「ねここの飼い方・温泉でGO! そのいち」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「ねここの飼い方・温泉でGO! そのいち」(2007/09/02 (日) 23:58:15) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
「にゃー♪」
「ちょっとねここ。そんな勢いよくやったら、壊れちゃうってば~」
福引のガラガラのレバーにぶら下がって、何故か大車輪しながら派手に箱を回すねここ。
そして、ジャラジャラと煩い音を立てていた箱から、コロリと落ちた一つの玉。
それはもうすっかり見慣れた赤い玉とは、明らかに違う色で。
「……出た」
「……出たの?」
「……出てます」
同じ言葉を口にする私たち。静まり返る周囲。
誰かがゴクリと息を呑む音まで、はっきりと聞こえてきそうで。
「おめでとうございまーす!1等、豪華2泊3日、ペア温泉旅行……出ましたぁ!」
直後、チリンチリンと鳴り響く鈴の音と、商店街の担当者の人のハイテンションな叫びが木霊するのでありました。
ねここの飼い方・温泉でGO! そのいち
「うふふ、なんか招き猫ならぬ招きねここね。ねここ偉いわよ」
「えへへ。みさにゃんに喜んで貰えて、ねここ、と~っても嬉しいの♪」
珍しく私の肩に座っているねここ。その身体には大きめな目録を抱えて、にぱーっと満面の笑みを浮かべてる。
私も釣られるように顔から笑みが零れちゃうのが自覚できるし。
「夏休みは結局ドタバタしちゃって、あんまり羽休め出来なかったし、今度連休があるから、丁度いい機会よね」
「みさにゃんとおんせん~♪、楽しみなの☆」
「全くね~。帰ったら早速準備しましょうかっ」
「うん☆ …・・・ところで、みさにゃん」
と、急に真面目な顔になって私の顔をじっと見つめてくるねここ。
「なぁに?」
「『おんせん』って、なぁに?」
「・・・へ?」
「ひゃっ!?」
むぅ、そんなこと言うなんて、壮大にズッコケそうになっちゃったじゃない。
「ねここ……わかってないで喜んでたんだ」
「だって、みさにゃんも周りの人たちもすっごく驚いてたから、良い事なんだなーって思ったの……」
まるでちょっと悪いことをした後みたいに、身を竦めてしゅんとなってしまう。
「そっか。でも私はねここが私の為に喜んでくれた事が、とっても嬉しいかな」
「……えへー」
お互い柔らかな微笑が自然と零れる。まるでぽわぁっとその場の雰囲気が春になったみたい。
「それで、温泉って何なの~?」
「えぇとね…それは」
「我輩が説明しよう!
温泉とは、人類に残された最後の楽園! 地獄から天国への階段!! 快楽と悦楽に溢れたワンダフルすてぇーじなのだぁ!!!」
「平たく言うとお風呂、銭湯の凄い版かな。健康効果の高い成分が一杯入ったお湯なんだよ。大きな湯船のとこも多いし、山とかにある場合が多
いから景色もいい場所が多いんだから」
「なるほどなの~♪ ねここお風呂大好きだから、すっごい楽しみなのっ」
「……ぉーぃ」
後ろに何かいるようだけど、気にしないでおこう。
「そうだ、折角ペアなんだから誰か誘いましょうか。ねここと2人だけでもいいけれど、ワイワイ行っても楽しいよ、きっと」
「HAHAHA,そこは婚約者である、この我輩、いや僕の・・・!」
「う~ん……ねここは二人っきりでもいいのにぃ……」
「ふふ、それはまた今度ね♪」
「にゅぅ……はぁぃなの」
ねここはちょっと拗ねて、ぷぅっとほっぺを膨らませてる。それを指先でぷにぷにさせながらあやすみたいに言ってあげると、ねここもちょっと気分
を直してくれたみたい、かな。
「それじゃ誰を誘おうかしら……う~ん」
「ねここも一緒に考えるの~♪」
「あの……ぉーぃ……。ちょっとー……?」
「完全に2人の世界ですマスター。諦めた方が無難」
「何だとぉ!この程度で諦めては変態が……いや漢が廃るってもんじゃないか!?」
「……負け犬発言、ミットモナイ」
ゴキャ。
「ぶるわぁーっ!?」
「大変だーッ!誰か倒れてるぞー!」
「………!? ………!」
そんなこんなで、今日という1日は過ぎてゆくのでありました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『残念ですが、お断りしますわ』
あっさりと、NGが出ました。
