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「ねここの飼い方・その絆 ~一章~」(2008/01/27 (日) 01:43:03) の最新版変更点
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人影の消えた町並み。
街も空も冷たく重たい雰囲気を纏い、ザーザーと耳障りな雨音のみが空間を支配しているかのよう。
そんな中、傘もささず、雨に濡れるに任せたまま、ただただ悄然と力なく地面を見つめながら歩く1つの人影。
愛くるしい大きな瞳を持ち、まだあどけなさの残る、美少女といって差し支えないほどの整った顔立ちをしている。
だけどもソレは人と呼ぶにはあまりにも小さく、人の十分の一以下にしか見えないサイズ。
それはまるで人形のような、か細く小さな存在。しかし、人形ではない。彼女は1人で歩いている。
だが、その瞳に光は無く、足取りは機械的ですらあり、その印象は可憐な妖精ではなく……壊れかけたマリオネット。
やがて、人であれば問題が無いほどの、極僅かなアスファルトの隆起に足をとられ、そのまま力なく倒れこむ少女。
「……なさぃ…………ごめん…………」
光を失った瞳からは、壊れた蛇口のように止め処なく涙が溢れ、本来ならば可憐な小鳥の囀りのような声が発するのは、自責の念に駆られた絶望の言葉。
「みさにゃん……ごめん……なさぃ……」
やがて、少女はその倒れた体勢のまま、凍り付くように動きを……止めた。
西暦2036年。
第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、2006年現在からつながる当たり前の未来。
その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。
神姫、そしてそれは、全項15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。
多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。
その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。
オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ。
~ねここの飼い方・その絆 ~
~ 一章 ~
「ぽへ~……」
「良い天気ねぇ……」
秋も深まってきた時期だと言うのに、今年はまだまだ暖かい、そんな日々。
そんな中の休日。私は何処へ出かけるでもなく、ねここと2人、縁側でちょっと時期はずれの日向ぼっこを満喫中だったりする。
縁側に足を投げ出し、頭には枕代わりに半分に折った座布団を敷いて、どでーんと大の字で横になって、ぽかぽかとした太陽の光を全身で浴びる。
これがもう眠くなるほど気持ちがよくて、私のお腹の上で本物の猫のようにほにゃんと丸くなって、同じくぽかぽか陽気に絶賛眠気爆発しているねここと一緒に、気持ちよ~く夢と現実をふらふらと出入りしている。
「そういえば~……もうすぐねここがやってきて1年ねぇ……」
ふと、そんな事を思い出してみる。
ねここをお迎えしたのは去年の今頃だったはず。今のぽへ~っとしたアタマだと正確な日時までは思い出せないけど。
「そうだっけ~?ねここぉ、あんまり覚えてないの~」
ねここの方もすっかり緩みきっているみたい。
まぁ色々とあったし、わざわざ記念日として覚えてないかな。なんというか、毎日が特別だったし、ね。
この1年、思い返すとかなり濃密な1年だし……楽しい思い出一杯で、あっという間に過ぎ去った気がする。
「神姫か、何もかも……懐かしい……」
「みさにゃんそれ死亡ふらぐだからダメなの」
早っ。それにいつの間にそんな言葉覚えてるんですかねここさん。
「死んだらダメなの」
顔を起こしてねここを見ると、さっきまでのほにゃんとした顔じゃなく、怖いくらい真剣な瞳で、私をじっと見つめている。
「大丈夫。まだまだねここと一緒に居たいし、ね」
「……ウン」
出来る限り優しい声と共に、髪をくしゃくしゃっとかきまわすみたいに撫でてあげる。
「それに、ねここが笑っててくれないと、私も元気でないから、ねここには何時も元気でいてほしいな」
「……うん。わかったの♪」
まだちょこっと不安そうな顔だけど、その言葉の意を汲んでくれたみたいで、ほにゃっと笑顔をみせてくれる。
「うん、その笑顔が一番。さてしめっぽくなっちゃってゴメンね。
……そうだ。せっかくだからねここの来てくれた日を誕生日ってことにして、お祝いしちゃおっか。特製のケーキとか作ってあげる」
「おー、それはすっごい良いの~♪ ねここ五重塔みたいなケーキ食べてみたいの」
ウェディングケーキみたいなヤツってことかしらね。まぁ神姫サイズのなら問題なく……
「みさにゃんもお腹いっぱいになるくらいおっきなヤツ~☆」
「……うちのキッチンで作れるかしら、そのサイズ」
さすがにちょっとキツそう。でもああいうのって普通売ってないだろうし……まぁ適度に頑張ってみよう、かな。
「あとプレゼントも用意したいトコね。ねここ何か欲しい物とかある?」
「うーん……ねここはみさにゃんのくれる物ならなんでも~」
にぱーと両手を上げて答えるねここ。信頼してくれるのは嬉しいけれど、それだと逆に困っちゃうなぁ。
「それじゃ、目も覚めちゃった事だし、散歩がてらエルゴにでも行ってみますか~」
「おー☆」
「こんにちわ。店長さん、ジェニーさん」
「こんにちわなの~」
と言うわけで、歩いて10分位でエルゴに到着。この挨拶もすっかり御馴染みに。
ここもすっかり通い慣れたねぇ……ちょっと前までは模型とかを購入しにたまに来る程度だったのだけれど、この1年は週に2~3回は来てるんじゃないかな。
「お、美砂ちゃん、ねここちゃんいらっしゃい。まぁゆっくりみてってよ」
と、営業スマイルを浮かべ、にこやかな対応をしてくれる店長さん。というかこの人も前から何処かトンだ……もとい熱い人だとは思っていたけれど、あんな事してる人だとは思わなかったし……ね。
「はい、それはもう。所で何か新入荷あります?」
「んー、武装方面じゃUnion SteelやOHMESTRADAのフルセットやパーツなんかが入ってるかな。それに静香さんの新作コスとか、あと國崎技研のも幾つか入ってた筈だな……詳細はジェニーさんに聞いたほうが早いと思うぞ。なんせうちの在庫管理は全部ジェニーさん任せだ」
えっへんと胸を張る店長。自慢してるようでそれって実は自らの無能を曝け出してるような……
「國崎技研ですか。あそこのは性能も良いけどお値段も凄いんですよね……流石にお誕生日プレゼント用でもキツイかなぁ」
「白雪姫以外にも、神姫用システムキッチンとか色々出てるね。まぁそこそこお値段はするけど……。
嗚呼、あとあんな事やそんな事用の……」
「マスター。新入荷リストのプリントアウトが出来ました、取りに来てください、ね♪」
鼻の下が伸びかけた店長さんに、ジェニーさんがこっちまで背筋の寒くなるような口調で……命令?する。
やっぱり……な機能のヤツなんだろう。
「わかったよジェニーさん。ってか美砂ちゃんも何そんな目でオニイサンを見るのかなー……」
「いえ別に」
露骨に視線合わせるのを避けてるし。
「ほ、ほら、服とか一品モノが多いから早く見てこないと良いのが無くなっちゃうぞ。お兄さんは他にお仕事があるからごゆっくりー♪」
あ、逃げた。
「了解なの~。店長のおじちゃん☆」
「グハァッ!?」
あ、死んだ。
なんというか、ねここもキツいこと言うようになって……意識はしてないんだろうけど。
「嗚呼マスター……こんな真っ白になってしまって。
所でねここちゃん、何でおじさんなんですか?」
「んー……みさにゃんより結構上だからおじちゃんかな~、って思ったの。だから、おじちゃんって」
「成る程。でもマスターもまだまだ気にするお年頃なので、せめて出来ればお兄さんと言ってあげてください……」
「はーいなの」
苦笑いでそうフォローをお願いするジェニーさん。まぁショックだよね……そりゃ。
「あ、でもですね……ねここちゃんちょっとこっちに」
ねここを呼び寄せ、ゴニョゴニョと耳元で何か囁いているジェニーさん。何を吹き込んでるのかな……
「なっるほどなの☆」
真っ白に燃え尽きてしまった店長さんの傍らにパタパタと駆けてくねここ。で、すぅっと息を吸ったかと思うと
「大丈夫~?、ぱぱー!」
何吹き込んでるんですかジェニーさんっ。
「HAHAHA、勿論大丈夫だよねここちゃんっ!」
……復活してるし。しかもなんかさっきよりも肌がツヤツヤしてる。
「マスターはこういうのが萌え……もとい燃えるらしいんです。流石にあの真っ白なままだとお店の営業に響きますから、今回は止むを得ないって事で勘弁してください」
流石ジェニーさんと言うべきか、それとも神姫に見事に操縦されちゃってる店長がアレなのか。……考えないことにしておこう、ウン。
「よーし。このパパねここちゃんの為なら、お店の商品何でも90%オフで売っちゃうぞッ!!!」
「元気になってよかった。って、ま~す~た~ぁ~~~~~~!」
……ノーコメント。
でも、こんな賑やかで騒がしくて楽しい日常も悪くは無いよ、ね。
「……そう言えば、今2Fの方にかなり強い方が来てるみたいですよ。もう10連勝近くしてますね」
と、店長を絶賛お説教中のジェニーさんが、此方に気を使ってくれたのか、やや強引に話題を転換してくる。
「ぉ、かなりな成績ですね。ファーストの人なのかな。それに常連さんで強い人は今いないんです?」
まぁ店長のお説教シーンを延々と見ていてもしょうがないし、その話題に食いついてみよう。
それに、エルゴは小さいながらも凄まじい品揃えと設備があって、それに伴ってコアでレベルの高い人々が集まるショップとして近隣でも名高かったりする。
わざわざ東京や地方から遠征に来るって人も、結構いるらしい。
確かにたまに妙にぎらついた眼の方々というか、雰囲気の違う人々がいたりするし。……でも大抵は実力派の常連の人々にあしらわれてるっぽいけどね。
「……えぇと、まだセカンドの方みたいですね。でもオフィシャルでの勝率が9割超えてますよ。あとリンさんやココちゃんはまだ来ていらっしゃらないです」
ジェニーさんが私の疑問に正確に答えてくれる。
うさ大明神スタイルの時はお店の各種システムやネットワークとリンクしていて、こうして1Fにいても2Fの状況も完全に把握できるらしい。
「そっか~。ねここ、見に行ってみる?」
「うんっ☆」
にぱーっと私の肩の上で同意してくれるねここ。戦わないまでも、強い人のバトルを見るのは結構参考になる場合が多いしね。
「嗚呼、またやられたっ!?」
「くそぉ、何でアイツ……!」
……と、階段から2Fに上がってる訳だけど、どうも上の雰囲気がなんかピリピリしてるような。
「あ、風見さんにねここちゃんっ。よかったぁ~!」
いきなり顔見知りの常連さんが、私たちの顔を見るなりこっちに寄ってくるし。
「どうしたんですか?」
「いやあの神姫が強くって……いやそれだけならいいんだけど生意気で……畜生っ!」
「お、落ち着いてくださいご主人様。私は平気ですから……」
コブシを握り締めて悔しがるその人と、それを胸ポケットから必死で宥める神姫。どちらの瞳にもうっすら涙がにじんでいて。
「アイツ、バトルしながらこっちの弱点をズケズケと指摘しながら蹂躙してくるんだ。こっちは必死でやってるのに……馬鹿にされてる気分で。糞っ」
随分とSな趣味の方らしいわね……。
「ま、まぁ相手の方が一枚上手だったって事で……落ち着きましょうよ」
ムッスリと黙り込んでしまった常連さんを宥める。喧嘩沙汰にでもなったら洒落にならないしね。
「だから、エルゴ最強メンバーの1人のねここちゃんが、アイツを倒してくださいよっ!」
「……にゃ?」
何故そうなる。
いつの間にか他の常連さん達も傍まで来ていて、何か囲まれてるし……
「皆さん落ち着きましょうよ。そんなケンカみたいなバトルさせるなんて、神姫だって……ねここだって可哀想です」
ざわざわと騒ぐ常連の方々。そりゃ嫌な事言われたら頭にくるだろうけど、そんな私怨(しかも他人の)で戦うのはちょっと……
『……やっと本命のご登場やね。と思うたら、なんや張子の虎……嗚呼。あんたは軟弱な猫やったね』
筐体の先から聞こえてくる、私には、いや私達には看過できないそのセリフ。
その発言者は程なくフロア全員の視線を集める事になる。みんなの視線の先には、自信とプライドに満ちた表情で超然と佇む神姫が……
「あなた失礼なの。それに、ねここが目的ならそっちから名乗るのがスジ、なの」
流石にねここもキツイ眼で相手を見つめている。
その挑発的な神姫は、鋭くつりあがった紅い眼とオレンジ色のショートヘアに、真っ赤なドレスを着込んでいて。あれは確か……
「そうやね。なら名乗らせてもらおか。ウチはあんたみたいな軟弱な飼猫とは違う、高貴なる寅。ティグリース。
うちのマスターからもろうた名前は、疾風(はやて)。
アンタみたいなニセモンの流星とは違う、本物の速さに相応しい名前やろ?」
[[続く>ねここの飼い方・その絆 ~二章~]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]
人影の消えた町並み。
街も空も冷たく重たい雰囲気を纏い、ザーザーと耳障りな雨音のみが空間を支配しているかのよう。
そんな中、傘もささず、雨に濡れるに任せたまま、ただただ悄然と力なく地面を見つめながら歩く1つの人影。
愛くるしい大きな瞳を持ち、まだあどけなさの残る、美少女といって差し支えないほどの整った顔立ちをしている。
だけどもソレは人と呼ぶにはあまりにも小さく、人の十分の一以下にしか見えないサイズ。
それはまるで人形のような、か細く小さな存在。しかし、人形ではない。彼女は1人で歩いている。
だが、その瞳に光は無く、足取りは機械的ですらあり、その印象は可憐な妖精ではなく……壊れかけたマリオネット。
やがて、人であれば問題が無いほどの、極僅かなアスファルトの隆起に足をとられ、そのまま力なく倒れこむ少女。
「……なさぃ…………ごめん…………」
光を失った瞳からは、壊れた蛇口のように止め処なく涙が溢れ、本来ならば可憐な小鳥の囀りのような声が発するのは、自責の念に駆られた絶望の言葉。
「みさにゃん……ごめん……なさぃ……」
やがて、少女はその倒れた体勢のまま、凍り付くように動きを……止めた。
西暦2036年。
第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、2006年現在からつながる当たり前の未来。
その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。
神姫、そしてそれは、全項15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。
多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。
その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。
オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ。
~ねここの飼い方・その絆 ~
~ 一章 ~
「ぽへ~……」
「良い天気ねぇ……」
秋も深まってきた時期だと言うのに、今年はまだまだ暖かい、そんな日々。
そんな中の休日。私は何処へ出かけるでもなく、ねここと2人、縁側でちょっと時期はずれの日向ぼっこを満喫中だったりする。
縁側に足を投げ出し、頭には枕代わりに半分に折った座布団を敷いて、どでーんと大の字で横になって、ぽかぽかとした太陽の光を全身で浴びる。
これがもう眠くなるほど気持ちがよくて、私のお腹の上で本物の(気の緩みきった)猫のようにどべーっと大の字になって、同じくぽかぽか陽気に絶賛眠気爆発しているねここと一緒に、気持ちよ~く夢と現実をふらふらと出入りしている。
「そういえば~……もうすぐねここがやってきて1年ねぇ……」
ふと、そんな事を思い出してみる。
ねここをお迎えしたのは去年の今頃だったはず。今のぽへ~っとしたアタマだと正確な日時までは思い出せないけど。
「そうだっけ~?ねここぉ、あんまり覚えてないの~」
ねここの方もすっかり緩みきっているみたい。
まぁ色々とあったし、わざわざ記念日として覚えてないかな。なんというか、毎日が特別だったし、ね。
この1年、思い返すとかなり濃密な1年だし……楽しい思い出一杯で、あっという間に過ぎ去った気がする。
「神姫か、何もかも……懐かしい……」
「みさにゃんそれ死亡ふらぐだからダメなの」
早っ。それにいつの間にそんな言葉覚えてるんですかねここさん。
「死んだらダメなの」
顔を起こしてねここを見ると、さっきまでのほにゃんとした顔じゃなく、怖いくらい真剣な瞳で、私をじっと見つめている。
「大丈夫。まだまだねここと一緒に居たいし、ね」
「……ウン」
出来る限り優しい声と共に、髪をくしゃくしゃっとかきまわすみたいに撫でてあげる。
「それに、ねここが笑っててくれないと、私も元気でないから、ねここには何時も元気でいてほしいな」
「……うん。わかったの♪」
まだちょこっと不安そうな顔だけど、その言葉の意を汲んでくれたみたいで、ほにゃっと笑顔をみせてくれる。
「うん、その笑顔が一番。さてしめっぽくなっちゃってゴメンね。
……そうだ。せっかくだからねここの来てくれた日を誕生日ってことにして、お祝いしちゃおっか。特製のケーキとか作ってあげる」
「おー、それはすっごい良いの~♪ ねここ五重塔みたいなケーキ食べてみたいの」
ウェディングケーキみたいなヤツってことかしらね。まぁ神姫サイズのなら問題なく……
「みさにゃんもお腹いっぱいになるくらいおっきなヤツ~☆」
「……うちのキッチンで作れるかしら、そのサイズ」
さすがにちょっとキツそう。でもああいうのって普通売ってないだろうし……まぁ適度に頑張ってみよう、かな。
「あとプレゼントも用意したいトコね。ねここ何か欲しい物とかある?」
「うーん……ねここはみさにゃんのくれる物ならなんでも~」
にぱーと両手を上げて答えるねここ。信頼してくれるのは嬉しいけれど、それだと逆に困っちゃうなぁ。
「それじゃ、目も覚めちゃった事だし、散歩がてらエルゴにでも行ってみますか~」
「おー☆」
「こんにちわ。店長さん、ジェニーさん」
「こんにちわなの~」
と言うわけで、歩いて10分位でエルゴに到着。この挨拶もすっかり御馴染みに。
ここもすっかり通い慣れたねぇ……ちょっと前までは模型とかを購入しにたまに来る程度だったのだけれど、この1年は週に2~3回は来てるんじゃないかな。
「お、美砂ちゃん、ねここちゃんいらっしゃい。まぁゆっくりみてってよ」
と、営業スマイルを浮かべ、にこやかな対応をしてくれる店長さん。というかこの人も前から何処かトンだ……もとい熱い人だとは思っていたけれど、あんな事してる人だとは思わなかったし……ね。
「はい、それはもう。所で何か新入荷あります?」
「んー、武装方面じゃUnion SteelやOHMESTRADAのフルセットやパーツなんかが入ってるかな。それに静香さんの新作コスとか、あと國崎技研のも幾つか入ってた筈だな……詳細はジェニーさんに聞いたほうが早いと思うぞ。なんせうちの在庫管理は全部ジェニーさん任せだ」
えっへんと胸を張る店長。自慢してるようでそれって実は自らの無能を曝け出してるような……
「國崎技研ですか。あそこのは性能も良いけどお値段も凄いんですよね……流石にお誕生日プレゼント用でもキツイかなぁ」
「白雪姫以外にも、神姫用システムキッチンとか色々出てるね。まぁそこそこお値段はするけど……。
嗚呼、あとあんな事やそんな事用の……」
「マスター。新入荷リストのプリントアウトが出来ました、取りに来てください、ね♪」
鼻の下が伸びかけた店長さんに、ジェニーさんがこっちまで背筋の寒くなるような口調で……命令?する。
やっぱり……な機能のヤツなんだろう。
「わかったよジェニーさん。ってか美砂ちゃんも何そんな目でオニイサンを見るのかなー……」
「いえ別に」
露骨に視線合わせるのを避けてるし。
「ほ、ほら、服とか一品モノが多いから早く見てこないと良いのが無くなっちゃうぞ。お兄さんは他にお仕事があるからごゆっくりー♪」
あ、逃げた。
「了解なの~。店長のおじちゃん☆」
「グハァッ!?」
あ、死んだ。
なんというか、ねここもキツいこと言うようになって……意識はしてないんだろうけど。
「嗚呼マスター……こんな真っ白になってしまって。
所でねここちゃん、何でおじさんなんですか?」
「んー……みさにゃんより結構上だからおじちゃんかな~、って思ったの。だから、おじちゃんって」
「成る程。でもマスターもまだまだ気にするお年頃なので、せめて出来ればお兄さんと言ってあげてください……」
「はーいなの」
苦笑いでそうフォローをお願いするジェニーさん。まぁショックだよね……そりゃ。
「あ、でもですね……ねここちゃんちょっとこっちに」
ねここを呼び寄せ、ゴニョゴニョと耳元で何か囁いているジェニーさん。何を吹き込んでるのかな……
「なっるほどなの☆」
真っ白に燃え尽きてしまった店長さんの傍らにパタパタと駆けてくねここ。で、すぅっと息を吸ったかと思うと
「大丈夫~?、ぱぱー!」
何吹き込んでるんですかジェニーさんっ。
「HAHAHA、勿論大丈夫だよねここちゃんっ!」
……復活してるし。しかもなんかさっきよりも肌がツヤツヤしてる。
「マスターはこういうのが萌え……もとい燃えるらしいんです。流石にあの真っ白なままだとお店の営業に響きますから、今回は止むを得ないって事で勘弁してください」
流石ジェニーさんと言うべきか、それとも神姫に見事に操縦されちゃってる店長がアレなのか。……考えないことにしておこう、ウン。
「よーし。このパパねここちゃんの為なら、お店の商品何でも90%オフで売っちゃうぞッ!!!」
「元気になってよかった。って、ま~す~た~ぁ~~~~~~!」
……ノーコメント。
でも、こんな賑やかで騒がしくて楽しい日常も悪くは無いよ、ね。
「……そう言えば、今2Fの方にかなり強い方が来てるみたいですよ。もう10連勝近くしてますね」
と、店長を絶賛お説教中のジェニーさんが、此方に気を使ってくれたのか、やや強引に話題を転換してくる。
「ぉ、かなりな成績ですね。ファーストの人なのかな。それに常連さんで強い人は今いないんです?」
まぁ店長のお説教シーンを延々と見ていてもしょうがないし、その話題に食いついてみよう。
それに、エルゴは小さいながらも凄まじい品揃えと設備があって、それに伴ってコアでレベルの高い人々が集まるショップとして近隣でも名高かったりする。
わざわざ東京や地方から遠征に来るって人も、結構いるらしい。
確かにたまに妙にぎらついた眼の方々というか、雰囲気の違う人々がいたりするし。……でも大抵は実力派の常連の人々にあしらわれてるっぽいけどね。
「……えぇと、まだセカンドの方みたいですね。でもオフィシャルでの勝率が9割超えてますよ。あとリンさんやココちゃんはまだ来ていらっしゃらないです」
ジェニーさんが私の疑問に正確に答えてくれる。
うさ大明神スタイルの時はお店の各種システムやネットワークとリンクしていて、こうして1Fにいても2Fの状況も完全に把握できるらしい。
「そっか~。ねここ、見に行ってみる?」
「うんっ☆」
にぱーっと私の肩の上で同意してくれるねここ。戦わないまでも、強い人のバトルを見るのは結構参考になる場合が多いしね。
「嗚呼、またやられたっ!?」
「くそぉ、何でアイツ……!」
……と、階段から2Fに上がってる訳だけど、どうも上の雰囲気がなんかピリピリしてるような。
「あ、風見さんにねここちゃんっ。よかったぁ~!」
いきなり顔見知りの常連さんが、私たちの顔を見るなりこっちに寄ってくるし。
「どうしたんですか?」
「いやあの神姫が強くって……いやそれだけならいいんだけど生意気で……畜生っ!」
「お、落ち着いてくださいご主人様。私は平気ですから……」
コブシを握り締めて悔しがるその人と、それを胸ポケットから必死で宥める神姫。どちらの瞳にもうっすら涙がにじんでいて。
「アイツ、バトルしながらこっちの弱点をズケズケと指摘しながら蹂躙してくるんだ。こっちは必死でやってるのに……馬鹿にされてる気分で。糞っ」
随分とSな趣味の方らしいわね……。
「ま、まぁ相手の方が一枚上手だったって事で……落ち着きましょうよ」
ムッスリと黙り込んでしまった常連さんを宥める。喧嘩沙汰にでもなったら洒落にならないしね。
「だから、エルゴ最強メンバーの1人のねここちゃんが、アイツを倒してくださいよっ!」
「……にゃ?」
何故そうなる。
いつの間にか他の常連さん達も傍まで来ていて、何か囲まれてるし……
「皆さん落ち着きましょうよ。そんなケンカみたいなバトルさせるなんて、神姫だって……ねここだって可哀想です」
ざわざわと騒ぐ常連の方々。そりゃ嫌な事言われたら頭にくるだろうけど、そんな私怨(しかも他人の)で戦うのはちょっと……
『……やっと本命のご登場やね。と思うたら、なんや張子の虎……嗚呼。あんたは軟弱な猫やったね』
筐体の先から聞こえてくる、私には、いや私達には看過できないそのセリフ。
その発言者は程なくフロア全員の視線を集める事になる。みんなの視線の先には、自信とプライドに満ちた表情で超然と佇む神姫が……
「あなた失礼なの。それに、ねここが目的ならそっちから名乗るのがスジ、なの」
流石にねここもキツイ眼で相手を見つめている。
その挑発的な神姫は、鋭くつりあがった紅い眼とオレンジ色のショートヘアに、真っ赤なドレスを着込んでいて。あれは確か……
「そうやね。なら名乗らせてもらおか。ウチはあんたみたいな軟弱な飼猫とは違う、高貴なる寅。ティグリース。
うちのマスターからもろうた名前は、疾風(はやて)。
アンタみたいなニセモンの流星とは違う、本物の速さに相応しい名前やろ?」
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