「変身!」(2006/11/05 (日) 23:50:56) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
[[前へ>インターバトル1「プレゼント」]] [[先頭ページ>Mighty Magic]] [[次へ>主義]]
*「変身!」
「愛ある限り戦いましょう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリン! ここに、はいぱー☆降臨っ!!」
そこには制服を着た犬型MMSハウリンではなく、魔法のステッキを模した長射程砲を振りかざした、魔法少女が立っていた。
気がつけばオーナーの女性も同じ格好をしている。
「な、な、なんだあれは?」
天使型MMSアーンヴァル『マイティ』のマスターは我が目を疑った。
「素敵よココー! 初めてばっちり言えたわね♪」
魔女っ子神姫ドキドキハウリンことココのオーナー、戸田静香が手を振った。魔女っ子神姫ドキドキハウリンことココは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「地の文! 連呼しないでください!」
いやはや、失礼。
当のマイティはココを見つめたまま固まっている。
「そ、それ……」
「あ、あなたも言う気か!」
ココは長射程砲を振りかざした。
しかし、マイティはココを指差し、あろうことかこう叫んだ。
「かっわいい~~~~~♪」
「わぁっぷ!」
マイティはココに抱きついた。ココは何が起きたのか分からず、長射程砲を振り上げたまま動けなかった。
「ねねねね、それどうしたの? 変身ってどうやったの!?」
ココの頭をなでたり背中をなでたりしながら質問攻めである。
「あ、あのちょっと、ひゃん!? 離してぇ……」
マスターは呆然として立体モニターを見つめ、静香は、
「きゃー、新展開よ!? 百合百合よー!」
とはしゃいでいる。
本日の試合、両者戦意喪失により、ドロー。
「一体今日はどうしたんだ」
帰り道、マスターは前を向いたまま言った。感情をあまり表に出さないマスターであったが、機嫌を悪くしていることはマイティにはよく見て取れた。
「すみません、つい……」
胸ポケットの中で、マイティはうずくまっていた。
「あんな……、マイティは初めて見た」
頭を掻きつつ、マスターは渋い顔をする。叱ってよいものかどうか迷っているのだ。
「それにまたどうして、再戦を希望したんだ」
試合後、マイティが戸田静香嬢と話しこんでいるのをマスターは思い出した。
「あの、マスター」
「なんだ」
「そのことなんですけれど、私に任せていただけませんか」
「??」
その日から、マイティはクローゼットの隅っこでカチャカチャと何かするようになった。マスターが何度様子を見ようとしても、
「覗かないでくださいっ!」
と一括された。
時折「うふふふふふふ」と奇妙な笑い声が聞こえて、料理中のマスターは指を切ってしまいそうになったりした。
(……一体あいつは何をやっているんだ?)
一週間が経った。
「健闘をお祈りいたしますわ」
「君もな」
あの時と同じように、二人のオーナーは握手する。
ハウリンのココも恥ずかしそうにしている。
だが、マイティだけは違った。妙に落ち着かないのだ。まるで早く戦いたいとでも言いたそうに。
「ココちゃん、私、がんばるからね」
「は、はい?」
ココはきょとんとした。対戦相手にかける言葉ではない。
彼らはそれぞれの持ち場へついた。
「マスター、打ち合わせの通りに、お願いしますね」
「あ、ああ。本当にやるのか?」
「もちろんです!」
マイティはポッドに入る。
マスターは気圧されて、マイティに言われたものをインプットした。
「バイクを欲しがったときからおかしいとは思っていたが……」
マスターは大きなため息を吐いた。
『バトルスタート:フィールド・化学工場22』
大小さまざまのタンクが林立し、金属パイプが幾重にもうねり繋がった化学工場の内部だった。破れた屋根の隙間や窓から、オレンジ色の夕日が差し込んでいる。
ココはいつもの制服で、瓦礫が転がる地面に立っていた。
「埃くさいな……」
服が汚れる、と心配になり、すぐにそんなことを思った自分が恥ずかしくなった。ここがバーチャル空間であると言うことにではなくて、すっかり衣服のことに気が行くコスプレイヤーになりつつあることに。
『ココ、前方より反応。高速ではないわ』
「アーンヴァルなのに?」
『徒歩よりは速いのだけれど。もうすぐ見えるわよ』
倉庫の正面口の向こうに土煙が立った。
「あれは……バイク?」
愛車V-MAXに乗って、マイティがやってきた。
「とう!」
掛け声一発、マイティが飛び降りる。V-MAXは自動的にブレーキをかけ停止。
マイティは何も武装していなかった。いや、ただ一つ、腰に大きめのベルトのようなものを巻いている以外は。
「マイティ……?」
『ココ、気をつけて。あの子変身するわよ』
「ええっ!?」
バッ、バッ!
マイティは片手に持った何かを、顔の横へ鋭く構える。ポリゴンが発生し、羽を閉じた鳥のようなかたまりが出現した。
「変身!」
そのかたまり、エンジェルゼクターを、ベルトのバックルへ横向きにガシャンと差し込んだ。
『HEN・SHIN』
エンジェルゼクターが無機的な音声を発し、真っ白な光がマイティを包み込む。
果たして立っていたのはマイティではなかった。
上半身を閉じた翼のような装甲で覆い、特徴的なヘルメット型バイザーをかぶった神姫がそこにいた。
「仮面ライダー、エンジェル!」
右手をぐぐっと握り、決めポーズ。
「そんなぁ……」
ココは呆気にとられてマイティを見ていた。
『ココ、何をしているの!?』
静香の声にハッ、と我に返ったココは、防弾版の仕込まれたカバンで体のセンターをかばいつつ、近くのタンクの陰へと走る。
案の定彼女を追うように青白いビーム弾が次々と飛来、斜線上にあったパイプを破壊する。廃棄された化学工場という設定であるから有毒化学物質は吹き出したりしないが、ビームが強力であることをココは分析した。カバンでは一、二発しか防げない。
マイティ、いや、仮面ライダーエンジェルの手には、散弾銃の形をした武器が握られている。
「あんな小さな武器から強力なビームを撃つなんて……」
タンクの陰からココは相手を確認する。制服の上に着ているコートから、カロッテP12拳銃を抜き、撃つ。
だが、仮面ライダーエンジェルのアーマーは拳銃弾を簡単にはじき返した。そのままのしのしとタンクのほうへ歩いてくる。
「だめだ、この装備じゃ倒しきれない……!」
仮面ライダーエンジェルが散弾銃をくるりと回転させる。その銃はストックの部分が鋭利な斧になっていた。
ぶんと回転させ、タンクごと切り上げる。巨大なタンクは下から真っ二つに切り裂かれ、左右に倒れた。
「やった!」
仮面ライダーエンジェルは勝利を確信。
『まだだマイティ、判定は出ていないぞ』
「!?」
倒れたタンクの奥からまばゆい光がマイティの視界を奪った。
続けて衝撃。二度、三度。マイティは防御体制をとる。ダメージはそれほどない。が、アーマーにひびが入る。
ココが飛び出す。
『ほらココ、名乗って!』
「こ、こんな時でも言うんですか!?」
『当たり前でしょう!』
「うぅ……。あ、愛ある限り戦いましょう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリン、ここに、はいぱー☆光臨!!」
ふわふわのスカートにひらひらのドレスを着た魔法少女が、高い足場の上に立っていた。
説明しよう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリンは、ノーマルの制服スタイルと比べて、攻撃力10倍、防御力3倍、スピード21倍、可憐さ100倍、愛らしさ70倍、特定のファンへの破壊力1000倍となるのだ! すごいぞ魔女っ子神姫ドキドキハウリン! 萌えるぞ魔女っ子神姫ドキドキハウリン!
「地の文黙れ!」
ぼがっ。私のほうへ向けて魔法のステッキが火を噴いた。ごめんなさい。ぐふっ。
「出たわね魔女っ子ドキリン!」
「ドキリンだって!?」
初めて名前を略され、魔女っ子神姫(ぼがっ)……ココは憤慨してしまった。いくら恥ずかしいとはいえ、オーナーから名づけられた名前を省略されるのはココにとっては嫌だった。
「その変身を待っていたのよ。私も本気を出させてもらいます!」
バッ、バッ!
仮面ライダーエンジェルは、ベルトのエンジェルゼクターを掴む。
「キャスト、オフッ!!」
ガキン! エンジェルゼクターを90度回転させる。頭の部分が上になり、手を離すと閉じられていた羽がシャキンと開く!
『CAST,OFF!』
エンジェルゼクターが叫んだかと思うと、仮面ライダーエンジェルの上半身を覆っていたアーマーが四方八方に弾けとんだ。
破片の一部は魔女っ(ぼがっ)ココの方にも飛んでくる。
「くうっ」
ココは間一髪のところで破片を避けきった。
ブワッ
「!?」
自分と同じ高さに、マイティがいた。
天子のような翼を広げ、飛んでいる。顔はヘッドセンサー・アネーロに付けられたバイザーで覆われていた。
『CHANGE,ANGEL』
エンジェルゼクターが音声を発した。
「やあーっ!」
右手首に取り付けられたライトセイバーが伸び、襲い掛かる。
ココは何とかこれを回避。魔法のステッキが犠牲になる。
「速い!」
可能な限り間合いを取り、態勢を立て直す。
『すごいすごい! マイティちゃんも変身を使いこなせているわ!』
静香はきゃーきゃー言いながらはしゃいでいる。
「静香、はしゃいでないでなにか手を考えてください! このままでは負けてしまいます!」
『大丈夫よココ。奥の手を使うわ』
「え?」
その瞬間、ココの左手首にリストバンドが出現した。何かをはめる基部がついている。
「まさか……」
ココはもう静かが何をさせようとしているのか、予想がついていた。
『さあ、もう一度変身しなさい!』
「ううーっ」
嫌々、右手を天高く掲げる。ポリゴンの波が重なり、犬の形をしたかたまり、ドッグゼクターが現れた。
「へ、変身!」
ガシャン! リストバンドにドッグゼクターを差し込む。
『HENSHIN』
ドッグゼクターが音声を発し、緑色の光がココを包み込む。
「うそ!?」
マイティは宙に浮いたまま、その光景を見つめた。
だが、現れたのは、普通に完全武装したハウリンだった。いや、バイザーにより顔は隠されているが。
「かっ、仮面ライダーハウリン!」
ポーズをとり、叫ぶココ。
『そのままキャストオフ!』
「き、キャストオフ!」
ドッグゼクターの尻尾を引っ張る。ガキン。ゼクターは口を大きく開けた。
『CASTOFF!』
エンジェルのときと同じく、アーマーが四方八方に飛び散る。
だから、誰もが中から現れるのは素体状態のハウリンだと思っていた。
だが。
『CHANGE,WEREDOG』
現れたのは全身をヴァッフェバニーのプロテクターで覆った、犬の頭の形をしたフェイスプロテクターをかぶったワードッグだった。
「なんだろう、体がすごく軽い。それに」
ココにとって、これが初めて「まともな」コスチュームだったのだ。
『さあ、ココ。やっておしまいなさい』
「は、はい!」
ドッグゼクターの頭を叩く。
『CLOCK,UP』
ふっ。ココの姿が消えた。
『マイティ避けろ!』
「避けろって!?」
ドゴッ!
「あうっ!」
左肩に衝撃。マイティは吹き飛ばされ、タンクの一つに激突。タンクは大きくへこんだ。水タンクだったらしく、ひびの入った部分や外れたパイプから水が勢い良く噴き出しはじめる。
『スピードが速すぎる。マイティ?』
「だ、大丈夫です」
地面に落ちたマイティは、再び立ち上がる。
「私だって教えられたんだから! クロックアップ!」
エンジェルゼクターのお腹の部分を押す。
『CLOCK,UP!』
ヴュウン。
世界が止まった。水しぶきは水滴一つ一つが空中に留まり、弾けたタンクの部品も宙に浮いたままになった。
水しぶきを弾き飛ばしながら、ココが走ってくる。走った後にはココの頭の形に水が形を作っている。
「見える」
マイティは相手が動かないと思い切っているココに渾身の回し蹴りを叩き込んだ。
「なにいっ!?」
ココは防御する間もなくけりを受け、転がる。
「クロックアップまで教えているなんて!?」
「静香さんは、公平な試合を望んでいます」
翼をはためかせ、マイティは突撃。ココはバック転で起き上がり、ライトセイバーを避ける。ライトセイバーは刃の発生が遅れ、ムチのようにしなっているため避けられたのだった。
ココは落としていたカロッテP12拳銃を乱射する。しかし発射された銃弾は目に見えるほど遅かった。マイティは難なく回避する。
少しでもタイムラグのある武器は、クロックアップ中は使えない。二人はほぼ同時に理解した。
マイティが間合いを取り始める。エンジェルゼクターの羽をたたみ、もう一度開かせる。
反応して背中の翼が分離する。しなやかに羽ばたいていた翼はまっすぐに固定され、マイティの左腕に装着され、弓の形をとる。
「レーザーならタイムラグはありません。これで決めます!」
右手で弦を引く動作を取ると、光の矢が出現した。
「させるかあ!」
ココが追ってダッシュ。ドッグゼクターの尻尾をもう一度引く。
今度はフェイスプロテクターの口がバカンと大きく開き、鋭い犬歯が現れる。
二人の距離が狭まる。ほとんどゼロ距離。
「ライダーシューティング!」
「ライダァァファング!!」
二人は同時に叫んだ。
閃光がフィールドを覆った。巨大なエネルギーが衝突したのだ。
「マイティ!」「ココ!」
オーナーはそれぞれパートナーを呼ぶ。
光が収まる。
『Clock,over』
ゼクターの機械音声。
ワードッグが立っていた。
右肩をレーザーの矢に貫かれたまま。
フェイスプロテクターの口には、白い神姫を銜えている。
『試合終了。Winner,ココ』
ジャッジAIが勝者を告げた。
「良い試合だった。完敗だ」
「マイティちゃんもお見事でしたわ。たった一週間で、変身システムを使いこなせていましたもの」
二人のオーナーは固く握手した。いつもどおりの握手に見えたが、健闘を称えあったオーナー同士の
友情が芽生え始めていた。
「マイティ……」
静香に隠れながら、ココは申し訳なさそうにマイティの方を見ている。
マイティは笑ってこう言った。
「次は負けないからね。ココちゃん」
「……うん!」
神姫同士の親愛も深まりあった試合であった。
後日……。
「だめだ」
「そんなぁ」
マイティが何度懇願しても、マスターは首を縦に振らなかった。
「あの変身システムはだめだ。非効率すぎるし、お前の戦い方には合わない」
「でも!」
マスターはしばらく黙った。
「……まあ、戸田静香嬢との試合のみなら、いいだろう」
「マスター……」
マイティは潤んだまなざしでマスターを見上げた。
そっぽを向いているマスターの頬に、おもむろにキスをする。
「お、おい!」
「えへへ。ありがとうございます」
背筋を正して、マイティはお辞儀をした。
その後も、たまにクローゼットの隅で何かをカチャカチャいじっているマイティの姿があった。
「このハイパーゼクターがあれば、うふふふふふふふふ……」
心配の種がまた一つ増えたような気がしたマスターであった。
了
[[前へ>インターバトル1「プレゼント」]] [[先頭ページ>Mighty Magic]] [[次へ>主義]]
[[前へ>インターバトル1「プレゼント」]] [[先頭ページ>Mighty Magic]] [[次へ>主義]]
*「変身!」
「愛ある限り戦いましょう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリン! ここに、はいぱー☆降臨っ!!」
そこには制服を着た犬型MMSハウリンではなく、魔法のステッキを模した長射程砲を振りかざした、魔法少女が立っていた。
気がつけばオーナーの女性も同じ格好をしている。
「な、な、なんだあれは?」
天使型MMSアーンヴァル『マイティ』のマスターは我が目を疑った。
「素敵よココー! 初めてばっちり言えたわね♪」
魔女っ子神姫ドキドキハウリンことココのオーナー、戸田静香が手を振った。魔女っ子神姫ドキドキハウリンことココは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「地の文! 連呼しないでください!」
いやはや、失礼。
当のマイティはココを見つめたまま固まっている。
「そ、それ……」
「あ、あなたも言う気か!」
ココは長射程砲を振りかざした。
しかし、マイティはココを指差し、あろうことかこう叫んだ。
「かっわいい~~~~~♪」
「わぁっぷ!」
マイティはココに抱きついた。ココは何が起きたのか分からず、長射程砲を振り上げたまま動けなかった。
「ねねねね、それどうしたの? 変身ってどうやったの!?」
ココの頭をなでたり背中をなでたりしながら質問攻めである。
「あ、あのちょっと、ひゃん!? 離してぇ……」
マスターは呆然として立体モニターを見つめ、静香は、
「きゃー、新展開よ!? 百合百合よー!」
とはしゃいでいる。
本日の試合、両者戦意喪失により、ドロー。
「一体今日はどうしたんだ」
帰り道、マスターは前を向いたまま言った。感情をあまり表に出さないマスターであったが、機嫌を悪くしていることはマイティにはよく見て取れた。
「すみません、つい……」
胸ポケットの中で、マイティはうずくまっていた。
「あんな……、マイティは初めて見た」
頭を掻きつつ、マスターは渋い顔をする。叱ってよいものかどうか迷っているのだ。
「それにまたどうして、再戦を希望したんだ」
試合後、マイティが戸田静香嬢と話しこんでいるのをマスターは思い出した。
「あの、マスター」
「なんだ」
「そのことなんですけれど、私に任せていただけませんか」
「??」
その日から、マイティはクローゼットの隅っこでカチャカチャと何かするようになった。マスターが何度様子を見ようとしても、
「覗かないでくださいっ!」
と一括された。
時折「うふふふふふふ」と奇妙な笑い声が聞こえて、料理中のマスターは指を切ってしまいそうになったりした。
(……一体あいつは何をやっているんだ?)
一週間が経った。
「健闘をお祈りいたしますわ」
「君もな」
あの時と同じように、二人のオーナーは握手する。
ハウリンのココも恥ずかしそうにしている。
だが、マイティだけは違った。妙に落ち着かないのだ。まるで早く戦いたいとでも言いたそうに。
「ココちゃん、私、がんばるからね」
「は、はい?」
ココはきょとんとした。対戦相手にかける言葉ではない。
彼らはそれぞれの持ち場へついた。
「マスター、打ち合わせの通りに、お願いしますね」
「あ、ああ。本当にやるのか?」
「もちろんです!」
マイティはポッドに入る。
マスターは気圧されて、マイティに言われたものをインプットした。
「バイクを欲しがったときからおかしいとは思っていたが……」
マスターは大きなため息を吐いた。
『バトルスタート:フィールド・化学工場22』
大小さまざまのタンクが林立し、金属パイプが幾重にもうねり繋がった化学工場の内部だった。破れた屋根の隙間や窓から、オレンジ色の夕日が差し込んでいる。
ココはいつもの制服で、瓦礫が転がる地面に立っていた。
「埃くさいな……」
服が汚れる、と心配になり、すぐにそんなことを思った自分が恥ずかしくなった。ここがバーチャル空間であると言うことにではなくて、すっかり衣服のことに気が行くコスプレイヤーになりつつあることに。
『ココ、前方より反応。高速ではないわ』
「アーンヴァルなのに?」
『徒歩よりは速いのだけれど。もうすぐ見えるわよ』
倉庫の正面口の向こうに土煙が立った。
「あれは……バイク?」
愛車V-MAXに乗って、マイティがやってきた。
「とう!」
掛け声一発、マイティが飛び降りる。V-MAXは自動的にブレーキをかけ停止。
マイティは何も武装していなかった。いや、ただ一つ、腰に大きめのベルトのようなものを巻いている以外は。
「マイティ……?」
『ココ、気をつけて。あの子変身するわよ』
「ええっ!?」
バッ、バッ!
マイティは片手に持った何かを、顔の横へ鋭く構える。ポリゴンが発生し、羽を閉じた鳥のようなかたまりが出現した。
「変身!」
そのかたまり、エンジェルゼクターを、ベルトのバックルへ横向きにガシャンと差し込んだ。
『HEN・SHIN』
エンジェルゼクターが無機的な音声を発し、真っ白な光がマイティを包み込む。
果たして立っていたのはマイティではなかった。
上半身を閉じた翼のような装甲で覆い、特徴的なヘルメット型バイザーをかぶった神姫がそこにいた。
「仮面ライダー、エンジェル!」
右手をぐぐっと握り、決めポーズ。
「そんなぁ……」
ココは呆気にとられてマイティを見ていた。
『ココ、何をしているの!?』
静香の声にハッ、と我に返ったココは、防弾版の仕込まれたカバンで体のセンターをかばいつつ、近くのタンクの陰へと走る。
案の定彼女を追うように青白いビーム弾が次々と飛来、斜線上にあったパイプを破壊する。廃棄された化学工場という設定であるから有毒化学物質は吹き出したりしないが、ビームが強力であることをココは分析した。カバンでは一、二発しか防げない。
マイティ、いや、仮面ライダーエンジェルの手には、散弾銃の形をした武器が握られている。
「あんな小さな武器から強力なビームを撃つなんて……」
タンクの陰からココは相手を確認する。制服の上に着ているコートから、カロッテP12拳銃を抜き、撃つ。
だが、仮面ライダーエンジェルのアーマーは拳銃弾を簡単にはじき返した。そのままのしのしとタンクのほうへ歩いてくる。
「だめだ、この装備じゃ倒しきれない……!」
仮面ライダーエンジェルが散弾銃をくるりと回転させる。その銃はストックの部分が鋭利な斧になっていた。
ぶんと回転させ、タンクごと切り上げる。巨大なタンクは下から真っ二つに切り裂かれ、左右に倒れた。
「やった!」
仮面ライダーエンジェルは勝利を確信。
『まだだマイティ、判定は出ていないぞ』
「!?」
倒れたタンクの奥からまばゆい光がマイティの視界を奪った。
続けて衝撃。二度、三度。マイティは防御体制をとる。ダメージはそれほどない。が、アーマーにひびが入る。
ココが飛び出す。
『ほらココ、名乗って!』
「こ、こんな時でも言うんですか!?」
『当たり前でしょう!』
「うぅ……。あ、愛ある限り戦いましょう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリン、ここに、はいぱー☆光臨!!」
ふわふわのスカートにひらひらのドレスを着た魔法少女が、高い足場の上に立っていた。
説明しよう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリンは、ノーマルの制服スタイルと比べて、攻撃力10倍、防御力3倍、スピード21倍、可憐さ100倍、愛らしさ70倍、特定のファンへの破壊力1000倍となるのだ! すごいぞ魔女っ子神姫ドキドキハウリン! 萌えるぞ魔女っ子神姫ドキドキハウリン!
「地の文黙れ!」
ぼがっ。私のほうへ向けて魔法のステッキが火を噴いた。ごめんなさい。ぐふっ。
「出たわね魔女っ子ドキリン!」
「ドキリンだって!?」
初めて名前を略され、魔女っ子神姫(ぼがっ)……ココは憤慨してしまった。いくら恥ずかしいとはいえ、オーナーから名づけられた名前を省略されるのはココにとっては嫌だった。
「その変身を待っていたのよ。私も本気を出させてもらいます!」
バッ、バッ!
仮面ライダーエンジェルは、ベルトのエンジェルゼクターを掴む。
「キャスト、オフッ!!」
ガキン! エンジェルゼクターを90度回転させる。頭の部分が上になり、手を離すと閉じられていた羽がシャキンと開く!
『CAST,OFF!』
エンジェルゼクターが叫んだかと思うと、仮面ライダーエンジェルの上半身を覆っていたアーマーが四方八方に弾けとんだ。
破片の一部は魔女っ(ぼがっ)ココの方にも飛んでくる。
「くうっ」
ココは間一髪のところで破片を避けきった。
ブワッ
「!?」
自分と同じ高さに、マイティがいた。
天使のような金属の翼を広げ、飛んでいる。顔はヘッドセンサー・アネーロに付けられたバイザーで覆われていた。
『CHANGE,ANGEL』
エンジェルゼクターが音声を発した。
「やあーっ!」
右手首に取り付けられたライトセイバーが伸び、襲い掛かる。
ココは何とかこれを回避。魔法のステッキが犠牲になる。
「速い!」
可能な限り間合いを取り、態勢を立て直す。
『すごいすごい! マイティちゃんも変身を使いこなせているわ!』
静香はきゃーきゃー言いながらはしゃいでいる。
「静香、はしゃいでないでなにか手を考えてください! このままでは負けてしまいます!」
『大丈夫よココ。奥の手を使うわ』
「え?」
その瞬間、ココの左手首にリストバンドが出現した。何かをはめる基部がついている。
「まさか……」
ココはもう静かが何をさせようとしているのか、予想がついていた。
『さあ、もう一度変身しなさい!』
「ううーっ」
嫌々、右手を天高く掲げる。ポリゴンの波が重なり、犬の形をしたかたまり、ドッグゼクターが現れた。
「へ、変身!」
ガシャン!
リストバンドにドッグゼクターを差し込む。
『HENSHIN』
ドッグゼクターが音声を発し、緑色の光がココを包み込む。
「うそ!?」
マイティは宙に浮いたまま、その光景を見つめた。
だが、現れたのは、普通に完全武装したハウリンだった。いや、バイザーにより顔は隠されているが。
「かっ、仮面ライダーハウリン!」
ポーズをとり、叫ぶココ。
『そのままキャストオフ!』
「き、キャストオフ!」
ドッグゼクターの尻尾を引っ張る。ガキン。ゼクターは口を大きく開けた。
『CASTOFF!』
エンジェルのときと同じく、アーマーが四方八方に飛び散る。
だから、誰もが中から現れるのは素体状態のハウリンだと思っていた。
だが。
『CHANGE,WEREDOG』
現れたのは全身をヴァッフェバニーのプロテクターで覆った、犬の頭の形をしたフェイスプロテクターをかぶったワードッグだった。
「なんだろう、体がすごく軽い。それに」
ココにとって、これが初めて「まともな」コスチュームだったのだ。
『さあ、ココ。やっておしまいなさい』
「は、はい!」
ドッグゼクターの頭を叩く。
『CLOCK,UP』
ふっ。ココの姿が消えた。
『マイティ避けろ!』
「避けろって!?」
ドゴッ!
「あうっ!」
左肩に衝撃。マイティは吹き飛ばされ、タンクの一つに激突。タンクは大きくへこんだ。水タンクだったらしく、ひびの入った部分や外れたパイプから水が勢い良く噴き出しはじめる。
『スピードが速すぎる。マイティ?』
「だ、大丈夫です」
地面に落ちたマイティは、再び立ち上がる。
「私だって教えられたんだから! クロックアップ!」
エンジェルゼクターのお腹の部分を押す。
『CLOCK,UP!』
ヴュウン。
世界が止まった。水しぶきは水滴一つ一つが空中に留まり、弾けたタンクの部品も宙に浮いたままになった。
水しぶきを弾き飛ばしながら、ココが走ってくる。走った後にはココの頭の形に水が形を作っている。
「見える」
マイティは相手が動かないと思い切っているココに渾身の回し蹴りを叩き込んだ。
「なにいっ!?」
ココは防御する間もなくけりを受け、転がる。
「クロックアップまで教えているなんて!?」
「静香さんは、公平な試合を望んでいます」
翼をはためかせ、マイティは突撃。ココはバック転で起き上がり、ライトセイバーを避ける。ライトセイバーは刃の発生が遅れ、ムチのようにしなっているため避けられたのだった。
ココは落としていたカロッテP12拳銃を乱射する。しかし発射された銃弾は目に見えるほど遅かった。マイティは難なく回避する。
少しでもタイムラグのある武器は、クロックアップ中は使えない。二人はほぼ同時に理解した。
マイティが間合いを取り始める。エンジェルゼクターの羽をたたみ、もう一度開かせる。
反応して背中の翼が分離する。しなやかに羽ばたいていた翼はまっすぐに固定され、マイティの左腕に装着され、弓の形をとる。
「レーザーならタイムラグはありません。これで決めます!」
右手で弦を引く動作を取ると、光の矢が出現した。
「させるかあ!」
ココが追ってダッシュ。ドッグゼクターの尻尾をもう一度引く。
今度はフェイスプロテクターの口がバカンと大きく開き、鋭い犬歯が現れる。
二人の距離が狭まる。ほとんどゼロ距離。
「ライダーシューティング!」
「ライダァァファング!!」
二人は同時に叫んだ。
閃光がフィールドを覆った。巨大なエネルギーが衝突したのだ。
「マイティ!」「ココ!」
オーナーはそれぞれパートナーを呼ぶ。
光が収まる。
『Clock,over』
ゼクターの機械音声。
ワードッグが立っていた。
右肩をレーザーの矢に貫かれたまま。
フェイスプロテクターの口には、白い神姫を銜えている。
『試合終了。Winner,ココ』
ジャッジAIが勝者を告げた。
「良い試合だった。完敗だ」
「マイティちゃんもお見事でしたわ。たった一週間で、変身システムを使いこなせていましたもの」
二人のオーナーは固く握手した。いつもどおりの握手に見えたが、健闘を称えあったオーナー同士の友情が芽生え始めていた。
「マイティ……」
静香に隠れながら、ココは申し訳なさそうにマイティの方を見ている。
マイティは笑ってこう言った。
「次は負けないからね。ココちゃん」
「……うん!」
神姫同士の親愛も深まりあった試合であった。
後日……。
「だめだ」
「そんなぁ」
マイティが何度懇願しても、マスターは首を縦に振らなかった。
「あの変身システムはだめだ。非効率すぎるし、お前の戦い方には合わない」
「でも!」
マスターはしばらく黙った。
「……まあ、戸田静香嬢との試合のみなら、いいだろう」
「マスター……」
マイティは潤んだまなざしでマスターを見上げた。
そっぽを向いているマスターの頬に、おもむろにキスをする。
「お、おい!」
「えへへ。ありがとうございます」
背筋を正して、マイティはお辞儀をした。
その後も、たまにクローゼットの隅で何かをカチャカチャいじっているマイティの姿があった。
「このハイパーゼクターがあれば、うふふふふふふふふ……」
心配の種がまた一つ増えたような気がしたマスターであった。
了
[[前へ>インターバトル1「プレゼント」]] [[先頭ページ>Mighty Magic]] [[次へ>主義]]
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: