「幻・其の十」(2007/10/21 (日) 20:16:59) の最新版変更点
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梓の家に泊めてもらった後、僕たちは結局家に戻った。ずっといるってわけにはいかないし、朝起きてみると、梓が何だか沈んだ顔をしていたから、とりあえずいない方がいいと思って。
その日は外出する気は起きず、家で無為に過ごした。
そして翌日。僕とネロは、また神姫センターに来ていた。
店内の端末を操作して、コミュニティから神姫を探しているという情報がないか、調べる。
「御影市」「ストラーフ」「ネロ」などのキーワードで検索……該当なし。
念のため、範囲を県内に広げる……やっぱり該当なし。
「やはりダメですか、慎一?」
「うん……」
以前と変わらない結果に、僕は少し落胆する。
「ごめんね、ネロ。なかなか見つけられなくて」
「い、いえ、そんな。気を落とさないで下さい」
……気を落としてるのは、ネロも一緒……いや、もっとつらいはずなのに。それでも気を使ってくれるのが、ありがたくもあり情けなくもあり。
「……うん、ありがとう」
お互いなんとなく、言葉が続かなくなる。と、
「……なあ」
後ろから、声がかかった。
「端末、空けてくれねーか?」
「え、あ、うん。ごめん」
後ろにいたのは、中学生くらいの女の子だった。でも、神姫と一緒にいるわけではない。なんとなく気になって、どいた後も、つい彼女を見ていた。
「……なんだよ。なに人のことジロジロ見てんだ?」
見てたら、その子にやけに凄んだ目で睨み返された。
「あ、いや、その……」
「神姫連れてねー子供がここにいるのが、そんなに珍しいか?」
……バレてる?
その後、なし崩し的に、僕はこの子にジュースをおごることになった。彼女曰く
『ジュースおごってくれたら、少しくらい話してやるよ』
とのことで。
レストスペースの一角で、僕とその子は向かい合って座っていた。ネロは、テーブルに座っている。
「あたしは津雲はやて。はやて、って呼んでくれていい」
一息ついたところで、その子――津雲はやて――が、名乗った。
「僕は星野慎一。この子はネロ」
「よろしくお願いします」
僕とネロも、それぞれ挨拶する。そしたら、
「……やっぱりか」
はやては、予想通り、とでも言いたげに、言った。
「ネロ。おまえ、記憶喪失で、慎一が正規のオーナーじゃねえだろ」
「え、っ……?」
いきなりそんなことを言われ、ネロは絶句した。
「な、何言ってるの?」
ごまかそうとしたけど、
「隠しても意味ねーぜ。かすみや修也から名前は聞いてるし、ここ最近は来てなかったけど、何度も何度も神姫の捜索情報を調べてる。それに……、似た者同士だから、わかっちまう」
すぐ切り返された。修也さんの名前も出たし、はやてが確信を持っているというのは、間違いないみたいだ。
「安心しな。あたしは別に、咎めたりしねー。そもそもあたし自身、警察とかと関わるのはそうそうできねーしな」
「さきほど、似た者同士と言われましたが、あなたにも何か特殊な事情が……?」
ネロが聞く。
「ん、まあ、な。あたしも……親いねーし、家もないからここに保護されてる。だからっつーか、おまえ見てると、くだらねーことでウジウジ悩んでんのがよーっくわかる」
「く、くだらないって……! 慎一は正規のオーナーでもないのに、こうして頼りにして、助けてもらって、それで本当に……!」
ネロがそういう風に悩んでたのは、薄々気付いてはいたけど。はやては、一発でそれを看過してしまった。
「……正規とかそうじゃねーとか、そんなことで悩むのがくだらねーんだよ。本当のオーナーだろうがそうじゃなかろうが、そいつのこと本気で信頼してんなら、関係ねーだろ」
「……本気で、信頼?」
「あたしだって、ここの人たちは本当の親じゃねーけど、信頼してる。ここの人たちも、あたしのことを一人のあたしとして接してくれてる。少なくとも慎一は、おまえのことをちゃんとネロとして接してくれてんじゃねーか?」
はやての言葉は、間違いない確信に満ちていた。
「……ま、それはそれとして、せっかく来たんだ。かすみに会ってかねーか?」
[[幻の物語]]へ
8月1日。
梓の家に泊めてもらった後、僕たちは結局家に戻った。ずっといるってわけにはいかないし、朝起きてみると、梓が何だか沈んだ顔をしていたから、とりあえずいない方がいいと思って。
その日は外出する気は起きず、家で無為に過ごした。
そして翌日。僕とネロは、また神姫センターに来ていた。
店内の端末を操作して、コミュニティから神姫を探しているという情報がないか、調べる。
「御影市」「ストラーフ」「ネロ」などのキーワードで検索……該当なし。
念のため、範囲を県内に広げる……やっぱり該当なし。
「やはりダメですか、慎一?」
「うん……」
以前と変わらない結果に、僕は少し落胆する。
「ごめんね、ネロ。なかなか見つけられなくて」
「い、いえ、そんな。気を落とさないで下さい」
……気を落としてるのは、ネロも一緒……いや、もっとつらいはずなのに。それでも気を使ってくれるのが、ありがたくもあり情けなくもあり。
「……うん、ありがとう」
お互いなんとなく、言葉が続かなくなる。と、
「……なあ」
後ろから、声がかかった。
「端末、空けてくれねーか?」
「え、あ、うん。ごめん」
後ろにいたのは、中学生くらいの女の子だった。でも、神姫と一緒にいるわけではない。なんとなく気になって、どいた後も、つい彼女を見ていた。
「……なんだよ。なに人のことジロジロ見てんだ?」
見てたら、その子にやけに凄んだ目で睨み返された。
「あ、いや、その……」
「神姫連れてねー子供がここにいるのが、そんなに珍しいか?」
……バレてる?
その後、なし崩し的に、僕はこの子にジュースをおごることになった。彼女曰く
『ジュースおごってくれたら、少しくらい話してやるよ』
とのことで。
レストスペースの一角で、僕とその子は向かい合って座っていた。ネロは、テーブルに座っている。
「あたしは津雲はやて。はやて、って呼んでくれていい」
一息ついたところで、その子――津雲はやて――が、名乗った。
「僕は星野慎一。この子はネロ」
「よろしくお願いします」
僕とネロも、それぞれ挨拶する。そしたら、
「……やっぱりか」
はやては、予想通り、とでも言いたげに、言った。
「ネロ。おまえ、記憶喪失で、慎一が正規のオーナーじゃねえだろ」
「え、っ……?」
いきなりそんなことを言われ、ネロは絶句した。
「な、何言ってるの?」
ごまかそうとしたけど、
「隠しても意味ねーぜ。かすみや修也から名前は聞いてるし、ここ最近は来てなかったけど、何度も何度も神姫の捜索情報を調べてる。それに……、似た者同士だから、わかっちまう」
すぐ切り返された。修也さんの名前も出たし、はやてが確信を持っているというのは、間違いないみたいだ。
「安心しな。あたしは別に、咎めたりしねー。そもそもあたし自身、警察とかと関わるのはそうそうできねーしな」
「さきほど、似た者同士と言われましたが、あなたにも何か特殊な事情が……?」
ネロが聞く。
「ん、まあ、な。あたしも……親いねーし、家もないからここに保護されてる。だからっつーか、おまえ見てると、くだらねーことでウジウジ悩んでんのがよーっくわかる」
「く、くだらないって……! 慎一は正規のオーナーでもないのに、こうして頼りにして、助けてもらって、それで本当に……!」
ネロがそういう風に悩んでたのは、薄々気付いてはいたけど。はやては、一発でそれを看過してしまった。
「……正規とかそうじゃねーとか、そんなことで悩むのがくだらねーんだよ。本当のオーナーだろうがそうじゃなかろうが、そいつのこと本気で信頼してんなら、関係ねーだろ」
「……本気で、信頼?」
「あたしだって、ここの人たちは本当の親じゃねーけど、信頼してる。ここの人たちも、あたしのことを一人のあたしとして接してくれてる。少なくとも慎一は、おまえのことをちゃんとネロとして接してくれてんじゃねーか?」
はやての言葉は、間違いない確信に満ちていた。
「……ま、それはそれとして、せっかく来たんだ。かすみに会ってかねーか?」
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