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*鋼の心 ~Eisen Herz~
**第17話:クリムゾン・エア
強さ、とは何か?
敵を倒す能力?
それとも高い性能?
或いは……。
◆
予選、第二バトルロイヤル。
「ぷち3号、目標捕捉……。弾道計算終了、補正なし……」
『やっちゃえ、セタ。ファイアッ!!』
「了解!!」
セタが砲撃姿勢を取った直後、背中にマウントされた二門の吠莱壱式が指定された角度に向けて砲火を吐き出した。
山なりの弾道を描いて飛ぶ砲弾は、着弾まで凡そ5秒。
弾速は差ほどでもなく、反応速度に優れた神姫であれば見てから避わす事も不可能ではあるまい。
だがしかし。
逃げる事は不可能だった。
「―――そんな~!?」
戦闘開始直後、周囲の安全を確保する傍ら、ぷちマスィーンズにより索敵を行っていたセタが見つけたターゲット。
同じく砲戦タイプのウィトゥルースが最初の敵だった。
「いっ、一体何が―――、きゃん!?」
辛うじて直撃は免れるが、もとよりセタは直撃など期待してはいない。
一方的に攻撃できる曲射砲とは言え、その構造上弾速には限界がある。
故に、回避されるのは致し方ない。
だがしかし、直撃でなければダメージを与えられないという訳でもなかった。
「りゅ、榴弾ですか~? 何処からなんです~?」
至近に着弾した砲弾は、接地と同時に炸裂し、周囲に爆炎と破片とを大量に撒き散らす。
装甲の貫徹を目的とした徹甲弾ではなく、着弾地点の周囲を全て吹き飛ばすのが榴弾砲だ。
それは徹甲弾程の弾速も、それに伴う威力も無いが、回避を許さぬ範囲攻撃として、地上にいる者全てを吹き飛ばす破壊の炎を顕現させる。
「ますた~、敵が見えません~!! ぅきゃ~っ、ひえ~っ!?」
同じ砲戦タイプとは言え、直射を前提とした粒子砲を主兵装とするウィトゥルースは、未だセタの姿を捉えてすら居ない。
それどころか、何が起きているのかもよく分かってはいないだろう。
6発。
それだけの砲弾を連続で叩き込んでウィトゥルースを沈黙させると、セタは向きを変えて次のターゲットへの砲撃を開始する。
「撃破一。次の標的を攻撃します!!」
『おっけ~、この分なら楽勝ね。さくっと本選進出、決めるわよ!!』
「はい、マスター!!」
ウィトゥルースとの戦闘中、既に次のターゲットは選定してある。
近接戦を弱点とする以上、近づく敵を片っ端から排除していかなければ待っているのは敗北だけだ。
本来であれば、セタのような完全な後方支援機タイプには盾となる前衛が必須だが、バトルロイヤルにそれを望んでも詮が無い。
セタと雅は、乱戦の混乱を前衛代わりに、危険な敵から優先して排除する事で戦績を伸ばしてきたし、これからもそうするつもりだった。
もちろん、この大会でも……。
『(思ったとおり、まだまだウィトゥルースは弱いわね……)』
比較的新型に部類されるウィトゥルースは、その分戦闘経験が不足している者が多い。
また、オーナー側も古参の神姫のようなノウハウの蓄積が無い為、効果的な運用に慣れていない場合が殆どだ。
『(まあ、セタだって余裕がある訳じゃ無し、弱そうなのからさっさと倒して本戦に行かないとね……)』
冷徹な計算を押し隠し、雅がモニターに目を戻す頃、セタの撃墜数は二に増えていた。
「マスター、撃墜二。次の指示を」
『手近な脱出ポイントへ接近しつつ、最後の標的を探しなさい。もちろん、周囲の警戒は密に、ね……』
「了解です!! ……あの、マスター?」
『何?』
「ボク、この戦いが終わったら故郷(くに)の彼女と結婚するんです」
『……なんで無駄に死にフラグ立ててるのよ?』
「マヤア姉さんに教わりました。こうすると、戦争で死ななくなるそうです!」
『……………』
とりあえず浅葱に文句を言っておこうと、雅は硬く心に誓った。
「―――ん! マスター敵発見!! 2時の方向、距離5万!!」
『落しなさい、そしたら脱出。速やかに』
「はい、マスター!!」
三度、砲撃姿勢から放たれる吠莱二門の5連続斉射。
標的の予測位置を中心に2発。その周囲にも8発。
発射角で弾道を調整し、着弾時刻が同一になるように調整。……完了次第随時発射。
標的の行動が予測どおりならこれで詰み。
多少ずれても逃がしはしない。
ダメージで動きを止めた後、次弾で完全にトドメが刺せる。
『(意外と楽に終わったわね……)』
フェータ、レライナといった高機動型の神姫との戦闘経験はそれなりにあるセタにとって、普通の神姫を曲射で狙うのは至難と言うほどの難易度ではない。
雅も既に勝利を確信し、その緊張の大部分を弛緩させた。
もちろん、油断まではしていない。
緊張を緩めながらも伏兵には気を配り、セタから送られてくるぷちマスィーンズの映像に目を配ってはいる。
だがしかし。
これから倒れる敵からは、その視線を外し……。
故に、それが何故なのか咄嗟には理解できなかった。
「マスター、着弾確認!! これで撃墜数は……、―――あれ?」
『―――セタ?』
「故障でしょうか? 撃墜カウント入りません」
言われて見ればその通り。
セタの撃墜数を示す数字は2のまま変動無し。
つまりそれは。
『撃ち漏らした!? あの砲撃で!?』
着弾地点を中継するぷちマスィーンズの視界は爆煙で遮られ、標的の確認は出来ない。
だがしかし、撃墜数が入らないという事は、標的が生き延びた事を示す。
―――とは限らなかった。
「……!? マスター!! 敵、上空です!!」
『―――えッ!?』
着弾点の遥か上空。
高度1000の彼方に“それ”は居た。
◆
「Sorry、獲物かぶったネ。けど、コチラが先ヨ、撃墜権は頂いたネ?」
ルール上、その神姫を倒した者が撃墜の権利を得る。
