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「妄想神姫:第四十七章」(2007/10/18 (木) 20:25:27) の最新版変更点
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**変わり往く者達、帰り往く少女達
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盛大にして此処最近で一番の大勝負を追えた翌日。私・槇野晶と神姫達は
帰り支度を進めていた。旅行の宿としては、従姉たる碓氷灯の家に泊めて
頂いたのでな?チェックアウト等の手間が不要なのは楽だ。何より……。
「ではこれにて失礼する、伯母貴に伯父貴。その……料理、旨かったぞ」
「あらそぉ?晶ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいわぁ、伯母さん♪」
「灯!ちゃんと晶ちゃんを送ってやるんだぞ。最近お前も変わったしな」
「だ、大丈夫ですぞパパッ!……コストはかかったけど、その色々とっ」
家庭の味。というより家庭そのものか、私達の住む秋葉原にはイマイチ
不足していた要素である。こういう雰囲気を“妹”達に味わわせるのも
良かれと思い、日程調整の時に言われた伯母貴の申し出を呑んだのだ。
「本当においしかったです、あの辛味噌とかも御飯にピッタリでっ!」
「……山葵漬けも、東京のそれとは全然違ってたもん。御馳走様だよ」
「素朴だけど、どれもこう……心を擽られる感覚がして素敵ですの♪」
その読みは当たった。私は無論ロッテ達も、様々な心理的影響や経験を
たっぷり……ついでに土産物も……得て、懐かしの東京へと帰るのだ。
しかし気になるのは、皆が唯の感動ではない『不思議な』感覚を一様に
覚えているという事だ……まさか、郷愁とでもいうのだろうか?謎だ。
「あ、そうだ晶ちゃんとロッテちゃん達!……観光はどうですかな」
「観光か。そう言えば、名所等は回っていなかったな。どうするか」
「……どうするもこうするも、時間が有れば行くしかないんだよ?」
「ええ、まだまだ満喫したいですし……行けるなら行きたいですッ」
「そうと決まれば~♪……何処に連れてくつもりですの、灯さん?」
サングラスと首輪等は相変わらずだが、少々服装のセンスに於いて改善が
見られる灯は、微笑んで私達を先導するばかり。代わりに解答したのは、
彼女が肩に乗せている神姫達……ミラとイリンにティニアの三人だった。
「決まってるじゃない!松本城よ、松本城ッ!ほら一昨日の蕎麦屋の側」
「む、そう言えば正門まで行きながら蕎麦のインパクトで忘れていたな」
「松本に来て城を見ないなんて、有り得ない……までは言わないけどさ」
「でも、やっぱりわたしと姉様の故郷だもの。城内は見てほしいのよ!」
「故郷……ですかぁ。そう胸を張って言えるのは少し羨ましいですの♪」
ロッテが寂しげに言うのは尤もだった。神姫達は工場産まれであり、大抵
買われた人間の生活環境がそのまま自分の世界となっていく。その意味で
アキバの雑踏と私の側だけが、ロッテ達の本質的に持つ“環境”なのだ。
そして自分達と異なった環境で暮らし、尚克“故郷”と誇れるイリン達。
この対比を以て、“妹”達が己の持つ“誇り”を更に高められれば……。
「晶ちゃん、着きましたぞ?入場券をえ~と、子供……ギャァー!?」
「大人二枚だろうが貴様!冗談は程々にせんと、濠に投げ込むぞッ!」
「ギブギブギブッ!げほげほっ……このナリなら、誤魔化せますぞ?」
「そういう問題ではない!って貴様、そんな度胸何時身につけたのだ」
「……晶ちゃんのカリスマ、ですかな?アルマちゃん同様なのですぞ」
……私の右肩を見れば、アルマが照れくさそうにしている。この娘め、
寝物語か何かで灯達に色々吹き込んだみたいだな。まぁ、良い変革なら
咎める必要もないし良いのだが……何を聞いたかは気になるな、有無。
ともあれ、私達は松本城へと入り庭園を潜って、本丸・天守閣に赴く。
「こ、この階段はちょっぴりキツいですの……クララちゃん、大丈夫?」
「っく、幾ら何でも急な気がするんだよ。あ、アルマお姉ちゃんッ!?」
「きゃああっ!?……っと。ま、マイスターすみません……無理でした」
「人間の私達でも難渋するのだ、補助デバイス無しで神姫が昇るのはな」
そして比較的広い入口から天守閣直下の階段を目指して歩いたのだが……
城内の階段は、予想を遙かに上回って急勾配であった。体感的には、殆ど
ハシゴをよじ登っている状態に近い位なのだ。13cmの神姫にとっては
絶壁を踏破するに等しく、灯の神姫達は最初から灯に乗り昇っていった。
噂では聞いていたが、日本城郭の建築様式という物に改めて感服したぞ。
「ふぅ……やっと最上階だ、もう降りてもいいが踏みつぶされるなよ?」
「は、はいっ。あ……見て下さいこの床!琥珀色に輝いていますよっ!」
「ええと、それはこの間小学生達が床を磨いた為ですぞ。胡桃と米糠で」
「胡桃と米糠……植物性油脂の底力、なのかな?とっても綺麗なんだよ」
「なんだかスケートができそうですの~♪それ~っ!よっ、ほっ……♪」
神姫達の目線でまず飛び込んだのは、何百年もの間人々に受け継がれ続け
その輝きを未だに失わない、古よりの贈物であった。その床でスケートを
始める六体の神姫……閑散期でない為に咎められる所だが、丁度今だけは
私達以外に観光客もおらず、僅かな時間だがその行為を黙認出来たのだ。
「よし、床を堪能したら次は外だ。ほら、肩に乗って窓から見るといい」
「はいですのマイスター♪んしょ……わぁ、西の空見て下さいですの!」
そして皆を抱え上げ、窓の側に誘導する。そこから見えたのは、青き姿を
知らしめる……山々の朧気な姿だった。建物等もあって、あまり派手には
見えないがそれでも私達には、雄大な自然に見えたのだ。素晴らしいッ!
「……あれは、北アルプスなのかな?山岳がいっぱいで、素敵なんだよ」
「ふふ、どうよ皆!また来たくなるでしょ、東京ばかりじゃないのよ?」
「うわぁ……ええ、また来てみたいですミラさん……そしてマイスター」
「分かった分かった、今度休みが取れたらその時にでも来るか?冬とか」
「はいですの~♪という事で、また来ますの皆ッ!楽しみですの~っ♪」
──────心豊かになれる緑の下。また、皆で来ようね。
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