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「燐の最終話 「明日へ」」(2007/12/11 (火) 06:02:32) の最新版変更点
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武装神姫のリン
最終話「明日へ」
検査の結果を村上静菜に見せると…
「記憶したデータの日付情報が0の連続になっていたり、でたらめな数値になっているために、それまで蓄積した情報から作り上げられる彼女の人格が形成できなくてフリーズや内部機構の暴走を誘発したみたいね」
とのことだった。開発に関わっただけに、同じデータでも見る所が違うらしい。
そうして数日待ってほしいと言われて鶴畑次男と村上静菜を見送った俺。
何も出来ないまま3日がさらに過ぎた。
「…ここは?」
俺はなにやらコンピューターらしき物体といろいろな計器やモニターの付いた研究室にいる。
場所は言えないが郊外にある建物らしい。
「SSFの研究チームとアメリカのチームが協力して推し進めているプロジェクトの試作機と言えばいいかしら」
村上静菜が答える。
「で?何をする装置なんですか?」
「これは、神姫のデータを人間の脳に直接信号として送り込むことで神姫の経験をその人間に"体感"させるというシステム。それの原型」
「なぜそんな必要が?」
「元々は障害…特に視覚や聴覚が弱い人の感覚機関の変わりを神姫にさせるという研究のために作っているものなんだけど…現時点でその演算を行うためにはデスクトップサイズのコンピューターの能力が必要って訳。携帯端末のCPUで可能な域にたどり着いてないからまだ演算の式を簡単にするとか効率を上げることが課題としてあげられているわ。」
「これをどうやって使うんですか?」
「これで貴方が"リン"そのものとなって眠っている彼女の変わりにデータの復旧をするのよ」
「な…」
「これしか現実的に彼女を救い得る方法は無いわ、時間が経てば経つほど日付データの混乱が進んで取り返しが付かなくなるわよ?」
「そして、こっちでデータを取り直したけど…原因はあなたね。神姫を己の伴侶として認める。この行為が彼女を狂わせた」
「…」
言葉が出なかった。
リンは幸せそうだったじゃないか。そしてその前と特に変わったことは無かった。
人前で堂々と甘えてきたりといった部分を除いて。
「まあね、神姫も『何かを愛する』ということは自然に行える。でも貴方とリンの関係ほど密接な関係を持つ神姫とオーナーはなかなか居ない、だからこういった現象の例自体が無かったから対策が出来なかったわけ。」
村上静菜は俺が無言でいるのを確認して続ける
「女の子は誰でもそうかもしれないけどね、特に一途な子は相手のことを思うと止まらくなって想いだけが暴走する時がある。それがリンにも起きた…愛する人との密接な関係から自然に行われる行為についての想像ね」
「…」
「まああまり口にすべきことではないけど…ぶっちゃければ貴方とのSEXの想像をしてしまったってこと。不可能なのにね」
「そこでその行為を実際に行いたいと思えば思うほど、物理的に不可能だという"事実"との矛盾が彼女を狂わせた。
結果、まだデータ自体は無事だしハード的にも発熱以外は大丈夫だけど、自然回復が望めない状態に陥ったというわけよ。」
「理屈はわかりました、もちろん原因も。仮にリンが復帰できたとして俺はリンとの今までと同じ関係を続けるわけには行かないぞ…というわけですね?」
「あら?話が早いわね。キツイ言い方をすればそう。そうしないと彼女は必ずまた同じ状態に陥る。必ずね」
「それは仕方ないことです、それでもリンにはそばにいて欲しいんです。」
「もし彼女がそれを望まなかったら…」
「まずはリンを助けるのが先です」
「せいぜい悩んで納得できる答えを出せるように考えることね」
「とにかく、俺は何をすれば?」
「まずは、覚悟を決めて。」
「?」
「もし何かトラブルが有れば多分貴方は廃人になってしまう…まだ臨床試験を行う前の段階だからどんなトラブルが出るかも分からない…それでもやる?」
「もちろん」
間髪入れずに俺は答えた。
「そう、これの連続機動が可能なのは10時間よ、起動中は貴方の脳もずっと難しい計算式をひたすら解いている様な負荷が掛かってるから…無理は禁物。休みはちゃんと取ること。そして…奥さんにもちゃんと連絡してあげなさい」
「分かりました。」
「じゃあ、こんな月並みな台詞しか吐けないけど…がんばって。」
「はい」
そうして、俺のリンを救うための挑戦が始まった。
することは至ってシンプル、コンピューターがリンの瞳から入った映像情報と耳からの音情報を合成して、リンが見て、聞いていたものを再現して俺の脳に直接流し込む。それで俺は夢を見るかのようにリンの体験したことを自分のことのように感じられるのだ。その情報からその出来事があった日付を割り出してコンソールから入力するだけ。
最初はちょっとしたことで「ああ、あの日のことだな」と気がつけたのだが…
作業を開始して1週間。
復旧具合は30%と言ったところ、この辺から俺自身の記憶もあやふやなことが多くなり、自身のブログや、印象的な語句を端末で検索して日付を特定するといった段階に入っていた。
「…これは…いつの話だ…」
俺は悩む、リンと俺と茉莉の間のごたごたが終わった後なのは間違いないのだが…俺が結婚のために東奔西走してる時期らしく、正確な日付が全く分からない。映像情報に写る俺の顔はいつも疲れ切っていて大差がない。
あきらめて次に行こうかと思ったとき。
「ご主人様? 私にもそれを見せていただけませんこと?」
俺の肩にティアが立っていた。
「でも、何かトラブルがあれば俺だって無事じゃすまないんだぞ? それはおまえだって同じだ。 そう言うリスクは大黒柱の俺が負うべきなんだよ」
「…もう、バカご主人!!」
「…な!!」
「バカだからバカと言っているのです!!! 茉莉…このバカご主人に一言」
振り返ると茉莉も居た。
「ホント、バカ。 私たちの関係って何? 同居? 同棲関係? 違うでしょ? 家族なんだよ? 家族が心配なのはみんな当たり前なんだよ。だから力になりたいって言うのはダメ?」
思いっきりげんこつを脳天に食らったようだった。
「ははは、スマン。俺一人で全部背負おうなんて馬鹿らしいんだよな。」
「でも、分かるよ、だって自分のせいで愛する人があんなことになったなんて言われたら、全ての責任が自分にあるって思っちゃうよね。」
「ご主人様はそういった無駄なところで頑固なのが無ければかなりモテると思うのですがね…」
「?」
「まあ、聞こえてないのであれば良いです。と言うことで。私たちも協力してもよろしいですか?」
「…ああ。」
そうして急遽端末とコンピューターが1機増やされることになった。
こんな急なお願いにも直ぐに対応出来たのは鶴畑の力があったという。
表向きは俺が「人類初の臨床試験体」なのだという。それに1人を追加するのは容易ではないはずなのだが…次男坊のくせに頑張って開発資金としてむこうがわに多額の寄付をしたらしい。
ティアはそのままログデータを読み込むだけで体験が出来るため特別な設備は必要なかった。
そうして3人で協力して作業を続けた結果、次の1週間で87%までの復旧に成功した。
このままスリープを解除してもリンとしての人格は保たれた状態で復帰できるのであるが、ほんの少しの違いが出るかもしれない。それは俺たちに取っては意味がないことだ、目指すは100%の復旧だ。
そして俺は1日の休みをもらった。
2週間復旧作業に没頭していたために食事の量や時間さえも惜しんだ、その結果気がつかないうちに体重も減っていたのだ。
俺が身体を休めている間にもティアは神姫ならではのアドバンテージ「クレイドルからの常時電力供給で疲れることが無い」を利用して出来るだけの復旧作業を続けていた。
そしてついに95%の復旧までたどり着いた、しかし、そこからが本当の難関だったのだ。
残りの5%はリンが起動してから直ぐのごく初期の記憶。
つまり俺以外にその出来事を知る者は居ない上に、すでに1年半以上前のことであるために俺の記憶のあやふやさという点でもかなり日付の特定が難しい時期の記憶なのだ。
起動して間もないためにブログの見直しやキーワード検索でも追いつかないほど、古い記憶は圧縮していく特性もありリンの記憶していた情報もかなり少ない。
それでも、ここをどうにかしない限り俺の知っているリンが帰って来ることは無い。
苦心しつつも記憶の中を絞り出すようにして1日ずつ、埋めていく。
それでも、ついに行き詰まってしまった。
最後に残った3日分のデータの日付の順番がどうしても分からない。
ヒントはかなり少ない。文章で表現するならば「今日は、マスターの帰宅が遅かった。凄く寂しかった。」
の3連続だ。他の情報が無い。
多分リンがウチに来てから初めて連絡出来ないまま帰宅が遅くなった時だということは分かる。
その際にリンはそうとう寂しい思いをしたはずなのだ。その結果「寂しい」と言う感情が印象に残ったと言うことだろう。
1日目は「今日は…」という情報であったために判断可能、しかし次の2日間が「今日も…」という情報である故に、判断が付かない…悩む間にすでに丸2日が過ぎてしまっている。
ただの二択。それだけなのだが、俺の知るリンを取り戻すためには間違えるわけには行かない。
安易に答えを出すのが躊躇われる。俺はふと端末から離れ、施設の二階の窓から外を眺めた。
今日はあいにくの雨、と言っても俺には関係ない…と思っていると一瞬目の前が光に包まれたと思えば爆音が耳をつんざく。
落雷だった。しかも近隣の避雷針ではなくこの施設を守るために設置された避雷針に落ちたのだ。
「雨、落雷…!!!」
俺は記憶をたぐり寄せる。
それは件の3日間の内、リンが特に俺の帰宅を持ちわびていた日。
俺は会社に缶詰状態だったのであまり気にしなかったのだが、日中は強い雨と雷が猛威をふるっており、それが初めてだったリンは怖くて仕方がなかったという。電気ねずみのぬいぐるみを抱えたままで、帰宅した俺の足に飛びつくように駆け寄ってきたリンの姿が脳裏によみがえった。
あの日は。2日目!
俺は走って施設内に戻り、端末に接続してリンの記憶の情報を良く観察する…見つけた。
「ぴか!!」これは電気ネズミのことを示すのか、それとも雷の光を示すのかの判断は付かない。
でも、これが記録されているのは片方だけ。
あの日の日付を入力する。コレを入力完了すれば残っている1日には自動的に空白の日付が入力される。
エンターキーを押す。
『データ更新完了。完全復旧。』
ソレを見た瞬間。俺の意識は闇へと落ちて行った。
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「た…ぁ…」
誰かの声が聞こえる。これは…最近聞くことの無かった、それでも聞き間違えるはずがない。
「リン!!!!!」
「きゃあああああああ」
俺はガバッっという効果音が似合う勢いで身体を起こした。
その結果リンは吹っ飛ばされ、パンツ丸出しの状態で俺のお腹の上に倒れることになった。
「マスターのえっちぃ!!!!!!!」
男の大切な部分にパンチを食らって悶絶。
と、こんなバカなエピソードが俺たちの元にリンが戻ってきて最初のエピソードになったのだ。
データ復旧完了の表示を見た時、俺はソレまでの疲労や達成感によって張り詰めていたものが切れて意識を失ったらしい。
そのまま2日間寝ていたらしい。まあただの過労だからとソレほど心配されなかったらしいがorz
ただ、気になるのはその間に見ていたと思われる、夢。
ぶっちゃけるとリンとえっちしてる夢。
倒れる前にリンが夢に見たと言っていた者と多分同じような内容だったと思う。
だってリンが等身大サイズなんだから…あとやけに感覚とかが現実的だったんだよな。普通の夢はアレだろ?
あまり現実的な感覚じゃなくてぼやけた感じって言うか。あそこまで鮮明な感覚やビジョンは…ああもう!!
思い出したらムスコが反応orz
「マスター…あのお話が…」
「?」
反応を一番最初に感知したリンがほほを染めて俺に話があると切り出した。
「かしこまって…なんの話だ?」
「マスターは…私とえっちする夢を見ましたか?」
「ぶーーーーーーっ(飲んでいた牛乳をぜんぶ吹く音)」
「マスター、汚いですよ!!!」
「急にリンが突拍子もない話題を振るからだろう!!」
「…その反応は、見たんですね?」
「……」
「正直に言ってください。」
「見ました」
「………」
???
リンのほほの色が今まで以上に赤く…まさかまたフリーズ!!!!
と思ったら…紙テープが俺たちを絡め取るかのように四方八方から飛び出してきた。それに続いて各々先っぽの開いたクラッカーを持った茉莉、ティア、花憐、村上静菜、鶴畑次男。とかいろいろが。
「おめでとう!!!!!!!!!!」
という台詞付きで出てきたのだ。
なんかこの部屋の所々に隠れていたらしい。こっちは病み上がりなのに…びっくりして心臓が止まったらどうしてたんだ…とか考えていると。
「おめでとう? 藤堂亮輔君?」
いつもまじめの塊みたいな村上静菜でさえも口元がゆるんでいる。
正直こんな顔を見たことがないので逆に怖い。
「君は本質的な意味で神姫との性交渉を体験した人類第1号になったわ」
「ハ? ナニヲイッテイルノカワカリマセン」
「…だから! リンちゃんの願いは叶ったってこと。だから今後リンちゃんがあのときみたいな症状に悩まされることはないの!」
すこし焼きもちモード?な茉莉が言う。
つまり、俺とリンは本当の意味で繋がった関係???
「簡単に言うと、データ復旧が完了した時点でリンちゃんの意識も覚醒してるし亮輔の脳にも繋がってるからから…このシステムを通してオフィシャルバトルと同じ要領でバーチャルとはいえ、ホンモノと同じ感覚でセックスが出来ちゃったってこと。
リンちゃんはフリーズの直前にそれに関して発言してたからそのまま意識が引っ張られて…亮輔は疲れ切ってたから覚えてなかったのかもしれないんだけど、亮輔も実際に射精してたんだよ? 気を失ってたから設備から下ろして、ベッドに寝かせてパンツ代えるまで苦労したんらしいんだから。」
…は!なんだこの周りから感じる視線は…
「意外と平均的サイズだったわね…(ぼそ…っと)」
…家族以外に見られたorz
「まあ、その辺の話は終わりとして、一応理論上は可能だったんだけどあえて言わなかったんだけど、貴方とリンは奇しくも『神姫とのシステムを通してのバーチャル、ただほぼ現実といえる感覚のバーチャル体験』の実証例になった。だからまだ研究に付き合ってもらうことになりそうよ?」
「そんな…もう有休もギリギリ使い切って今年中は、日曜以外の休みがほぼゼロなんですが…」
「だいじょうぶ。あなたたちには家でこのシステムを使って『キャッキャウフフ?』してくれれば良いだけだから。」
「だそうです、マスター。私…は引き受けたいのですが…ダメですか?」
…あのね、その目で見つめられて拒否できる男(ゲイとか特殊な好みの奴を除く)が居たらそいつに100万ぐらいはあげられるぜ!!ってぐらいの破壊力を秘めたリンのおねだり光線にやられた俺は快く承諾することになり、俺が契約書にサインを書くと同時に「リン&俺の復帰記念パーティ」が開催されることになった。
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その場の勢いで開かれた「リン&俺の復帰記念パーティ」が終わって皆酔いつぶれている中。
…花憐もつぶれてるぅ!!!とかいうのは今は置いておくらしい。
俺とリンだけがシラフだった…というのも、「病み上がりは酒禁止。いいことしてたんでしょ?by茉莉」
ということでウーロン茶ばかりを飲まされることになったからだ。
で正に惨状とも言える部屋を2人だけで出て…夜風に当たる。
「マスター、あの…」
「ん?」
「私はマスターにまだお礼を言っていません。」
「そんなの要らないだろ?」
「え?」
「家族が大変な時に助けるのは当たり前。だぞ?」
「マスター…」
リンの瞳から涙が流れた。
「おいおい、泣くなよ…」
「だって、後でマスターがどれだけ苦労していたか聞かされて…もうしわけない気持ちでいっぱいで…」
「気にするなって。」
指でそっとリンの涙を拭き取る。
「それにリンといいことできたしなw」
「マスター…キス…しましょう?」
「ああ。」
コレはもう何度目のキスだろうか…そんなことを考えても仕方がなかった。唇に感覚が集中して周囲のことなんて気にならなくなった。
「ふう。久しぶりでぎこちなかったかも」
「…確かに…マスターの唇も震えてました。」
「『も』ってことはリンもそうだったんだな?」
「…ですね、うれしくって。」
「…リンはかわいいなぁもう!!」
そのまま思いっきり抱きしめる。
いつか必ず俺たちは離ればなれなるとしても、それが誰の『終わり』かは分からないけど…そのときのことなんて考えないで、時には泣いて。笑って。今を生きていくだけだ。
そんなことを思った。
「マスター?」
「ん?」
「これからも、よろしくお願いします。」
「ああ!」
目の前の景色に目をやればもう日が上る、新しい日々の始まり。
それと同時に俺とリン、そしてみんなの物語の新しいページが、開かれる。
[[~fin~>武装神姫のリン]]
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