「土下座そのよん」(2007/09/21 (金) 23:26:22) の最新版変更点
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「お待たせしました」
「いえいえ。……おお、見違えましたね」
私の声に応じて振り返ったマスターさんは、そう言ってにっこりと笑いました。
そして、傍に立てかけてあるパッケージイラストと私を見比べます。
「なるほど、箱の絵と同じになりましたね。素のままの犬子さんもアレはアレで素敵でしたが、やはりこちらの姿が武装神姫としての完成形なのでしょうね。より一層素敵ですよ」
「過分なお言葉、恐縮です」
膝を落とし似非正座の姿勢を取ってから、深々と擬似座礼を行なう私。おそらくマスターさんからは、私の倒した背中越しにぶんぶん振られるドッグテイルがよく見えたと思われます。
それから再び立ち上がり、ちょっと調子に乗って色々なポーズで武器を構えてみたりします。
ポーズをつけるたびに、笑顔で律儀に拍手をしてくれるマスターさんは、本当にいい人だと思うのです。
「……おや?」
「? どうかしましたかマスターさん?」
簡易ファションショーを中断し、私は何かに気付いたマスターさんの視線を先を見やります。
そこにあったモノは……武装装着の際に端子から取り外し、パッケージの影に置いた私の両腕パーツおよび両足パーツでした。
「私の余剰パーツが、どうかしましたかマスターさん?」
「どうかしました、と言うか……あの、いま犬子さんの手はどうなっているのですか?」
むむ、なにやらマスターさん、心なしか顔色が優れません。
「どう、と言われましても……」
とりあえず、私は【手甲・拳狼】をわきわき動かしつつ……おもむろに、【腕甲・万武】から腕を引き抜き、むき出しの接続端子をお見せしました。
「このようになっておりますが」
……はて、マスターさんは、何を一体絶句なさっているのでしょうか?
「本当に、どうかなさいましたかマスターさん?」
「あー、いえ、なんというか……その装備は、そうやって腕を取り外さないとつけられないものなのですか?」
「ええ、そのようになっております」
「……あの、そうやって腕を引き抜いて付け替えるような形でなくて……例えば、普通に元の腕の周りを覆うような形式にはできなかったのですかねぇ?」
「正確なところは設計者に聞かないことにはなんとも言えませんが、私が考えるに、まず第一に仰るようなマスター・スレイブ方式では……」
「すみません、その『ますたーすれいぶ方式』と言うのは?」
「ええと、簡単に言えば中身の動きを外側が真似てくれる機構のことです」
「なるほど、お話の腰を折ってしまって申し訳ありませんでした」
深々。
「いえいえ、こちらこそ至らぬ説明で」
深々。
「では続けます、マスター・スレイブ方式では腕部パーツを内包しうるスペースの確保のために設計的に内部機構を圧迫し、小型化、生産性、強度の低下を招きます。元のサイズが小さいだけに、わりとそのあたりは死活問題なのです。そして」
言いながら、再びわたしはがっしょんと【腕甲・万武】に端子を接続しました。そうして再び制御下に置かれた【手甲・拳狼】を、マスターに向けてわきわきと滑らかに動かして見せます。
「第二に、こうして直接接続・制御することで、マスター・スレイブ方式では不可能な滑らかで繊細な可動が可能となります」
……って、あら? マスターさんひょっとしてヒいていらっしゃる?
「ヒいたと言うわけでもないのですが……わりかしシュールですねぇ、とは思います」
そうなのでしょうか? 私たち武装神姫はつまり「機械」、修理や換装の際のパーツの付けはずしは当然と認識しています。
ですが、人間の方にとっては、それは不自然に感じるのでしょうか?
「そうですねぇ、人間、というか生体は、滅多なことでは部品の入れ替えはしませんから。
サイズ以外は人間そっくりに見える武装神姫でそうしているところを目の当たりにしてしまうと、戸惑ってしまうのかもしれませんね」
「なるほど、そういうものですか」
「そういうものです」
むむ、なにやら雰囲気が沈んでまいりました。
何とか情況を打開しうる行動選択はないものか、私の記憶野を高速検索です。
ですが、まだ起動したての私の乏しい経験では、現状に即した打開策はそう簡単には……
あ、1hitです。
早速実行してみましょう。
「唐突ですがマスターさん、僭越ながら隠し芸などを披露したく思います」
「おお? 拝見させていただきます」
居住まいを正し、積極的に興味を示すマスターさん。ううむ、どうやらこちらがこの沈みがちな雰囲気を何とかしようとしていることを汲み取っていただけたご様子。
そのお心遣いに報いねば、武装神姫がすたると言うものです。
私はマスターさんに背を向けて腕部パーツに向き直り、再び右腕の端子を【腕甲・万武】から外します。
「む、むむむむむ……!」
そして気合を入れます。
出来ると信じること。
そこにあると認識すること。
それを貫けば、空間の隔たりなど越えられる!
「むん!」
気合一閃、果たして――私は成功しました。
私の目の前で、思惑通りにずり、ずりと動き出す私の腕部パーツ。
「成功です! ハウリンタイプにプリインストールされた48の宴会芸の一つ、『ゾンビ・ハンド』です!」
本来ならば【プチマスィーンズ】に指令を伝える通信波を強制的に変調させ素体制御信号に似通った波長に調整し、それを送ることで取り外したパーツを遠隔的に動かす、【プチマスィーンズ】を標準装備するケモテック社MMSならではのこの技!
もともと受信装置など存在していない上、本体バッテリーから切り離された状態での残留電圧によってのみの駆動のためその動きはほんの僅かでたどたどしいですが、そのつたない動きがかえって不気味さを演出するというのがポイントとread meに記載されたこの隠し芸『ゾンビ・ハンド』!
見事それを成功させた私は得意満面でマスターさんを振り返ります。
いやあ、すでに腕部パーツが取り外されていると言うのがまさに絶好のロケーションで、
……って、あら? マスターさんひょっとしてドン引きでいらっしゃる?
「ドン引き、と言うわけでもないのですが……」
なにやらこめかみの辺りを揉み解すような仕草をしながら、マスターさんは静かに語ります。
「人間と武装神姫は、似た様なものに見えて、やはり越えられぬ溝と言うものはあるのですかねぇ、としみじみ考えていたところです」
「むむむ、なにやら寂しい結論です、マスターさん」
そんな私の背後で、停止信号が送られないために最初の命令に従ってずりずりと腕部パーツがのたうって行くのを聴覚センサーが認識しています。
「……ソレ、止めてもらえません?」
「あ、失礼しました」
私はずりずり動く腕部パーツを拾うと、外れたままになってる接続端子に接続しました。
また気合を入れて変調信号を送信するよりも、この方が早いのです。
むむむ、しかしなにやら雰囲気が、先ほどよりも一層微妙に。
ここは、ハウリン48の宴会芸の新技を公開すべきでしょうか?
「あー、あのですね犬子さん」
と、悩んでいた私に、マスターさんのほうからお声がかかりました。
頬を軽くかきつつ、なにやら言いにくそうです。
「先ほど、犬子さんは『寂しい結論』と仰いましたが……」
「お気に障ったら申し訳ありません、武装神姫はオーナーとの隔たりを感じると落ち込むものなのです」
膝を落とし似非正座の姿勢を取ってから、深々と擬似座礼を行なう私。おそらくマスターさんからは、丸まった私のドッグテイルはよく見えないと思われるのです。
「あー、いえ、こちらこそお気に障ったら申し訳ありません」
深々と座礼をするマスターさん。そして顔を上げたマスターさんは続けます。
「先ほどの発言ですが、別に拒絶する意図ではないのです。そうやってお互いの違いを正しく認識し、相互理解に努めることが互いをより良きパートナーへと昇華させていくのだと言うあたりで一つ」
「……さすがはマスターさん、キレイにまとめましたね」
ドッグテイル、再びぶんぶんと起動。
「ご理解いただけたら幸いです」
にっこりと笑ったマスターさんは、再び頭を垂れました。
「改めまして、これからよろしくお願いいたします犬子さん」
こちらも擬似座礼でお返しします。
「こちらこそ、至らぬ武装神姫ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
顔を上げた私たちは、どちらからともなく笑顔を浮かべるのでした。
「ですがその…アレはもう、やらなくていいですからね?」
「……はい」
こうして私の隠し芸その1は、公開初回にして封印を余儀なくされたのでした、まる。
[[<そのさん>>土下座そのさん]] [[<そのご>>土下座そのご]]
[[<目次>>犬子さんの土下座ライフ。]]
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「お待たせしました」
「いえいえ。……おお、見違えましたね」
私の声に応じて振り返ったマスターさんは、そう言ってにっこりと笑いました。
そして、傍に立てかけてあるパッケージイラストと私を見比べます。
「なるほど、箱の絵と同じになりましたね。素のままの犬子さんもアレはアレで素敵でしたが、やはりこちらの姿が武装神姫としての完成形なのでしょうね。より一層素敵ですよ」
「過分なお言葉、恐縮です」
膝を落とし似非正座の姿勢を取ってから、深々と擬似座礼を行なう私。おそらくマスターさんからは、私の倒した背中越しにぶんぶん振られるドッグテイルがよく見えたと思われます。
それから再び立ち上がり、ちょっと調子に乗って色々なポーズで武器を構えてみたりします。
ポーズをつけるたびに、笑顔で律儀に拍手をしてくれるマスターさんは、本当にいい人だと思うのです。
「……おや?」
「? どうかしましたかマスターさん?」
簡易ファションショーを中断し、私は何かに気付いたマスターさんの視線を先を見やります。
そこにあったモノは……武装装着の際に端子から取り外し、パッケージの影に置いた私の両腕パーツおよび両足パーツでした。
「私の余剰パーツが、どうかしましたかマスターさん?」
「どうかしました、と言うか……あの、いま犬子さんの手はどうなっているのですか?」
むむ、なにやらマスターさん、心なしか顔色が優れません。
「どう、と言われましても……」
とりあえず、私は【手甲・拳狼】をわきわき動かしつつ……おもむろに、【腕甲・万武】から腕を引き抜き、むき出しの接続端子をお見せしました。
「このようになっておりますが」
……はて、マスターさんは、何を一体絶句なさっているのでしょうか?
「本当に、どうかなさいましたかマスターさん?」
「あー、いえ、なんというか……その装備は、そうやって腕を取り外さないとつけられないものなのですか?」
「ええ、そのようになっております」
「……あの、そうやって腕を引き抜いて付け替えるような形でなくて……例えば、普通に元の腕の周りを覆うような形式にはできなかったのですかねぇ?」
「正確なところは設計者に聞かないことにはなんとも言えませんが、私が考えるに、まず第一に仰るようなマスター・スレイブ方式では……」
「すみません、その『ますたーすれいぶ方式』と言うのは?」
「ええと、簡単に言えば中身の動きを外側が真似てくれる機構のことです」
「なるほど、お話の腰を折ってしまって申し訳ありませんでした」
深々。
「いえいえ、こちらこそ至らぬ説明で」
深々。
「では続けます、マスター・スレイブ方式では腕部パーツを内包しうるスペースの確保のために設計的に内部機構を圧迫し、小型化、生産性、強度の低下を招きます。元のサイズが小さいだけに、わりとそのあたりは死活問題なのです。そして」
言いながら、再びわたしはがっしょんと【腕甲・万武】に端子を接続しました。そうして再び制御下に置かれた【手甲・拳狼】を、マスターに向けてわきわきと滑らかに動かして見せます。
「第二に、こうして直接接続・制御することで、マスター・スレイブ方式では不可能な滑らかで繊細な可動が可能となります」
……って、あら? マスターさんひょっとしてヒいていらっしゃる?
「ヒいたと言うわけでもないのですが……わりかしシュールですねぇ、とは思います」
そうなのでしょうか? 私たち武装神姫はつまり「機械」、修理や換装の際のパーツの付けはずしは当然と認識しています。
ですが、人間の方にとっては、それは不自然に感じるのでしょうか?
「そうですねぇ、人間、というか生体は、滅多なことでは部品の入れ替えはしませんから。
サイズ以外は人間そっくりに見える武装神姫でそうしているところを目の当たりにしてしまうと、戸惑ってしまうのかもしれませんね」
「なるほど、そういうものですか」
「そういうものです」
むむ、なにやら雰囲気が沈んでまいりました。
何とか情況を打開しうる行動選択はないものか、私の記憶野を高速検索です。
ですが、まだ起動したての私の乏しい経験では、現状に即した打開策はそう簡単には……
あ、1hitです。
早速実行してみましょう。
「唐突ですがマスターさん、僭越ながら隠し芸などを披露したく思います」
「おお? 拝見させていただきます」
居住まいを正し、積極的に興味を示すマスターさん。ううむ、どうやらこちらがこの沈みがちな雰囲気を何とかしようとしていることを汲み取っていただけたご様子。
そのお心遣いに報いねば、武装神姫がすたると言うものです。
私はマスターさんに背を向けて腕部パーツに向き直り、再び右腕の端子を【腕甲・万武】から外します。
「む、むむむむむ……!」
そして気合を入れます。
出来ると信じること。
そこにあると認識すること。
それを貫けば、空間の隔たりなど越えられる!
「むん!」
気合一閃、果たして――私は成功しました。
私の目の前で、思惑通りにずり、ずりと動き出す私の腕部パーツ。
「成功です! ハウリンタイプにプリインストールされた48の宴会芸の一つ、『ゾンビ・ハンド』です!」
本来ならば【プチマスィーンズ】に指令を伝える通信波を強制的に変調させ素体制御信号に似通った波長に調整し、それを送ることで取り外したパーツを遠隔的に動かす、【プチマスィーンズ】を標準装備するケモテック社MMSならではのこの技!
もともと受信装置など存在していない上、本体バッテリーから切り離された状態での残留電圧によってのみの駆動のためその動きはほんの僅かでたどたどしいですが、そのつたない動きがかえって不気味さを演出するというのがポイントとread meに記載されたこの隠し芸『ゾンビ・ハンド』!
見事それを成功させた私は得意満面でマスターさんを振り返ります。
いやあ、すでに腕部パーツが取り外されていると言うのがまさに絶好のロケーションで、
……って、あら? マスターさんひょっとしてドン引きでいらっしゃる?
「ドン引き、と言うわけでもないのですが……」
なにやらこめかみの辺りを揉み解すような仕草をしながら、マスターさんは静かに語ります。
「人間と武装神姫は、似た様なものに見えて、やはり越えられぬ溝と言うものはあるのですかねぇ、としみじみ考えていたところです」
「むむむ、なにやら寂しい結論です、マスターさん」
そんな私の背後で、停止信号が送られないために最初の命令に従ってずーりずーりと腕部パーツがのたうって行くのを聴覚センサーが認識しています。
「……ソレ、止めてもらえません?」
「あ、失礼しました」
私はずーりずーり動く腕部パーツを拾うと、外れたままになってる接続端子に接続しました。
また気合を入れて変調信号を送信するよりも、この方が早いのです。
むむむ、しかしなにやら雰囲気が、先ほどよりも一層微妙に。
ここは、ハウリン48の宴会芸の新技を公開すべきでしょうか?
「あー、あのですね犬子さん」
と、悩んでいた私に、マスターさんのほうからお声がかかりました。
頬を軽くかきつつ、なにやら言いにくそうです。
「先ほど、犬子さんは『寂しい結論』と仰いましたが……」
「お気に障ったら申し訳ありません、武装神姫はオーナーとの隔たりを感じると落ち込むものなのです」
膝を落とし似非正座の姿勢を取ってから、深々と擬似座礼を行なう私。おそらくマスターさんからは、丸まった私のドッグテイルはよく見えないと思われるのです。
「あー、いえ、こちらこそお気に障ったら申し訳ありません」
深々と座礼をするマスターさん。そして顔を上げたマスターさんは続けます。
「先ほどの発言ですが、別に拒絶する意図ではないのです。そうやってお互いの違いを正しく認識し、相互理解に努めることが互いをより良きパートナーへと昇華させていくのだと言うあたりで一つ」
「……さすがはマスターさん、キレイにまとめましたね」
ドッグテイル、再びぶんぶんと起動。
「ご理解いただけたら幸いです」
にっこりと笑ったマスターさんは、再び頭を垂れました。
「改めまして、これからよろしくお願いいたします犬子さん」
こちらも擬似座礼でお返しします。
「こちらこそ、至らぬ武装神姫ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
顔を上げた私たちは、どちらからともなく笑顔を浮かべるのでした。
「ですがその…アレはもう、やらなくていいですからね?」
「……はい」
こうして私の隠し芸その1は、公開初回にして封印を余儀なくされたのでした、まる。
[[<そのさん>>土下座そのさん]] [[<そのご>>土下座そのご]]
[[<目次>>犬子さんの土下座ライフ。]]
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