色々とお世話になっている鈴乃さんに電話してみたのだけれど、
『今現在、少々立て込んでおりまして、遠出できる状況ではありませんの。なのでごめんなさいね、他の方を誘ってさしあげて』
「そうですか……お騒がせしました。……って、それと」
『なにかしら?』
「雪乃ちゃん一体何時になったら帰ってくるんですか。もう結構経つんですが……」
帰省すると言った日から既に結構な日数が経過していて、一体何時戻ってくるのだろうと少し不安にも思うわけで。
『嗚呼、それがですね……』
急に鈴乃さんの声が遠くなる。どうやら電話を離したみたいだけれど……
『……ぁの、おじいさまぁ。そんなにくっつかれたらおヒゲがちょっとあの……』
『……よいではないか。偶の帰省、もっとワシに其の可愛い顔を見せておくれ』
『……ぁーれー……』
……なんというか、放置していいのかなぁコレ……
『……という訳でして、おじいさまが離してくれませんの。もう暫くしたら無理やりにでも引っぺがして其方へ参上しますので、暫しお待ちになって』
「はぁ……まぁ、お任せします」
余り人の家の事に口出しするのも悪いしね。
『それでは、ごきげんよう……そうそう、私よりも適任者がおるのではなくて?その温泉、傷や火傷、神経痛などにもよく効くのでしょう。うふふ』
「そうみたいですね……って、もしもーし?」
目録と一緒に貰ったパンフレットをパラパラと開きながら相槌を打ってたら、電話は既に切れてしまっていた。
「適任者、ね……そうね。誘ってみましょうか」
「……ぇ。ぁ、あの……わ、私で良いんですかっ!?」
そう顔を真っ赤にして、あたふたと答えるのはアキラちゃん。
学校のお昼休み、一緒にお弁当を食べている中、その温泉の話を切り出してみたのだけれど。
今日の自信作の出汁巻き玉子をはむはむと摘みつつ、話を続ける。
「えぇ。9月は色々あったし、アキラちゃんも大変で疲れてるかな思って。お詫び……というのも変だけど、良ければと思って。
でも体調もあるだろうし、無理だったらいいのだけれど……」
「そ、そんなことありません! お姉さまと一緒の温泉……例え死んでも絶対に一緒に行かせて頂きますっ!」
アキラちゃんはずずぃとお弁当箱の置かれた机から身を乗り出すように、顔を思いっきり接近させて力説してくる。
喜んでくれるのは嬉しいけれど、何もそこまで力を入れなくても……
あとお姉さまと呼ばれるのがすっかりデフォルトになってしまったようで、ずーっとそう言われつづけるものだから、最初は好奇の眼差しだったのが
、今やクラスメイトどころか先生までも全く何も言わなくなるように。
確かに可愛い娘はぷにっとしちゃいたくなるけど、ここまで大っぴらになるのも、ね……。
「それじゃ、OKってことで良いわね。日程は来週だから、それまでに荷造りしておいて。」
でも実害はないし、ま、いっかと思いつつ。
「わかりました。……あ、所でネメシスも一緒に行って平気ですか?
あの子には1人で悲しい想いをさせた分、今度は2人で一緒に想い出を作っていきたいな、って思うので……」
ほんの少しの苦みを含んだ、ほんのりとはにかむような笑顔でそう付け加えるアキラちゃん。
勿論、断る理由もなく。
「えぇ、構わないわよ。というか、ねここも元々連れて行く予定だったしね」
「本当ですか、ありがとうございますっ! あぅっ、ぁたた」
嬉しかったようで、勢いよくおもいっきり頭を下げて、思わず机にごっつんこしてしまう。天然さんだねぇ……
「いえいえ。でも今回の旅行で、あの2人ももうちょっと仲良くなってくれると良いのだけれどね」
「あはは……そうですね。でもネメシスって、何でねここちゃんを嫌うんでしょうね?」
気づいてないんだ……。まぁ、私からわざわざ言うことでもないし、他人の恋路を邪魔するのは馬に蹴られてなんとやらだしね。
「さてね。だけど今まで長時間一緒に居る事はあまりなかったし、温泉のほのぼの出来る環境ならきっと仲良くなれるんじゃないかな」
それに、ねここの100万ドルの笑顔にやられない子なんていないだろうしっ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
秋の爽やかな風が薄い桃色のカーテンを優しく揺らし、柔らかにその姿を変えていく。
私は窓の淵に腰を落ち着け、その風と陽射しを身体一杯に浴びながら、主の帰りを穏やかな気持ちで待ち続ける。
そんな中、カチャリと、穏やかにドアノブを捻る音が室内に響く。
「……ただいま、ネメシス」
それは今の私にとって、祝福の鐘の音のようにすら聞こえる。
「お帰りなさい、アキラ」
ドアの向こうから姿を現したのは、誰よりも愛おしい、私の主。アキラと一緒に過ごす、一度は諦めた……穏やかな時間。
「今日のおやつはアキラの好きなレアチーズケーキですよ。母上から託っていますので……その、一緒に、食べましょう」
「えぇ、一緒に」
弾むような声で返してくれるアキラ。
ここ最近は前よりもずっと明るく元気になり……私も、優しくして貰えるようになった。
大変喜ばしい事だし、事実私も嬉しいのだけれど、私だけの功績ではないのを、ほんの少しだけ残念に思う。
「それでね……」
にこやかな笑顔と共に、今日学校であった出来事を、私に嬉しそうに話してくれるアキラ。
同時に私が準備して置き、アキラが淹れてくれた紅茶の芳醇な香りが、部屋に充満してゆく。
「それにしても、今日は特にご機嫌なようですね。アキラ」
……その一言が、今思えば、余計だった。
とっておきのプレゼントを見せるような、喜びが溢れ出す笑顔と共に。
「えぇ。お姉さまに、来週泊り掛けの温泉旅行に誘われたの♪ ねここちゃんも一緒よ」
……あの2人には、アキラだけではなく、私自身も恩義がある。でも、私のCSCが最大ボリュームで訴えている。
敵だ、と。
「そうですか……でも来週は確か予定が……」
「ないわよ? 昨日貴女と一緒に予定組んだじゃないの」
「傷の事もありますし、遠出は……」
「傷によく効く温泉だからって、お姉さまが誘ってくれたのよ♪ それに比較的近場で穴場らしいの」
「私錆びちゃいます……」
「毎日一緒にお風呂入ってるじゃない? 変なネメシス」
「うぅ……ねここと一緒に温泉なんて行っちゃいやですーっ!」
「心配しないで。貴女も一緒だから、ね?」
アキラは不思議そうな、でも笑顔で此方を見つめてくる。こういう所は鈍いんですよね……
でも、そんな所も全て含めて……私は、貴方を……
[[続く>ねここの飼い方・温泉でGO! そのに]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]
「にゃー♪」
「ちょっとねここ。そんな勢いよくやったら、壊れちゃうってば~」
福引のガラガラのレバーにぶら下がって、何故か大車輪しながら派手に箱を回すねここ。
そして、ジャラジャラと煩い音を立てていた箱から、コロリと落ちた一つの玉。
それはもうすっかり見慣れた赤い玉とは、明らかに違う色で。
「……出た」
「……出たの?」
「……出てます」
同じ言葉を口にする私たち。静まり返る周囲。
誰かがゴクリと息を呑む音まで、はっきりと聞こえてきそうで。
「おめでとうございまーす!1等、豪華2泊3日、ペア温泉旅行……出ましたぁ!」
直後、チリンチリンと鳴り響く鈴の音と、商店街の担当者の人のハイテンションな叫びが木霊するのでありました。
ねここの飼い方・温泉でGO! そのいち
「うふふ、なんか招き猫ならぬ招きねここね。ねここ偉いわよ」
「えへへ。みさにゃんに喜んで貰えて、ねここ、と~っても嬉しいの♪」
珍しく私の肩に座っているねここ。その身体には大きめな目録を抱えて、にぱーっと満面の笑みを浮かべてる。
私も釣られるように顔から笑みが零れちゃうのが自覚できるし。
「夏休みは結局ドタバタしちゃって、あんまり羽休め出来なかったし、今度連休があるから、丁度いい機会よね」
「みさにゃんとおんせん~♪、楽しみなの☆」
「全くね~。帰ったら早速準備しましょうかっ」
「うん☆ …・・・ところで、みさにゃん」
と、急に真面目な顔になって私の顔をじっと見つめてくるねここ。
「なぁに?」
「『おんせん』って、なぁに?」
「・・・へ?」
「ひゃっ!?」
むぅ、そんなこと言うなんて、壮大にズッコケそうになっちゃったじゃない。
「ねここ……わかってないで喜んでたんだ」
「だって、みさにゃんも周りの人たちもすっごく驚いてたから、良い事なんだなーって思ったの……」
まるでちょっと悪いことをした後みたいに、身を竦めてしゅんとなってしまう。
「そっか。でも私はねここが私の為に喜んでくれた事が、とっても嬉しいかな」
「……えへー」
お互い柔らかな微笑が自然と零れる。まるでぽわぁっとその場の雰囲気が春になったみたい。
「それで、温泉って何なの~?」
「えぇとね…それは」
「我輩が説明しよう!
温泉とは、人類に残された最後の楽園! 地獄から天国への階段!! 快楽と悦楽に溢れたワンダフルすてぇーじなのだぁ!!!」
「平たく言うとお風呂、銭湯の凄い版かな。健康効果の高い成分が一杯入ったお湯なんだよ。大きな湯船のとこも多いし、山とかにある場合が多いから景色もいい場所が多いんだから」
「なるほどなの~♪ ねここお風呂大好きだから、すっごい楽しみなのっ」
「……ぉーぃ」
後ろに何かいるようだけど、気にしないでおこう。
「そうだ、折角ペアなんだから誰か誘いましょうか。ねここと2人だけでもいいけれど、ワイワイ行っても楽しいよ、きっと」
「HAHAHA,そこは婚約者である、この我輩、いや僕の・・・!」
「う~ん……ねここは二人っきりでもいいのにぃ……」
「ふふ、それはまた今度ね♪」
「にゅぅ……はぁぃなの」
ねここはちょっと拗ねて、ぷぅっとほっぺを膨らませてる。それを指先でぷにぷにさせながらあやすみたいに言ってあげると、ねここもちょっと気分を直してくれたみたい、かな。
「それじゃ誰を誘おうかしら……う~ん」
「ねここも一緒に考えるの~♪」
「あの……ぉーぃ……。ちょっとー……?」
「完全に2人の世界ですマスター。諦めた方が無難」
「何だとぉ!この程度で諦めては変態が……いや漢が廃るってもんじゃないか!?」
「……負け犬発言、ミットモナイ」
ゴキャ。
「ぶるわぁーっ!?」
「大変だーッ!誰か倒れてるぞー!」
「………!? ………!」
そんなこんなで、今日という1日は過ぎてゆくのでありました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『残念ですが、お断りしますわ』
あっさりと、NGが出ました。
色々とお世話になっている鈴乃さんに電話してみたのだけれど、
『今現在、少々立て込んでおりまして、遠出できる状況ではありませんの。なのでごめんなさいね、他の方を誘ってさしあげて』
「そうですか……お騒がせしました。……って、それと」
『なにかしら?』
「雪乃ちゃん一体何時になったら帰ってくるんですか。もう結構経つんですが……」
帰省すると言った日から既に結構な日数が経過していて、一体何時戻ってくるのだろうと少し不安にも思うわけで。
『嗚呼、それがですね……』
急に鈴乃さんの声が遠くなる。どうやら電話を離したみたいだけれど……
『……ぁの、おじいさまぁ。そんなにくっつかれたらおヒゲがちょっとあの……』
『……よいではないか。偶の帰省、もっとワシに其の可愛い顔を見せておくれ』
『……ぁーれー……』
……なんというか、放置していいのかなぁコレ……
『……という訳でして、おじいさまが離してくれませんの。もう暫くしたら無理やりにでも引っぺがして其方へ参上しますので、暫しお待ちになって』
「はぁ……まぁ、お任せします」
余り人の家の事に口出しするのも悪いしね。
『それでは、ごきげんよう……そうそう、私よりも適任者がおるのではなくて?その温泉、傷や火傷、神経痛などにもよく効くのでしょう。うふふ』
「そうみたいですね……って、もしもーし?」
目録と一緒に貰ったパンフレットをパラパラと開きながら相槌を打ってたら、電話は既に切れてしまっていた。
「適任者、ね……そうね。誘ってみましょうか」
「……ぇ。ぁ、あの……わ、私で良いんですかっ!?」
そう顔を真っ赤にして、あたふたと答えるのはアキラちゃん。
学校のお昼休み、一緒にお弁当を食べている中、その温泉の話を切り出してみたのだけれど。
今日の自信作の出汁巻き玉子をはむはむと摘みつつ、話を続ける。
「えぇ。9月は色々あったし、アキラちゃんも大変で疲れてるかな思って。お詫び……というのも変だけど、良ければと思って。
でも体調もあるだろうし、無理だったらいいのだけれど……」
「そ、そんなことありません! お姉さまと一緒の温泉……例え死んでも絶対に一緒に行かせて頂きますっ!」
アキラちゃんはずずぃとお弁当箱の置かれた机から身を乗り出すように、顔を思いっきり接近させて力説してくる。
喜んでくれるのは嬉しいけれど、何もそこまで力を入れなくても……
あとお姉さまと呼ばれるのがすっかりデフォルトになってしまったようで、ずーっとそう言われつづけるものだから、最初は好奇の眼差しだったのが、今やクラスメイトどころか先生までも全く何も言わなくなるように。
確かに可愛い娘はぷにっとしちゃいたくなるけど、ここまで大っぴらになるのも、ね……。
「それじゃ、OKってことで良いわね。日程は来週だから、それまでに荷造りしておいて。」
でも実害はないし、ま、いっかと思いつつ。
「わかりました。……あ、所でネメシスも一緒に行って平気ですか?
あの子には1人で悲しい想いをさせた分、今度は2人で一緒に想い出を作っていきたいな、って思うので……」
ほんの少しの苦みを含んだ、ほんのりとはにかむような笑顔でそう付け加えるアキラちゃん。
勿論、断る理由もなく。
「えぇ、構わないわよ。というか、ねここも元々連れて行く予定だったしね」
「本当ですか、ありがとうございますっ! あぅっ、ぁたた」
嬉しかったようで、勢いよくおもいっきり頭を下げて、思わず机にごっつんこしてしまう。天然さんだねぇ……
「いえいえ。でも今回の旅行で、あの2人ももうちょっと仲良くなってくれると良いのだけれどね」
「あはは……そうですね。でもネメシスって、何でねここちゃんを嫌うんでしょうね?」
気づいてないんだ……。まぁ、私からわざわざ言うことでもないし、他人の恋路を邪魔するのは馬に蹴られてなんとやらだしね。
「さてね。だけど今まで長時間一緒に居る事はあまりなかったし、温泉のほのぼの出来る環境ならきっと仲良くなれるんじゃないかな」
それに、ねここの100万ドルの笑顔にやられない子なんていないだろうしっ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
秋の爽やかな風が薄い桃色のカーテンを優しく揺らし、柔らかにその姿を変えていく。
私は窓の淵に腰を落ち着け、その風と陽射しを身体一杯に浴びながら、主の帰りを穏やかな気持ちで待ち続ける。
そんな中、カチャリと、穏やかにドアノブを捻る音が室内に響く。
「……ただいま、ネメシス」
それは今の私にとって、祝福の鐘の音のようにすら聞こえる。
「お帰りなさい、アキラ」
ドアの向こうから姿を現したのは、誰よりも愛おしい、私の主。アキラと一緒に過ごす、一度は諦めた……穏やかな時間。
「今日のおやつはアキラの好きなレアチーズケーキですよ。母上から託っていますので……その、一緒に、食べましょう」
「えぇ、一緒に」
弾むような声で返してくれるアキラ。
ここ最近は前よりもずっと明るく元気になり……私も、優しくして貰えるようになった。
大変喜ばしい事だし、事実私も嬉しいのだけれど、私だけの功績ではないのを、ほんの少しだけ残念に思う。
「それでね……」
にこやかな笑顔と共に、今日学校であった出来事を、私に嬉しそうに話してくれるアキラ。
同時に私が準備して置き、アキラが淹れてくれた紅茶の芳醇な香りが、部屋に充満してゆく。
「それにしても、今日は特にご機嫌なようですね。アキラ」
……その一言が、今思えば、余計だった。
とっておきのプレゼントを見せるような、喜びが溢れ出す笑顔と共に。
「えぇ。お姉さまに、来週泊り掛けの温泉旅行に誘われたの♪ ねここちゃんも一緒よ」
……あの2人には、アキラだけではなく、私自身も恩義がある。でも、私のCSCが最大ボリュームで訴えている。
敵だ、と。
「そうですか……でも来週は確か予定が……」
「ないわよ? 昨日貴女と一緒に予定組んだじゃないの」
「傷の事もありますし、遠出は……」
「傷によく効く温泉だからって、お姉さまが誘ってくれたのよ♪ それに比較的近場で穴場らしいの」
「私錆びちゃいます……」
「毎日一緒にお風呂入ってるじゃない? 変なネメシス」
「うぅ……ねここと一緒に温泉なんて行っちゃいやですーっ!」
「心配しないで。貴女も一緒だから、ね?」
アキラは不思議そうな、でも笑顔で此方を見つめてくる。こういう所は鈍いんですよね……
でも、そんな所も全て含めて……私は、貴方を……
[[続く>ねここの飼い方・温泉でGO! そのに]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: