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*鋼の心 ~Eisen Herz~
**インターミッション08:天使は滅びの笛を吹く
「―――では、彼女の扱いはそういう事で……」
「止むを得ませんな。中心的開発者となれば、その影響は大きい……」
「左様。マスコミへの情報管理は中心各社の宣伝部に徹底させておきましょう」
「懸案事項が一つ減ったか。……いや、増えたのかな?」
「では、次の議題に移ります―――」
◆
『―――次のニュースです。……天海水族館でウーパールパーが大繁殖しており、訪れる客を―――』
暗い部屋の中でニュースが流され、京子の顔を照らしだす。
痩せこけ、乾涸びた花のように、ただ朽ちるに任せ。
彼女はそこに居た。
(……私の所為、なのか……)
真紀のCSCが重度に到ったのは、京子が一月もの間意識不明であったから。
京子がもっと早くに目を醒ましていれば、真紀は……。
(―――何もかも)
MMSが武装神姫になってしまったのは、京子が造った武装が切っ掛けだった。
もし京子がそれをしなければ、MMSは……。
(―――最期まで)
真紀が、誰にも看取られずに一人で死んだのも。
(―――、最初から)
そもそも、真紀がCSCになってしまったのも……。
(私が、全部悪いんだ……)
違うと否定してくれる者も居ないまま、京子は一人朽ちようとしていた。
結局、真紀が戻ることの無かった家の、彼女の部屋で……。
◆
今は亡き、主たる少女の情報操作によって、電力と資材は確保されていた。
後はただ、言われたとおりに操作すれば良いだけだ。
「我が主の最期の命。……必ずや、この命に代えても……」
主無き機械人形はただ動く。
今の“彼女”を指し示す言葉は無い。
イリーガルと言う言葉が生まれるのは、この先数年を待たねばならなかった。
◆
「ああ、分かった。そこに、彼女達の実家があるんじゃな?」
芹沢は車載電話の向こうに返事を返しながら、高速への道を辿った。
「すまんの、この件では会社はまるで当てにならんからな」
土方真紀の死と、以後の扱いについては既に共同会議で決定されていた。
FrontLineも、Kemotechもこの件に関しては頼りに出来ないと思っていいだろう。
(コネクションが無くなれば少女一人探せぬか。脆いものだな……)
芹沢は首を振り、ラジオのスイッチに手を伸ばした。
『―――では、次のニュースです』
◆
『―――では、次のニュースです。 FrontLine、Kemotech両社が中心となって企画された考えるロボット、“武装神姫”の発表がなされました』
「―――あ」
京子の瞳に光が戻る。
『展示されたサンプルは、人と殆ど変わらない情緒を持っており―――』
武装神姫が世に出る。
真紀の造ったものが、世界に出てゆく。
『―――関係者を驚愕させると共に、今後の展開について注目がなされます』
もう、真紀は居ないけど。
真紀の居た証は、世界に残る。
「真紀……」
京子の頬を、涙が伝った。
『―――では、神姫事業部の方に伺ってみましょう』
◆
「―――武装神姫と言う事ですが、これだけ感情性のあるAIであれば、ロボットペット的な扱い方も充分視野に入っていると見てよいのでしょうか?」
「ええ、ですが今後の展開は武装面の拡充と、新型機の他社発展に力を入れて行きたいと思っております」
「機種とCSCを始めとする初期設定で、神姫の“性格”に強い影響が出ると言う事ですが、この辺りについて何か?」
「性格だけでは無く、神姫の性能に非常に強く影響を及ぼします。機種によって攻撃用のプログラムとの相性もあり……」
「性格面が分布的に分類される形式で表わされていると言うのは、性格と言うのはパターン化された物ではなく、非常に多岐にわたる“人格”的な要素であると理解して宜しいのでしょうか?」
「ええ、戦闘能力においても、個性的な相違が生まれる為、機種によっての戦法は分類以上のパターン化は―――」
「これだけ高度なAIを造るのは大変だったでしょう? 開発はどの様に?」
「―――スタッフ達の、努力の成果です」
◆
「……………………」
メノマエノコウケイガ、シンジラレナカッタ。
『―――スタッフ達の、努力の成果です』
何を言ってるんだ?
『スタッフ達の、努力の成果です』
違う。
『スタッフ達の―――』
違う!!
京子は立ち上がる。
「お前達が何をした!! 見る事もせず、只出来たものを使っただけじゃないか!!」
スタッフ達の―――。
「違う!! 真紀だ。全部真紀が創り上げたものじゃないか!! 真紀が、一人で……っ!!」
涙で滲む視界の中、手当たり次第に物を投げ付け、まるで子供みたいに泣きじゃくり。
「……真紀が、たった一人で創ったんじゃないか……。それを……。それ、を……」
誰にも抱き止められぬまま。
京子は隻眼の奥に怒りを灯す。
「……全部奪うのか……」
『―――ゆえに、私は全ての神姫を否定し、これを破壊します―――』
不意に甦る、真紀の声。
「全部、奪うのか……」
天啓だと、そう思った。
「真紀から、何もかも奪うんだな?」
遺志も。
痕跡も。
「―――なら、私と真紀が、今度はお前達から奪ってやるッ……!!」
涙を拭いて、京子は暗い部屋に背を向けた。
「―――返して、貰うぞ!! 何もかも!!」
◆
それが、最初の破綻だった。
◆
「………………京子ちゃん」
芹沢が辿り着いた時には既に京子の姿は無く。
全ては動き始めた痕(あと)だった。
[[インターミッション09:エピローグ]]につづく
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ALCでした。
*鋼の心 ~Eisen Herz~
**インターミッション08:天使は滅びの笛を吹く
「―――では、彼女の扱いはそういう事で……」
「止むを得ませんな。中心的開発者となれば、その影響は大きい……」
「左様。マスコミへの情報管理は中心各社の宣伝部に徹底させておきましょう」
「懸案事項が一つ減ったか。……いや、増えたのかな?」
「では、次の議題に移ります―――」
◆
『―――次のニュースです。……天海水族館でウーパールパーが大繁殖しており、訪れる客を―――』
暗い部屋の中でニュースが流され、京子の顔を照らしだす。
痩せこけ、乾涸びた花のように、ただ朽ちるに任せ。
彼女はそこに居た。
(……私の所為、なのか……)
真紀のCSCが重度に到ったのは、京子が一月もの間意識不明であったから。
京子がもっと早くに目を醒ましていれば、真紀は……。
(―――何もかも)
MMSが武装神姫になってしまったのは、京子が造った武装が切っ掛けだった。
もし京子がそれをしなければ、MMSは……。
(―――最期まで)
真紀が、誰にも看取られずに一人で死んだのも。
(―――、最初から)
そもそも、真紀がCSCになってしまったのも……。
(私が、全部悪いんだ……)
違うと否定してくれる者も居ないまま、京子は一人朽ちようとしていた。
結局、真紀が戻ることの無かった家の、彼女の部屋で……。
◆
今は亡き、主たる少女の情報操作によって、電力と資材は確保されていた。
後はただ、言われたとおりに操作すれば良いだけだ。
「我が主の最期の命。……必ずや、この命に代えても……」
主無き機械人形はただ動く。
今の“彼女”を指し示す言葉は無い。
イリーガルと言う言葉が生まれるのは、この先数年を待たねばならなかった。
◆
「ああ、分かった。そこに、彼女達の実家があるんじゃな?」
芹沢は車載電話の向こうに返事を返しながら、高速への道を辿った。
「すまんの、この件では会社はまるで当てにならんからな」
土方真紀の死と、以後の扱いについては既に共同会議で決定されていた。
FrontLineも、Kemotechもこの件に関しては頼りに出来ないと思っていいだろう。
(コネクションが無くなれば少女一人探せぬか。脆いものだな……)
芹沢は首を振り、ラジオのスイッチに手を伸ばした。
『―――では、次のニュースです』
◆
『―――では、次のニュースです。 FrontLine、Kemotech両社が中心となって企画された考えるロボット、“武装神姫”の発表がなされました』
「―――あ」
京子の瞳に光が戻る。
『展示されたサンプルは、人と殆ど変わらない情緒を持っており―――』
武装神姫が世に出る。
真紀の造ったものが、世界に出てゆく。
『―――関係者を驚愕させると共に、今後の展開について注目がなされます』
もう、真紀は居ないけど。
真紀の居た証は、世界に残る。
「真紀……」
京子の頬を、涙が伝った。
『―――では、神姫事業部の方に伺ってみましょう』
◆
「―――武装神姫と言う事ですが、これだけ感情性のあるAIであれば、ロボットペット的な扱い方も充分視野に入っていると見てよいのでしょうか?」
「ええ、ですが今後の展開は武装面の拡充と、新型機の他社発展に力を入れて行きたいと思っております」
「機種とCSCを始めとする初期設定で、神姫の“性格”に強い影響が出ると言う事ですが、この辺りについて何か?」
「性格だけでは無く、神姫の性能に非常に強く影響を及ぼします。機種によって攻撃用のプログラムとの相性もあり……」
「性格面が分布的に分類される形式で表わされていると言うのは、性格と言うのはパターン化された物ではなく、非常に多岐にわたる“人格”的な要素であると理解して宜しいのでしょうか?」
「ええ、戦闘能力においても、個性的な相違が生まれる為、機種によっての戦法は分類以上のパターン化は―――」
「これだけ高度なAIを造るのは大変だったでしょう? 開発はどの様に?」
「―――スタッフ達の、努力の成果です」
◆
「……………………」
メノマエノコウケイガ、シンジラレナカッタ。
『―――スタッフ達の、努力の成果です』
何を言ってるんだ?
『スタッフ達の、努力の成果です』
違う。
『スタッフ達の―――』
違う!!
京子は立ち上がる。
「お前達が何をした!! 見る事もせず、只出来たものを使っただけじゃないか!!」
スタッフ達の―――。
「違う!! 真紀だ。全部真紀が創り上げたものじゃないか!! 真紀が、一人で……っ!!」
涙で滲む視界の中、手当たり次第に物を投げ付け、まるで子供みたいに泣きじゃくり。
「……真紀が、たった一人で創ったんじゃないか……。それを……。それ、を……」
誰にも抱き止められぬまま。
京子は隻眼の奥に怒りを灯す。
「……全部奪うのか……」
『―――ゆえに、私は全ての神姫を否定し、これを破壊します―――』
不意に甦る、真紀の声。
「全部、奪うのか……」
天啓だと、そう思った。
「真紀から、何もかも奪うんだな?」
遺志も。
痕跡も。
「―――なら、私と真紀が、今度はお前達から奪ってやるッ……!!」
涙を拭いて、京子は暗い部屋に背を向けた。
「―――返して、貰うぞ!! 何もかも!!」
◆
それが、最初の破綻だった。
◆
「………………京子ちゃん」
芹沢が辿り着いた時には既に京子の姿は無く。
全ては動き始めた痕(あと)だった。
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