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「Gene28 鍛冶屋」(2008/02/27 (水) 16:50:25) の最新版変更点
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―――青壁の空、堅毛の大地、涼鋭なる風。私は、そこにたなびく銀の麦穂―――
・・・と、ご挨拶が送れましたね。皆様今日は、白狼型MMSの彩女です。柄にも無く詩的な語りなどして困惑なされたでしょうが御察し下さい。今、私の胸はそれほどに高ぶっているのです。なぜならば!
「今日はかの人間国宝、三木山仙殿のお宅に来ているのです!!」
・・・おっとっと。つい声に出してしまいました。皆様に説明いたしますと、三木山仙殿は世界に並ぶものの無い程の刀鍛治、そして居合の達人でありながら、気に入った人間にしか刀を売らず、しかもメディアにも殆ど姿を表さない伝説の人物なのです!(まあブログはやっておられますが)
かくいう私も、一目で彼の刀の一分の迷いもない美しさに心奪われてしまったのでしていつかご本人に合間見えたいと思いをはせておりました所、実は彼が我が主の知人でありまして、3月3日の今日、桃の節句の祝いに是非にとご招待を受けたのでした。まさかこんな所に縁があろうとは感極まれりです。
「・・・ですが、どうしてこういう時に限って主は居られないんでしょうか! 『雛祭りは女の子の行事だろ』なんて言って遠慮されるより、むしろこの喜びを語り合いたい分かち合いたいのに! ・・・・!?」
鋭、殺気。
「・・・!?」
向けられた敵意を狼の耳が感知する。刹那、私の手は流れるように刀へとそえられる。剣気の返礼。
「・・・ふ、それがしの威圧を受けてたじろがぬどころか迎え撃つか。ただの曲者かと思えば、御主やりおるな」
改めて、その殺気の、声の主を見上げる。山仙氏宅の塀に仁王立ちするは、不敵に笑う侍型紅緒。その姿は艶やかな振袖に彩られ・・・
「・・・て、ミニ振袖は邪道だと思いますよ私は」
「ふん、古いな御主。似合えば何でもよいのだ。むしろそれがしの脚線美を主張するにこれほどよい素材はあるまい? ・・・ああ、御主の寸胴大根足では他の着物の方が似合うか。十二単とか」
「に・・・似合うからってそんな事ありません!!!」
「着たのか!」
「もう、何なのですか貴方は! 私はただ・・・」
「神姫が主も連れずに来るなぞ怪しすぎるわ! この仙ちゃん直伝の鉄花創心流居合の錆にしてくれる!」
「仙ちゃん!? ・・・まさか、山仙殿の神姫ですか!? ですから私は貴女の主に・・・」
説得の間も無しに、彼女は腰を落とす。取り付く島ない、鋭利な居合の構え。やるしかない!? 戸惑いながらも刀に手をかける。一触即発。先に動いた方が、負ける――
歩、足音。
「? 誰か、来て・・・」
「隙ありぃ!!!」
疾、蹴。
「!」
―その瞬間、私の世界から音が消えた―
刹那、閃。
―気付いた時には、私の本能が振り抜いていた。彼女より、疾く―
切、断。
―後に残ったのは、視界の端に飛び散る黒い粘質の液体と、腕に残る・・・硬質の、感触―
鈍音、響、落着。
―そして、その鈍い音。泣別れした、それは―
「・・・あれ? カン・・・ですかこれ?」
からーん。
それはポッ○のおしるこ缶でした(どっとはらい)
「仙ちゃん! 邪魔をしたのは御主か!」
「シャクぅ・・・ヒトんちの前で刃傷沙汰なん起こす気ぃかい!」
「曲者を排除しようとして何が悪い! 大体神機が神姫を切っても法には引っかからぬ」
