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*ヤイバと白い馬 後編
「こら白雷、じっとしていてください」
白雷が我が家に着てから数日が過ぎました。最初は戸惑っていました白雷も、今ではすっかりここの生活に慣れました。でも、時々暴れたりするのは変わりありませんでした。
「ぶるるるるる」
今も身体を洗っているのに落ち着いてくれないのです。これでは洗う方はたまったものではありません。
「あっ、そんなに暴れたら…うわっ」
身体をぶるぶるさせ、あわや水をまわりに撒き散らせてしまいました。もちろん、私も水まみれです。
「白雷…」
いつもこんな調子ですから、余計に手がかかってしまいます。緒方殿の気持ちも分かる気がします。
どうにか白雷の身体を拭き終えると、今度はリラックスさせるためにマッサージをしてあげます。え?ロボット馬なのになぜマッサージが必要ですかって?それはマッサージする事によって、精神を落ち着かせる効果があるからです。この前、電話で緒方殿に教えていただきました。
「どうですか白雷、気持ちいいですか」
背中をマッサージしながら、私は百雷に声をかけてあげます。白雷はぶるるると声を上げて自分の気持ちをアピールします。
「そうですか、他にもマッサージして欲しいところはありますか?」
白雷は頭を下げて、横に振りました。どうやらこれで満足した様子です。
「それでは、今日のところは部屋に戻って休みましょう。さあ、こちらへ行きましょう」
私は手綱を引いて、白雷を部屋へ誘導します。白雷は素直に従い、自分の部屋へと入っていきました。
「今日は疲れているみたいですから、ゆっくり休んでくださいね」
静かに部屋のドアを閉じ、私は台所へ向かいます。そろそろ主が帰ってくる時間だからです。
「さあ、テーブルの上を片付けますか」
主の家は1DKですので、台所はある程度の広さがあります。そこには主が食事をするテーブルがひとつ、椅子が二つあります。私はテーブルの上をモップで拭いていきます。
しばらくして、玄関から足音が聞こえてきました。どうやら主が帰ってきたようです。
「ただいま」
「おかえりなさい。今日はすこし遅かったですね」
「ああ、今日は残業があったからね」
いつものように会話をかわす主は隣の部屋に入り、着替えに入りました。
(主も結構忙しいのですね)
私はそんな主の背中を見おくった後、テーブルの掃除を仕上げました。
暫くして、着替えを終えた主が台所に戻ってきました。
「いつもご苦労さん。毎日掃除をしてくれるのはありがたいよ」
主は私の頭を撫でてくれました。これもいつもの習慣ですね。でも、この瞬間が良いと思うのです。
「ど、どうもありがとうございます」
照れながら私はお礼を言いました。いつものことですが、主に頭を撫でられると、つい…。
「さて、今日の晩御飯でも作るとするか。ヤイバ、材料持ってきてくれないか」
「はい、只今」
こうしていつものように夜は更けていくのでした。明日も白雷の世話をしないといけませんから、今日は早く寝る事にしましょう…。
百雷と一緒に暮らすようになってからもう一ヶ月を過ぎようとしていました。でも、白雷は私の言う事を聞くようにはなったものの、自分の背に乗せようとはしませんでした。本当に馬が心を許しているのならば、自分の背に主人を乗せる行為をするはずなのです。
「どうしたのですか白雷、私を許していないのですか」
しかし、白雷は何も答えてくれません。ただ首を横に振っているだけです。
(どうすればいいのでしょう、白雷は私のことを気に入ってくれたわけではなかったのでしょうか…。それとも何か悪いことでもしてしまったのでしょうか)
私は白雷の態度を見て悩みました。せっかく白雷の主人になったのだから、彼の心を分かってあげないといけません。でも、なぜこんなことをするのかわかりません…。
「私はどうしたらよいのでしょう」
もう私は、どうすれば白雷の気持ちを分かってあげる事ができるのか分かりません。その場にうずくまった私は、泣き出しそうになりました。
(どうして私はこんなにダメなのでしょう…。白雷が思っていることを理解することができないなんて…)
そのとき、突然地震が起きました。激しい揺れに私は身震いしました。もう動く事すらできません。私は揺れが納まるまでただじっとしているしかありませんでした。
暫くすると揺れはおさまり、周りは静かさを取り戻しました。
(助かった…)
ホッとして私は起き上がろうとしたそのときでした。いきなり白雷がこちらに駆け寄り、私の襟元を噛み付き、そのまま引っ張っていくではありませんか。
「びゃ、白雷、一体どうしたというのですか?」
私の言葉に耳を貸さずに彼はぐいぐいと私を引っ張っていきます。するとその直後…。
上の棚からダンボールが落ちてきたのです。ダンボールは私がうずくまっていた場所に落ち、中身を散ら化しながら床の下に落ちていきました。
「…白雷、君は私を助けるために私の襟元を…」
白雷が行った行為はいたずらでも嫌がらせでもありませんでした。私を助けるためにこのようなことをしたのです。もしあの場所にとどまっていたら、私は大ケガを追っていたに違いありません。
「ま、まさか白雷、君は私の気持ちを…」
白雷は知っていたのです、私が一生懸命仲良くなろうとした事を。そして自分のことで悩んでいるということも。それなのに、私はぜんぜん分かっていなかった…いえ、分かろうとはしなかったのかもしれません…。
「…白雷、ごめんなさい…。君は私の事に理解を示していたのに、なのに私は…」
再びしゃがみこんだ私に、白雷は静かに、そして優しく私の頬を鼻の先でなでてくれました。
「こんな私を…許してくれるのですか?」
白雷はゆっくりと首を縦に振りました。そして首を下に下ろしたかと思うと、そのまま私を自分の背中へと運んでいきました。
「私を、自分の背中に…」
その瞬間、白雷は野太い声を鳴らしながら嬉しそうに走り出しました。そう、もう白雷は私を本当のパートナーとして認めたのです。
「ありがとう…ありがとう白雷…」
もう目から涙があふれて前が見えません。私は喜びのあまり嬉し涙を流していました。
「そうか、そんなことがあったのか」
その日の夜、私は主に白雷のことを話しました。
「驚きました、あれだけ背中に乗せるのを嫌がっていた白雷が、いきなり許したのですから」
主は頷きながら私のお話を聞いていました。やはり主もそのことを心配していたらしく、時々驚きの色が見え隠れしていました。
「で、その白雷は今どうしているんだ?」
「そ、それが…」
私は主を白雷のいる場所へ案内しました。私専用の茶室のふすまを開け、中をのぞいてみると…。
「白雷、そんなところにいたのか」
何と白雷は私の茶室の真ん中に座っているのです。しかも満足そうに。
「これはヤイバ、一本とられたな」
「はい…、これには私も参りました。お気に入りの茶室の真ん中に座られては、どうしようもありません」
どうやら白雷はここが気に入ってしまったようです。仕方がないので、私は茶室を彼に譲る事にしました。 これで私の楽しみである茶道を嗜む事が出来なくなりましたが、白雷の嬉しそうな姿を見られるのならそれでいいのです。
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