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武装神姫のリン
鳳凰杯篇 その5
あちらはマスター同士、こっちは神姫同士ということで私は部屋から逃げ出てしまったミカエルを追います。
互いに死力を尽くした(精神的に言えば彼女はもっと苦しかったと思います…)バトルの直後で"疲れ"が出ている頃。
それほど遠くには行けないと解っていてもミカエルとの距離が一向に縮まらないことでやはり私は焦りを感じてしまいます。
身体の状態など気にしないほど悲しみは彼女の心を支配しているはずです。
なぜなら、その悲しみは想像しただけでも恐ろしく神姫にとっての絶望そのものなのですから。
彼女をそのままで終わらせるのは"約束"をした仲の自分が許せない。だからこそ私ももう一度気を引き締めて必死に彼女を追います。
とその瞬間ミカエルが通路を横切ったスタッフにぶつかりました。
「うわ!」
その拍子にスタッフの持っていた工具箱。そこから無数の工具がバランスを崩し、ミカエルに向かって落ちていくのです。
ミカエルはぶつかった弾みで腰が抜けたのか、動きません。落ちてくる鉄塊を見上げることしかできないのです。
「届いて!」
私は渾身の力を込めてミカエルに向かって飛びかかります。
ほんの少しでも彼女の身体をかばう。もしくは押すだけで致命傷は避けられるはず。
自身の安全を優先するプログラムが動きを妨害しようとしますが、瞬時にそれを解除。
そうして…ミカエルの身体に私の手が…
"ガシャン"
そんな音を聞いたのを最後に、私の意識はそこでとぎれてしまったのです。
私が目を覚ましたのはそれから数時間後、会場に設営された神姫のメンテナンスを行う"救急救護室"のベッドの上でした。
「気分はどうだ?」
マスターがいつものように、でもやっぱり心配そうな瞳で声をかけてくれました。
「心配したんだからね~」
「寿命が縮みましたわ」
「…おかあさん、よかったぁ!!!」
花憐が飛びついてきます。どうやら家族全員に心配をさせたみたいで…そこでミカエルの無事が気になりました。
「マスター、ミカエルは?」
「ああ…」
みんなの表情がすこし曇ります、まさか…
「いや、リンが思っている様な最悪の事態にはならなかったんだけどな」
「なら…」
「記憶が…無くなってるんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、私の"心"が痛みを感じました。
心の中に何かの間違いだとそれを拒絶する自分が居て、でも一方で現実を受け入れている冷静な自分も存在している…
その2つがぶつかった様な、そんな感じでした。
「そんな…全て忘れてしまったのですか?」
「いや、自分の名前と事故の直前のこと。つまりリンが助けようとしてくれたことは覚えてるらしいんだけど他のことがさっぱりだ」
「自分のマスターが誰であったかさえも分からないのですね」
「…そういうことだ。」
「では、彼女はどうなるんでしょうか」
「引き取り手が無い場合は…施設行きだろうな」
「それも彼女にとっては悪いことではないと思うんだけどね…」
「茉莉の言うことも正論だと思いますが、でも!」
「リンの言いたいことは分かってるよ、あの子をティアみたいに引き取れって言うんだろ?」
「そこまで分かっているなら!」
私が次の言葉を発する前に救護室のドアが開かれた
「失礼します。」
それは映画やTVで見たことのあるSPそのままの人だった。
その人は、かけていたサングラスを外してお辞儀をしました。
「あんたは…」
「はい、鶴畑家の直属のSPを努めております。 岩原と申します。」
「何の用ですか?鶴は他のSPともあろう人が。」
茉莉もあの人を少々警戒しているようでした。
マスターも、茉莉も、もちろんティアも。時間が結構経ったとはいえあの騒動を皆忘れてないのです。
しかし岩原の口から出た言葉は意外なものでした。
「今回は、お願いがあってお伺いしたのです。」
「なに…?」
「ミカエル…彼女を引き取っていただきたいのです。」
「どういうことだ?」
「全ては、大紀様の願いです。大紀様は今までのことを反省しております。よほどあなたの説教が効いたのでしょう。」
コレにはみんなが驚きました。なんというか、あの人に対してはみんな「イヤミな金持ちのボンボン」というイメージしか無かったためにマスターの説教(まあ、これはマスターの癖というか性格なんでしょう。マスターは極上のお節介ですから。)を素直に聞くようには思えないのですが…
「あ、そういえば最後にそれらしいこと言ってたな。その後すぐにリンとミカエルが大変だって聞いて忘れかけてた。」
「亮輔、もしかしてすごいことしちゃったんじゃない?」
「…そうかも。」
「おとうさんすご~い」
花憐はマスターに飛びつきました。全く、この子は…とも思いつつ私マスターに抱きつければなぁなんて思ったり。
「大紀様は一からやり直そうと思っておいでです、そのためにもしミカエルが自分を認めてくれるのであればと最後の望みをかけておりましたがこのような事態になり…そして唯一残っている記憶に関連のある、あなたたちに彼女を任せたい。とおっしゃっています。」
「…話は分からなくもないのですが、ではなぜ本人が出てこないのかしら?」
そのことについてはちょっと気になっていましたが、その疑問をティアが岩原さんにぶつけました。
「もうしわけございません、先に仰っておくべきでした。 大紀様は「彼女への自分なりの償いだ」と仰いまして今までの武装データをディスクメディアにコピーする作業に没頭しております。そのディスクメディアはあなた様に渡すためとも仰っておりました。」
「で、自分の神姫はどうするんだよ」
「今までのように大量に起動させた中から能力だけで選ぶのではなく、自分で町を歩き、これだと思うパートナーを見つけるそうです。」
「今までのランクポイントは?」
「廃棄されると。」
「…なら、なおさらミカエルを受け取るわけには行かないな。」
マスターはそう岩原さんに告げます、それは私が今言おうか迷った言葉でした。
「なぜですか? 彼女にはあなた様の元で幸せになって欲しいと…それが」
「記憶が消えた…それがどうした。 外的損傷も無いし機能も正常。ならきっと思い出せる。そして全てを思い出した時にマスターが居なくてどうするんだ!」
「ですが…」
「とりあえす本人を連れてくるんだな」
マスターが岩原さんに食ってかかる寸前。
「その必要は、無い。」
鶴畑大紀がこの部屋に入ってくるなり、マスターの正面に立って言いました。
「あんた、さっきの話はつまり俺に"ミカエル"ともう一回最初からやれってことか」
「そうだ。それが一番、あの子にとって良いはずだ。」
「…」
鶴畑大紀は黙ったままどうするべきか考えているようでした。
そうして部屋野中は無音に、誰もが口を開けない…そんな中
「じゃあ、本人に決めてもらおうか」
急に茉莉が言い出したのでマスターも、ほかのみんなもびっくりしてしまいます。
「ああ、それが一番手っ取り早いかな」
「ですね。」
私もそれに賛同します。
そうしてミカエルが寝ている部屋に皆で行くことに。
記憶に残っている唯一の"知人"ということで最初に声をかけるのは私ということになりました。
眠っているミカエルのそばに寄り添い、優しく声をかけます。
「ミカエル、起きて。」
ゆっくりとミカエルのまぶたが開き、意識が覚醒していくのが分かりました。
「…リン」
「そう、リンです。あなたの友達の、リンです。」
「なんの、用?」
「それなんですが、あなたは私の子と以外を忘れていると聞きました。本当にそうですか?」
「…うん、何も思い出せない」
そうだと分かっていても本人から肯定の言葉を聞いたことでショックを受けました。でも私にはまだやるべきことが残っています。
「そうですか、私の家族や友達も来ているのですが、部屋に入ってもらってもいいですか?」
「うん、いいよ。リンの友達なら」
私の合図でマスター達が部屋に入ってきました。
「こんにちは、リンのマスターの藤堂亮輔です。よろしく。」
「私は亮輔の家族の茉莉、そしてこっちが」
「ティアですわ、よろしくおねがいしますわね。」
「花憐です~よろしくおねがいします~」
「あ、はい。よろしく」
ミカエルは一見すると感情が無いような、そんな目でマスター達の後ろにいる鶴畑大紀を見つめています。
彼女の反応次第でミカエルが私たちとともに来るのか、元のマスターの元へと戻るのかが決まるため、みんな固唾を飲んで見守っています。
1分ほど見つめた後、ミカエルの口が不意に開きました。
「そっちのお兄ちゃんたち…は、だれ?」
『やはりダメだったのか』そんな雰囲気が部屋中を覆おうとします。
しかしミカエルの言葉はまだ続いていました
「なんだか、見た目は怖いのになぜかお兄ちゃんのことが怖くないって分かる。後ろの男の人も。」
「…み、ミカエル。」
鶴畑大紀はその言葉に、人目もはばからずに目に涙を浮かべています。
なぜか後ろにいる岩原さんまでサングラスごしにハンカチを目尻に当てている。
「なあ、ミカエル。 俺と一緒にいてくれないか?」
「なんで?」
「えっと、俺が、一緒にいたい、から」
「…」
ミカエルは少々困った顔をして私に聞いてきます。
「私、どうしたらいいいんだろう?」
「ミカエルの思う通りにすればいいんですよ。」
「…わからないよ。そんなの~」
この状況は予想していませんでした、今のミカエルなら私が誘えば絶対に私たちについてきます。
でも、マスターがさっき言った様にそれはミカエルにとって最善のこととは思えないのです。だからこそ、心を鬼にして私は彼女を突き放します。
「…リン!?」
「世界はそこに生まれたモノを拒んだりしません、それは人、動物、神姫どれも同じです。だからあなたが望むままに生きて、そして自分で決断する勇気を持ってください。あの人について行くか否か。この選択はその最初の一歩です。どっちを選んでも誰もあなたを責めたりしません。だから。」
私は思いの丈を彼女にぶつけました。
あとは彼女次第です。私たちはミカエルの決断を待ちます。2分、3分、5分と時が過ぎて…
「決めた、私。そのお兄ちゃんと一緒に行く。」
「…ありがとう、ミカエル。」
その一言と同時に鶴畑大紀は泣き崩れ、岩原さんは彼を支えています。
そしてマスター達もミカエルがちゃんと決断できたことを喜んでいます。
「な、大丈夫だって言ったろ?」
「私が言い出さなかったら今日中にここまでいかなかったんじゃない?」
さりげなく茉莉がマスターにご褒美をねだっていますね、私には分かりますよ。だって家族ですから。
とりあえず、私もがんばったのでご褒美をもらっても良いはずです。だから私もさりげなく茉莉に便乗させてもらいます。
「茉莉、でもそれは私も考えてたのですが、突然茉莉が言ってしまってみんなをびっくりさせてのですよね…私は皆さんを動揺させずに言えるか結論をだした瞬間に」
「え!? ホント?」
「私は嘘は言いませんよ、ですよねマスター?」
「あ、ああ。ソウデスネ」
マスターはこの後の子とを考えて頭がフリーズしてしまったみたいですね。
今日の夕食とデザートは豪勢なものになる予感がします。
「あ~~~~~~~!!!!しまった!!」
突然マスターが大声を上げました。
何かだいじなことを忘れていたのかもしれない、それが致命的なことだったら…そんな怖気が身体を駆け巡り、私は強い声でマスターに聞いたのです。
「マスター!? なにが!?」
しかしマスターの表情はすぐさま軟らかい?というか負い目を感じてるようなものに変化。そして。
「リン、すまない。鳳凰杯の次の試合だったんだけど連絡もしてなくて棄権扱いになったw しかも連絡してないから俺のランクポイントが10減少っていうペナルティ付きでなorz」
こんな一言で返すのです。
そこで茉莉が思い出したように手をたたきました。
「あ~、あの放送ってやっぱり亮輔のこと呼んでたんだ」
「お姉様が心配するあまり、先にやるべきことを忘れてしまう…ご主人様の悪い癖ですわw」
「あ、そうか鳳凰杯の予選とミカエル戦でポイントは8稼いでたはず…マイナス2ポイントなら我慢できるな…」
「マスター、私はミカエルを救えただけで十分に満足です。ですから…今度からはそういうことは早く言ってくださいね。」
ミカエルに関することで無くて安心しつつも、こっちも十分に大事なことだったのでやんわりとマスターをしかってあげました。
そして私は茉莉にウィンクを。それで事情を察した茉莉も
「そうそう、ハッピーエンドってことでみんなでご飯食べに行きましょう~全部亮輔のおごりね」
「…ああ、ヨソウハツイテイマシタカラゴジユウニシテクダサイ」
準備を終えた鶴畑大紀の肩に乗っていたミカエルが私に声をかけました。
「リン、また遊んでね?」
「はい。ミカエルもお元気で。」
「うん、また。」
これは私とミカエルの始まり。そして
「今回は、世話になった。 いや。なりました。地道にがんばります。」
「ああ、がんばれよ、兄貴に負けるな。」
「でわ…」
マスターと鶴畑家との奇妙な関係の終わりであり、言い方を変えればこれも始まりかもしれません。
こんな感じでいつも通り、何かしらの騒動に巻き込まれてそれを解決(?)して私とマスター、そしてみんなの鳳凰杯は幕を閉じたのです。
マスターの財布の中身が一気に3桁台になるという悲劇?いや喜劇ですね。と一緒に…
~[[武装神姫のリン 鳳凰杯篇 Fin>武装神姫のリン]]~
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