「第八話『剣狼』」(2008/01/22 (火) 12:15:29) の最新版変更点
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ステージは障害物のない『田舎』ステージだった。
このステージには疎らに点在する農家とトラクター、そして背丈ほどに伸びた、あたり一面を覆いつくす麦畑しかない。
イメージ的にはイギリス辺りの農家だろうか。
・・・・そんなのどかな風景を、一機の人型兵器が滑るように走っていた。
ノワールである。
「・・・・・ここ、好き」
彼女はとてものんびりとそういった。どうもこの風景が気に入ったらしい。
そんな彼女の装備は、あまりにもその風景に似つかわしくない。
チーグルの両手に装備されたAC用SMGはその美しいガンブルーを日に照らしていたしチーグルの両肩にはミサイルポッド、ザバーカの脚部にもミサイルポッドを二門装備。彼女自身の腿の部分にはハンドガンが二挺ぶら下がっていたし極めつけは両手で抱えた巨大ガトリング、『ダストスイーパー』を所持しているからだ。
『・・・気に入るのはいいがね。少しは緊張感持ったらどうだ?』
その余りなのんびりぶりに、思わず都が突っ込んだ。
彼女は普段はこんな口調で話す。
「・・・ヤー、マイスター」
いさめられたノワールはレーダーを使い周囲を索敵する。すると彩女はすぐに見つかった。
「・・・・・なんで?」
麦畑の隣、トラクター用の道に彼女は仁王立ちしていたのだ。
*ホワイトファング・ハウリングソウル
*第八話
*『剣狼』
『・・・おい、何か某巨大人型兵器みたいな奴が来たぞ』
ノワールを始めてみた記四季の感想はそれだった。
なにせノワールの武装はノーマルのストラーフ装備、しかしそこに様々な追加武装を加えることであらゆる局面に対応できるようにされている。そのため、武装次第で容姿は大きく変わるのだ。現に今も密度が凄い。
「あれだけ大きいと普通は鈍重なはずなのですが・・・腰に付けられたブースターで高速移動してくるようですね。しかし、どう考えても武装過多でしょうあれ。私一人にあの武装はないかと存じますが」
そういって彩女は隠れていた麦畑からゆっくりと出る。
そのままトラクター用の道に仁王立ちになった。
『・・・・おい、何のつもりでぇ』
「機銃掃射されたら逃げ場がありません。私自身をおとりにして、少しでも相手を近寄らせます。そして踏み込みで不意を撃つ・・・と言う作戦で御座いますが?」
そういうと彼女は刀に手をやり走る準備をする。
すでにノワールはこちらに気づき、近づこうと・・・してはいなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あら?」
結構な距離を置いて、ノワールは理解しがたいものを見るような目でこちらを見ていた。
その瞳は語る、『何やってんの?』と。
『・・・ゲリラみたくよ。麦に隠れて近づいてくるのを待ったほうが良かったんじゃねぇのか』
凍り付いた空気に記四季が的確なツッコミを入れる。
「・・・・いえ、私としては一騎打ちを・・・ですね」
しどろもどろになる彩女だが、そうしている間にノワールは既にロックオンを終えていた。
チーグルの右手が動きSMGの機銃掃射が放たれる。
「――――――!」
それを、彩女は横に大きく跳んで避ける。
しかしノワールも無言でしっかりと照準を合わせ確実に追ってくる。
彩女はノワールを中心に円を描くように走り続ける。その円は徐々に狭まりノワールへと近づく。
踏み込みの範囲に近づいた彩女はノワールのザバーカを断とうと足に力を入れる。しかしその瞬間
「――――――なッ!?」
ザバーカに付けられたミサイルポッドが火を吹きミサイルを発射する。それは避けようの無い距離だった ――――が
彩女の感覚が研ぎ澄まされる
世界の音が無くなり、ミサイルの進む先がはっきりとわかる
擬似神経の伝達速度を超えて彩女の足は動き
紙一重の所で横に跳び、それを回避しそのままノワールの横を走り抜ける。そして記四季の提案通り麦畑の中に身を低くして隠れた。
「・・・・驚いた。全身武器ですか彼女は」
『だぁら言ったろうが。お前さんは今まであんなごてごてしたのと戦ったこと無いだろう? ああいうのは隠し武器の一つや二つ持ってるもんだっての』
「全くその通りで。・・・・しかしこうなると正面からの一騎打ちは無理ですね」
『お前こだわり過ぎ。しかし修行の成果、地味に出てるじゃねぇか。俺ぁあのミサイルで決まったと思ったんだがな』
「・・・・・・・あ、そういえば」
あの瞬間、まるで時間が止まったかのように思えた。
おまけに彩女自身のスペックからは想像もつかない速度で彼女の足は動いたのだ。それは少し前、BB弾を避ける修行で見せた、あのときの動きと全く同じだった。
『まぁ問題はこの後だ。基本遠距離用だが、クロの装備は相手を近寄らせないように出来てる。そいつをどうするかってことなんだが・・・』
記四季の言葉に、彩女は麦畑から少し耳を出して様子を探る。
ノワールは結構離れた場所で同じように周囲をさぐっていた。その顔にもはやのんびりしたものは無く、彼女デフォルトの無表情に戻っている。
「・・・まだ見つかってないようですね。この鎧のお陰でしょうか」
彩女はそういいながら鎧の胸に手を当てる。
それはノーマルの紅緒の鎧なのだが・・・材質や表面に工夫を行い加工されている。それにより付加された効果はステルス能力だった。レーダーなどの索敵に対しその効果を完全に無効化する。それが彼女の鎧の力である。・・・流石に肉眼で確認されたらどうしようもないが、隠れている限りは絶対に見つからないだろう。
だが、隠れているだけでは勝てない。
彩女の武装は近距離用しかないのだ。
「主、前回のような奇策は何か御座いませぬか」
『奇策・・・奇策ねぇ・・・』
記四季は考える。
彩女を勝たせる方法を。
『田舎ステージでここは麦畑だから・・・小麦があるな・・・そいつで粉塵爆発・・・いやいや・・・・』
記四季はそういいながら筐体の外から、ステージを見渡す。
そこには本当に何もない。水車小屋と数件の家が疎らにあるだけで、ほかは全部麦畑だ。
と、一陣の風が吹き、麦畑が揺れた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・狼と香辛料』
「は?」
『ここは風上・・・賢狼・・・狼が・・・・・・・・・・走る?』
「あの、主。一体何をおっしゃっているのですか・・・?」
いきなりなにやら呟きだした記四季の言葉に、彩女が不安な様子で問いかける。
狼と香辛料というのは確か記四季が好きな本のはずだ。いきなりタイトルを呟いた記四季は何が言いたいのだろう。
『・・・おい彩女。お前は・・・犬型だったか』
「はぁ・・・メーカー側によると『白狼型』になってますけけど。基本は犬型とそう変わりは・・・・」
『そうか。だったらお前に相応しい奇策がある。・・・乗るか?』
記四季が神妙にそういうと、彩女はとても嬉しそうな顔で
「是非に。私は貴方の犬なれば」
そう、答えた。
----
「・・・・・・・・・・・・あぁ・・・昼寝・・・したい」
風下にいるノワールは警戒しつつ呟いた。
『寝たら怒るぞ。今月はピンチなんだからな』
そのノワールの言葉に、即座に都の突っ込みが入る。
今回のバトルに都は割りと真剣である。
勝てば生活費が入り尚且つキャンペーンの客を一人ゲットできるのだ。あと一人でノルマ達成、ここで負けたらそれも全て水の泡だ。
「・・・・マイスター・・・・お金にルーズ」
そういうとノワールは空を見上げる。
風が、吹いていた。
『しかし・・・彩女はどこに隠れたんだ。レーダーにも反応が無いし・・・キャンセルできる装備を持っていたのか・・・?』
そういって都は筐体の外から辺りを見渡す。
そこにはやっぱり何も無く、麦穂が風に揺れているだけだった。
風に揺れて金色の絨毯に影が出来る。それはまるで海のようだった。
はるか昔、この影の事を人は『狼が走る』と呼んだそうだ。なるほど、確かに金色の絨毯を揺らし影が出来るこの光景は、麦畑を狼が走っている様に見えなくも無い。
この畑には無数の狼が走っているようだ。
『・・・暇だな』
「・・・・・・ん」
暇といいつつもノワールは警戒を緩めない。
効果があるのか判らないが一応レーダーも使い、少しの変化も見逃さぬようにと目を光らせる。
警戒は万全だった。ノワールのレーダーには何の反応も無く、また彼女の肉眼でも彩女の姿は確認できていない。
間違いなく、彩女はそこにはいないはずだった・・・はずだったのだ。
「―――――――え?」
すぐ傍の麦穂の中から、彩女が飛び出してくるまでは。
----
「―――――――奥義・零閃」
そう呟き飛び出した彩女は、一瞬でチーグルの右腕を切断し、両足に取り付けられていたミサイルポッドを両断する。
彩女は刀を返しノワールを両断せんと振りかぶるが
「―――――――――ッ!!」
ノワールは背中のブースターを全開にしその場を一気に離脱した。
彩女はそれを深追いせずに麦畑にまた潜る。
ノワールが振り返ったときには、彩女はもうそこにいなかった。
『馬鹿な・・・! 何もいなかったはずだ!!』
都は思わず叫ぶ。
そう、確かにさっきまでそこには何もいなかったのだ。・・・先程までは。
「・・・・なに、今の」
ノワールはガトリング『ダストスイーパー』を構えながら警戒する。
麦畑には何の異常も無い。さっきと同じく狼が走っているだけだ。
『・・・・まさか・・・風の動きを読んで、それにあわせて移動していると言うのか!?』
そう、それはとても単純な事だった。
麦畑にいる以上、動けばその軌跡が見える。彩女のように走るのならば尚更だ。そうすれば敵にも見つかりやすくなる。
ならばどうするか。
――――風と共に移動し、風と共に止まる。
風が吹けば麦が揺れ、影が出来る。影は狼となり麦畑を気ままに走り回る。その狼達とともに、彩女は走る。
黒い狼達の群の中に、一匹だけ朱に染まり銀の髪を持つ雌狼が地を駆ける。
そう、彩女は今、狼と共に戦っている ―――――!
『狼は群を作る ―――つまりはそういうことだ。彩女は今、筐体の中に一人じゃねぇ。外には俺がいるし・・・中には仲間がいるのさ』
記四季が、筐体の向こう側にいる都を見てにやりと笑う。
これが自然と共に生き、自然を味方につける男の奇策。
奇策師、七瀬記四季 ――――――!
「マイスター! どこだかわからない・・・!」
そういいながらノワールはガトリングを構える。
警戒しているノワールの頬を、一筋の汗が伝う。
『ノワール! 影だ! 麦畑に出来た影を狙え! 奴はそこにいる!』
都はそういうが、しかし麦畑の狼は数が多すぎる。
―――まるで、彩女を守るかのように。
と、ちょうどノワールの正面にいた狼が走り・・・・そこから彩女が飛び出してきた。
「――――――――!!」
彩女の刀は鞘に収められ、今まさに抜かれんとしている
ノワールはガトリングを落とし、右腕でハンドガンを抜く
互いの視線が交錯し、互いの得物が向けられる
――――――そして、二人は意識を失った。
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ステージは障害物のない『田舎』ステージだった。
このステージには疎らに点在する農家とトラクター、そして背丈ほどに伸びた、あたり一面を覆いつくす麦畑しかない。
イメージ的にはイギリス辺りの農家だろうか。
・・・・そんなのどかな風景を、一機の人型兵器が滑るように走っていた。
ノワールである。
「・・・・・ここ、好き」
彼女はとてものんびりとそういった。どうもこの風景が気に入ったらしい。
そんな彼女の装備は、あまりにもその風景に似つかわしくない。
チーグルの両手に装備されたAC用SMGはその美しいガンブルーを日に照らしていたしチーグルの両肩にはミサイルポッド、ザバーカの脚部にもミサイルポッドを二門装備。彼女自身の腿の部分にはハンドガンが二挺ぶら下がっていたし極めつけは両手で抱えた巨大ガトリング、『ダストスイーパー』を所持しているからだ。
『・・・気に入るのはいいがね。少しは緊張感持ったらどうだ?』
その余りなのんびりぶりに、思わず都が突っ込んだ。
彼女は普段はこんな口調で話す。
「・・・ヤー、マイスター」
いさめられたノワールはレーダーを使い周囲を索敵する。すると彩女はすぐに見つかった。
「・・・・・なんで?」
麦畑の隣、トラクター用の道に彼女は仁王立ちしていたのだ。
*ホワイトファング・ハウリングソウル
*第八話
*『剣狼』
『・・・おい、何か某巨大人型兵器みたいな奴が来たぞ』
ノワールを始めてみた記四季の感想はそれだった。
なにせノワールの武装はノーマルのストラーフ装備、しかしそこに様々な追加武装を加えることであらゆる局面に対応できるようにされている。そのため、武装次第で容姿は大きく変わるのだ。現に今も密度が凄い。
「あれだけ大きいと普通は鈍重なはずなのですが・・・腰に付けられたブースターで高速移動してくるようですね。しかし、どう考えても武装過多でしょうあれ。私一人にあの武装はないかと存じますが」
そういって彩女は隠れていた麦畑からゆっくりと出る。
そのままトラクター用の道に仁王立ちになった。
『・・・・おい、何のつもりでぇ』
「機銃掃射されたら逃げ場がありません。私自身をおとりにして、少しでも相手を近寄らせます。そして踏み込みで不意を撃つ・・・と言う作戦で御座いますが?」
そういうと彼女は刀に手をやり走る準備をする。
すでにノワールはこちらに気づき、近づこうと・・・してはいなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あら?」
結構な距離を置いて、ノワールは理解しがたいものを見るような目でこちらを見ていた。
その瞳は語る、『何やってんの?』と。
『・・・ゲリラみたくよ。麦に隠れて近づいてくるのを待ったほうが良かったんじゃねぇのか』
凍り付いた空気に記四季が的確なツッコミを入れる。
「・・・・いえ、私としては一騎打ちを・・・ですね」
しどろもどろになる彩女だが、そうしている間にノワールは既にロックオンを終えていた。
チーグルの右手が動きSMGの機銃掃射が放たれる。
「――――――!」
それを、彩女は横に大きく跳んで避ける。
しかしノワールも無言でしっかりと照準を合わせ確実に追ってくる。
彩女はノワールを中心に円を描くように走り続ける。その円は徐々に狭まりノワールへと近づく。
踏み込みの範囲に近づいた彩女はノワールのザバーカを断とうと足に力を入れる。しかしその瞬間
「――――――なッ!?」
ザバーカに付けられたミサイルポッドが火を吹きミサイルを発射する。それは避けようの無い距離だった ――――が
彩女の感覚が研ぎ澄まされる
世界の音が無くなり、ミサイルの進む先がはっきりとわかる
擬似神経の伝達速度を超えて彩女の足は動き
紙一重の所で横に跳び、それを回避しそのままノワールの横を走り抜ける。そして記四季の提案通り麦畑の中に身を低くして隠れた。
「・・・・驚いた。全身武器ですか彼女は」
『だぁら言ったろうが。お前さんは今まであんなごてごてしたのと戦ったこと無いだろう? ああいうのは隠し武器の一つや二つ持ってるもんだっての』
「全くその通りで。・・・・しかしこうなると正面からの一騎打ちは無理ですね」
『お前こだわり過ぎ。しかし修行の成果、地味に出てるじゃねぇか。俺ぁあのミサイルで決まったと思ったんだがな』
「・・・・・・・あ、そういえば」
あの瞬間、まるで時間が止まったかのように思えた。
おまけに彩女自身のスペックからは想像もつかない速度で彼女の足は動いたのだ。それは少し前、BB弾を避ける修行で見せた、あのときの動きと全く同じだった。
『まぁ問題はこの後だ。基本遠距離用だが、クロの装備は相手を近寄らせないように出来てる。そいつをどうするかってことなんだが・・・』
記四季の言葉に、彩女は麦畑から少し耳を出して様子を探る。
ノワールは結構離れた場所で同じように周囲をさぐっていた。その顔にもはやのんびりしたものは無く、彼女デフォルトの無表情に戻っている。
「・・・まだ見つかってないようですね。この鎧のお陰でしょうか」
彩女はそういいながら鎧の胸に手を当てる。
それはノーマルの紅緒の鎧なのだが・・・材質や表面に工夫を行い加工されている。それにより付加された効果はステルス能力だった。レーダーなどの索敵に対しその効果を完全に無効化する。それが彼女の鎧の力である。・・・流石に肉眼で確認されたらどうしようもないが、隠れている限りは絶対に見つからないだろう。
だが、隠れているだけでは勝てない。
彩女の武装は近距離用しかないのだ。
「主、前回のような奇策は何か御座いませぬか」
『奇策・・・奇策ねぇ・・・』
記四季は考える。
彩女を勝たせる方法を。
『田舎ステージでここは麦畑だから・・・小麦があるな・・・そいつで粉塵爆発・・・いやいや・・・・』
記四季はそういいながら筐体の外から、ステージを見渡す。
そこには本当に何もない。水車小屋と数件の家が疎らにあるだけで、ほかは全部麦畑だ。
と、一陣の風が吹き、麦畑が揺れた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・狼と香辛料』
「は?」
『ここは風上・・・賢狼・・・狼が・・・・・・・・・・走る?』
「あの、主。一体何をおっしゃっているのですか・・・?」
いきなりなにやら呟きだした記四季の言葉に、彩女が不安な様子で問いかける。
狼と香辛料というのは確か記四季が好きな本のはずだ。いきなりタイトルを呟いた記四季は何が言いたいのだろう。
『・・・おい彩女。お前は・・・犬型だったか』
「はぁ・・・メーカー側によると『白狼型』になってますけけど。基本は犬型とそう変わりは・・・・」
『そうか。だったらお前に相応しい奇策がある。・・・乗るか?』
記四季が神妙にそういうと、彩女はとても嬉しそうな顔で
「是非に。私は貴方の犬なれば」
そう、答えた。
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「・・・・・・・・・・・・あぁ・・・昼寝・・・したい」
風下にいるノワールは警戒しつつ呟いた。
『寝たら怒るぞ。今月はピンチなんだからな』
そのノワールの言葉に、即座に都の突っ込みが入る。
今回のバトルに都は割りと真剣である。
勝てば生活費が入り尚且つキャンペーンの客を一人ゲットできるのだ。あと一人でノルマ達成、ここで負けたらそれも全て水の泡だ。
「・・・・マイスター・・・・お金にルーズ」
そういうとノワールは空を見上げる。
風が、吹いていた。
『しかし・・・彩女はどこに隠れたんだ。レーダーにも反応が無いし・・・キャンセルできる装備を持っていたのか・・・?』
そういって都は筐体の外から辺りを見渡す。
そこにはやっぱり何も無く、麦穂が風に揺れているだけだった。
風に揺れて金色の絨毯に影が出来る。それはまるで海のようだった。
はるか昔、この影の事を人は『狼が走る』と呼んだそうだ。なるほど、確かに金色の絨毯を揺らし影が出来るこの光景は、麦畑を狼が走っている様に見えなくも無い。
この畑には無数の狼が走っているようだ。
『・・・暇だな』
「・・・・・・ん」
暇といいつつもノワールは警戒を緩めない。
効果があるのか判らないが一応レーダーも使い、少しの変化も見逃さぬようにと目を光らせる。
警戒は万全だった。ノワールのレーダーには何の反応も無く、また彼女の肉眼でも彩女の姿は確認できていない。
間違いなく、彩女はそこにはいないはずだった・・・はずだったのだ。
「―――――――え?」
すぐ傍の麦穂の中から、彩女が飛び出してくるまでは。
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「―――――――奥義・零閃」
そう呟き飛び出した彩女は、一瞬でチーグルの右腕を切断し、両足に取り付けられていたミサイルポッドを両断する。
彩女は刀を返しノワールを両断せんと振りかぶるが
「―――――――――ッ!!」
ノワールは背中のブースターを全開にしその場を一気に離脱した。
彩女はそれを深追いせずに麦畑にまた潜る。
ノワールが振り返ったときには、彩女はもうそこにいなかった。
『馬鹿な・・・! 何もいなかったはずだ!!』
都は思わず叫ぶ。
そう、確かにさっきまでそこには何もいなかったのだ。・・・先程までは。
「・・・・なに、今の」
ノワールはガトリング『ダストスイーパー』を構えながら警戒する。
麦畑には何の異常も無い。さっきと同じく狼が走っているだけだ。
『・・・・まさか・・・風の動きを読んで、それにあわせて移動していると言うのか!?』
そう、それはとても単純な事だった。
麦畑にいる以上、動けばその軌跡が見える。彩女のように走るのならば尚更だ。そうすれば敵にも見つかりやすくなる。
ならばどうするか。
――――風と共に移動し、風と共に止まる。
風が吹けば麦が揺れ、影が出来る。影は狼となり麦畑を気ままに走り回る。その狼達とともに、彩女は走る。
黒い狼達の群の中に、一匹だけ朱に染まり銀の髪を持つ雌狼が地を駆ける。
そう、彩女は今、狼と共に戦っている ―――――!
『狼は群を作る ―――つまりはそういうことだ。彩女は今、筐体の中に一人じゃねぇ。外には俺がいるし・・・中には仲間がいるのさ』
記四季が、筐体の向こう側にいる都を見てにやりと笑う。
これが自然と共に生き、自然を味方につける男の奇策。
奇策師、七瀬記四季 ――――――!
「マイスター! どこだかわからない・・・!」
そういいながらノワールはガトリングを構える。
警戒しているノワールの頬を、一筋の汗が伝う。
『ノワール! 影だ! 麦畑に出来た影を狙え! 奴はそこにいる!』
都はそういうが、しかし麦畑の狼は数が多すぎる。
―――まるで、彩女を守るかのように。
と、ちょうどノワールの正面にいた狼が走り・・・・そこから彩女が飛び出してきた。
「――――――――!!」
彩女の刀は鞘に収められ、今まさに抜かれんとしている
ノワールはガトリングを落とし、右腕でハンドガンを抜く
互いの視線が交錯し、互いの得物が向けられる
――――――そして、二人は意識を失った。
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