つまり、セタの砲撃が届く一瞬前に、彼女はその標的を撃破していたと言う事だ。
「……But。余り関係ないかもネ? どうせ……」
悠然と高高度を舞うその巨躯を、彼女はゆっくりとセタの方へと向けた。
「……YouもこれからDeadend。ワタシに倒されるのは同じネ?」
その名を知らない事は、セタにとって幸か不幸か。
知らぬ故に怯える事は無く。
知らぬ故に、逃げるという思考もまた、無い。
戦いは必定だった。
◆
「……最悪だ……」
「どうしたの、祐一?」
「?」
場内の観客席でそれを見ていた祐一が苦い顔で呟くのを、美空とリーナが聞きとめた。
「あれは……。あれにだけは手を出しちゃダメだ……。どうやってもセタに勝ち目が無い……」
「あの飛行タイプ? そんなに強いの?」
美空の疑問も当然で、バトルロイヤルにおいて飛行タイプは不利とされている。
飛行する為に隠れることが出来ず目立ち、集中攻撃を受ける事や、装甲の薄さや弾薬積載量の限界がそのまま戦闘力の低下に繋がるからだ。
だがしかし、祐一は美空の疑問を肯定する為に頷いた。
「ああ、強いよ……。名前はリーヴェレータ。飛行タイプのヴァッフェバニーで、……アイゼンより格上のランク3だ」
「ランク3? この神姫センターで3番目に強いって事?」
「そういう訳でもない。……確かに強いことは強いけど、10位までの神姫では比較的倒しやすい相手、実際、アイゼンも何度か勝ってるし……」
天海神姫センターの神姫ランクは、その神姫の戦績を元に付けられる。
つまり。
「アイゼンに倒せるのならば、セタにだって如何にかなるのではないの? 最近はアイゼンとも良い勝負が出来るようになっているのでしょう、彼女?」
「……純粋な実力では、太刀打ちできないと言う程の差異は無いかもしれない……。でも、相性が最悪でね……」
「……それに」
今まで黙ってモニターを見ていたアイゼンが、視線を外さぬまま静かに呟いた。
「……あいつは撃墜数だけならこのセンターでダントツトップ。……二位以下との差が、ダブルスコア……」
上位陣に対する敗北をひっくり返すほど、それだけ大量の敵をなぎ払ってきた神姫と言うことになる。
リーヴェレータ。
天海神姫センターで最も殲滅戦を得意とする神姫。
その別名を、ボマー(爆撃機)と言う。
◆
甲高い笛のような音と共に、無数の爆弾が落ちてきた。
『―――ッ!! セタ、逃げなさいッ!!』
避けるではなく、逃げる。
避わす場所など無いほどの密度で大量に降ってきたそれは、セタの居た地面とその周囲を、隈なく吹き飛ばすのに充分すぎる量だった。
「―――くっ!!」
疾走力に優れたハウリンとは言え、セタは重い吠莱を二門も背負っている。
パージする間も惜しんで走り出すが、効果範囲からは逃げられそうに無い。
「―――ダメ、間に合いません……」
『セタ、回頭180度。俯角40!!』
「え? でもそれじゃ?」
『いいから急ぐ!! 終わり次第吠莱発射!!』
「はいッ!!」
セタが応えた数秒後、爆炎が全てを吹き飛ばした。
◆
「Hahaha、消し飛んだネ。悪く思うなヨ!!」
「思うに決まってます!!」
「What!?」
驚くリーヴェの左主翼に着弾。
「Shit!! ライフル弾!? 地上からカ?」
射手は、爆心地から少し離れた場所に居るハウリン。
セタだった。
全身に煤が付着し、多少のダメージも負ってはいるが、その機能は何一つ失われては居ない。
「I see、爆撃から逃れる為に自分の砲撃で爆風を作リ、その反動で爆撃の範囲外に自ら吹き飛んだカ……」
唇を吊り上げるメリーの左翼に再び被弾。
間髪居れずに3発目を打ち込んでくるセタだが、リーヴェは意に介さず爆撃を続行した。
飛行タイプでありながら、彼女の装甲はストラーフすら凌ぐ装甲厚を持つ。
小口径のライフル弾など防御する必要すら感じはしない。
ましてや、重力に逆らう対空射撃。
弾速とそれに伴う貫通力は激減している事もあわせて考えれば、小口径の0.77mm弾如きが通用する筈も無い。
素の装甲に加え、重力と言う盾を翳すリーヴェには、警戒するべき攻撃など数えるほどしかない。
そして、セタは。
その何れも有しては居なかった。
◆
「マスター、どうしよう。“77”じゃ効かないよ!?」
スナイパーライフルによる狙撃が効かない事を見届けると、セタはそのまま走って逃げる。
『拙いわね……。こういうのはちょっと想定外だわ……』
「です」
セタの戦法は極めて明快。
ぷちマスィーンズを使用した着弾観測で、視界外/超長距離での曲射を駆使し、相手に姿を晒す事無く勝利する事が前提。
それを達成できない飛行タイプや高機動タイプには、狙撃銃での鋭い一撃を見舞う。
曲射砲から逃れるほどに速度を求めた神姫ならば、必然的に装甲は薄くなる。
即ち。
リーヴェレータのような、飛行する装甲目標は想定外だった。
「ハハハ、無駄ダ、無駄ダ。このFuckingクソイヌ、くたばれくたばれくたばれくたばれぇ、ハハハハハハハハハ―――」
「うわ~ん」
爆弾を撒き散らしながら追いかけてくるボマーから逃れる為、セタは荒野を抜けてビル群を目差す。
『とにかく、遮蔽物も無い荒野じゃ何も出来ないわ。少なくとも、吠莱を使うだけの時間が稼げる状況を作らないと如何にもならない!!』
「でもマスター」
『何よ?』
「航空目標に、榴弾って無意味なんじゃ……」
『……………』
榴弾、即ちセタの吠莱壱式が発射する弾頭は、地面に着弾する事により周囲を爆発で攻撃する。
即ち。
飛行する神姫には、直撃させねば全く効果が無いという事だ。
そして、榴弾の弾速は極めて遅い。
リーヴェほどの高度を保っていれば、発射を確認してからでも余裕を持って回避できる。
したがって直撃はまず望めない。
狙撃銃を弾く装甲と、榴弾の直撃を避けられる速度と高度。
この両方を併せ持つリーヴェに対し、セタは全くの無力。
相手が航空目標では、当然アーミーブレードに出番など無い。
完全な手詰まりだった。
◆
「……どうすればいいのよ、あんな化け物」
狙撃銃を弾き返すリーヴェを見て、リーナが呆れたような声を漏らす。
「まあ、大型の地対空ミサイルを複数叩き込むか、避けられない位大量に重砲を叩き込むか……。あるいはフェータみたいな飛行可能な格闘タイプや、逆に砲撃能力を持つ飛行タイプで至近距離から砲撃するか……。どちらにしろ、通用する攻撃が極めて少ないから、一対一じゃキツイね……」
「……バトルロイヤルにアイツがいると、他が全滅するか、アイツが途中で落ちるかのパターンしかない」
「…………」
アイゼンの言にさしものリーナも絶句する。
強さを、殲滅能力だとするのなら。
リーヴェレータは間違いなく天海最強の神姫と言えた。
「セタに勝ち目があるとすれば、何とかして吠莱を当てるしかないけれど……」
「……回避されるので、無理……」
「だよね」
さしもの祐一も、アイゼンの回答に溜息を付く。
「セタに、何か新兵器とかは?」
「あったら本人が俺に自慢しに来る」
リーナの脳裏に、はしゃぐわんこが浮かび上がる。
『祐一さん、祐一さん、見てください。マスターから新兵器貰っちゃいましたぁ~♪』
尻尾パタパタ、尻尾パタパタ。
「………そ、それじゃあ、雅がセタにナイショで新兵器を付けたとか?」
「そしたら姉さんが俺に自慢しに来る」
リーナの脳裏に、満面の笑みを浮かべるロリ姉が浮かび上がる。
『祐一、祐一。見て見て、セタに秘密兵器付けちゃったっ♪』
わーいわーいと、子供みたいにはしゃぐ、子供みたいな大人。
「……ど、どうしょも無いわね」
「……(こくこく)」
(ま、吠莱を当てる手が無い訳でもないけど……。可能性が0では無いってだけの博打……、流石に無理があるよな……)
アイゼンならば不可能な事でも、セタにならば出来る事もある。
それでも、それは不可能と言う区分に入る奇跡の類だった。
◆
『(さて、これでどれだけ時間を稼げるか……)』
戦況は膠着状態だった。
ビル街に隠れたセタを、高々度を飛行するリーヴェレータは発見できずに居る。
さりとて見逃す気は無いのか、別の標的を探しに行くでもなく、索敵の為に高度を下げる訳でもない。
「……マスター、あの人。このまま諦めてくれませんかね?」
『セタ、勝てない敵から逃げたって、強くなんかならないわよ?』
弱音を漏らす自らの神姫を、雅は静かに嗜める。
「……では、如何しますか? ボクにはあの人に勝つ手段が無いです……」
『もう少し時間を稼ぎなさい。……必ず、勝たせてあげる……』
「?」
雅は不敵に笑うと、ノートパソコンのEnterキーを叩いた。
◆
「Goddam!! 何処に隠れタ、クソイヌ!!」
セタの姿を見失い、リーヴェはただ上空を旋回するだけだった。
敵に重砲があることを知っているだけに、不意打ちを避けるためにも高度は下げられない。
更に、無差別爆撃を主戦法とする都合上、センサー類もそれほど大掛かりな物は積んでいなかった。
「Fuck!! 余計な手間を掛けさせてくれル!!」
ただし、セタとは違いリーヴェにはこの状況は手詰まりでもなんでもない。
単に無駄を惜しんだだけの話ではあるが、もとより派手好きでもある。
「こーなったら、ビル群諸共消し炭にしてやル!! ……派手に吹っ飛べぇ、Rocknrool!!」
全身の爆弾槽から投下される無数の爆弾。
着弾し、爆炎を撒き散らすそれが、廃ビルの群れをなぎ払ってゆく。
直撃を受けた5m級の廃ビルが一瞬で爆散し、爆風で弾け飛ぶ周囲のビルを巻き込んで倒壊。
通りに落ちた爆弾は左右のビル群を崩落させ、瓦礫で周囲を埋め尽くした。
神姫規模であれば、小さな街と言っても遜色の無いステージセット。
それが、たった一機の神姫により脆くも崩壊してゆく。
「Have you ever sen the rain? クハハハハハハ」
それは、致命的と言って良いほどに、圧倒的な攻撃力だった。
◆
「マスター、もう限界だよぉ!?」
『あと少し!!』
「ぅぅ……、―――きゃん!?」
至近弾がセタの隠れたビルのすぐ隣のビルを粉々に粉砕する。
廃ビルであり、可燃物が殆ど無い為に延焼こそ発生していないが、それは正しく戦場の光景だった。
少なくとも、神姫と神姫の一対一の戦いで発生するような情景とは思えない。
(マスターは勝機があると言ってたけど、どうしたら……)
吠莱は当たらず、スナイパーライフルは通用しない。
ブレードが届く筈も無く、セタのぷちマスィーンズに武器は無い。
仮にぷち達を体当りさせたとしても、スナイパーライフルよりも高い効果があるとは思えなかった。
「―――!!」
爆音によるノイズ交じりの音響索敵に、引っかかる大型爆弾。
予測される爆弾の落下コースは直上。
「直撃弾、……来るっ!!」
セタがビルから飛び出すのと、雅が最後のEnterキーを叩いたのは全くの同時であった。
爆風に押され、通りを越えて向かいのビルにまで吹っ飛ぶセタ。
目敏くそれを見つけたリーヴェが急旋回して上空のポジションを取りに来る。
「……痛た……」
基礎的な耐久力に優れたハウリンであるが故に、度重なる至近爆発にも辛うじて耐えてはいるが、それも最早限界だった。
「……次は、持たない……」
『次なんて無いわよ!!』
「マスター!?」
雅の声と共に、セタのAIに送られてくる攻撃プログラムと弾道計算式。
「……これって!?」
『吠莱とライフルはまだ使えるわね? ……OK、それじゃあアイツにも見せてあげましょう、ザミエルの魔弾をっ!!』
◆
「Ha、見つけたゾ、これでトドメだ!!」
吠莱の弾速と軌道は既に見切っている。
無差別爆撃の為に浪費した爆弾をこれ以上無駄打ちしない為に、リーヴェは急降下爆撃のコースに入った。
使用するのは100gの無誘導爆弾2発。
1m以内の至近弾ならば、ほぼ例外なく敵対神姫を駆逐する威力を誇っているそれをリリースする直前、セタが吠莱を発射した。
「Futil!! 効かないのは判っているだろウ?」
投下を中断し、微かに主翼を傾けて遅すぎる砲弾を回避すると同時に、牽制のつもりなのかスナイパーライフルを発砲するハウリンが見えた。
「それも無駄―――!?」
嘲笑の最中、リーヴェの真横から、吠莱の弾頭が突っ込んできた。
「―――っ!?」
榴弾の直撃を受けて、リーヴェレータの装甲が爆散して弾け散る。
◆
「やった!?」
『まだよ、セタ!! もう一発!!』
雅の叱責に装填の終わっていた吠莱を再度発射。
爆煙から飛び出して来たリーヴェを狙うが、やはり吠莱の弾速では遅すぎる。
「Fuck!!」
被弾したリーヴェには余裕こそ無いが、回避は可能。
事実、直撃コースから逃れ、トドメを刺す為に再度投下コースへと乗るが……。
その背を、避わした筈の吠莱が直撃した。
「Jesus!?」
主翼を根元からへし折られ、揚力を失った機体が墜落してゆく。
「Why? 何故避わした砲弾が背中から当たる!? 誘導弾だとでも言うつもりカ!?」
バランスを欠いた機体は既にリーヴェの制御を離れ、地面へと墜ちて行く。
「ザミエルの魔弾は、使用者とザミエルの望んだ場所に必ず当たるそうです……」
「―――?」
墜落の最中、リーヴェの耳に敵対していたハウリンの声が響いた。
「オペラでは、最後の一発だけがザミエルの意思により使用者の意に添わぬ標的を撃ったとされますが、……ボクのザミエル(悪魔)はマスターです」
「全弾、必中だとでも言うカ?」
「その通り」
「Ha、そいつは愉快だ…………」
にやり、と笑ってリーヴェは自分を親指で指した。
トドメを刺しな、と言う意味で。
「……判りました」
そう言って放たれる3発目の『魔弾』が、空の上でリーヴェレータを直撃した。
散るならば空の上で。
翼持つ者全ての願いであるという。
◆
「……で、喜んでた間に本戦出場者が定員に達して予選落ち、と」
「あうぅぅ……」
「馬鹿だね、姉さん」
「ひどぅいわ~~~~~」
子供みたいに泣きじゃくる雅に、祐一は容赦なく止めを刺した。
「らって、らってぇぇ~」
リーヴェとの戦闘に時間を掛けすぎた結果、本戦出場者が定員に達し、セタはそのまま予選落ちとして処理されていた。
「まあ、ボマーに勝っちゃったのは凄いと思うけど……」
「でしょ!? でしょっ!?」
「その後が最悪だったけど」
「ぅわあぁぁぁぁん(泣)!?」
雅轟沈。
これで少しは天海の街も平和になるに違いない。
「でも、凄い事するわよね、セタも……」
場内モニターに映し出されるリプレイを見て、リーナが感嘆の声を上げる。
「まさか、『発射した吠莱の弾頭を自分で狙撃して弾道を変える』なんて、ね……」
場内モニターのそれも、言われて見なければ予想しもしないだろう。
自ら発射したものとは言え、砲弾を狙撃するという精度は、精密砲撃と狙撃の双方を駆使するセタだから出来た事。
長距離精密砲撃に加え、中距離での完全誘導砲撃まで駆使するようになれば、最早セタの砲撃も奥儀の区分だ。
しかし……。
「んで、そのセタ坊本人は何処なのよ?」
「あそこ」
美空に問われ、祐一はリーナのバスケットを指差した。
◆
「ぁふ~ん、ワサビ、美味……」
特選ねりワサビのチューブに吸い付き、至福の表情を浮かべるハウリン。セタ。
「なんかこう、ツ~ンとした刺激に身を任せていると、ナニモカモ忘れられそうですよねぇ~」
ちゅるる、と一息に大量のワサビを吸い出し、ビクビク悶えるセタ。
ゴロゴロ転げまわりながらワサビのチューブを抱きしめ、悶絶する。
「ああ、ワサビ最高ですぅ~」
爪先を丸め、刺激の余韻を堪能すると、セタは次の一口をすするべく、ワサビのチューブに吸い付いた。
「ぅきゅ~、もうダメ。……ボクもう滅茶苦茶になっちゃう位幸せぇ~」
現実逃避、此処に極まれリ。
セタは、フェータに敗れ不貞寝していたレライナを叩き出し、彼女のクレイドルに引き篭もる。
「はぅわぅわぁ~。……嗚呼、ワサビ、……最強ですぅ~」
バスケット中で悶えるセタと、そこから追い出されてしくしく泣いているレライナを遠巻きに眺めながら、アイゼンとフェータは溜息を付いた。
「……やれやれ」
「ですね……」
[[第18話:きすみみ]]につづく
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最近、組み換え以外の神姫パーツを作っているので執筆頻度が低下中のALCです。
微妙に本戦進出率の悪い主人公チームですが、性能的にはこの辺りが順当だと…。
次回は遂に最強バカネコの登場です(たぶん)。
因みに今回の敵キャラボマー、ことリーヴェレータは、以前のBBSの回で少しだけ触れられていたり。
以下雑談。
最強のガンダムって、何?
と言う話題で、V2だ、ゴッドだ、と言う友人共に∀より強いMSなんて居ない、とALCは主張。
んで、実際に調べてみてビックリ。
テレポートするんですね、アレ。
本体だけでなく、ファンネル無しでビームだけワープさせてオールレンジとか、再生とか、無敵バリアとか。
強すぎるにも程がある。
本来の機能である月光蝶の人工物分解能力なんて、オマケ見たいな高性能に一瞬絶句したALCでした。
&counter()
*鋼の心 ~Eisen Herz~
**第17話:クリムゾン・エア
強さ、とは何か?
敵を倒す能力?
それとも高い性能?
或いは……。
◆
予選、第二バトルロイヤル。
「ぷち3号、目標捕捉……。弾道計算終了、補正なし……」
『やっちゃえ、セタ。ファイアッ!!』
「了解!!」
セタが砲撃姿勢を取った直後、背中にマウントされた二門の吠莱壱式が指定された角度に向けて砲火を吐き出した。
山なりの弾道を描いて飛ぶ砲弾は、着弾まで凡そ5秒。
弾速は差ほどでもなく、反応速度に優れた神姫であれば見てから避わす事も不可能ではあるまい。
だがしかし。
逃げる事は不可能だった。
「―――そんな~!?」
戦闘開始直後、周囲の安全を確保する傍ら、ぷちマスィーンズにより索敵を行っていたセタが見つけたターゲット。
同じく砲戦タイプのウィトゥルースが最初の敵だった。
「いっ、一体何が―――、きゃん!?」
辛うじて直撃は免れるが、もとよりセタは直撃など期待してはいない。
一方的に攻撃できる曲射砲とは言え、その構造上弾速には限界がある。
故に、回避されるのは致し方ない。
だがしかし、直撃でなければダメージを与えられないという訳でもなかった。
「りゅ、榴弾ですか~? 何処からなんです~?」
至近に着弾した砲弾は、接地と同時に炸裂し、周囲に爆炎と破片とを大量に撒き散らす。
装甲の貫徹を目的とした徹甲弾ではなく、着弾地点の周囲を全て吹き飛ばすのが榴弾砲だ。
それは徹甲弾程の弾速も、それに伴う威力も無いが、回避を許さぬ範囲攻撃として、地上にいる者全てを吹き飛ばす破壊の炎を顕現させる。
「ますた~、敵が見えません~!! ぅきゃ~っ、ひえ~っ!?」
同じ砲戦タイプとは言え、直射を前提とした粒子砲を主兵装とするウィトゥルースは、未だセタの姿を捉えてすら居ない。
それどころか、何が起きているのかもよく分かってはいないだろう。
6発。
それだけの砲弾を連続で叩き込んでウィトゥルースを沈黙させると、セタは向きを変えて次のターゲットへの砲撃を開始する。
「撃破一。次の標的を攻撃します!!」
『おっけ~、この分なら楽勝ね。さくっと本選進出、決めるわよ!!』
「はい、マスター!!」
ウィトゥルースとの戦闘中、既に次のターゲットは選定してある。
近接戦を弱点とする以上、近づく敵を片っ端から排除していかなければ待っているのは敗北だけだ。
本来であれば、セタのような完全な後方支援機タイプには盾となる前衛が必須だが、バトルロイヤルにそれを望んでも詮が無い。
セタと雅は、乱戦の混乱を前衛代わりに、危険な敵から優先して排除する事で戦績を伸ばしてきたし、これからもそうするつもりだった。
もちろん、この大会でも……。
『(思ったとおり、まだまだウィトゥルースは弱いわね……)』
比較的新型に部類されるウィトゥルースは、その分戦闘経験が不足している者が多い。
また、オーナー側も古参の神姫のようなノウハウの蓄積が無い為、効果的な運用に慣れていない場合が殆どだ。
『(まあ、セタだって余裕がある訳じゃ無し、弱そうなのからさっさと倒して本戦に行かないとね……)』
冷徹な計算を押し隠し、雅がモニターに目を戻す頃、セタの撃墜数は二に増えていた。
「マスター、撃墜二。次の指示を」
『手近な脱出ポイントへ接近しつつ、最後の標的を探しなさい。もちろん、周囲の警戒は密に、ね……』
「了解です!! ……あの、マスター?」
『何?』
「ボク、この戦いが終わったら故郷(くに)の彼女と結婚するんです」
『……なんで無駄に死にフラグ立ててるのよ?』
「マヤア姉さんに教わりました。こうすると、戦争で死ななくなるそうです!」
『……………』
とりあえず浅葱に文句を言っておこうと、雅は硬く心に誓った。
「―――ん! マスター敵発見!! 2時の方向、距離5万!!」
『落しなさい、そしたら脱出。速やかに』
「はい、マスター!!」
三度、砲撃姿勢から放たれる吠莱二門の5連続斉射。
標的の予測位置を中心に2発。その周囲にも8発。
発射角で弾道を調整し、着弾時刻が同一になるように調整。……完了次第随時発射。
標的の行動が予測どおりならこれで詰み。
多少ずれても逃がしはしない。
ダメージで動きを止めた後、次弾で完全にトドメが刺せる。
『(意外と楽に終わったわね……)』
フェータ、レライナといった高機動型の神姫との戦闘経験はそれなりにあるセタにとって、普通の神姫を曲射で狙うのは至難と言うほどの難易度ではない。
雅も既に勝利を確信し、その緊張の大部分を弛緩させた。
もちろん、油断まではしていない。
緊張を緩めながらも伏兵には気を配り、セタから送られてくるぷちマスィーンズの映像に目を配ってはいる。
だがしかし。
これから倒れる敵からは、その視線を外し……。
故に、それが何故なのか咄嗟には理解できなかった。
「マスター、着弾確認!! これで撃墜数は……、―――あれ?」
『―――セタ?』
「故障でしょうか? 撃墜カウント入りません」
言われて見ればその通り。
セタの撃墜数を示す数字は2のまま変動無し。
つまりそれは。
『撃ち漏らした!? あの砲撃で!?』
着弾地点を中継するぷちマスィーンズの視界は爆煙で遮られ、標的の確認は出来ない。
だがしかし、撃墜数が入らないという事は、標的が生き延びた事を示す。
―――とは限らなかった。
「……!? マスター!! 敵、上空です!!」
『―――えッ!?』
着弾点の遥か上空。
高度1000の彼方に“それ”は居た。
◆
「Sorry、獲物かぶったネ。けど、コチラが先ヨ、撃墜権は頂いたネ?」
ルール上、その神姫を倒した者が撃墜の権利を得る。
つまり、セタの砲撃が届く一瞬前に、彼女はその標的を撃破していたと言う事だ。
「……But。余り関係ないかもネ? どうせ……」
悠然と高高度を舞うその巨躯を、彼女はゆっくりとセタの方へと向けた。
「……YouもこれからDeadend。ワタシに倒されるのは同じネ?」
その名を知らない事は、セタにとって幸か不幸か。
知らぬ故に怯える事は無く。
知らぬ故に、逃げるという思考もまた、無い。
戦いは必定だった。
◆
「……最悪だ……」
「どうしたの、祐一?」
「?」
場内の観客席でそれを見ていた祐一が苦い顔で呟くのを、美空とリーナが聞きとめた。
「あれは……。あれにだけは手を出しちゃダメだ……。どうやってもセタに勝ち目が無い……」
「あの飛行タイプ? そんなに強いの?」
美空の疑問も当然で、バトルロイヤルにおいて飛行タイプは不利とされている。
飛行する為に隠れることが出来ず目立ち、集中攻撃を受ける事や、装甲の薄さや弾薬積載量の限界がそのまま戦闘力の低下に繋がるからだ。
だがしかし、祐一は美空の疑問を肯定する為に頷いた。
「ああ、強いよ……。名前はリーヴェレータ。飛行タイプのヴァッフェバニーで、……アイゼンより格上のランク3だ」
「ランク3? この神姫センターで3番目に強いって事?」
「そういう訳でもない。……確かに強いことは強いけど、10位までの神姫では比較的倒しやすい相手、実際、アイゼンも何度か勝ってるし……」
天海神姫センターの神姫ランクは、その神姫の戦績を元に付けられる。
つまり。
「アイゼンに倒せるのならば、セタにだって如何にかなるのではないの? 最近はアイゼンとも良い勝負が出来るようになっているのでしょう、彼女?」
「……純粋な実力では、太刀打ちできないと言う程の差異は無いかもしれない……。でも、相性が最悪でね……」
「……それに」
今まで黙ってモニターを見ていたアイゼンが、視線を外さぬまま静かに呟いた。
「……あいつは撃墜数だけならこのセンターでダントツトップ。……二位以下との差が、ダブルスコア……」
上位陣に対する敗北をひっくり返すほど、それだけ大量の敵をなぎ払ってきた神姫と言うことになる。
リーヴェレータ。
天海神姫センターで最も殲滅戦を得意とする神姫。
その別名を、ボマー(爆撃機)と言う。
◆
甲高い笛のような音と共に、無数の爆弾が落ちてきた。
『―――ッ!! セタ、逃げなさいッ!!』
避けるではなく、逃げる。
避わす場所など無いほどの密度で大量に降ってきたそれは、セタの居た地面とその周囲を、隈なく吹き飛ばすのに充分すぎる量だった。
「―――くっ!!」
疾走力に優れたハウリンとは言え、セタは重い吠莱を二門も背負っている。
パージする間も惜しんで走り出すが、効果範囲からは逃げられそうに無い。
「―――ダメ、間に合いません……」
『セタ、回頭180度。俯角40!!』
「え? でもそれじゃ?」
『いいから急ぐ!! 終わり次第吠莱発射!!』
「はいッ!!」
セタが応えた数秒後、爆炎が全てを吹き飛ばした。
◆
「Hahaha、消し飛んだネ。悪く思うなヨ!!」
「思うに決まってます!!」
「What!?」
驚くリーヴェの左主翼に着弾。
「Shit!! ライフル弾!? 地上からカ?」
射手は、爆心地から少し離れた場所に居るハウリン。
セタだった。
全身に煤が付着し、多少のダメージも負ってはいるが、その機能は何一つ失われては居ない。
「I see、爆撃から逃れる為に自分の砲撃で爆風を作リ、その反動で爆撃の範囲外に自ら吹き飛んだカ……」
唇を吊り上げるリーヴェの左翼に再び被弾。
間髪居れずに3発目を打ち込んでくるセタだが、リーヴェは意に介さず爆撃を続行した。
飛行タイプでありながら、彼女の装甲はストラーフすら凌ぐ装甲厚を持つ。
小口径のライフル弾など防御する必要すら感じはしない。
ましてや、重力に逆らう対空射撃。
弾速とそれに伴う貫通力は激減している事もあわせて考えれば、小口径の0.77mm弾如きが通用する筈も無い。
素の装甲に加え、重力と言う盾を翳すリーヴェには、警戒するべき攻撃など数えるほどしかない。
そして、セタは。
その何れも有しては居なかった。
◆
「マスター、どうしよう。“77”じゃ効かないよ!?」
スナイパーライフルによる狙撃が効かない事を見届けると、セタはそのまま走って逃げる。
『拙いわね……。こういうのはちょっと想定外だわ……』
「です」
セタの戦法は極めて明快。
ぷちマスィーンズを使用した着弾観測で、視界外/超長距離での曲射を駆使し、相手に姿を晒す事無く勝利する事が前提。
それを達成できない飛行タイプや高機動タイプには、狙撃銃での鋭い一撃を見舞う。
曲射砲から逃れるほどに速度を求めた神姫ならば、必然的に装甲は薄くなる。
即ち。
リーヴェレータのような、飛行する装甲目標は想定外だった。
「ハハハ、無駄ダ、無駄ダ。このFuckingクソイヌ、くたばれくたばれくたばれくたばれぇ、ハハハハハハハハハ―――」
「うわ~ん」
爆弾を撒き散らしながら追いかけてくるボマーから逃れる為、セタは荒野を抜けてビル群を目差す。
『とにかく、遮蔽物も無い荒野じゃ何も出来ないわ。少なくとも、吠莱を使うだけの時間が稼げる状況を作らないと如何にもならない!!』
「でもマスター」
『何よ?』
「航空目標に、榴弾って無意味なんじゃ……」
『……………』
榴弾、即ちセタの吠莱壱式が発射する弾頭は、地面に着弾する事により周囲を爆発で攻撃する。
即ち。
飛行する神姫には、直撃させねば全く効果が無いという事だ。
そして、榴弾の弾速は極めて遅い。
リーヴェほどの高度を保っていれば、発射を確認してからでも余裕を持って回避できる。
したがって直撃はまず望めない。
狙撃銃を弾く装甲と、榴弾の直撃を避けられる速度と高度。
この両方を併せ持つリーヴェに対し、セタは全くの無力。
相手が航空目標では、当然アーミーブレードに出番など無い。
完全な手詰まりだった。
◆
「……どうすればいいのよ、あんな化け物」
狙撃銃を弾き返すリーヴェを見て、リーナが呆れたような声を漏らす。
「まあ、大型の地対空ミサイルを複数叩き込むか、避けられない位大量に重砲を叩き込むか……。あるいはフェータみたいな飛行可能な格闘タイプや、逆に砲撃能力を持つ飛行タイプで至近距離から砲撃するか……。どちらにしろ、通用する攻撃が極めて少ないから、一対一じゃキツイね……」
「……バトルロイヤルにアイツがいると、他が全滅するか、アイツが途中で落ちるかのパターンしかない」
「…………」
アイゼンの言にさしものリーナも絶句する。
強さを、殲滅能力だとするのなら。
リーヴェレータは間違いなく天海最強の神姫と言えた。
「セタに勝ち目があるとすれば、何とかして吠莱を当てるしかないけれど……」
「……回避されるので、無理……」
「だよね」
さしもの祐一も、アイゼンの回答に溜息を付く。
「セタに、何か新兵器とかは?」
「あったら本人が俺に自慢しに来る」
リーナの脳裏に、はしゃぐわんこが浮かび上がる。
『祐一さん、祐一さん、見てください。マスターから新兵器貰っちゃいましたぁ~♪』
尻尾パタパタ、尻尾パタパタ。
「………そ、それじゃあ、雅がセタにナイショで新兵器を付けたとか?」
「そしたら姉さんが俺に自慢しに来る」
リーナの脳裏に、満面の笑みを浮かべるロリ姉が浮かび上がる。
『祐一、祐一。見て見て、セタに秘密兵器付けちゃったっ♪』
わーいわーいと、子供みたいにはしゃぐ、子供みたいな大人。
「……ど、どうしょも無いわね」
「……(こくこく)」
(ま、吠莱を当てる手が無い訳でもないけど……。可能性が0では無いってだけの博打……、流石に無理があるよな……)
アイゼンならば不可能な事でも、セタにならば出来る事もある。
それでも、それは不可能と言う区分に入る奇跡の類だった。
◆
『(さて、これでどれだけ時間を稼げるか……)』
戦況は膠着状態だった。
ビル街に隠れたセタを、高々度を飛行するリーヴェレータは発見できずに居る。
さりとて見逃す気は無いのか、別の標的を探しに行くでもなく、索敵の為に高度を下げる訳でもない。
「……マスター、あの人。このまま諦めてくれませんかね?」
『セタ、勝てない敵から逃げたって、強くなんかならないわよ?』
弱音を漏らす自らの神姫を、雅は静かに嗜める。
「……では、如何しますか? ボクにはあの人に勝つ手段が無いです……」
『もう少し時間を稼ぎなさい。……必ず、勝たせてあげる……』
「?」
雅は不敵に笑うと、ノートパソコンのEnterキーを叩いた。
◆
「Goddam!! 何処に隠れタ、クソイヌ!!」
セタの姿を見失い、リーヴェはただ上空を旋回するだけだった。
敵に重砲があることを知っているだけに、不意打ちを避けるためにも高度は下げられない。
更に、無差別爆撃を主戦法とする都合上、センサー類もそれほど大掛かりな物は積んでいなかった。
「Fuck!! 余計な手間を掛けさせてくれル!!」
ただし、セタとは違いリーヴェにはこの状況は手詰まりでもなんでもない。
単に無駄を惜しんだだけの話ではあるが、もとより派手好きでもある。
「こーなったら、ビル群諸共消し炭にしてやル!! ……派手に吹っ飛べぇ、Rocknrool!!」
全身の爆弾槽から投下される無数の爆弾。
着弾し、爆炎を撒き散らすそれが、廃ビルの群れをなぎ払ってゆく。
直撃を受けた5m級の廃ビルが一瞬で爆散し、爆風で弾け飛ぶ周囲のビルを巻き込んで倒壊。
通りに落ちた爆弾は左右のビル群を崩落させ、瓦礫で周囲を埋め尽くした。
神姫規模であれば、小さな街と言っても遜色の無いステージセット。
それが、たった一機の神姫により脆くも崩壊してゆく。
「Have you ever sen the rain? クハハハハハハ」
それは、致命的と言って良いほどに、圧倒的な攻撃力だった。
◆
「マスター、もう限界だよぉ!?」
『あと少し!!』
「ぅぅ……、―――きゃん!?」
至近弾がセタの隠れたビルのすぐ隣のビルを粉々に粉砕する。
廃ビルであり、可燃物が殆ど無い為に延焼こそ発生していないが、それは正しく戦場の光景だった。
少なくとも、神姫と神姫の一対一の戦いで発生するような情景とは思えない。
(マスターは勝機があると言ってたけど、どうしたら……)
吠莱は当たらず、スナイパーライフルは通用しない。
ブレードが届く筈も無く、セタのぷちマスィーンズに武器は無い。
仮にぷち達を体当りさせたとしても、スナイパーライフルよりも高い効果があるとは思えなかった。
「―――!!」
爆音によるノイズ交じりの音響索敵に、引っかかる大型爆弾。
予測される爆弾の落下コースは直上。
「直撃弾、……来るっ!!」
セタがビルから飛び出すのと、雅が最後のEnterキーを叩いたのは全くの同時であった。
爆風に押され、通りを越えて向かいのビルにまで吹っ飛ぶセタ。
目敏くそれを見つけたリーヴェが急旋回して上空のポジションを取りに来る。
「……痛た……」
基礎的な耐久力に優れたハウリンであるが故に、度重なる至近爆発にも辛うじて耐えてはいるが、それも最早限界だった。
「……次は、持たない……」
『次なんて無いわよ!!』
「マスター!?」
雅の声と共に、セタのAIに送られてくる攻撃プログラムと弾道計算式。
「……これって!?」
『吠莱とライフルはまだ使えるわね? ……OK、それじゃあアイツにも見せてあげましょう、ザミエルの魔弾をっ!!』
◆
「Ha、見つけたゾ、これでトドメだ!!」
吠莱の弾速と軌道は既に見切っている。
無差別爆撃の為に浪費した爆弾をこれ以上無駄打ちしない為に、リーヴェは急降下爆撃のコースに入った。
使用するのは100gの無誘導爆弾2発。
1m以内の至近弾ならば、ほぼ例外なく敵対神姫を駆逐する威力を誇っているそれをリリースする直前、セタが吠莱を発射した。
「Futil!! 効かないのは判っているだろウ?」
投下を中断し、微かに主翼を傾けて遅すぎる砲弾を回避すると同時に、牽制のつもりなのかスナイパーライフルを発砲するハウリンが見えた。
「それも無駄―――!?」
嘲笑の最中、リーヴェの真横から、吠莱の弾頭が突っ込んできた。
「―――っ!?」
榴弾の直撃を受けて、リーヴェレータの装甲が爆散して弾け散る。
◆
「やった!?」
『まだよ、セタ!! もう一発!!』
雅の叱責に装填の終わっていた吠莱を再度発射。
爆煙から飛び出して来たリーヴェを狙うが、やはり吠莱の弾速では遅すぎる。
「Fuck!!」
被弾したリーヴェには余裕こそ無いが、回避は可能。
事実、直撃コースから逃れ、トドメを刺す為に再度投下コースへと乗るが……。
その背を、避わした筈の吠莱が直撃した。
「Jesus!?」
主翼を根元からへし折られ、揚力を失った機体が墜落してゆく。
「Why? 何故避わした砲弾が背中から当たる!? 誘導弾だとでも言うつもりカ!?」
バランスを欠いた機体は既にリーヴェの制御を離れ、地面へと墜ちて行く。
「ザミエルの魔弾は、使用者とザミエルの望んだ場所に必ず当たるそうです……」
「―――?」
墜落の最中、リーヴェの耳に敵対していたハウリンの声が響いた。
「オペラでは、最後の一発だけがザミエルの意思により使用者の意に添わぬ標的を撃ったとされますが、……ボクのザミエル(悪魔)はマスターです」
「全弾、必中だとでも言うカ?」
「その通り」
「Ha、そいつは愉快だ…………」
にやり、と笑ってリーヴェは自分を親指で指した。
トドメを刺しな、と言う意味で。
「……判りました」
そう言って放たれる3発目の『魔弾』が、空の上でリーヴェレータを直撃した。
散るならば空の上で。
翼持つ者全ての願いであるという。
◆
「……で、喜んでた間に本戦出場者が定員に達して予選落ち、と」
「あうぅぅ……」
「馬鹿だね、姉さん」
「ひどぅいわ~~~~~」
子供みたいに泣きじゃくる雅に、祐一は容赦なく止めを刺した。
「らって、らってぇぇ~」
リーヴェとの戦闘に時間を掛けすぎた結果、本戦出場者が定員に達し、セタはそのまま予選落ちとして処理されていた。
「まあ、ボマーに勝っちゃったのは凄いと思うけど……」
「でしょ!? でしょっ!?」
「その後が最悪だったけど」
「ぅわあぁぁぁぁん(泣)!?」
雅轟沈。
これで少しは天海の街も平和になるに違いない。
「でも、凄い事するわよね、セタも……」
場内モニターに映し出されるリプレイを見て、リーナが感嘆の声を上げる。
「まさか、『発射した吠莱の弾頭を自分で狙撃して弾道を変える』なんて、ね……」
場内モニターのそれも、言われて見なければ予想しもしないだろう。
自ら発射したものとは言え、砲弾を狙撃するという精度は、精密砲撃と狙撃の双方を駆使するセタだから出来た事。
長距離精密砲撃に加え、中距離での完全誘導砲撃まで駆使するようになれば、最早セタの砲撃も奥儀の区分だ。
しかし……。
「んで、そのセタ坊本人は何処なのよ?」
「あそこ」
美空に問われ、祐一はリーナのバスケットを指差した。
◆
「ぁふ~ん、ワサビ、美味……」
特選ねりワサビのチューブに吸い付き、至福の表情を浮かべるハウリン。セタ。
「なんかこう、ツ~ンとした刺激に身を任せていると、ナニモカモ忘れられそうですよねぇ~」
ちゅるる、と一息に大量のワサビを吸い出し、ビクビク悶えるセタ。
ゴロゴロ転げまわりながらワサビのチューブを抱きしめ、悶絶する。
「ああ、ワサビ最高ですぅ~」
爪先を丸め、刺激の余韻を堪能すると、セタは次の一口をすするべく、ワサビのチューブに吸い付いた。
「ぅきゅ~、もうダメ。……ボクもう滅茶苦茶になっちゃう位幸せぇ~」
現実逃避、此処に極まれリ。
セタは、フェータに敗れ不貞寝していたレライナを叩き出し、彼女のクレイドルに引き篭もる。
「はぅわぅわぁ~。……嗚呼、ワサビ、……最強ですぅ~」
バスケット中で悶えるセタと、そこから追い出されてしくしく泣いているレライナを遠巻きに眺めながら、アイゼンとフェータは溜息を付いた。
「……やれやれ」
「ですね……」
[[第18話:きすみみ]]につづく
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最近、組み換え以外の神姫パーツを作っているので執筆頻度が低下中のALCです。
微妙に本戦進出率の悪い主人公チームですが、性能的にはこの辺りが順当だと…。
次回は遂に最強バカネコの登場です(たぶん)。
因みに今回の敵キャラボマー、ことリーヴェレータは、以前のBBSの回で少しだけ触れられていたり。
以下雑談。
最強のガンダムって、何?
と言う話題で、V2だ、ゴッドだ、と言う友人共に∀より強いMSなんて居ない、とALCは主張。
んで、実際に調べてみてビックリ。
テレポートするんですね、アレ。
本体だけでなく、ファンネル無しでビームだけワープさせてオールレンジとか、再生とか、無敵バリアとか。
強すぎるにも程がある。
本来の機能である月光蝶の人工物分解能力なんて、オマケ見たいな高性能に一瞬絶句したALCでした。
&counter()
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