「幻・其の六」(2007/09/10 (月) 12:42:34) の最新版変更点
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「あ、あの……」
「ったく、久しぶりに外出してみれば、お使い頼まれるし荷物持ちはさせられるし、最悪だ。……おい!」
「は、はい!?」
パンパンと埃をはらいつつ立ち上がった少女の妙な迫力に、梓は気圧されていた。
「手伝えよ」
そう言って、抱えたデカい荷物を梓に差し出す。
「え、あの、でも……」
「いいから早く持てっての!」
梓が躊躇ったのは、関わりあいになりたくなかったから、ではない。少女の後ろに男性が見え、その男が、
ごつん! と
「……痛ってえ!?」
少女にゲンコツをかましたからだった。
「失礼いたしました、お嬢さん」
「は、はあ……」
その男もその男で、やけに気取った……と言うべきか、演技臭い……と言うべきか、そんな口調と仕草で、
「ご迷惑をおかけしたお詫びに、お茶でもいかがです?」
などと言ってくる始末。
……怪しい。絶対怪しい。
返答に困る梓だったが、
「さあ、遠慮なさらず! 素敵な夜を共に……」
とのたまう男の後ろから別の男が出てきて、
ごつん! と
「あ痛っ!?」
ゲンコツをかました男、
「……何やってんだお前らは」
その男が、
「し、修也さん……?」
従兄であることに気づいた。
「……遅いですよ」
夜の研究所に待っていたのは、珍しく本気で不機嫌な顔をしたかすみだった。
「いやいや、申し訳ない! 野に咲く可憐な花を見つけてしまったもので」
……それは梓の事なのか? 修也は内心で突っ込む。修也的には、あと五年ばかし外見が足りないように思うのだが。
「ごめん、かすみ……。ちょっと、いろいろあって」
少女がかすみに謝る。
「まあ……いいんですけどね。頼んだモノもちゃんと持ってきてくれたし。……高明さん?」
……ヤバい。修也は思った。かすみが、マジで怒りモードになってる。
「せっかく久しぶりにはやてが外出できたのに、何でお使いなんか頼んでるんですか?」
「な、何のことかな?」
高明と呼ばれた男性が、やたら冷たいかすみの言葉に、若干、たじろいだ。
「ほら、その辺にしとけ」
かすみの頭にぽん、と手を置き、
「お前ら、自己紹介くらいしろよな」
そう言って、梓に目を向けた。
「おお、これは大変失礼。僕は小林高明、この研究所の研究員です。どうぞよろしく、可憐なお嬢さん」
「は、はあ……」
「はじめまして。青葉かすみ、です。上岡梓さんですね、修也君から何度かお話を伺っています」
「あ、はい」
「……津雲はやて。ここの手伝い」
「……はあ」
三者三様の自己紹介の後、
「えと、上岡梓です。修也さんの従妹です、よろしくお願いします」
……どこのクラスの自己紹介の会だ? 修也は再び突っ込んだ。
「ごめんねリュミエ、わざわざ」
「いいえ、これくらいでしたらお安いご用です!」
梓は研究所から、リュミエと一緒に家へ向かっていた。リュミエは今夜、そのまま家で過ごすつもりのようだった。
「それより梓さん、どうかなさいましたか?」
「え? どうか、って」
「いえ、こんな時間にお一人で出歩かれているというのが……」
「……ちょっと、ね」
「……遅いなぁ」
「……ですね」
慎一達は、待ちぼうけをくらっていた。
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