「Eye To Eye」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「Eye To Eye」(2008/06/08 (日) 20:48:02) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
「一体、何が起こってるんだ」
それは、ここ一週間の神姫同好会メンバー一同の偽らざる心境である。
ことの起こりは一週間前の新入生歓迎コンパにさかのぼる。
「はい、それじゃぁ、ーどうしよっかな。まぁ、適当に新入生の皆さん、バラけて座って下さい」
昼にエキシビジョンをした、ゲンドゥルのマスターであり、同好会の会長でもある間中優が声を発した。
会場となったのは大学近くにある、学生御用達の居酒屋。座敷には昼間のうちまでに参加を表明した同好会メンバー及び新入生、総勢二十人ほどの席が用意されていた。店の前で一旦集合した参加者らが、ぞろぞろと座敷に上がってくる。
昼にエキシビジョンの相手をした、シラヌイのマスター、宮原学が一番端の席のさっさと座るのが、視界に入った。いつものことだ。座敷に上がってくるほかの参加者の邪魔になるのだが、全く意に介していない。これもいつものこと。ーと、その隣に新入生の女子が座り込んだ。昼間のエキシビジョンのときに盛んに質問を発していた活発な女の子だった。ただ、あまりにも元気がよすぎて、ほかの新入生たちが少々引き気味ではあったものの。まぁ、宮原の隣では会話も成立しないだろうしと、間中は思った。
後からでも席替えのひとつもするさ。
しかし、その予想は全く当たらなかった。
エキシビジョンをしたのだから、ある程度の注目を集めるだろうとは思っていた。ただ、いつもの宮原なら、「ああ」とか「そうですね」とか単語単位での反応を無表情に返すだけだ。でも、その女子、山崎恵子と言ったっけ、との会話は全く違っていた。
ちゃんと、会話が成立していた。むしろ、会話が弾んでいる、と言うべきか。
間中はその宮原の姿を見ながら、彼とのこの一年間を思い起こす。新入生が入ってくる時期を大きく外した七月。ふらりと宮原はやってきた。何故こんな中途半端な時期に入ってきたのかは解らない。ただ、未だに不可解なのは、同好会の神姫たちが示し合わせたように、彼の入部を歓迎する意思を示したことだ。
同好会のメンバーとは、正直、余り上手く言っていない。とにかく、コミュニケーションが取れないのだ。返事も生返事のようなものばかりだし、飲み会を開いても、積極的に飲もうとも会話に参加しようともしない。ただ、同好会の会長の自分の言うことはキチンと対応している。でも、それだけ。間中は彼の行動を見ていて、このコミュニケーション不全には何か理由があるのだろうな、とは思っていた。しかし、宮原がほかのメンバーに不評なことには変わりなく、その状態が長いこと続いていた。
それでも宮原がここにいるのは、メンバーの神姫たちの懇願によるものだった。確かに神姫たちは宮原に信頼を置いているようだった。宮原は時々同好会の神姫たちと会話をしていたが、その時も至って普通の表情を見せて会話していた。まるで、宮原は人間じゃなくて神姫たちの一員のような印象だった。
ーと、それが一週間前のこと。
「宮原先輩、ウチのレイラがシラヌイと話したいと言っているんですけど」
新入生のひとりが、サークル室の一角で宮原に話しかけている。
どうやら、山崎が懐いている(彼女の様子を見るに、この表現がぴったりだ)ことや、宮原が高位ランカーではなかったことが、新入生にとって宮原は「とっつきやすい先輩」という印象を与えたようだ。
「このまま、上手いこととけ込んでくれればなぁ」
間中は同期メンバーの松石弥生に声を掛けた。彼女は、
「何の話?」
「ああ、宮原の…」
と名前を出した瞬間、松石の顔色が変わった。
「何よ、あいつ。面白くない。大体、あの山崎に対する態度って何!? あの子、宮原の部屋にまで遊びにいっているって話じゃない。今まで、誰の訪問も受け付けたことがなかったのに、あの態度の豹変はどういうこと?」
声量こそ抑えていたものの、明らかに怒気を含んだ言葉に間中は一瞬たじろいだ。先日まで、宮原がとけ込めればいい、とか言っていたのは君じゃないかー、と言いかけて間中はその言葉を飲み込んだ。
全く、女ってやつはー、そう思いかけている自分に間中は苦笑した。
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: