「<冬の日>」(2006/10/23 (月) 02:02:47) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
[[凪さん家の十兵衛さん]]
第七話<冬の日>
さて、季節は夏をすっ飛ばし、秋を無視していきなり冬。
あぁ、そういえばそんなことがあったなぁ…レベルにまで対セイレーン戦が思い出と化しており、
さらにあの頃とは違って、十兵衛に人格が三つあるのも解明されていた。
この間にさまざまな出会いがあった。隻脚と隻眼が対峙したり、とある天使型の戦術に基本の大切さを教えてもらったり、
正義のお店で悪の組織相手に一戦交えたり、シャキンッ!と変身してみたり、
剣を交えて踊ってみたり、やたらと某ト○ーズ的エレガントを発揮して挑んでくる相手に対し、正義について考えさせられたり、
などなど…いや、もっとあるんだが如何せん人間の記憶というものは限りのあるもので、
この辺は思い出し次第詳細を書くとしよう。うん、そうしよう。
ちなみに、ここまででうちの十兵衛の勝率は7~8割と結構な数字を維持している。
ほとんどが十兵衛の狙撃時性格「銃兵衛」の攻撃によるものだ。
通常時の十兵衛の戦闘はは近接戦主体だが、いまいち動きすぎてしまうところがあり、よく強制冷却状態に陥ってしまう。
問題の真・十兵衛だが…いや、言うまい…言う必要も無い。霧とともにこの人格が発動した瞬間、勝利はこちらのものである。
と、この複数の性格のそれぞれの戦法のおかげで通り名が多い多い。
「隻眼の悪魔」にはじまり、「神速の紅眼」「紅霧の剣」「紅き目の狙撃手」「紅の剣戟」
などなど…しかし、定着した通り名は
「十兵衛ちゃん」
というどこが通り名なのかいう位の至極普通の呼び名であった。
現在ランキングはセカンドリーグの中の上にさしかかろうとしている。
その十兵衛ちゃんだが、今回は冬の「特別リーグトーナメント」に出場している。
なにやらあの鶴畑主催のイベントらしく、ぶっちゃけはじめは出る気は無かった。
しかしまぁ、この冬最後のイベントではあるし、
坊ちゃん連中は気に食わないものの鶴畑の会社自体は至極まっとうな企業。
今回はその新製品のお披露目もあるらしく、それは気になるため、行ってみることにしたのだ。
で、もう途中まで試合は終わっており、現在の結果はベスト16以内に入るというなかなかに良いんじゃないかという成績を残していた。
今は昼休みと言うべきか、休憩時間となっている。
楽しみにしていた新製品の見物も終了。なんと他企業の製品も公開されていたので、ほんとに見に来て良かったと思った。
先行販売のMMSはスルー。残念ながら俺が欲しいのはその新型MMSの武装パーツである。が、今日は武装パーツ単品の販売は行われていないらしい。ザンネンだ。
「う~ん、何とかこの侍の装備パーツを使いたいなぁ」
と俺は「紅緒」のパンフを広げながらつぶやいた。
「気に入ったんですか?」
とこちらとパンフを交互に覗く十兵衛。
「うん、十兵衛だしねぇ…。最低でもこの刀は使いたいな」
「そうですね、カッコイイですよね~この刀。今の私の服にも似合いそうですよ」
と服を指して言う。
今日の服は十兵衛お気に入りの一品で、あの戸田 静香嬢が対戦記念にプレゼントしてくれた物だ。
斬新な和服…というかまるで忍者のような衣装なのだがどうやら元ネタがあるらしい。
これをくれた時、静香嬢は
「ふふん、やっぱり十兵衛ちゃんといえば眼帯はラブリーじゃないと!」
と言って、ハート型の眼帯を取り出し、十兵衛の無機質な眼帯を引っぺがそうとした。
しかし、眼帯の理由を戦闘中に知ったらしい静香嬢のハウリン『ココ』と、はなから理由を知っている俺は一緒にその暴挙?を慌てて止め、
「何何?どうしたの?」とぷんすか困惑する静香嬢に納得するまで理由を説明…「…じゃあ仕方ないかぁ」となんとか一件落着し、受領したのだ。
「うん、確かに似合いそうだ」
と俺はその時の事を思い出しながら言った。
「でもこの鎧をつけたら狙撃が…」
う、それを言うでない。その言葉に対し、
「いや、背部に拡張コネクタがあるのかもよ?」
と希望的観測を口にする。
「でも見た目が…」
「うん…」
滑稽だ…刀だけならともかく鎧まで装着すると、サブアームユニットがまるで似合わない。
「合わないよなぁ…」
「はい…」
と二人揃ってガクリと首を下ろした。その時だ。
『ピンポーンパーンポーン…これより、サードリーグ第一試合をメインステージにて開始いたします』
とアナウンス。なんとな?
「?…メインステージ?」
サードリーグがなぜにメインで行われるのだ?不思議に思った俺は
「行ってみるか」
と十兵衛に言った。幸い次の試合まではまだまだ時間がある。
「はい!いきましょ~!」
十兵衛も見る気満々だ。俺達はさっそくメインステージへと脚を運んだ。
・
・
・
「うわ…」
「すごいですね~」
歓声のオンパレードや~。いやすまん、なんだこの盛り上がりは。
「サードってこんなに盛り上がってたのか」
「と言うより場所の問題かと」
「かねぇ」
さてさて対戦カードはっと…。
「お、あれは…」
と、俺は片方の相手に注目した。
「鶴畑兄妹の」
「いや、それはどうでも良い」
十兵衛の言葉に対し即答。そっちはいらん。
「ちがうちがう、こっちだよ。ほら」
「?風見美砂さんと…ねここさんですか?」
「忘れたか?ほら、俺たちが一番始めに戦った相手だろ?確か」
「え~っと?どうでしたっけ?」
「え~」
「なんて嘘ですよ。覚えてますっ」
「すごいなぁ、がんばっているんだな」
「でも良く覚えていましたね?」
「ん、まぁな」
「どうせ女の子の顔で覚えているんでしょ~」
とジト目。
「え、いや、そんなことは」
…あるんだが、大いに。
「ふ~ん。私には分かるんですからね!」
ぷいっとそっぽを向く十兵衛。
「…ごめんなさい」
なぜか謝ってしまった。
「良いでしょう、許してあげます」
えっへん、と胸をそらす十兵衛。
「お、始まるぞ」
「いよいよですね!」
『それではぁ!特別リーグトーナメントぉ!!サードリーグ一回戦第一試合ぃぃぃ!』
「レディー」
「ゴー!!!!」
…と始まった良いが…
「一方的ですね…」
「一方的だなぁ」
追うミサイル、にげるねここ。
「てか、騎士だよなぁ?」
「騎士…ですよねえ…」
相手の鶴畑妹の神姫「ジャンヌ」は新型の騎士型サイフォスだ。
しかしその騎士にはひたすら火器火器火器。
火器の総合デパートや~。すまんまたやった。
対するねここは基本装備に高出力のブ-スターを多数装備した高機動型だ。まるでミー○ィア。
「でも当たって無いなぁ」
ジャンヌが撃つ撃つ。がねここが振り切り、その弾丸やらミサイルはまったく当たっていない。
「あのね、あんな撃ち方で当たるわけ無いじゃないの」
「え?」
声質が変わったぞ十兵衛。いや、このお姉さん的な物言いと雰囲気は
「銃姉か?」
銃姉…それは十兵衛こと銃兵衛の呼び方の一つだ。というか名前の読みが同じなのでそれを区別するためである。
「…銃姉はやめなさいよ。一応ちゃんとした名前があるのだから」
「だからそのちゃんとした名前って何よ?」
本人曰く、銃兵衛とは仮の名前らしい。だから本来の名があるはずなのだ。
「ふふ、それは女の秘密よ」
と子悪魔っぽく微笑んだ。すまん、なんで性格変わっただけでこんなにセクシーなんですか?
「ほら、子猫ちゃんと爆弾騎士に進展よ」
こ、子猫ちゃんて…いや、それに爆弾騎士って何だ?大爆笑な呼び名だな。
戦場を見ると煙によって視界が遮られていて良く分からない。
「う、やられちゃったのか…」
「そんなわけ無いじゃない」
「え、でも」
「ほら、ちゃんと見る」
「え、あ!」
猛煙の中からねここが出現。
それに対し、ジャンヌはミサイルを発射。が、その頃にはもうねここはいない。
ジャンヌの至近距離で爆発。破片がジャンヌに降り注ぐ。
「どうなっているんだ…」
「たぶんだけど…」
「うん」
「恐らく…さっき爆弾騎士に特攻し、ミサイルが当たる瞬間に、背部ユニットの一部をパージしてミサイルを爆発させ、煙幕代わりに利用、
そして今のは爆弾騎士が撃った瞬間にミサイルにパーツを投げ入れて爆発させたんだと思う。
どちらも子猫ちゃんの機動力を生かしたなかなか考えられた戦法ね」
「おおう、すごいな…」
「あくまで予想よ?」
「お、おう」
いや、一瞬でそこまで予想できるなんて、お前凄いな…お兄さん何がなにやら分からないわ。
完全に形勢逆転。混乱しているジャンヌは四方八方に銃を乱射している。
「もう決まるわね」
「そうなのか」
『ひっさぁつ! ねここぉ・フィンガー!!!』
おおう!!すげえアッパーだ!
『すぱぁぁぁぁく、えんどぉ!!!』
と戦場全体が閃光に包まれる。
「うお!?」
「雷撃ね…」
だからなんで冷静でいられるんですかあなたって人は。
『試合終了。Winner,ねここ』
『うおおおおおおおお!!!!』
その瞬間歓声が上がる。
「いやぁ…すごいわ…」
「十秒ね」
と銃姉。
「ほう、珍しいな」
この十秒とは、銃姉なりの評価方法である。もし自分が戦ったら、倒すのに最低この秒数かかる…という意味である。その中で十秒というのはかなりの高評価だ。
「ま、これからのねここちゃんへの期待も含めてね」
「!?」
さらに珍しい。銃姉が名前を発した!?いつもは子猫だの白いの黒いの犬…みたいな言い方しかしないというのに。
つまりは「ねここ」という猫型神姫の力を認めたということだ。
「さ、行きましょ。今度は私達の番よ」
「ん、あぁ」
時計を見ると良い時間になっていた。
いや、久々にいい物見せてもらったなぁ。
・
・
・
で、大会は無事終了。結果はベスト8に入るというなかなか嬉しい結果だった。
「う~ん…十兵衛の動きを考える必要があるわね…」
試合が終わり、銃姉はそう呟いた。今回の敗因は十兵衛自体のタイムアップ、つまりは強制冷却のせいだ。
「やっぱりあの子はまだ動きすぎるわ。真・の方ならともかく、通常状態での近接戦闘は極力無駄な動きを排除しないと」
そう、その対策はもちろん行っている。しかしまだ会得していない未熟な点があり、
結果、地下時代の十兵衛が行っていた高機動接近戦を行うことになる。
しかし、左目の神眼を使用したまま行うため、そのままでは強制冷却で終了…。
こんな図式が出来ていた。
「マスター?」
「ん?」
「エルゴよ」
「ん…?あぁ~なるほどOK」
「こんな時はジェニーにご教授願いましょう」
「うん、賛成」
銃姉の分析能力はずば抜けている。しかし、近接戦は非常に苦手であるため
理論は理解していても実行が出来ない。十兵衛自身が強くなるしかないのだ
そんなわけで俺達はエルゴへと向かった。
・
・
・
「ちわ~す」
「おや?いらっしゃい」
「ども」
俺は店長に挨拶する。
「…主…」
「おう?ってそうか…」
あの事件…というか戦闘でGと真・十兵衛が共に戦ってからというもの、めったに発現しない真・の方が何故かエルゴに入るとちょこっと姿を現すのだ。
「今日は通常の十兵衛の近接戦の動きについて大明神様にご教授願ってくれ。もちろん雑談も許可する」
「…御意…」
そういうと真・はシュバッと飛び上がり、大明神様が鎮座している場所に華麗に降り立っていた。
「あら、十兵衛さん」
「久しいな…突然だが頼みが…」
「ええ、聞きましょう」
真・はここに来ると饒舌になる。いつも殺伐とした場面でしか姿を現さないのだから、たまには生き抜きも必要である。
「新型レーザーライフル入ってるけど見るかい?」
「ええ、じゃあ」
見た目は変わらないが各部の調整や、換装により威力、命中精度が向上しているらしい。
買いだな。
「そういえば」
「ん?」
「侍型のパーツ売りっていつからですかね?」
「う~んたぶん来月の中旬くらいじゃないかな?そっちでもそれくらいでしょ?」
「そうですね~やっぱりそうか…」
俺はセンター内のショップでバイトしているため、大体の新製品情報は分かる。
しかし場所によっては規定日より早く販売していたりするのだ。
「そういえば静香嬢は?」
静香嬢はこのエルゴでバイトをしている。少し聞きたいことがあったのだが…。
「今日は休みかな?」
「そうか、残念」
「あ、今日大会あったでしょ?十兵衛ちゃんは出たのかな?」
「ええ、こんなところです」
といい、小さなトロフィーを取り出した。
「ベスト8入りか。中々やるね」
「ありがとうございます。でもまだ十兵衛自身の戦法に迷いがありまして。で、大明神様にご教授をと」
「はっはっはっは!なるほどね。ゆっくりしていくと良い」
「ええ、お言葉に甘えて」
そうして俺は店長と雑談に花を咲かせ。十兵衛はみっちりと大明神様にしごかれていた。
・
・
・
帰り道。
「つ、つかれましたぁ~」
「はは、お疲れ様。十兵衛」
すっかり性格がもとの鞘に収まった十兵衛はたいそう疲れた様子だ。
「帰ったら寝そうだな」
「ぜぇったい寝ちゃいますよ」
「ははははは」
「あはははは」
二人して笑う。
「もう今年も終わりですねぇ」
「そうだな」
「来年は!」
「おう!?」
「ファーストに上がるぞぉ~!!」
十兵衛は声高々に叫んだ。だから俺も。
「ぞぉぉぉ~!!」
と叫んだ。
来年か。一体何が待っているやら。今から楽しみであり怖くもあるな。
「ふぅ、肉まんでも買って帰るか」
「はい!」
そうして俺達の割と平凡な冬の日は過ぎていくのでした。
[[凪さん家の十兵衛さん]]
第七話<冬の日>
さて、季節は夏をすっ飛ばし、秋を無視していきなり冬。
あぁ、そういえばそんなことがあったなぁ…レベルにまで対セイレーン戦が思い出と化しており、
さらにあの頃とは違って、十兵衛に人格が三つあるのも解明されていた。
この間にさまざまな出会いがあった。隻脚と隻眼が対峙したり、とある天使型の戦術に基本の大切さを教えてもらったり、
正義のお店で悪の組織相手に一戦交えたり、シャキンッ!と変身してみたり、
剣を交えて踊ってみたり、やたらと某ト○ーズ的エレガントを発揮して挑んでくる相手に対し、正義について考えさせられたり、
などなど…いや、もっとあるんだが如何せん人間の記憶というものは限りのあるもので、
この辺は思い出し次第詳細を書くとしよう。うん、そうしよう。
ちなみに、ここまででうちの十兵衛の勝率は7~8割と結構な数字を維持している。
ほとんどが十兵衛の狙撃時性格「銃兵衛」の攻撃によるものだ。
通常時の十兵衛の戦闘はは近接戦主体だが、いまいち動きすぎてしまうところがあり、よく強制冷却状態に陥ってしまう。
問題の真・十兵衛だが…いや、言うまい…言う必要も無い。霧とともにこの人格が発動した瞬間、勝利はこちらのものである。
と、この複数の性格のそれぞれの戦法のおかげで通り名が多い多い。
「隻眼の悪魔」にはじまり、「神速の紅眼」「紅霧の剣」「紅き目の狙撃手」「紅の剣戟」
などなど…しかし、定着した通り名は
「十兵衛ちゃん」
というどこが通り名なのかいう位の至極普通の呼び名であった。
現在ランキングはセカンドリーグの中の上にさしかかろうとしている。
その十兵衛ちゃんだが、今回は冬の「特別リーグトーナメント」に出場している。
なにやらあの鶴畑主催のイベントらしく、ぶっちゃけはじめは出る気は無かった。
しかしまぁ、この冬最後のイベントではあるし、
坊ちゃん連中は気に食わないものの鶴畑の会社自体は至極まっとうな企業。
今回はその新製品のお披露目もあるらしく、それは気になるため、行ってみることにしたのだ。
で、もう途中まで試合は終わっており、現在の結果はベスト16以内に入るというなかなかに良いんじゃないかという成績を残していた。
今は昼休みと言うべきか、休憩時間となっている。
楽しみにしていた新製品の見物も終了。なんと他企業の製品も公開されていたので、ほんとに見に来て良かったと思った。
先行販売のMMSはスルー。残念ながら俺が欲しいのはその新型MMSの武装パーツである。が、今日は武装パーツ単品の販売は行われていないらしい。ザンネンだ。
「う~ん、何とかこの侍の装備パーツを使いたいなぁ」
と俺は「紅緒」のパンフを広げながらつぶやいた。
「気に入ったんですか?」
とこちらとパンフを交互に覗く十兵衛。
「うん、十兵衛だしねぇ…。最低でもこの刀は使いたいな」
「そうですね、カッコイイですよね~この刀。今の私の服にも似合いそうですよ」
と服を指して言う。
今日の服は十兵衛お気に入りの一品で、あの戸田 静香嬢が対戦記念にプレゼントしてくれた物だ。
斬新な和服…というかまるで忍者のような衣装なのだがどうやら元ネタがあるらしい。
これをくれた時、静香嬢は
「ふふん、やっぱり十兵衛ちゃんといえば眼帯はラブリーじゃないと!」
と言って、ハート型の眼帯を取り出し、十兵衛の無機質な眼帯を引っぺがそうとした。
しかし、眼帯の理由を戦闘中に知ったらしい静香嬢のハウリン『ココ』と、はなから理由を知っている俺は一緒にその暴挙?を慌てて止め、
「何何?どうしたの?」とぷんすか困惑する静香嬢に納得するまで理由を説明…「…じゃあ仕方ないかぁ」となんとか一件落着し、受領したのだ。
「うん、確かに似合いそうだ」
と俺はその時の事を思い出しながら言った。
「でもこの鎧をつけたら狙撃が…」
う、それを言うでない。その言葉に対し、
「いや、背部に拡張コネクタがあるのかもよ?」
と希望的観測を口にする。
「でも見た目が…」
「うん…」
滑稽だ…刀だけならともかく鎧まで装着すると、サブアームユニットがまるで似合わない。
「合わないよなぁ…」
「はい…」
と二人揃ってガクリと首を下ろした。その時だ。
『ピンポーンパーンポーン…これより、サードリーグ第一試合をメインステージにて開始いたします』
とアナウンス。なんとな?
「?…メインステージ?」
サードリーグがなぜにメインで行われるのだ?不思議に思った俺は
「行ってみるか」
と十兵衛に言った。幸い次の試合まではまだまだ時間がある。
「はい!いきましょ~!」
十兵衛も見る気満々だ。俺達はさっそくメインステージへと脚を運んだ。
・
・
・
「うわ…」
「すごいですね~」
歓声のオンパレードや~。いやすまん、なんだこの盛り上がりは。
「サードってこんなに盛り上がってたのか」
「と言うより場所の問題かと」
「かねぇ」
さてさて対戦カードはっと…。
「お、あれは…」
と、俺は片方の相手に注目した。
「鶴畑兄妹の」
「いや、それはどうでも良い」
十兵衛の言葉に対し即答。そっちはいらん。
「ちがうちがう、こっちだよ。ほら」
「?風見美砂さんと…ねここさんですか?」
「忘れたか?ほら、俺たちが一番始めに戦った相手だろ?確か」
「え~っと?どうでしたっけ?」
「え~」
「なんて嘘ですよ。覚えてますっ」
「すごいなぁ、がんばっているんだな」
「でも良く覚えていましたね?」
「ん、まぁな」
「どうせ女の子の顔で覚えているんでしょ~」
とジト目。
「え、いや、そんなことは」
…あるんだが、大いに。
「ふ~ん。私には分かるんですからね!」
ぷいっとそっぽを向く十兵衛。
「…ごめんなさい」
なぜか謝ってしまった。
「良いでしょう、許してあげます」
えっへん、と胸をそらす十兵衛。
「お、始まるぞ」
「いよいよですね!」
『それではぁ!特別リーグトーナメントぉ!!サードリーグ一回戦第一試合ぃぃぃ!』
「レディー」
「ゴー!!!!」
…と始まった良いが…
「一方的ですね…」
「一方的だなぁ」
追うミサイル、にげるねここ。
「てか、騎士だよなぁ?」
「騎士…ですよねえ…」
相手の鶴畑妹の神姫「ジャンヌ」は新型の騎士型サイフォスだ。
しかしその騎士にはひたすら火器火器火器。
火器の総合デパートや~。すまんまたやった。
対するねここは基本装備に高出力のブ-スターを多数装備した高機動型だ。まるでミー○ィア。
「でも当たって無いなぁ」
ジャンヌが撃つ撃つ。がねここが振り切り、その弾丸やらミサイルはまったく当たっていない。
「あのね、あんな撃ち方で当たるわけ無いじゃないの」
「え?」
声質が変わったぞ十兵衛。いや、このお姉さん的な物言いと雰囲気は
「銃姉か?」
銃姉…それは十兵衛こと銃兵衛の呼び方の一つだ。というか名前の読みが同じなのでそれを区別するためである。
「…銃姉はやめなさいよ。一応ちゃんとした名前があるのだから」
「だからそのちゃんとした名前って何よ?」
本人曰く、銃兵衛とは仮の名前らしい。だから本来の名があるはずなのだ。
「ふふ、それは女の秘密よ」
と子悪魔っぽく微笑んだ。すまん、なんで性格変わっただけでこんなにセクシーなんですか?
「ほら、子猫ちゃんと爆弾騎士に進展よ」
こ、子猫ちゃんて…いや、それに爆弾騎士って何だ?大爆笑な呼び名だな。
戦場を見ると煙によって視界が遮られていて良く分からない。
「う、やられちゃったのか…」
「そんなわけ無いじゃない」
「え、でも」
「ほら、ちゃんと見る」
「え、あ!」
猛煙の中からねここが出現。
それに対し、ジャンヌはミサイルを発射。が、その頃にはもうねここはいない。
ジャンヌの至近距離で爆発。破片がジャンヌに降り注ぐ。
「どうなっているんだ…」
「たぶんだけど…」
「うん」
「恐らく…さっき爆弾騎士に特攻し、ミサイルが当たる瞬間に、背部ユニットの一部をパージしてミサイルを爆発させ、煙幕代わりに利用、
そして今のは爆弾騎士が撃った瞬間にミサイルにパーツを投げ入れて爆発させたんだと思う。
どちらも子猫ちゃんの機動力を生かしたなかなか考えられた戦法ね」
「おおう、すごいな…」
「あくまで予想よ?」
「お、おう」
いや、一瞬でそこまで予想できるなんて、お前凄いな…お兄さん何がなにやら分からないわ。
完全に形勢逆転。混乱しているジャンヌは四方八方に銃を乱射している。
「もう決まるわね」
「そうなのか」
『ひっさぁつ! ねここぉ・フィンガー!!!』
おおう!!すげえアッパーだ!
『すぱぁぁぁぁく、えんどぉ!!!』
と戦場全体が閃光に包まれる。
「うお!?」
「雷撃ね…」
だからなんで冷静でいられるんですかあなたって人は。
『試合終了。Winner,ねここ』
『うおおおおおおおお!!!!』
その瞬間歓声が上がる。
「いやぁ…すごいわ…」
「十秒ね」
と銃姉。
「ほう、珍しいな」
この十秒とは、銃姉なりの評価方法である。もし自分が戦ったら、倒すのに最低この秒数かかる…という意味である。その中で十秒というのはかなりの高評価だ。
「ま、これからのねここちゃんへの期待も含めてね」
「!?」
さらに珍しい。銃姉が名前を発した!?いつもは子猫だの白いの黒いの犬…みたいな言い方しかしないというのに。
つまりは「ねここ」という猫型神姫の力を認めたということだ。
「さ、行きましょ。今度は私達の番よ」
「ん、あぁ」
時計を見ると良い時間になっていた。
いや、久々にいい物見せてもらったなぁ。
・
・
・
で、大会は無事終了。結果はベスト8に入るというなかなか嬉しい結果だった。
「う~ん…十兵衛の動きを考える必要があるわね…」
試合が終わり、銃姉はそう呟いた。今回の敗因は十兵衛自体のタイムアップ、つまりは強制冷却のせいだ。
「やっぱりあの子はまだ動きすぎるわ。真・の方ならともかく、通常状態での近接戦闘は極力無駄な動きを排除しないと」
そう、その対策はもちろん行っている。しかしまだ会得していない未熟な点があり、
結果、地下時代の十兵衛が行っていた高機動接近戦を行うことになる。
しかし、左目の神眼を使用したまま行うため、そのままでは強制冷却で終了…。
こんな図式が出来ていた。
「マスター?」
「ん?」
「エルゴよ」
「ん…?あぁ~なるほどOK」
「こんな時はジェニーにご教授願いましょう」
「うん、賛成」
銃姉の分析能力はずば抜けている。しかし、近接戦は非常に苦手であるため
理論は理解していても実行が出来ない。十兵衛自身が強くなるしかないのだ
そんなわけで俺達はエルゴへと向かった。
・
・
・
「ちわ~す」
「おや?いらっしゃい」
「ども」
俺は店長に挨拶する。
「…主…」
「おう?ってそうか…」
あの事件…というか戦闘でGと真・十兵衛が共に戦ってからというもの、めったに発現しない真・の方が何故かエルゴに入るとちょこっと姿を現すのだ。
「今日は通常の十兵衛の近接戦の動きについて大明神様にご教授願ってくれ。もちろん雑談も許可する」
「…御意…」
そういうと真・はシュバッと飛び上がり、大明神様が鎮座している場所に華麗に降り立っていた。
「あら、十兵衛さん」
「久しいな…突然だが頼みが…」
「ええ、聞きましょう」
真・はここに来ると饒舌になる。いつも殺伐とした場面でしか姿を現さないのだから、たまには生き抜きも必要である。
「新型レーザーライフル入ってるけど見るかい?」
「ええ、じゃあ」
見た目は変わらないが各部の調整や、換装により威力、命中精度が向上しているらしい。
買いだな。
「そういえば」
「ん?」
「侍型のパーツ売りっていつからですかね?」
「う~んたぶん来月の中旬くらいじゃないかな?そっちでもそれくらいでしょ?」
「そうですね~やっぱりそうか…」
俺はセンター内のショップでバイトしているため、大体の新製品情報は分かる。
しかし場所によっては規定日より早く販売していたりするのだ。
「そういえば静香嬢は?」
静香嬢はこのエルゴでバイトをしている。少し聞きたいことがあったのだが…。
「今日は休みかな?」
「そうか、残念」
「あ、今日大会あったでしょ?十兵衛ちゃんは出たのかな?」
「ええ、こんなところです」
といい、小さなトロフィーを取り出した。
「ベスト8入りか。中々やるね」
「ありがとうございます。でもまだ十兵衛自身の戦法に迷いがありまして。で、大明神様にご教授をと」
「はっはっはっは!なるほどね。ゆっくりしていくと良い」
「ええ、お言葉に甘えて」
そうして俺は店長と雑談に花を咲かせ。十兵衛はみっちりと大明神様にしごかれていた。
・
・
・
帰り道。
「つ、つかれましたぁ~」
「はは、お疲れ様。十兵衛」
すっかり性格がもとの鞘に収まった十兵衛はたいそう疲れた様子だ。
「帰ったら寝そうだな」
「ぜぇったい寝ちゃいますよ」
「ははははは」
「あはははは」
二人して笑う。
「もう今年も終わりですねぇ」
「そうだな」
「来年は!」
「おう!?」
「ファーストに上がるぞぉ~!!」
十兵衛は声高々に叫んだ。だから俺も。
「ぞぉぉぉ~!!」
と叫んだ。
来年か。一体何が待っているやら。今から楽しみであり怖くもあるな。
「ふぅ、肉まんでも買って帰るか」
「はい!」
そうして俺達の割と平凡な冬の日は過ぎていくのでした。
[[第八話も読む><真・十兵衛、推参>]]
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: