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「妄想神姫:第六十章」(2007/12/29 (土) 12:08:22) の最新版変更点
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**新しき波浪と旋風の、前にある物
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“聖夜”も過ぎ、帳簿上の仕事納めが目前となった。お台場で巻き起こる
“聖戦”を前に、年の瀬の秋葉原は活気に満ちているが……しかし、この
MMSショップ“ALChemist”は別だ。普段より客が多少増えた程度であり、
私・槇野晶は、優雅に紅茶を頂きながら店番をしていたりする訳だ……。
「ふぅ……ここは、外の喧噪が嘘の様だな。帳簿作成も大方終わり、と」
「お疲れ様なんだよマイスター。在庫検品も、パーツ類は終わりだもん」
「あ。通販の最終発送分も、宅配便のお姉さんが先程持っていきました」
「友人さんへの“年賀メール”も、雛形の打ち込みは完了ですの~っ♪」
「皆、御苦労だな。後出来るのはメールの個別調整と掃除位の物か……」
とは言え、前者は“ながら作業”でも十分な量だ。後者は一見大変だが
普段から神姫達が自由に動き回れる様に……何より美観と健康の為に、
棚の上や壁の縁……更には細かい隙間なども、きっちり掃除している。
その為に、掃除の分量も知れていた。地下に住まうと、この辺はどうも
神経質になりすぎてな?しかも一応は精密機械である神姫達と一緒だ。
「……お前達の為に普段から埃は徹底除去しているからな、多少は楽だ」
「余裕はありますの、マイスター?……お出かけはしないでしょうけど」
「有無。年越しを楽しむ余裕はありそうだ、そして出かけないのも然り」
「え?イベント好きのマイスターですし二年参りとかするかなって……」
「行事は好きだが、人混みに好んで飛び込んでいく性分でもないのでな」
「それはちょっぴり意外なんだよ……神姫のイベントとかは例外かな?」
クララの指摘は確かにその通りだった。が、他にもちょっと理由がな?
“その日”が近い事もあってか、例年通りなら正月は大人しく過ごす。
ロッテと過ごしていた今年の三ヶ日も、それは変わらなかった……が、
来年はどうする……初詣位は良いか?“妹”も増えた事だしな、有無。
「……ふむ、では天候次第だが……近所の神社にでも詣でてみるか?」
「いいんですの、マイスター?それはそれでわたしも嬉しいですけど」
「構わんさ。お前達と過ごす様になり私も代わった、という事だろう」
「あ、ありがとうございますっ!今から、願掛けする事決めないと!」
「ボクは御神籤が楽しみかな。大吉が出てくれると嬉しいんだよ……」
ロッテが若干心配そうな雰囲気だった物の、私の決定で納得したらしい。
……彼女だけは“その日”を『知っている』からな。心配してくれるのは
当然と言えたかもしれん。しかし今、私には前へ踏み出す努力が必要だ。
何を、だと?……何れ分かる事だろうな。そんな予感がするのだ、有無。
「まぁ、そういう訳でのんびり年末年始を楽しむ余裕はあるという訳だ」
「はいですの、それなら……わたしも精一杯楽しんじゃいますの~っ♪」
「そうと決まれば、お節等の買い出し等もせねばならんな。出来合だが」
「……流石に一からお重を作るのは、大変だと思うんだよマイスター?」
「ですね~、そこはしょうがないかもしれません。予約も手遅れですし」
鈴が鳴る様に笑うアルマ、冷静にツッコミを入れるクララ。そして何より
己もはしゃぎつつ、それを眩しそうに見守るロッテ。思えば皆の個性を、
最近は特に実感する様になってきた。“私達”の生活に、互いが欠かせぬ
存在となってきた証であろう。となれば、来年は益々皆を大事にしたい。
「……でも、来年は皆どうなっちゃいますの?ふと、思ったんですけど」
「あ、それ……あたしも思ってたんですよロッテちゃん。何かこう……」
「何かがありそう、って予感かな?それならボクも感じるんだよ、うん」
「皆、認識を強めつつあるか……何なのだろうな、この謎めいた感情は」
しかし、保守的ではいられない何かが起こる。私達の直中を吹き抜ける、
新鮮な風の予感を、全員が感じていた。それは、年の瀬が近付くに連れて
“確信”へと変わりつつある程の、強い感覚だ。それは大きな嵐なのかも
しれないし、爽やかな風なのかもしれん……不安と期待の混ざった直感。
ともあれ得体の知れない“何か”を、この時点の私達は感じていたのだ。
「……まぁ、気に病んでも仕方がないと言えばその通りだな。どれ……」
「あ、マイスター!わたしは、あったかいダージリンがいいですの~♪」
「……紅茶を入れてやろうか、と言おうとしたのに勘が冴えるなロッテ」
「温かい紅茶が丁度欲しくなる様な話のタイミングだったんだよ、うん」
「ええ……席を立ち上がった時に、そんな雰囲気がしましたからねっ♪」
「む゛、そ……そんなに分かりやすいか私は?何だか少々ショックだぞ」
思考というか間合いを読まれてしまい、私はつい紅くなる。それを見て、
三姉妹はおかしそうにまた微笑むのだ。その笑顔が、堪らなく可愛いッ!
多分私の頬も盛大に緩んでいるのかも知れん……全く、罪作りな娘らだ。
「と、動揺してばかりもいられぬな。まだ年末年始の準備があるのだぞ」
「……マイスター、ならそろそろ締めちゃう?“嵐の前の静けさ”だよ」
「そう、だな……“聖戦”組も今日は来ぬだろうし、閉じていいだろう」
「あ。それなら一足先に“本日終了”の看板を、外に出してきますね?」
「有無、頼むぞアルマや。その間に、紅茶を一通り揃えてしまうからな」
「外は寒いですから早めに帰ってきてくださいの、アルマお姉ちゃん♪」
“新しき”何かへの予感と“古き”何かへの畏れ。その精算が出来る様、
来年は一層奮起していきたい、と私は思う。ロッテ達にも、それぞれ別の
“抱負”や“意気込み”が在る事だろう。私は、それも叶えていきたい。
……その為に、今だけはゆったりと。静けさをたっぷりと、楽しもうか。
「うぅぅ……さ、さむいです~。早く紅茶ください~、マイスター……」
「情け無い声を出すでない、アルマや。もうすぐ蒸れる、すぐに出そう」
「……ボクらは凍え死んだりしないから、心配ないと思うんだよ?うん」
「それでも、寒いよりは暖かい方がいいですの~♪身も心も、ね……?」
──────来年は、もっと皆が幸せになれます様に。
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