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「ねここの飼い方・その絆 ~八章~」(2008/11/02 (日) 11:59:31) の最新版変更点
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「んぐんぐ……ぷはぁ、やっぱ朝はコレだね!」
「フられマスター」
台所でトランクス一枚で腰に手をあて、1リットルの牛乳パックをぐい飲みする男と、傍らに座る神姫1人。
「……山田君、座布団ぜん――」
「これで10枚、やったー」
「違うだろう。そっちじゃないし、そのギャグは笑えないぞ」
「マスター仕込み、私に責任無い。
それに笑えないのは、マスターの惨状」
「久々の一夜を満喫したというのに、何を言うかねこの子は」
「そのカラダとココロを利用だけ利用され、弄ばれ、捨てられた」
「……せめて愛欲に塗れた一夜とでもっ」
寒いボケと寒い突っ込み。朝の爽やかな空気の中、傍から見たら非常に痛い光景が繰り広げられている。
「……で、例のアレはどうだったかね?」
目を細め、急に真面目でシリアス表情になる志郎。
「全て録画OK。現在編集作業中」
「ブラボーだ、アリア。
コレでまた一つボクの愛しいコレクションが増えたNE!」
「最低」
ごもっともである。
*** ねここの飼い方・その絆 ~八章~
「もう、1人で出かける時はちゃんと言ってくれなきゃダメじゃない」
「えへへ……ごめんなの」
頭をかきながら、照れ笑いとも泣き笑いともつかないような表情で返事をしてくれるねここ。
でもきっと、私もおんなじような顔をしてるんじゃないかと思う。
時間にすればほんの一晩なのに、その間に生まれ出たキモチは大きすぎるくらいに大きく深くて。
「とっても心配したんだから。でも……おかえり、ね」
「うん……」
繊細なガラス細工を扱うみたいに、ゆっくりと大事に、ねここを胸にキュっと抱きしめる。
確かに感じる、ねここの息遣い……温もり。時間が止まったかのような刻。
でもそれは永遠に続いても構わないと思うような暖かみがあって。
……だけど……
「ねここ」 「みさにゃん」
どちらともなく発した、互いの名前。
そのタイミングが全く一緒だったので、思わず顔を見合わせてしまう。
「……うふふ」
「……あはは」
更にどちらともなく、笑いが込み上げてくる。
夫婦とか、兄弟とか、ペットと飼い主は似てくるなんていうけれど、やっぱり私たちも、似たもの同士なのかな。
「それじゃ」
「いこっか」
「全く、簡易検査すら済んでないのに勝手に消えちゃうかだなんて、私はそんな子に育てた覚えはありませんよっ」
いや、育ててはいないんじゃないかなー……と思うけど。
私たちがあの後、真っ先に来たのはエルゴ。やっぱり専門家の手できちんと調べてもらわないと、先に進めないと思ったからで。
と言う訳で開店直後に滑り込んだ私たち。先程から店長さんは精密検査のための準備をしてくれていて、前回逃げ出したねここは大明神モードというより大魔神モードなジェニーさんのお説教タイム中。
「ジェニーさんや、そのくらいにしといてやろうや。準備出来たから、ねここちゃんをこっちに運んでおくれ」
「全く……今日はこの位にしておいてあげますから。
でも、おかえりなさい、ねここちゃん」
最後にそう優しく微笑むと、ジェニーさんは胸像台に取り付けられたグラップラップの大型マニュピレータでねここを軽々と持ち上げ、そのままふよふよと店長さんの元へと飛んでいった。
「……変な光景」
UFOキャッチャーの一種みたいな光景と言うかなんというか……夢に見そう。
そこそこ時間を掛けた検査が終わり、ねここと私、それに店長さんは椅子に座って向かい合っている。
「……まぁ、なんだ……」
チラチラと視線を外したりして、少し言いよどむ店長さん。
それはつまり、
「悪いんですね。ねここの身体」
「……まぁ、な」
此方が真っ直ぐに応えると、店長さんの方もそれを察してくれたようで、真っ直ぐな視線を向けて話し出してくれる。
日常生活にはあまり問題がないレベルなんだが、激しく走ったり運動したりすると、神経系が断絶してしまうらしい」
「原因や、治療法は?」
「神経系の何処かにバグがあるようなんだが、どうも深層心理レベルで発生してるらしくてな。
迂闊に此方から手を出すと逆効果どころか、最悪の事態になる可能性もあるんだ。
出来る限り俺も何とかやってはみるが、ここの設備じゃ少しキツイかもしれないな……」
店内だと言うのに、正義の味方モードの時のような低い声、それに余り見せることの無い真剣でやや哀しげな表情で語る店長さん。それにこの人が弱気とも取れる発言をするなんて、殆どみた事がない。
「それに発生時の状況を考える限り、システムトラブルというより、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の一種に近いと思える。
その場合外的、機械的に強引に原因因子を取り除くのは、どんな副作用を引き起こすか全く予測がつかない。
≪心≫を持った神姫だからこその病で、ゆっくりと原因と不安感を取り除いて行くのが一番ベターな選択とされている」
「そうですか」
私の返答に、はっと顔を上げる店長さん。
「そうですか、って随分軽い返事だな。ねここちゃんの事が……」
「心配ですよ。
でも、今のねここが無事なら、走れなくたって一緒に歩いていけるなら、それだけでも十分だって、わかりましたから」
私の肩で話を聞いていたねここも、同じ気持ちである事を示してくれるように、私の顔に頬づりしてくれて。
「ははは。今回は一本取られたかな、こりゃ」
そういうと店長さんは、やっとにへらとした、何時もの表情に戻る。
「それにまぁ、色々と考えてもいましたから。ねここの為なら、なんだって……」
「くぁーっ。秋なのにアツイなーコンチクショウ!誰かさんもこんな事言ってくれないかなーッ」
「い、言えませんよッ。こんな所でっ!」
検査台の上で管理作業をしていたジェニーさんに向かってわざとらしく首をひねって言う、店長さん。
私から見れば、2人の方がお熱いと思うけど、ね。
「まぁ、ゆっくり行きますよ。時間はたっぷりあるんですから」
「そうだな。まぁ俺の方でもできる限りのサポートはするよ。
嗚呼、そうだ」
「フ……話は聞かせてもろたでッ!」
声の方に視線を向けると、カウンターの上に真っ赤な呼子鳥のドレスを着込んだ神姫が、ちょこんと仁王立ちしている
。
「おーい、ジェニーさんお客さんのお相手頼むわ。確か此処に……」
「そこの神姫ヲタ、無視すんなやーッ!」
「あ、すみませんね。何をお探しでしょうか」
ぷんすか怒る寅型神姫。冷静?に対応するジェニーさん。ボケだけがエンドレスなく空間ですか、此処は……
「うちが探しとったのは、そこのネコ野郎やっ!
今ならええ試合が出来そうでなぁ……その今の眼ならなッ」
「本当は今日発売の新しいドレスが欲しいから、開店直後にどうしても来たいってダダこねられたんですけどね」
「ちょっ!? それはいわんといてっー!」
ビシっとねここを指差して挑戦状を叩きつける神姫……疾風ちゃん。
の後ろに何時の間にか出現していて、スマイルと共にサラリと吐露する彼女のマスターの小野さん。
……実はこの人、結構、黒い?
「あの、差し出がましいようですが失礼しますが、今のねここちゃんの状態ではとてもバトルは……」
「いけるの」
ジェニーさんがねここを庇う様に前に進み出ようとしたのを、逆に制するように前に進み出でるねここ。
「もう、最低なんて言わせないもん。
ねここはみさにゃんにとっての、最高の神姫なのっ!」
「ねここ……」
思わず見つめた、その視線と視線が絡み合う。その瞳は真っ直ぐで、とても綺麗で……
「あーもー!ウチを無視してらヴするなやーっ!!!」
おっと失礼。
「せっかくこのウチが相手してやる気になったのに……こんな事そう滅多にないんやで」
「本当は自分のせいで今回の事態になっちゃったんじゃないかと、責任感じてるだけなんですけどね。
ねここちゃんが行方不明になったって噂を聞いた時は、そりゃもう赤子のように取り乱しましてね。
自分が言い過ぎたんじゃないかって。
全くそれなら、そんな事最初から言わなければいいのに全くこの子は」
「だーーーかーーーらーーーー!」
顔を林檎みたいに真っ赤にしながら、猛抗議する疾風ちゃん。
シリアスが続かない子なのかな……ウン。
「と、とにかくウチが原因なら、それを吹き飛ばすくらいの気概をみせてみぃ! 神姫バトル、やるでっ!!!」
「うんッ。絶対、負けないのッ!」
ビシリと真正面から視線を交わす2人。ねここもあんなにやる気になっているなんて。
「あ、でも装備が……」
「あるよ」
その何気ない声に再度振り返ると、そこにはニヤリとして、してやったり。みたいな表情の店長さんが。
「こんな事もあろうかと、ってヤツさ。
壊れたまま放って置くのも性に合わなかったからね。
修理とフレーム再構築、それに美砂ちゃんから受け取っておいたプランも導入して大改修しといたぜ!
第二プランのローラーダッシュ機能も追加してあるから、今のねここちゃんの脚でもなんとかなるはずさっ」
「そうなんですよ。昨日からずっと仕事もロクにしないで。全くこれだからマスターは……」
呆れ顔でボヤくジェニーさん。でも、ちょっと嬉しそう。
「フフフ……一度言ってみたかったんだ。
こんな事もあろうかと!こんな事もあろうかと、こんな事もあろうかとぉ!!!」
非常に嬉しそうに1人テンション急上昇していく店長さん。奥さんいる方ですか。
「でも走行用プログラムがないんじゃ。
私の方でも組んではみましたけど、やっぱり実戦データがないとどうにも……」
「そこも抜かりなしだ。まぁ、とあるスジから入手したデータがあってね。
コイツは実戦慣れしてるし、アイツもねここちゃんになら良いと思ってくれるんじゃないかな」
急に、やや寂しげな瞳で語りだす店長さん。含みのある言い方だけど、店長さんなら信用は出来る、と思う。
でもさっきから、やたらテンションの乱高下が凄まじいです……
「ごめんなさいね。マスターは昨日から、ロクに寝てなくて」
そこをジェニーさんがすかさずフォロー。この2人ってこういう時は恋人というより、優しい母親とダメ息子だよね。
「いえいえ。それじゃあねここ、行こうっか。
あ、少し準備の時間を貰っていいかな? 少し最終調整をしたいから、ね」
今すぐにでもやりたそうな2人に向かって、ゆっくりと諭すように。
「……まぁ、えぇで。
精々牙を研いでおくことや!」
「それ以前に疾風、キミ装備持ってきてないんじゃないかな?」
「……あ”」
そのヒトコトに、ガハハという大笑いの表情のまま、ビシっと固まる疾風ちゃん。
「す……すぐ取ってくるさかい。首を洗ってまってるんやでー!」
マスターの肩にひょいとジャンプすると、ベシベシとマスターの頭を叩いてさっさと帰れと急かしている。
「……ふぅ」
姦しい子が一旦去って、急に静かになった店内で、ねここに訪ねる。
「ねここ、いいんだね?」
「うん。もうあんな事は、しないの」
さっきと同じ、とても澄んだ瞳。今のねここなら、きっと大丈夫。
「さて、微調整したいから装備してみてね」
「はぁい、なの」
ねここは何時もの様に争上衣を着込んでいき、最後に背負うようにして、新しくなった炎幻機を背負う。
「あ、とっても軽いの~☆」
よく見ると、フレームの形状は同じなのに、光沢具合が明らかに違っている。
これは材質そのものを一新したとしか思えない。
「マスター、このフレームの金属って……」
「嗚呼、ウチの店でこんなことになっちまったからな。サービスだよ」
かっこつけたのが少し恥ずかしいのか、ややぶっきらぼうに言い返してくる店長さん。
でも、その好意はありがたく貰っておかなきゃね。
「あ、え~と~……」
と、目の前のねここが何かゴソゴソと風呂敷袋を漁ってる。そういえばアレ、帰ってきた時から持ってたっけ……
「コレも、組み込んで欲しいの♪」
ねここが取り出したのは、何やらゴチャリとした黒い塊。
エンジンっぽい気もするけど……それにしては妙にゴツくて古臭いデザインのような……
「うぉ!? コレは……!」
と、私の後ろにいた店長さんが異様な反応を示す。私を押しのけるようにして、ねここの持ってきた『何か』を凝視する。
「コレって開発中止になったって話の東杜田技研のサブパワーユニットDMH17Hか!?
しかもツインユニットタイプ。でもスケールダウンされてるな……でもトルクは落ちてなさそうだ。
何だこのバケモノ。本当に製品かするつもりだったのかこれを、いやしかし……」
ブツブツと独り言を呟きはじめる店長さん。だから恐いですってば……
「……ウン、これならねここちゃんの機体にも積めるかもな。
普通の神姫には無理だが、炎幻機のキャパシティならいける。
まぁ更にピーキーな性能にはなるが、まぁそこは俺が口を出すトコじゃないしな。
しかしこんなレアもの、何処から手に入れてきたんだい?」
「おともだちから、貰ったの~☆」
にぱぁ、と嬉しそうに返事をするねここ。きっとそのおともだちから、一緒に何か精神的にもいいものも貰ったのかな。
だから1晩であんなに……ね。
「よっしゃ、すぐに組み込んでみせるよ。美砂ちゃんも手伝ってくれ」
「わかりました。というか店長さんの手を借りる時点で、ちょっとずるいですけどね」
てへ、と可愛く応えてみる。
「いいってことよー!」
……ウン、店長さんの作業ペースが上がった、かな。
「……しかし、最初とは完全な別物になっちゃったね。コレ」
大まかなシルエット以外、中も各種装備も全く別物に仕上がってきた炎幻機。
シューティングスターの旨みも受け継ぎつつ、新しく昇華してきた機体、というか……
「そうだな、いっそ新しい名前でもいいくらいじゃないか?」
「……あ、ならね~」
店長さんのちょっとした発言に反応して、ねここが声を上げる。
「新しい名前、ねここがつけていい?
みさにゃんたちが作ってくれたモノに、ねここが名前をつけて完成なの。画龍点睛ッ!」
名前、か。
確かに自分でつけるからこそ、愛着もあるよね。
「うん、いいよ。
それで、なんて名前にするのかな?」
「名前はね~、シューティングスターの弟分だから……レッドミラージュ。なのっ」
成る程。漢字表記じゃなくって、シューテクングスターとお揃いにして、横文字表記、と。
よろしくね。ねここの新しい翼。
***[[Web拍手!>http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=nekoko01]]
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