくれる。
「ネメシスと申します、以後お見知り置きを」
きちんと視線を通して、一礼する。それに対して彼女はその鋭い眼で、私をまるで品定めでもするかのように、ジロリと見つめてくる。
やがてニヤリと禍々しい笑みと共にその口を開く、が……
「フン……あの時の小娘か。
あの時は実に薄暗い殺気を出していたものだが、今は随分と……春めいているな。
まぁ、満たされているならそれも良かろうよ」
「は?」
いきなり何を言い出すのだろう、この人は?
「なぁに、以前戦った時の貴様は実に歯応えがあると感心したのでな。
我欲に埋もれた、貪るような戦り方など、随分心躍った程にはな」
「以前、戦った……?」
ポツリと、心の声が零れる。
「嗚呼、そうだ。ウチの馬鹿も随分と無様な負け方だったから記憶に無くとも無理は無いがな。
あの馬鹿の脳髄を貫いた時の貴様の逸物の表情なぞ、実にいい肴だったぞ」
「……あの時の」
ギリ、と思わずキツく奥歯を噛み締める。今となっては忌まわしい、私の過去。
「……ほぅ」
彼女は私の睨みに臆する事も無く、逆に感心した風に眼を細める。
「なかなか良い目だ。だが、今が小奇麗に日和っているからとて過去が綺麗になるでもなし……贖罪等と眠たい事は言わんが受け入れる事だな。それもお前だ」
「はぁ……そうです、ね」
向こうから吹っ掛けてきたのにその台詞は釈然としないものがあるが、此方としても別にそんな気がない以上、やりあっても不毛だろう。それに彼女の言うことは、至極当然……であるのだから。
「まぁ、挨拶は済んだし説教もガラではないか。ほれ、ジェニー。用件を聞いてやれ」
「いえ、用件は既にお聞きしたのですが、その……私の手には余る問題でして」
(手はないのだが)もじもじと顔を赤くしながら、ややしどろもどろに答えるジェニー女史。
「お前の手に余る問題というと……嗚呼、色恋沙汰か。
その事に関しちゃ、お前もあの愚弟も小学生レベルでサッパリだからな。全く不甲斐ない」
更に縮こまるジェニー女史と、反対にどんどん態度の大きくなる秋奈氏。
「コレも何かの縁だ、私が相談に乗ってやらんこともない。
なぁに、そこで縮こまってる、自らの進展すら全くないヤツよりマシだと思うが?」
あっという間にジェニー女史を看破してしまい、自分のペースに巻き込んでこの場を支配した彼女。
此処は人生経験の差、なのだろうか。それにあの店長の姉ならば、きっと信頼できる人物に違いない。
……後に述懐する。この決断こそがターニングポイントだった。
……色々な意味において。
「わかりました。相談をお願いしたいのですが……」
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