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「第1章 狂犬(2)」(2007/09/04 (火) 22:58:33) の最新版変更点
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判らなかった。訳が判らなかった。何が起きたのかも、“アレ”が何者であるのかも。ただ一つ、アトロが理解したのは、“アレ”がクロトを殺した事だけ。
「・・・っ!!!」
標準、射撃射撃連射連射。弾弾弾弾、強跳躍、回避。跳、疾走。
彼女の恐怖を撃ち払うように、次女ラケがアルヴォマシンガンを斉射する。謎の神姫は瞬時に跳び上がり、弾は石塀を叩くのみ。
「ラケ・・・?」
「・・・」
加速、飛翔、追跡。
ラケは、姉を叱咤するように一瞥して、下を駆ける敵の元へと飛び込む。
「私・・は・・・。くっ!! 私は姉じゃないか!!」
転向、急、加速飛翔。
出もしない涙を拭うように顔を擦り、死、恐怖、混沌、全て振り払うように【悪魔の翼】を最大に羽ばたかせる。そして、残る全ての為に、アトロは戦場へ飛び込んだ。
射撃射撃銃撃。弾弾、連射連射掃射。
「・・・・!!?」
それは一方的な展開、になる筈であった。場所はバトルステージではない只の庭先、広さも圧倒的に違い、遮蔽物も少ない。敵は見るからに飛行装備を持たず、また打ち返さない事から射撃武装すら無い。飛べない近距離戦型と、飛べる遠距離戦型、考えるまでもなく自分が有利、そうラケは分析していた。だが・・・
疾走疾走、跳躍。壁、反転、跳躍、壁跳躍、壁跳躍、回避回避回避。
敵の速度は圧倒的だった。銃弾を掠らせる事も出来なかった。敵はその巨大な四肢を持ってして、正に獣のように4本の足で駆け抜ける。更に、その脚力を最大限に生かし、壁を蹴って広い庭の中を縦横無尽に“跳ね回る”のだ。その戦法自体は通常の神姫も取るものであり、何の驚きもなかったが、ただ、速い。何しろこんな15cmそこらの身で蹴った壁が抉れているのだ。恐ろしい跳躍力に息を呑んだ。だが気のせいだろうか? 敵はそれだけでなく、何か本能的な恐怖、それに違和感を含んでいるようにも見えた。
「・・・!! ラケっ!!!」
「Gah!?」
急襲、銃撃銃撃銃撃。弾弾、回避跳躍、壁、張付。
突然の援護射撃。姉のクロトだった。背後から見舞われた銃弾を避ける為、敵は不用意に飛び、壁に取り付く。その隙は、明白。
「・・・!!!」
集光、閃、烈光。直撃、閃光閃光閃光。
動きを止めた敵に、レーザーライフルを最大出力で叩き込む。そのまま、砲身が壊れるまで光を注ぎ続ける。冷たい空気ごと、白く、破壊する。
光、白煙。紫電、過熱、離。
遂にオーバーヒートしたライフルを投げ捨てながら、その焼ける白煙に、ラケは勝利を確信する。
「ラケ! やったな!!!」
煙裂、貫。轟々、大質量、粉砕。
「・・・!?」
「ラケっ!!」
姉の叫びを聞き、その直後に自分の足が砕け失われている事に、ようやく彼女は気づく。何か、何かが煙を突き破って飛来し、彼女にぶち当たった。しかし、何が?
飛、激突、接触音。落、鉈。
「・・!!」
“それ”が命中した衝撃で縦に回転しながら、ラケは自分を壊した後も飛び続け、壁にぶつかった“それ”の正体を見た。
・・・鉈、であった。それは単なる鉈であった。マスターと共に赴いたホームセンターに3000円程で置いてあった、只の普通の鉈であった。“人間用の”。
剛跳躍、掴頭。轟振、捻引裂破断千切。吹飛、砕。
“それ”を見た刹那、彼女の頭は“それを投げたモノ”によって捕まれ、次の刹那、振り回されて体がもげ落ち、吹き飛んだ体は壊れた。
「・・・?」
握、粉砕。
そして最後の刹那、彼女の最後の時間、彼女の頭に、“握り潰された”感触が伝わった。
「あ・・・あぁあぁ・・・」
アトロは、支配されていた。妹達を惨殺した悪夢に。先程投げた大鉈を拾い上げ、ゆっくりとこちらへ向かってくる、恐怖の主に。もう飛ぶ事すら出来ずに、怯えて、立ちすくんでいた。
歩、歩、歩、寄。歩、歩、歩、逃。
酷く遅い追いかけっこ。後退りするアトロ、今は2足歩行でにじり寄る、その恐怖の主。
アトロは知ってしまった。妹達が何に殺されたのかを。それは、今軽々と鉈を持ち上げる、いびつな“腕”。その神姫の背部から伸びた巨大な腕は、“人間用の鉈”を振るっている。それが答えだった。つまり始めから尺度が違うのだ。クロトの姉妹は“違法”でありはしても、その力は神姫の域を出てはいない。だが、その鉄仮面は、既にそんなものは簡単に飛び出て、人間の域にいる“異常”、つまりは化け物なのだ。人間に神姫の武器が通じる筈がない。人間の腕力に、神姫がかなう筈もない。そう、だから、眼前の“それ”はつまり、暴力の権化。
「Gruraaaaaahaaa・・・」
「ああぁ・・・」
突当、停。漸近、押。
「あ・・ぐぅっ!!」
その“前足”が彼女の胸元を押さえつける。あれだけの大質量を支える足、その力も尋常なものではない。動ける訳もなく、ただそれでも、彼女はもがく。
死にたくない死にたくない、生きたい帰りたいマスターに会いたい、助けて貰いたい救って貰いたい、この“異常”な存在を消し去って貰いたい。
・・・“異常”? 声にならない想いを巡らせながら、彼女は、気づいてしまった。
そもそも何が“異常”であるのか? 速さ? 違う。力? 違う。・・・心?
侵蝕侵蝕侵蝕侵蝕侵蝕侵蝕、狂、心蝕。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁあああぁぁぁああぁ・・・」
泣くようにかすれた声を上げ続ける彼女。彼女は、気づいてしまった。眼前のそれが何者であるかを。その冷たい鉄仮面の奥に光る目、その、眼に映る“心”を。
「お・・と・・っ・・」
剛断粉砕、崩。
跳躍、壁跳躍、到達。
“惨殺”を終えた鉄仮面の神姫は、一瞬で屋根の上まで飛び上がる。2階の窓の一つが、“彼”の部屋のものが空いている。其処へ向かいながら、背中の巨大な副腕で、鉄仮面を剥ぎ取る。
跳躍、進入、帰還。
その部屋にいたのはマスターである豊嶋蒼という赤ん坊。そして鉄仮面の奥にあった彼女、否、“彼”の表情に狂気など欠片もない。只・・・、
「ろー、ろーっ!!」
「が~うっ♪」
その神姫、ロウの表情は只、純粋に、“家族”を守り抜いた達成感と喜びに満ちていた。“男”として。
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