「だからってええ訳あるかいな! 大体、振り負けてたんはお前の方やで」
・・・ところでそろそろ私にも状況を説明して欲しいものです(泣)
----
「じゃあ、お前ら自己紹介しぃ」
「・・・芍薬だ、曲者。仙ちゃんとはメル友である」
「はあ、そうなのでしたか。私は彩女です。我が主記四季の紹介でお伺いしました。本日はお招き頂き有難うございます」
「それがしは招いておらぬ」
「ヤク、ケンカ売るなっちゅーんに!」
芍薬と名乗った紅緒型の彼女は、とても不機嫌そうにこちらを睨んでいます。誤解の上にそちらから切りかかって来たじゃないですかという文句を、私は喉元でこらえる。だって、彼の前でみっともない姿は見せられない。
「んで、儂が・・・」
「存じております!! 人間国宝三木山仙殿でおられますね!! 剣を扱う身として、直にご尊顔出来るとは光栄の極みです!!」
ブログのプロフィール写真と同じ、その凛々しい顔を間近にして私は舞い上がっていました。・・・いやまあ顔は主の方が好みなのですが。
「あ、そうやった。やーなんちゅうかなー、確かに儂は三木山仙なんやけどもー、「人間国宝の三木山仙」とはちぃーっと違うんやよなぁ・・・」
「・・・はい?」
「まあ所謂影武者であるな」
「うわあっさりバラすんやないて!」
「へ・・・?」
「大体こんな関西弁のファンキーなジジイが人間国宝になぞなれる訳が無かろう?」
「シャク! その通りやけども気にしとる所を~!」
・・・いや、確かに少々・・結構想像と違ったというかひょうきん過ぎるという気はしていましたけれども・・・。では、あの素晴らしい刀を打ったのは、一体誰なのでしょう?
「・・・まあ、記四季んのツレやし、あんたにならええか。来ぃや。“本物の”三木山仙に会わしたる。シャク、案内したれ」
「ほら、ここであるぞ」
山仙殿(仮)に招かれたのは、重ねてきた歴史を感じさせる木造の作業小屋。その木戸が、開かれる―
清、静。
「・・・!」
その小屋に入った瞬間、空気が変わったのを感じる。いや、そう、清められている。そういった方が正しいと思う。耳がきぃんと、強く、けれど心地よく響く。
「・・・おや? 客人でござりましょうか・・・ああ、記四季殿の連れ合いが来るのでござりましたな。ようこそ、拙僧の工房へ」
声は、広い部屋の奥から聞こえてきた・・・違う。部屋が広いのでなく、“声の主が小さい”のでした。そう・・・“私達と同程度に”。
「拙僧、片付けが苦手ゆえ汚い部屋でござりますが、上がって下され」
甚平を着た彼、否、彼女の、振り向いた、その笑顔は・・・・・・“不気味なホッケーマスク”に彩られていました。
「始めましてでござる。拙僧は処刑人型神姫、緑青(緑青)にござります。またの名を・・“人間国宝 三木山仙”」
「あ・・・あなた、が?」
私は動揺を隠せない。あの、憧れていた人間国宝が、まさか自分と同じ神姫なんて・・・
「信じられる訳が無い、という顔をしてござりまするな」
「え! いえ・・・あの・・・失礼だとは思いますけれど・・・」
「御主、これを見てもまだその様なことを言うのか?」
芍薬さんが、彼女の手元から“人間サイズの”打ちかけの刃を取り上げて私に差し出す。
「・・・綺麗」
水を得て、太陽に向かいまっすぐに伸びる花のようなそれは、紛れも無く“三木山仙”の作でした。それでも、心のどこかで否定したがっている自分が止まらない。
「無理もありますまい。だからこそ、我が主山仙の名を借りなくば人間国宝だとは認められなかったのでござりますからな」
つまり、緑青さんが人間国宝としてその技能を認められるには、自分が神姫である事を偽らなければいけなかった、そういう事らしい。でも・・・
「でも・・・常識的に考えれば信じがたいと・・」
「御主、同じ神姫が信じられぬというのか?」
「!!!」
その瞬間、自分の狭量さに恐怖した。
「芍薬、いいのです。“真心を 映す刃を広めんと 偽り借るは 木偶の黄昏”。所詮拙僧らはどこか偽り無くば生きられぬ身でござりましょう。そもそも身分を偽った拙僧が醜いのでござる。 ・・・それでも、今日の、貴女と尊い出会いがあるのでござれば、その醜さも悪くは無い」
「か・・・かっこいい・・・」
気付けば、そう呟いていた。そしてもうその心根を、疑う余地なんて無かった。
「ふふ、格好良いとは長らく言われていなかったでござるよ。この様な、見てくれゆえ」
自分の不気味な仮面を、無骨な指でなぞりながら彼女は呟く。少し、愁いを帯びた声で。
「いえっあの! 外見の事ではなくて! あ!ですがその甚平もよくお似合いですよ!」
「はっはっは。悪気がない事など判っておるでござるよ。それに、今となってはこの見てくれも嫌いではないのでござるよ」
そう言った彼女は、神姫サイズの一振りの刀を取り出す。刃は散々に欠けて、錆で真っ赤だ。
「彩女殿、この刀をどう思うでござるか?」
「どうって・・・随分酷い扱いだと思います。もう手入れしても元通りにはならないでしょう」
「これは拙僧が鍛冶の師匠から最初に譲り受けた一振りでござる」
「え?」
愛おしそうに、その醜い刀を手にとり語り始める。
「我が師匠は、始めこの刀を拙僧に渡したのみで、ろくに鍛冶の業を教えてはくれなんだ。だから拙僧はこの刀を徹底的に振り、触って少しでも師匠の業を知ろうとしたものでござる。その頃は刀の扱い自体よく知らなかったでござるから、その内このようになってしまった訳でござるな」
「そうですか・・・せっかく師匠様に頂いた刀がそのようになってしまって、惜しかったですね」
「いや、そうでもないでござる」
静振、斬空。鈍空。
緑青さんが最小限の動きでその刀を振り抜く。その斬撃が断ち切った空気は、錆色の粒子を含みながらも、まっすぐで、清い。そう思えた。
「“刃毀れも、柄汚したる緑青も 人の肌知る誉れにこそあり” この様になるまで使ったからこそ、拙僧はモノの在り様というものを知ったのでござる。人が、使うからこそ錆び刃も欠ける。それこそ人と共にあるモノの証。むしろ醜く変わる事、醜さを知る事は尊い事も言えるでござろう。故に拙僧は、己自身のこの姿も愛しているのでござる」
「かっこいい・・・」
また無意識に言葉が洩れる。彼女の言葉が胸に染みる。
「しかしロク、神姫と・・・女としては甚平よりも着物の一つも似合ったほうが良かろう?」
「芍薬さん! デリカシーがありませんよ! と言うより貴女自慢したいだけなのでしょう!」
「はっはっは。しかし芍薬、その丈の短い振袖、友禅染とは雅でござるが、座ると“みえる”ぞ?」
「座らぬから良い!」
「でも、マスターの肩に乗っている時なども見えると思いますよ」
「・・・・はっ!」
愕然とした芍薬さんの姿に思わず、吹き出してしまう。
「ぷっくく・・・あははは!」
「ええい十二単が似合う分際でそれがしを侮辱するか!」
「やりますか? 私より踏み込みの遅い芍薬さん?」
「ほう、芍薬が踏み込みで負けるとは凄いでござるな」
「いやあれはその仙ちゃんの邪魔さえなくば・・・」
「神姫バトルならいつでも挑戦受けますよ?」
「はっはっは、芍薬、お前の負けでござるよ。おお、そうでござる。芍薬に勝った彩女殿に相応しい刀がござった」
思いついたように緑青さんが立ち上がる。おもむろに棚をあさり、その手に収まるサイズの、一つの鞘を取り出す。しかし、柄は2つ。
「神姫用業物、群菖蒲(つれあやめ)。二刀で一対の小太刀でござる。受け取ってもらいたいでござる」
そう言って引き抜いて見せた2つの刀身は、薄青を帯びた、瑞々しい輝き。
「そ・・・そんな! 頂けません! こんな綺麗な刀!」
「いえ、戯れで打ったものでござるし、拙僧は真にその刀を扱ってもらえる者にしか譲りたくない性分なのでござる」
緑青さん=三木山仙が気に入った者にしか刀を売らないのは、そういう事だと彼女が言う。
「神姫用の得物ともなれば普通の人間に渡す訳にもいかぬし、その点彩女殿であれば申し分ない。そう、桃の節句の祝いでもあるし、是非貰っては下さらぬか?」
再び刀を納め、差し出される鞘。少し戸惑いながらも、私は、受け取る。
「有り難く、頂戴いたします」
「うむ、苦しゅうない」
「って何故芍薬さんが偉そうなんですか?」
「それがしのお陰で貰えたのだから当然であろう?」
「はっはっは。“戦姫 結ぶ縁は刀鍛冶”仲が良くて何よりでござる」
「「・・・か、かっこいい」」
気づかぬうちに、私は芍薬さんと声をそろえていた。
----
「それでは、本当に有難うございました」
「おう、記四季んによろしく言うといてや-」
「次遭う時は負けぬぞ」
「また、何時でも来るでござる」
「はい!」
歩、帰走。
「・・・」
「・・・」
「・・・行ったんかな?」
「もう見えぬな」
「どうやら成功したようでござるな」
「いやー、にしても、記四季んの頼みとは言え彩女ちゃんに“人間国宝の三木山仙が緑青の事だと思い込ませる”んにはホネが折れたわー」
「仙ちゃんは何もしておらぬではないか!」
「はっはっは、受け売りを話しておいて何でござるが、主殿が人間国宝らしくないのは普段からでござるからなぁ」
「うっさいわお前ら! これでも根回しとか苦心したんやで!」
「それにしても彩女とやらもよく疑わなかったものよな。ただでさえ認定に何年もかかる人間国宝、それも刀匠の技能で認定なぞ神姫の浅い歴史ではどだい無理ではないか。そもそも、サイズ的に刀は打てぬ。少し考えれば判る事であろうに」
「それだけ心酔していたのでござろうな、三木山仙に。その夢を壊さぬようにとの記四季殿の配慮でござったのだから。拙僧も、彼女のあの純粋さを壊すのは忍びない」
「・・・遠まわしに儂をけなしてへんかロク? まあええわ。でもその為に記四季んもよーここまで知恵まわしたわ。さすが奇策師。よりによって儂の代役が神姫のロクやもんなぁ。いっくら貫禄は十分かて、普通疑うやん」
「だからこそ、第三者役としてそれがしが呼ばれたのだがな。やはり神姫には神姫の言葉の方が説得力があろう。おかげでそれがしはこの振袖も買ってもらえたし、のう?」
「ああ、それは主殿が見繕ってきたものでござったか」
「ダチに足元見られまくってボラれたわボケ! その上土産用に徹夜で刀打たされたし、踏んだり蹴ったりや!」
「だがあのだめ押しのお陰で一部も疑われる事なく送り返せたのだ。女にはやはりプレゼントだな」
「はっはっは、同感でござるなあ」
「ああもうコイツら人の気も知らへんで!」
「全くですね。騙される方の身にもなって下さい」
「・・・え、彩女、ちゃん?」
「はいそうです」
「・・・何時から、聞いておった?」
「・・・最初から。耳がいいんです私・・・」
「いや・・・あんな、だから・・・」
「・・・ぐすん」
「・・・“獣耳 げに恐ろしき 地獄耳” とな」
ちゃんちゃん?
[[目次へ>Gene Less]]
―――青壁の空、堅毛の大地、涼鋭なる風。私は、そこにたなびく銀の麦穂―――
・・・と、ご挨拶が送れましたね。皆様今日は、白狼型MMSの彩女です。柄にも無く詩的な語りなどして困惑なされたでしょうが御察し下さい。今、私の胸はそれほどに高ぶっているのです。なぜならば!
「今日はかの人間国宝、三木山仙殿のお宅に来ているのです!!」
・・・おっとっと。つい声に出してしまいました。皆様に説明いたしますと、三木山仙殿は世界に並ぶものの無い程の刀鍛治、そして居合の達人でありながら、気に入った人間にしか刀を売らず、しかもメディアにも殆ど姿を表さない伝説の人物なのです!(まあブログはやっておられますが)
かくいう私も、一目で彼の刀の一分の迷いもない美しさに心奪われてしまったのでしていつかご本人に合間見えたいと思いをはせておりました所、実は彼が我が主の知人でありまして、3月3日の今日、桃の節句の祝いに是非にとご招待を受けたのでした。まさかこんな所に縁があろうとは感極まれりです。
「・・・ですが、どうしてこういう時に限って主は居られないんでしょうか! 『雛祭りは女の子の行事だろ』なんて言って遠慮されるより、むしろこの喜びを語り合いたい分かち合いたいのに! ・・・・!?」
鋭、殺気。
「・・・!?」
向けられた敵意を狼の耳が感知する。刹那、私の手は流れるように刀へとそえられる。剣気の返礼。
「・・・ふ、それがしの威圧を受けてたじろがぬどころか迎え撃つか。ただの曲者かと思えば、御主やりおるな」
改めて、その殺気の、声の主を見上げる。山仙氏宅の塀に仁王立ちするは、不敵に笑う侍型紅緒。その姿は艶やかな振袖に彩られ・・・
「・・・て、ミニ振袖は邪道だと思いますよ私は」
「ふん、古いな御主。似合えば何でもよいのだ。むしろそれがしの脚線美を主張するにこれほどよい素材はあるまい? ・・・ああ、御主の寸胴大根足では他の着物の方が似合うか。十二単とか」
「に・・・似合うからってそんな事ありません!!!」
「着たのか!」
「もう、何なのですか貴方は! 私はただ・・・」
「神姫が主も連れずに来るなぞ怪しすぎるわ! この仙ちゃん直伝の鉄花創心流居合の錆にしてくれる!」
「仙ちゃん!? ・・・まさか、山仙殿の神姫ですか!? ですから私は貴女の主に・・・」
説得の間も無しに、彼女は腰を落とす。取り付く島ない、鋭利な居合の構え。やるしかない!? 戸惑いながらも刀に手をかける。一触即発。先に動いた方が、負ける――
歩、足音。
「? 誰か、来て・・・」
「隙ありぃ!!!」
疾、蹴。
「!」
―その瞬間、私の世界から音が消えた―
刹那、閃。
―気付いた時には、私の本能が振り抜いていた。彼女より、疾く―
切、断。
―後に残ったのは、視界の端に飛び散る黒い粘質の液体と、腕に残る・・・硬質の、感触―
鈍音、響、落着。
―そして、その鈍い音。泣別れした、それは―
「・・・あれ? カン・・・ですかこれ?」
からーん。
それはポッ○のおしるこ缶でした(どっとはらい)
「仙ちゃん! 邪魔をしたのは御主か!」
「シャクぅ・・・ヒトんちの前で刃傷沙汰なん起こす気ぃかい!」
「曲者を排除しようとして何が悪い! 大体神機が神姫を切っても法には引っかからぬ」
「だからってええ訳あるかいな! 大体、振り負けてたんはお前の方やで」
・・・ところでそろそろ私にも状況を説明して欲しいものです(泣)
----
「じゃあ、お前ら自己紹介しぃ」
「・・・芍薬だ、曲者。仙ちゃんとはメル友である」
「はあ、そうなのでしたか。私は彩女です。我が主記四季の紹介でお伺いしました。本日はお招き頂き有難うございます」
「それがしは招いておらぬ」
「シャク、ケンカ売るなっちゅーんに!」
芍薬と名乗った紅緒型の彼女は、とても不機嫌そうにこちらを睨んでいます。誤解の上にそちらから切りかかって来たじゃないですかという文句を、私は喉元でこらえる。だって、彼の前でみっともない姿は見せられない。
「んで、儂が・・・」
「存じております!! 人間国宝三木山仙殿でおられますね!! 剣を扱う身として、直にご尊顔出来るとは光栄の極みです!!」
ブログのプロフィール写真と同じ、その凛々しい顔を間近にして私は舞い上がっていました。・・・いやまあ顔は主の方が好みなのですが。
「あ、そうやった。やーなんちゅうかなー、確かに儂は三木山仙なんやけどもー、「人間国宝の三木山仙」とはちぃーっと違うんやよなぁ・・・」
「・・・はい?」
「まあ所謂影武者であるな」
「うわあっさりバラすんやないて!」
「へ・・・?」
「大体こんな関西弁のファンキーなジジイが人間国宝になぞなれる訳が無かろう?」
「シャク! その通りやけども気にしとる所を~!」
・・・いや、確かに少々・・結構想像と違ったというかひょうきん過ぎるという気はしていましたけれども・・・。では、あの素晴らしい刀を打ったのは、一体誰なのでしょう?
「・・・まあ、記四季んのツレやし、あんたにならええか。来ぃや。“本物の”三木山仙に会わしたる。シャク、案内したれ」
「ほら、ここであるぞ」
山仙殿(仮)に招かれたのは、重ねてきた歴史を感じさせる木造の作業小屋。その木戸が、開かれる―
清、静。
「・・・!」
その小屋に入った瞬間、空気が変わったのを感じる。いや、そう、清められている。そういった方が正しいと思う。耳がきぃんと、強く、けれど心地よく響く。
「・・・おや? 客人でござりましょうか・・・ああ、記四季殿の連れ合いが来るのでござりましたな。ようこそ、拙僧の工房へ」
声は、広い部屋の奥から聞こえてきた・・・違う。部屋が広いのでなく、“声の主が小さい”のでした。そう・・・“私達と同程度に”。
「拙僧、片付けが苦手ゆえ汚い部屋でござりますが、上がって下され」
甚平を着た彼、否、彼女の、振り向いた、その笑顔は・・・・・・“不気味なホッケーマスク”に彩られていました。
「始めましてでござる。拙僧は処刑人型神姫、緑青(緑青)にござります。またの名を・・“人間国宝 三木山仙”」
「あ・・・あなた、が?」
私は動揺を隠せない。あの、憧れていた人間国宝が、まさか自分と同じ神姫なんて・・・
「信じられる訳が無い、という顔をしてござりまするな」
「え! いえ・・・あの・・・失礼だとは思いますけれど・・・」
「御主、これを見てもまだその様なことを言うのか?」
芍薬さんが、彼女の手元から“人間サイズの”打ちかけの刃を取り上げて私に差し出す。
「・・・綺麗」
水を得て、太陽に向かいまっすぐに伸びる花のようなそれは、紛れも無く“三木山仙”の作でした。それでも、心のどこかで否定したがっている自分が止まらない。
「無理もありますまい。だからこそ、我が主山仙の名を借りなくば人間国宝だとは認められなかったのでござりますからな」
つまり、緑青さんが人間国宝としてその技能を認められるには、自分が神姫である事を偽らなければいけなかった、そういう事らしい。でも・・・
「でも・・・常識的に考えれば信じがたいと・・」
「御主、同じ神姫が信じられぬというのか?」
「!!!」
その瞬間、自分の狭量さに恐怖した。
「芍薬、いいのです。“真心を 映す刃を広めんと 偽り借るは 木偶の黄昏”。所詮拙僧らはどこか偽り無くば生きられぬ身でござりましょう。そもそも身分を偽った拙僧が醜いのでござる。 ・・・それでも、今日の、貴女と尊い出会いがあるのでござれば、その醜さも悪くは無い」
「か・・・かっこいい・・・」
気付けば、そう呟いていた。そしてもうその心根を、疑う余地なんて無かった。
「ふふ、格好良いとは長らく言われていなかったでござるよ。この様な、見てくれゆえ」
自分の不気味な仮面を、無骨な指でなぞりながら彼女は呟く。少し、愁いを帯びた声で。
「いえっあの! 外見の事ではなくて! あ!ですがその甚平もよくお似合いですよ!」
「はっはっは。悪気がない事など判っておるでござるよ。それに、今となってはこの見てくれも嫌いではないのでござるよ」
そう言った彼女は、神姫サイズの一振りの刀を取り出す。刃は散々に欠けて、錆で真っ赤だ。
「彩女殿、この刀をどう思うでござるか?」
「どうって・・・随分酷い扱いだと思います。もう手入れしても元通りにはならないでしょう」
「これは拙僧が鍛冶の師匠から最初に譲り受けた一振りでござる」
「え?」
愛おしそうに、その醜い刀を手にとり語り始める。
「我が師匠は、始めこの刀を拙僧に渡したのみで、ろくに鍛冶の業を教えてはくれなんだ。だから拙僧はこの刀を徹底的に振り、触って少しでも師匠の業を知ろうとしたものでござる。その頃は刀の扱い自体よく知らなかったでござるから、その内このようになってしまった訳でござるな」
「そうですか・・・せっかく師匠様に頂いた刀がそのようになってしまって、惜しかったですね」
「いや、そうでもないでござる」
静振、斬空。鈍空。
緑青さんが最小限の動きでその刀を振り抜く。その斬撃が断ち切った空気は、錆色の粒子を含みながらも、まっすぐで、清い。そう思えた。
「“刃毀れも、柄汚したる緑青も 人の肌知る誉れにこそあり” この様になるまで使ったからこそ、拙僧はモノの在り様というものを知ったのでござる。人が、使うからこそ錆び刃も欠ける。それこそ人と共にあるモノの証。むしろ醜く変わる事、醜さを知る事は尊い事も言えるでござろう。故に拙僧は、己自身のこの姿も愛しているのでござる」
「かっこいい・・・」
また無意識に言葉が洩れる。彼女の言葉が胸に染みる。
「しかしロク、神姫と・・・女としては甚平よりも着物の一つも似合ったほうが良かろう?」
「芍薬さん! デリカシーがありませんよ! と言うより貴女自慢したいだけなのでしょう!」
「はっはっは。しかし芍薬、その丈の短い振袖、友禅染とは雅でござるが、座ると“みえる”ぞ?」
「座らぬから良い!」
「でも、マスターの肩に乗っている時なども見えると思いますよ」
「・・・・はっ!」
愕然とした芍薬さんの姿に思わず、吹き出してしまう。
「ぷっくく・・・あははは!」
「ええい十二単が似合う分際でそれがしを侮辱するか!」
「やりますか? 私より踏み込みの遅い芍薬さん?」
「ほう、芍薬が踏み込みで負けるとは凄いでござるな」
「いやあれはその仙ちゃんの邪魔さえなくば・・・」
「神姫バトルならいつでも挑戦受けますよ?」
「はっはっは、芍薬、お前の負けでござるよ。おお、そうでござる。芍薬に勝った彩女殿に相応しい刀がござった」
思いついたように緑青さんが立ち上がる。おもむろに棚をあさり、その手に収まるサイズの、一つの鞘を取り出す。しかし、柄は2つ。
「神姫用業物、群菖蒲(つれあやめ)。二刀で一対の小太刀でござる。受け取ってもらいたいでござる」
そう言って引き抜いて見せた2つの刀身は、薄青を帯びた、瑞々しい輝き。
「そ・・・そんな! 頂けません! こんな綺麗な刀!」
「いえ、戯れで打ったものでござるし、拙僧は真にその刀を扱ってもらえる者にしか譲りたくない性分なのでござる」
緑青さん=三木山仙が気に入った者にしか刀を売らないのは、そういう事だと彼女が言う。
「神姫用の得物ともなれば普通の人間に渡す訳にもいかぬし、その点彩女殿であれば申し分ない。そう、桃の節句の祝いでもあるし、是非貰っては下さらぬか?」
再び刀を納め、差し出される鞘。少し戸惑いながらも、私は、受け取る。
「有り難く、頂戴いたします」
「うむ、苦しゅうない」
「って何故芍薬さんが偉そうなんですか?」
「それがしのお陰で貰えたのだから当然であろう?」
「はっはっは。“戦姫 結ぶ縁は刀鍛冶”仲が良くて何よりでござる」
「「・・・か、かっこいい」」
気づかぬうちに、私は芍薬さんと声をそろえていた。
----
「それでは、本当に有難うございました」
「おう、記四季んによろしく言うといてや-」
「次遭う時は負けぬぞ」
「また、何時でも来るでござる」
「はい!」
歩、帰走。
「・・・」
「・・・」
「・・・行ったんかな?」
「もう見えぬな」
「どうやら成功したようでござるな」
「いやー、にしても、記四季んの頼みとは言え彩女ちゃんに“人間国宝の三木山仙が緑青の事だと思い込ませる”んにはホネが折れたわー」
「仙ちゃんは何もしておらぬではないか!」
「はっはっは、受け売りを話しておいて何でござるが、主殿が人間国宝らしくないのは普段からでござるからなぁ」
「うっさいわお前ら! これでも根回しとか苦心したんやで!」
「それにしても彩女とやらもよく疑わなかったものよな。ただでさえ認定に何年もかかる人間国宝、それも刀匠の技能で認定なぞ神姫の浅い歴史ではどだい無理ではないか。そもそも、サイズ的に刀は打てぬ。少し考えれば判る事であろうに」
「それだけ心酔していたのでござろうな、三木山仙に。その夢を壊さぬようにとの記四季殿の配慮でござったのだから。拙僧も、彼女のあの純粋さを壊すのは忍びない」
「・・・遠まわしに儂をけなしてへんかロク? まあええわ。でもその為に記四季んもよーここまで知恵まわしたわ。さすが奇策師。よりによって儂の代役が神姫のロクやもんなぁ。いっくら貫禄は十分かて、普通疑うやん」
「だからこそ、第三者役としてそれがしが呼ばれたのだがな。やはり神姫には神姫の言葉の方が説得力があろう。おかげでそれがしはこの振袖も買ってもらえたし、のう?」
「ああ、それは主殿が見繕ってきたものでござったか」
「ダチに足元見られまくってボラれたわボケ! その上土産用に徹夜で刀打たされたし、踏んだり蹴ったりや!」
「だがあのだめ押しのお陰で一部も疑われる事なく送り返せたのだ。女にはやはりプレゼントだな」
「はっはっは、同感でござるなあ」
「ああもうコイツら人の気も知らへんで!」
「全くですね。騙される方の身にもなって下さい」
「・・・え、彩女、ちゃん?」
「はいそうです」
「・・・何時から、聞いておった?」
「・・・最初から。耳がいいんです私・・・」
「いや・・・あんな、だから・・・」
「・・・ぐすん」
「・・・“獣耳 げに恐ろしき 地獄耳” とな」
ちゃんちゃん?
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