「第1章 狂犬(3)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「第1章 狂犬(3)」(2007/09/07 (金) 22:40:46) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
弟が生まれたのは1年前。その「変なヤツ」が来たのも、だいたい1年前。
陽光。音、音、音、食卓。
「・・・よしっと。お弁当はこんなもんか。後は・・・」
開音、足音、千鳥足。
「カンナちゃんたっだいまぁ~♪」
「おかえり、母さん」
玄関から上機嫌で上がってくる母さん。ちょっと顔が赤いしふらついてる。また店のお酒を朝まで飲んでたのかな。
「今日定休日でしょ? 朝ご飯、要らないよね?」
「ううん食べる食べる! 昨日週末でもないのに繁盛しちゃって、お店の食べ物全部出しちゃったの。だからお腹が減っちゃって減っちゃって、仕方なくお酒でその場を凌いでね~」
「・・っていつもの事でしょそれって。大体お腹が減ったらコンビニ行けばいいのに」
「だってカンナちゃんのご飯の方が美味しいし~」
開音、足音、早足。
「たっだいま~! って母さんもいるんか?」
「あ、こーちゃん♪」
続いて帰ってきたのは父さん。徹夜してたらしく無精ヒゲが伸びっぱなし、でも無駄に元気(それは母さんもか)
「父さんも、また徹夜? 着替えだけしてくの?」
「う~ん、でも神無のご飯も食べたいしな~。という訳で食べてく!」
「はいはい、予想通りだね。すぐ出来るから」
こんな感じで、わが豊嶋家は朝が一番賑やか。母さんはバーを経営していて、父さんはいつも残業なので2人とも夜家に居ない。アタシだって中学校行かなきゃいけないので、みんな集まるのは朝くらいしかない訳。まあ2人とも賑やかすぎるからこのくらいで十分なんだけど。あ、まだ一番喧しいのが・・・
快音、快音、快音、快音。跳躍、急制動、着地。
突然、視界を横切る小さい影と大きな影。大きい方は宙を飛ぶ乳母車。小さい方は・・・
「カ~ンナっ!! あさめしあさめし!!」
「ろー、ろー♪」
小さい方が、うちで一番喧しいヤツ、ロウ。神姫ってやつだ。
「ロウっ!! またそーいう危ない事してっ!! 蒼を落としたらどうすんの!」
「ソウがよろこんでんだからいいじゃん。それにおとさないよ。おれはちからもちだから」
緩、降。跳躍、着地、食卓。
言いながら【背中の大きな腕】が乳母車をゆっくり下ろす。ロウは空手になったので、4つんばいから2本足に立ちなおしてテーブルの上に飛び乗ってくる。
「いっただきま~・・」
鳴音、叩。
「コラっ! その大きい手、ばっちいんだからハシ!」
「いったぁ~。ううぅ~」
アタシに叩かれて、ロウは渋々ハシを握る。でもその【大きな手】は、あまり上手くハシを握れない。
「まあまあ、ろーちゃんって犬なんだから、箸持てなくってもいいんじゃない?」
ベーコンが掴めなくてだんだんイライラしてるロウを尻目に、母さんが話しかけてくる。でも、ちゃんとしつけ(?)はしておかなくちゃいけないし、これも昨日の今日じゃないんだからいい加減覚えて欲しいんだけど。それに・・・
「犬って言うか、神姫じゃない」
「え~、犬が欲しいって最初言ったのは神無だろ? まあちょっと本物の犬とは違うけども、ちゃんと犬型だし、ご飯食べるし、留守番してくれるし蒼の面倒も見てくれるし、ついでに蒼とセットで倍可愛いし。な? 大目に見てやってよ」
今度が父さんがロウを庇う。どうも2人ってばロウに甘い。ロウは元々父さんの会社の実験用だかなんだかで、その実験がお終いになっちゃった時捨てられるはずだったのを貰ってきたっていう捨て犬みたいな境遇だから、同情しているのかも。そりゃまあ、アタシだってロウが嫌いなわけじゃないんだけど・・・。
「・・・仕方ないな、もう」
懇願する3人の眼に勝てなくて、仕方なく、アタシはキッチンの端っこにあった使い捨てのゴム手袋をロウの大きな手にかぶせた。
「それで犬食いしてもいいよ。後で、ちゃんとしたご飯用手袋作ってあげるから」
「うんっ!! カンナ、ありがとっ!!」
満面の、太陽みたいに笑いかけてくるロウ。アタシは顔が赤くなりそうなのを隠したくって、そっぽを向いてしまう。
「はっ早く、食べちゃいなさいよ」
「うんっ! いただきます!!」
「うーん、カンナちゃん可愛い♪」
「いい子に育ったよな、母さん」
「母さん達も!」
「「はぁ~い」」
ロウは嫌いじゃない。真っ直ぐで可愛くてかっこよくて。でも、どうしてもちょっと上手く素直になれない。人形だからじゃない。機械だからじゃない。犬が欲しかったのに犬じゃなかったからでもない。そんなの、一緒に暮らしていればどうでもよくなったもの。でも、ロウは・・・
「ロウは、“男”じゃない・・・」
「? カンナ、なにかいった?」
「何でもない!!」
「「「「ごちそうさまでした」」」」
『・・・昨夜の被害も、一連の事件と同様の手口から、同一犯による連続盗難事件と見られ・・・』
「うわっ! この強盗まだ捕まってないの? しかも昨日のはこの近くじゃない?」
「結構物騒だよな。まあ、その犯人ちょっとづつしか盗まないみたいだけど」
「父さん、そういう問題じゃないと思う」
「あ、きのう、なんかあやしいのみつけてぶったおしたよ!」
「へ? ろーちゃん、それってどんなの?」
「う~んと、ちいさいやつ! おれとおなじくらい!」
「ネズミか、何かかな? 何処で?」
「にわだよ」
「・・・別に、庭にはなんにもないよ。ロウの見間違いじゃないの?」
「カンナ! ホントなんだよ!!」
「はいはい・・・」
「しんじろ~!」
なんとなく、体いっぱいで抗議するロウを見つめる。ロウを見ていると、色々、わからなくなるカンジがする。どれもおかしいようで、どれもおかしくないみたいで。
「じゃあ母さん、神無に蒼にロウ、行ってきます」
「は~いこーちゃん、行ってらっしゃい。はわぁ、お腹いっぱいになったら酒も抜けたし眠くなったわ。おやすみ~」
「はいはい。母さんもちゃんと部屋で寝てね。アタシも、学校行かないと」
鞄を背負って、父さんの後に続く。玄関を開けた所で、ロウが、ゴム手袋を付けたままの手を振る。
「いってらっしゃ~い!!!」
「はいはい、行ってきます」
いつもの朝。ちょっと寒い朝。普通の朝。普通じゃないような普通の朝。1人で歩く通学路で、そんな事を考える。
歩、歩。接近、共歩。
「おはよう、相変わらず、朝は気の抜けた顔ね」
いつもの場所で合流した友達の法善寺秋子に、いきなりそんな事を言われる。
「え? いつも? そりゃあ、うちは毎朝騒がしいし忙しいけれど、そんなに?」
「ええ、それはもう主婦業に明け暮れてる姿が目に浮かびます」
「もうっ!」
「嘘嘘。毎日朝からご苦労様です」
こんな事も言われるけれど、秋子はいい友達。勉強が出来て冷静な秋子は、いざという時(だいたい宿題忘れた時なんだけど)とても頼りになる。
「でも・・・その顔って家事に疲れたと言うより・・・」
「え? 何?」
「・・いや、気付くまで言わないでおく」
「何それ?」
でも・・と、アタシはまた物思いにふける。何だか、引っかかっているような引っかからないような、はっきりしなくてぱっとしない疑問、不安。いつからか、よくそんなものを考え込むようになっていた。
「あ、またぼけてる。もしかして、宿題でもまた忘れたの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど・・・」
でも、何かを忘れている気がしている。忘れようとしている気がする。
持上、跳、浮、飛。
「ろー、ろー♪」
「ほれほれ! たかいたか~い♪ ? あれ、カンナ、べんとーわすれてる・・」
[[目次へ>G・L《Gender Less》]]
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: