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「夏扉4・「露草流音」」(2008/07/09 (水) 00:27:35) の最新版変更点
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*「露草流音」
あの日夢絃や刹奈と偶然再会したから、アタシ達は特に約束したわけでもないのにあの公園で会うようになった。
ちなみにあの不思議な体験は、あの時だけのものだったらしい。あの後いくら試しても、同じことは二度と起こらなかった。
アタシは当然毎日公園に顔を出しているワケではないし、夢絃たちも毎日公園にやって来るワケでもない。
それでも特に理由も無くアタシは公園に来ていたし、そしてそんなアタシは彼等とよく遭遇した。
……特に理由も無く、というのは嘘だけど。
そう。少なくともこの街に来た本来の理由を忘れるくらいには、彼等が来るのを持ち望んでいた。
正直に、はっきり言ってしまえば、彼等に会えなかった日は自分でも驚くくらいに落ち込むほどだった。
つまりどう言う事かといえば、それ位には、夢絃に惹かれ始めていた。
……だからあんなにショックだったんだろう。彼女を見た、その時は。
「いよぉーう」
今日はアタシの方が先に公園に来ていて、もしかしたら今日も彼等に会えないかなぁ? と考えていた矢先だったから、すでに聞きなれた感のあるその可憐な声を聴いた瞬間にアタシのテンションは跳ね上がった。
「お、居たか」
相変わらず素っ気無いその口調も、待ちわびていたモノだった。
だから、その声の主の隣にアタシと同じくらいの年の女の人の姿を確認したその瞬間の、感情の落差って言ったら、それはもう酷いものだったと思う。
「あ……れぇ? もしかしてアタシ……おっ邪魔かなあ?」
それでもおどけた調子を保てたアタシは偉いと思う。
「へ? なんで?」
「あぁ? なに言ってんだよ?」
ほぼ同じに発せられた、口調と声がお互い逆なんじゃないかと思うようなその言葉。
……つまり先が夢絃で後が刹奈の言葉なんだけど。
「えぇー? だって、彼女さんでしょ? 夢絃も隅に置けないねー?」
テンション最悪のまま、それでも明るい調子で、からかうように。
でも、そんなアタシの心の内に全く気付いた様子も無いまま、三人――正確には二人と一体――は、顔を見合わせる。
そして次の瞬間、三者三様に吹き出した。
「くはははは! 俺がコイツと……ぷぷっ」
「危ない……それじゃアブナイってば! あっはっはっはっ!」
「くくく」
……あのー、話が見えないんだけどー。
呆然としているアタシを置いてけぼりにしたまま、三人は笑い続ける。
「朔良、おまえ、この二人よく見てみろよー くっくっく」
刹奈に言われて、未だ笑い続ける失礼な男と、遠慮がちにそれでも笑いをこらえ切れていない女の子を見比べてみる。
夢絃の二重の瞼。彼女の同じく二重の瞼。笑う事で同じように細められた目。厚ぼったくなく、かといって薄くも無い唇。
……あれ? なんとなくだけど、似てる?
さすがに男と女でまるっきりそっくりとは思わないけど、なんて言うか顔の造詣というかパーツというか、他人というにはあまりにも似すぎていた。
「あのー……もしかして……?」
「兄妹。どう見ても、血のつながりを感じる顔だろー?」
刹奈のその言葉にアタシは力が抜けてしまい、恥ずかしさで顔を真っ赤に染めたまま地面に座り込んでしまった。
「あーもうっ。ホント、恥ずかしい」
未だ頬を羞恥心で赤く染めているまま、アタシは妹さんに頭を下げて謝る。
「いいよいいよ。でも、いつも兄とそっくりだって言われてたから、そういう風に間違われた事なくて。……いきなり笑ったりして、こっちこそごめんなさい」
あー、なんか妹さん、いい娘さんだよー。
「今日はたまたま、妹に会えたから。なんとなくここに来てみた」
ようやく笑い終えた夢絃は、少し平坦な口調で言う。
「……カッコつけてるなー」
小さく、アタシだけに聞こえるように刹奈が言う。
なるほど。確かにそんな感じ。
「一応紹介しとくな。こいつは流音。苗字は俺と違って露草っていうんだけど、れっきとした俺の妹」
とそこまで言うと、思い出したようにまた笑い出す。
そんな夢絃を軽く睨むアタシに、彼女は少し気取った風な仕草で。
「ご紹介に預かりました露草流音(つゆくさ・るね)です。お見知りおきを……なんてね」
そう言った流音の瞳には悪戯めいた光が見え隠れする。
あー…… なんだか色々バレたようなそうでもないような……
「――よ――がって――――り――てさ」
「え?」
なんだかすぐ側で刹奈がなんか言ったんだけど、聞き取れなかった。
アタシが刹奈に気を取られて、ぼーっとしているのを見計らってか、夢絃は流音にアタシの事を紹介した。
「あ、えっと、朔良・イゴールっていいます。こちらこそよろしく」
なんかすごく緊張してるよ。アタシ。
「そんなに頻繁に会う機会も無いんだろうけど、よろしくね」
そう言って流音はにっこりと上品な笑みを浮かべた。
だけどその目には何か暗い、寂しいような揺らめきが感じられ、て? なんだか違和感を感じた。
しかしその違和感も気のせいだったかと思えるくらいにふっと彼女の瞳から消えてしまって。
そしてそんな引っ掛かりを感じたアタシに気が付かないまま、流音は夢絃に向きなおす。
軽く首を傾げてしまったアタシの視界に、面白くなさそうな表情の刹奈が入った……気がした。
結局その日は四人で他愛も無いおしゃべりばかりして解散となったんだけど、刹奈の態度はいつもと変わらないようだった。
だからという訳でもないんだろうけど、結局アタシはあの日まで、流音に向けていた刹奈の表情が意味していたものに気が付く事は無かったのだった。
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*「露草流音」
あの日夢絃や刹奈と偶然再会したから、アタシ達は特に約束したわけでもないのにあの公園で会うようになった。
ちなみにあの不思議な体験は、あの時だけのものだったらしい。あの後いくら試しても、同じことは二度と起こらなかった。
アタシは当然毎日公園に顔を出しているワケではないし、夢絃たちも毎日公園にやって来るワケでもない。
それでも特に理由も無くアタシは公園に来ていたし、そしてそんなアタシは彼等とよく遭遇した。
……特に理由も無く、というのは嘘だけど。
そう。少なくともこの街に来た本来の理由を忘れるくらいには、彼等が来るのを持ち望んでいた。
正直に、はっきり言ってしまえば、彼等に会えなかった日は自分でも驚くくらいに落ち込むほどだった。
つまりどう言う事かといえば、それ位には、夢絃に惹かれ始めていた。
……だからあんなにショックだったんだろう。彼女を見た、その時は。
「いよぉーう」
今日はアタシの方が先に公園に来ていて、もしかしたら今日も彼等に会えないかなぁ? と考えていた矢先だったから、すでに聞きなれた感のあるその可憐な声を聴いた瞬間にアタシのテンションは跳ね上がった。
「お、居たか」
相変わらず素っ気無いその口調も、待ちわびていたモノだった。
だから、その声の主の隣にアタシと同じくらいの年の女の人の姿を確認したその瞬間の、感情の落差って言ったら、それはもう酷いものだったと思う。
「あ……れぇ? もしかしてアタシ……おっ邪魔かなあ?」
それでもおどけた調子を保てたアタシは偉いと思う。
「へ? なんで?」
「あぁ? なに言ってんだよ?」
ほぼ同じに発せられた、口調と声がお互い逆なんじゃないかと思うようなその言葉。
……つまり先が夢絃で後が刹奈の言葉なんだけど。
「えぇー? だって、彼女さんでしょ? 夢絃も隅に置けないねー?」
テンション最悪のまま、それでも明るい調子で、からかうように。
でも、そんなアタシの心の内に全く気付いた様子も無いまま、三人――正確には二人と一体――は、顔を見合わせる。
そして次の瞬間、三者三様に吹き出した。
「くはははは! 俺がコイツと……ぷぷっ」
「危ない……それじゃアブナイってば! あっはっはっはっ!」
「くくく」
……あのー、話が見えないんだけどー。
呆然としているアタシを置いてけぼりにしたまま、三人は笑い続ける。
「朔良、おまえ、この二人よく見てみろよー くっくっく」
刹奈に言われて、未だ笑い続ける失礼な男と、遠慮がちにそれでも笑いをこらえ切れていない女の子を見比べてみる。
夢絃の二重の瞼。彼女の同じく二重の瞼。笑う事で同じように細められた目。厚ぼったくなく、かといって薄くも無い唇。
……あれ? なんとなくだけど、似てる?
さすがに男と女でまるっきりそっくりとは思わないけど、なんて言うか顔の造詣というかパーツというか、他人というにはあまりにも似すぎていた。
「あのー……もしかして……?」
「兄妹。どう見ても、血のつながりを感じる顔だろー?」
刹奈のその言葉にアタシは力が抜けてしまい、恥ずかしさで顔を真っ赤に染めたまま地面に座り込んでしまった。
「あーもうっ。ホント、恥ずかしい」
未だ頬を羞恥心で赤く染めているまま、アタシは妹さんに頭を下げて謝る。
「いいよいいよ。でも、いつも兄とそっくりだって言われてたから、そういう風に間違われた事なくて。……いきなり笑ったりして、こっちこそごめんなさい」
あー、なんか妹さん、いい娘さんだよー。
「今日はたまたま、妹に会えたから。なんとなくここに来てみた」
ようやく笑い終えた夢絃は、少し平坦な口調で言う。
「……カッコつけてるなー」
小さく、アタシだけに聞こえるように刹奈が言う。
なるほど。確かにそんな感じ。
「一応紹介しとくな。こいつは流音。苗字は俺と違って露草っていうんだけど、れっきとした俺の妹」
とそこまで言うと、思い出したようにまた笑い出す。
そんな夢絃を軽く睨むアタシに、彼女は少し気取った風な仕草で。
「ご紹介に預かりました露草流音(つゆくさ・るね)です。お見知りおきを……なんてね」
そう言った流音の瞳には悪戯めいた光が見え隠れする。
あー…… なんだか色々バレたようなそうでもないような……
「――よ――がって――――り――てさ」
「え?」
なんだかすぐ側で刹奈がなんか言ったんだけど、聞き取れなかった。
アタシが刹奈に気を取られて、ぼーっとしているのを見計らってか、夢絃は流音にアタシの事を紹介した。
「あ、えっと、朔良・イゴールっていいます。こちらこそよろしく」
なんかすごく緊張してるよ。アタシ。
「そんなに頻繁に会う機会も無いんだろうけど、よろしくね」
そう言って流音はにっこりと上品な笑みを浮かべた。
だけどその目には何か暗い、寂しいような揺らめきが感じられ、て? なんだか違和感を感じた。
しかしその違和感も気のせいだったかと思えるくらいにふっと彼女の瞳から消えてしまって。
そしてそんな引っ掛かりを感じたアタシに気が付かないまま、流音は夢絃に向きなおす。
軽く首を傾げてしまったアタシの視界に、面白くなさそうな表情の刹奈が入った……気がした。
結局その日は四人で他愛も無いおしゃべりばかりして解散となったんだけど、刹奈の態度はいつもと変わらないようだった。
だからという訳でもないんだろうけど、結局アタシはあの日まで、流音に向けていた刹奈の表情が意味していたものに気が付く事は無かったのだった。
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