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「Tomorrow Never Knows」(2008/06/08 (日) 20:48:43) の最新版変更点
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ヘルシンキ発、成田国際空港行き。フィンランド航空、機内。
「あなたは、ロボットに、全て、やらせることを、安心してるですか」
たどたどしい日本語で隣の席に座った白人男性が問いかけてきた。
作務衣姿の相原を見て、これから日本で働くので、と話しかけてきた。日本語の経験を積んでおきたいんだそうだ。
相原は自分の仕事ー、海外との取引についてとか、秘書として、神姫を使っていることを話していた。神姫を、椿を良き仕事仲間として信頼している、と言ったとたん、白人男性は驚いたような顔をして質問を投げかけてきた。
「ああ、彼女を信頼しているよ」
彼が自分の日本語をどれくらい理解してくれているのだろうかー。そう思いながら相原は続けた。
「もしかして、あなたは『機械の反乱』とかを恐れているのかい」
間をおいて、白人男性がうなずく。
「そう、それです。人間が機械にー、replace、される。逆らう。それはいけないこと」
「何故」
「何故ってー。機械は人間が作った道具です。Masterは人間」
ふむ。相原は間を置いて考えをまとめると、言った。
「日本には八百万の神と言って、全てのものに神が宿るという信仰がある。ヨーロッパで土俗宗教で言うと、精霊、マニトゥみたいなものだ。さて、近年一般化してきた量子コンピューターの根底にあるのは凄く乱暴に言ってしまえば『ビットが在るところ、情報がある』というものだ。人間の意思というものは、結局は電気信号の、ビットの積み重ねだ。そこにさまざまな心が生まれる。ならば、最新の電子デバイスを詰め込んだ神姫が人と同等の心を持ったとしてもおかしくはない」
男性は絶句しながらも、言葉を継いだ。
「それではロボットが、人間にReplaceしたらどう思うのですか」
相原は自分の思っていることを、そのまま伝えた。
「When it happen,I just say "C`est la vie". Just it all.」
いつもの笑顔とともに。
都内。神姫センター。ユーザーサービス。
「Que c'est la, c'est la.って言うしかないわね。どうしようかしら」
「深刻なことなんですか」
「そちらの神姫事態には問題はありません。ただ、最近多いんです。こういう症状」
天野とその二体の神姫、ユリとケイ、は白衣を羽織った女性職員の言葉に耳を傾けていた。胸元のプレートには白石京子とある。天野の二体の神姫たちは、ひととおりの検査を受けてその結果に耳を傾けようとしていた。
「って言うことは、うちのほかにも同じ問題を抱えている神姫がいるってことですか?」
「そ。つまりは、神姫のP2P機能を外部から励起させて、ネットワークを移動している情報の流れがあるってこと」
「それができるってことは、神姫自体がハックされる可能性もある、ということですよね」
「それもそうだし、もっと問題なのは神姫の機能を外部から励起できる、ということでそれは、まぁ、詳細は省くけど、その情報自体が神姫としての特性を持っている、相似なものである、ということなの」
「それはそれで、探求しがいのある問題ですけどー」
「私たちも本社と各メーカーにも問い合わせています。暫くこの件は伏せておいていただけませんか」
「………まぁ、そうでしょうけど」
「マスター、彼女が言いたいのはそういうことじゃないと思う」
それまで黙って話に耳を傾けていた、ケイが口を開いた。
「神姫って、頭部コア・ユニットとCSCの組み合わせでその個性が決まることは知ってるよね」
ケイの言葉をユリが引き継ぐ。
「つまり、神姫AIというのはハードウェアに依存して初めて成立するものなんです。だから、ネットワークに神姫と同質の情報があるということはー」
「ハードウェアに依存しない、意思を持ったー、『心』を持った情報体がネットワーク上に存在することになるんです」
女性職員、白石が締めた。
「それがどう動くのか、恐ろしいし興味深くもあるわ。いったい、その情報体はどこに所属しているのか。存在理由は何か。何をする気なのか」
天野も彼女が何を恐れているのかに気づいた。
「それを言ったらー、『三原則』なんかの重要事項はプログラムじゃなくて、ハードウェアレベルで対応している。それが、存在しない」
「そう。その気になれば人も殺せる」
「どうだったのであるか」
天野との対面を終え、オフィスに戻った白石に奥のデスクから声が掛かった。
「課長。やはり、いままでユーザーから挙げられてきたものと同様の症状でした」
白石が応える。なんで、ウチの課長はこんなヘンな癖のある話し方をするのだろう。
「やーっぱりそうだったのか、なぁのだ」
課長のデスクの上から、猫型MMSが会話に参加する。
神姫関連の仕事とはいえ、このマオチャオタイプへの偏愛ぶりもどうだろうか。就業時間に仕事場で起動させている。
「まずは、神姫とネットの接続を切るように、とは言っておきました。やはり、例のあの装置関連なのでしょうけど」
そう言って彼女は更に奥のラボに鎮座している物体を振り返った。ガラスの向こうにあるデスクの上に乗っているのは、ガラクタ。既存の電話や、パソコンのパーツを組み合わせた、グロテスクな無機質の山だ。去年の夏、どこからか課長が持ち込んできた。
マスターを失ったー、野良化した違法神姫が組上げていたものだという。それは、簡単な通信と充電機能があることが解っていた。同様のものを組上げている野良神姫も少なくない、というレポートも見ている。ついこのあいだ、その装置を介して神姫同士がP2Pの情報のやり取りをしていることが判明し、その情報の流れを突き止めたばかりだ。その追跡プログラムを組んだのも課長だ。一度、そのプログラムの逆コンパイルを試みたが、肝心の部分がことごとくブラックボックス化されていた。案外、切れ者なのかもしれない。
「今回のユーザーの報告書を挙げておきますね、課長。でも、違法神姫たちは、盗品部品まで作って、ネットに接続して、一体何をしたいんでしょうね。しかも、そのネットワーク上を正体不明の情報体が移動している。あれは違法神姫たちが作り出したものなんでしょうか」
「うむ。後は我々に任せるのであーる。そろそろ彼も日本に戻ってくるのであるからして」
「なぁのだ」
我々? 彼女は思った。一体、ウチの課長は何をやっているんだろう。とりあえず、彼女は定められた仕事をこなし、その日は定時で帰宅した。忙しくなりそうだ。
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