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*インターバトル4「親友」
その日は朝からずっと吹雪いていた。
このあたりでは珍しく、雪がすねまで降り積もり、なおもそのかさを増そうとしていた。
そんな中を、マスターはコートを着込んで歩いていた。内ポケットの中にアーンヴァル「マイティ」がいる。
今彼らは普段行くことの無い裏通りにいる。
この裏通りは神姫のパーツショップが並び、オーナーたちは「神姫横丁」と呼んでいる。
ここに行けば手に入らないパーツは無い、とまで言われている場所である。
だがそのほとんどが実は違法なパーツを取り扱っており、問題の温床となっていることもまた事実だった。
店の多くは客が来そうに無いこんな天気の下で、律儀に店を開いている。
マスターは適当な店を選んで入ってゆく。
重い音を立てて自動ドアが開く。
「いらっしゃい」
疲れた顔をした細目の店主が、挨拶はしたが雪まみれのマスターを見て露骨に嫌な顔をした。マスターは入り口で雪を落とす。
人一人ぎりぎり通れるかどうかにまで敷き詰められた通路の左右の棚には、神姫のパーツが無造作に並んでいる。足元のダンボールには、ジャンクパーツと言っても差し支えないような、薄汚れた部品が投げ込まれていた。
コートの隙間から、マイティは恐る恐る、店の陳列を見渡す。
棚の一角に手足がばらばらに積まれている。
素体の手足だ。その横にはボディ、だけ。文字通りの素体のばら売り。禁止されているはずだ。どこから仕入れてきたのだろう?
コアパーツは無い。が、たぶん言えば出て来そうにマイティに思えた。
マイティは初めて、吐き気と言うものを覚えた。
ここまで神姫が徹底的に「ただのモノ」扱いされていることにである。
すこし奥へ行くとガラスケースがあり、中はまるで特殊パーツの展覧会だった。
どこかで見たパーツも多く入っている。
ドールアイを改造した大出力レーザー発振装置。
超遠距離に正確無比な射撃を叩き込む対物ライフル。
幅広のレーザー刃を展開させる、ほとんどレーザーメスのようなライトセイバー。
間接の馬力を向上させるテフロンディスクに、特殊合金製装甲版。
バッタからそのままもいできたような脚部追加シリンダーもある。これは、かの片足の悪魔が使っていた奴だ。
これを両足に付ければかなりの移動性能向上が見込めるだろう。
超小型イオンエンジンを搭載した推進装置の類もたくさんあった。一つ付けるだけで飛行タイプの運動能力は飛躍的に上昇する。
どれもこれも、違法ぎりぎりの特殊パーツ。魅力的な品ばかりであった。
だが、マスターはケースの前に立ち尽くしたまま、パーツを見下ろすばかりである。
「マスター……」
マイティの呼びかけにも答えようとしない。
「マスター、私は」
そこまで言って、よどんだ。マスターの悩みを、悩みというには大きすぎるが、解消させるには私の言葉がいる。
本当にそれでいいのか?
だがマイティはこれ以上、マスターが苦しむのを見ていられなかった。
「私は、構いませ……」
すると唐突に自動ドアが開いた。
「おーっ、ドンピシャ。やっぱりここにいたか」
聞き覚えのある声。
振り返ると、雪まみれのケンがいた。
「なんだいケン、こいつと知り合いか」
客にこいつ呼ばわりは無いだろう、とマスターは思った。
「そうだよ、オレたちゃ親友なんだ」
「そうやって同族以外からダチを作るのが悪い癖だぞ。この前のOLだって」
「いいじゃねえかよ」
二人して笑い会っているのを、マスターとマイティはぽかんとして見ているしかない。
「そうそう、お前ぇに話があるんだ。ちょっと付き合え」
ケンはマスターを無理やり引っ張って店を出る。
権の襟元からハウリン「シエン」が顔を出して、申し訳なさそうにこちらに手をあわせて謝っているのをマイティは見つけた。
◆ ◆ ◆
「おやじ、とりあえずビール二つね。あとおでん二人前」
近くの居酒屋に無理やり連れてこられて、気がつけばビールとおでんを注文されていた。
「一体何がしたいんだ」
腹に据えかねてマスターが切り出した。
ケンはシエンをテーブルに置くと、タバコに火をつける。
「吸うか?」
「俺はタバコは吸わん」
マスターもコートを脱ぎ、ポケットからマイティを出してテーブルに座らせた。
「?」
マイティが何かに気がつく。
「どうしたの、マイティ?」
「シエンちゃん、ちょっとごめん」
マイティはシエンの体の臭いをかぎ始める。
「ま、マイティ!?」
シエンは何が起こったのか分からず、慌てた。この子ってこんなに大胆だったかしらん?
「シエンちゃん、なんだかイカみたいなにおいがするよ」
ぎくぅっ!? シエンとケンは揃ってのけぞった。
「なんだ、二人して?」
「あいや、その、さささっきちょっとイカ食っててな。シエンがイカの上にすっ転んだんだよ」
「そうですそうです!」
「ちゃんと体洗っとけっつったろ!」
「すすすすみませんっ」
二人は顔を真っ赤にして言った。
「???」
「ま、まあいいじゃねえか。それより本題だ」
ゴホン、と咳払いして、ケンは体裁を繕う。
「お前ぇ、特殊装備を使いこなす奴に負けたんだってな」
「どこで聞いた」
「フツーにエルゴの店長に」
ビールとおでんが運ばれてくる。
「そんで、特殊装備も使わないとこの先辛いぜ~、見たいなコトも言われたんだってな」
「そこまで聞いてるのか」
「まあな」
ケンはビールを一口飲んで、続ける。
「で、お前のことだから、横丁で違法スレスレのパーツを漁ってるかと思ったら、案の定、ってやつだ」
「何でもお見通しなんだな」
マスターもビールに口を付けた。
苦い。相変わらずこの味は好きになれない。
神姫たちは二人の会話にはわざと参加せず、黙々とおでんを食べている。
「まあ、それがお前さんの考えなら、オレは止めねえけどよ」
大根を切って、口に入れる。
「それでお前ぇは納得するのか?」
がんもどきをつまもうとしたマスターの手が止まる。
「お前ぇは昔っから頑固だったからな」
がんもどきを奪って、ケンが丸ごと食う。
「ふぁっちちち……。まあ、頑固なら頑固なりに、納得するやり方を素直に選ぶのが、オレは一番いいと思うぜ。あ、おやじ、だし巻き玉子ちょうだい」
マスターは黙っている。箸も動かさず。座ったまま。
「マスター?」
マイティが気付いて心配そうに見上げる。
ふう。
マスターがため息をついた。マイティにはそれが、安心して出したため息に見えた。
彼の顔にはいつもの微笑が浮かんでいたからだ。
自分の分の代金を置いて、立ち上がる。
「ケン、ありがとう」
「いいってことよ」
「マイティ、帰るぞ」
「はい!」
マスターはコートを着て、マイティを内ポケットに入れると、しっかりした足取りで店を出て行った。
「へっ」
ケンは笑って、自分のビールを一気に飲み干すと、マスターの残したビールに手を伸ばした。
「お前も飲むか?」
「アルコールはコアに変な影響があるので飲みません」
「これからはちゃんと体洗えよ」
「…………はい」
了
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*インターバトル4「親友」
その日は朝からずっと吹雪いていた。
このあたりでは珍しく、雪がすねまで降り積もり、なおもそのかさを増そうとしていた。
そんな中を、マスターはコートを着込んで歩いていた。内ポケットの中にアーンヴァル「マイティ」がいる。
今彼らは普段行くことの無い裏通りにいる。
この裏通りは神姫のパーツショップが並び、オーナーたちは「神姫横丁」と呼んでいる。
ここに行けば手に入らないパーツは無い、とまで言われている場所である。
だがそのほとんどが実は違法なパーツを取り扱っており、問題の温床となっていることもまた事実だった。
店の多くは客が来そうに無いこんな天気の下で、律儀に店を開いている。
マスターは適当な店を選んで入ってゆく。
重い音を立てて自動ドアが開く。
「いらっしゃい」
疲れた顔をした細目の店主が、挨拶はしたが雪まみれのマスターを見て露骨に嫌な顔をした。マスターは入り口で雪を落とす。
人一人ぎりぎり通れるかどうかにまで敷き詰められた通路の左右の棚には、神姫のパーツが無造作に並んでいる。足元のダンボールには、ジャンクパーツと言っても差し支えないような、薄汚れた部品が投げ込まれていた。
コートの隙間から、マイティは恐る恐る、店の陳列を見渡す。
棚の一角に手足がばらばらに積まれている。
素体の手足だ。その横にはボディ、だけ。文字通りの素体のばら売り。禁止されているはずだ。どこから仕入れてきたのだろう?
コアパーツは無い。が、たぶん言えば出て来そうにマイティに思えた。
マイティは初めて、吐き気と言うものを覚えた。
ここまで神姫が徹底的に「ただのモノ」扱いされていることにである。
すこし奥へ行くとガラスケースがあり、中はまるで特殊パーツの展覧会だった。
どこかで見たパーツも多く入っている。
ドールアイを改造した大出力レーザー発振装置。
超遠距離に正確無比な射撃を叩き込む対物ライフル。
幅広のレーザー刃を展開させる、ほとんどレーザーメスのようなライトセイバー。
間接の馬力を向上させるテフロンディスクに、特殊合金製装甲版。
バッタからそのままもいできたような脚部追加シリンダーもある。これは、かの片足の悪魔が使っていた奴だ。
これを両足に付ければかなりの移動性能向上が見込めるだろう。
超小型イオンエンジンを搭載した推進装置の類もたくさんあった。一つ付けるだけで飛行タイプの運動能力は飛躍的に上昇する。
どれもこれも、違法ぎりぎりの特殊パーツ。魅力的な品ばかりであった。
だが、マスターはケースの前に立ち尽くしたまま、パーツを見下ろすばかりである。
「マスター……」
マイティの呼びかけにも答えようとしない。
「マスター、私は」
そこまで言って、よどんだ。マスターの悩みを、悩みというには大きすぎるが、解消させるには私の言葉がいる。
本当にそれでいいのか?
だがマイティはこれ以上、マスターが苦しむのを見ていられなかった。
「私は、構いませ……」
すると唐突に自動ドアが開いた。
「おーっ、ドンピシャ。やっぱりここにいたか」
聞き覚えのある声。
振り返ると、雪まみれのケンがいた。
「なんだいケン、こいつと知り合いか」
客にこいつ呼ばわりは無いだろう、とマスターは思った。
「そうだよ、オレたちゃ親友なんだ」
「そうやって同族以外からダチを作るのが悪い癖だぞ。この前のOLだって」
「いいじゃねえかよ」
二人して笑い会っているのを、マスターとマイティはぽかんとして見ているしかない。
「そうそう、お前ぇに話があるんだ。ちょっと付き合え」
ケンはマスターを無理やり引っ張って店を出る。
権の襟元からハウリン「シエン」が顔を出して、申し訳なさそうにこちらに手をあわせて謝っているのをマイティは見つけた。
◆ ◆ ◆
「おやじ、とりあえずビール二つね。あとおでん二人前」
近くの居酒屋に無理やり連れてこられて、気がつけばビールとおでんを注文されていた。
「一体何がしたいんだ」
腹に据えかねてマスターが切り出した。
ケンはシエンをテーブルに置くと、タバコに火をつける。
「吸うか?」
「俺はタバコは吸わん」
マスターもコートを脱ぎ、ポケットからマイティを出してテーブルに座らせた。
「?」
マイティが何かに気がつく。
「どうしたの、マイティ?」
「シエンちゃん、ちょっとごめん」
マイティはシエンの体の臭いをかぎ始める。
「ま、マイティ!?」
シエンは何が起こったのか分からず、慌てた。この子ってこんなに大胆だったかしらん?
「シエンちゃん、なんだかイカみたいなにおいがするよ」
ぎくぅっ!?
シエンとケンは揃ってのけぞった。
「なんだ、二人して?」
「あいや、その、さささっきちょっとイカ食っててな。シエンがイカの上にすっ転んだんだよ」
「そうですそうです!」
「ちゃんと体洗っとけっつったろ!」
「すすすすみませんっ」
二人は顔を真っ赤にしてうろたえた。
「???」
「ま、まあいいじゃねえか。それより本題だ」
ゴホン、と咳払いして、ケンは体裁を繕う。
「お前ぇ、特殊装備を使いこなす奴に負けたんだってな」
「どこで聞いた」
「フツーにエルゴの店長に」
ビールとおでんが運ばれてくる。
「そんで、特殊装備も使わないとこの先辛いぜ~、見たいなコトも言われたんだってな」
「そこまで聞いてるのか」
「まあな」
ケンはビールを一口飲んで、続ける。
「で、お前のことだから、横丁で違法スレスレのパーツを漁ってるかと思ったら、案の定、ってやつだ」
「何でもお見通しなんだな」
マスターもビールに口を付けた。
苦い。相変わらずこの味は好きになれない。
神姫たちは二人の会話にはわざと参加せず、黙々とおでんを食べている。
「まあ、それがお前さんの考えなら、オレは止めねえけどよ」
大根を切って、口に入れる。
「それでお前ぇは納得するのか?」
がんもどきをつまもうとしたマスターの手が止まる。
「お前ぇは昔っから頑固だったからな」
がんもどきを奪って、ケンが丸ごと食う。
「ふぁっちちち……。まあ、頑固なら頑固なりに、納得するやり方を素直に選ぶのが、オレは一番いいと思うぜ。あ、おやじ、だし巻き玉子ちょうだい」
マスターは黙っている。箸も動かさず。座ったまま。
「マスター?」
マイティが気付いて心配そうに見上げる。
ふう。
マスターがため息をついた。マイティにはそれが、安心して出したため息に見えた。
彼の顔にはいつもの微笑が浮かんでいたからだ。
自分の分の代金を置いて、立ち上がる。
「ケン、ありがとう」
「いいってことよ」
「マイティ、帰るぞ」
「はい!」
マスターはコートを着て、マイティを内ポケットに入れると、しっかりした足取りで店を出て行った。
「へっ」
ケンは笑って、自分のビールを一気に飲み干すと、マスターの残したビールに手を伸ばした。
「お前も飲むか?」
「アルコールはコアに変な影響があるので飲みません」
「これからはちゃんと体洗えよ」
「…………はい」
了
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