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「妄想神姫:外伝・その二十二」(2007/07/09 (月) 10:49:47) の最新版変更点
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**星に、願いを──あるいは七夕の夜
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本日最後の客も帰り、どっと疲れが沸く。私・槇野晶の一日が終了、
となる所なのだが……今日はこれからが本番だ。何故なら七月七日。
そう、七夕である。昼の内に、我が“妹”たる三人の神姫には準備を
お願いしてあるがどうなっているだろうか。居住スペースに向かう。
「ふぅ。待たせたなお前達、準備は……おお。しっかり出来ているな」
「がんばりましたの~♪飾り付けもばっちり完成してますのっ……♪」
「……千羽鶴まで。有無、無駄に豪勢だな……再生紙故問題はないが」
「竹じゃなくて中古の釣竿なのは勘弁してほしいんだよ、マイスター」
「しょうがないですよ。環境問題もありますし、この辺から……ね?」
テーブルの上にあったのは、リールの付いていない古い釣竿1セットに
釣り糸に結ばれた紐。更にそこに繋がった無数の短冊や折り紙などだ。
……更に、まだ何も書かれていない短冊が、別個に一枚。隣にはペン。
ふむ、どうも私に『願い事を書け』という事らしいな。可愛い娘らだ。
「後は私だけ、という事だな……と、見るんじゃないぞ?まだ内緒だ」
「はい。そのかわりあたし達のも、屋上に出るまでは内緒ですからね」
「……まあ、仕方ないか。と言う事は、お前達は既に書いたのだな?」
「この通り、パンチで縛る穴も開けてあるんだよ……見せないけどね」
アルマが意地悪そうに微笑むと、クララとロッテが小さく折り畳まれた
紙片を取り出してきた。小さく……と言っても、神姫である彼女らには
座布団サイズだがな。そして、皆が互いを気にしている事から察するに
多分彼女ら自身も、姉妹が書いた願い事はまだ知らんのだろう。有無。
「皆、どんな願い事書いたんですの~?ちょっと気になりますのっ」
「まあそれは今から分かるだろう。さてと、私も書けた……往くぞ」
「分かったんだよ。じゃあ肩に乗って……マイスター、物をお願い」
「分かっている、ほら。私の肩に乗ってくれ。ビルの屋上に出るぞ」
「は、はいっ!んしょ……っと、手が自由にならないと不安定です」
私は、釣竿と飾りに己の短冊を。三姉妹は、折り畳んだ自分達の短冊を。
ついでにエレベーターのマスターキーを棚から持ちだして、店外に出る。
そして近くにあるドアを潜って、コンソールの下にある鍵穴を操作する。
普段は勝手に屋上へ出られない様、“Rボタン”をロックしてあるのだ。
だがこれにより、集光タワーやアンテナの乱立する会館の屋上に行ける。
「随分と久しぶりだな、屋上に出るのは……あまり綺麗とは思えぬが」
「それでも、使っていないフロアへと忍び込むよりは余程いいんだよ」
「えっと……鳥の巣とかは作れる場所がないんでしたよね?構造的に」
「そうですの、アルマお姉ちゃん♪出口付近はちょっとアレですけど」
雨水などが浸水しない様に、エレベーターが設置してある構造物付近は
階段にして数段分高く設計してある。“鳥の落とし物”があるならば、
その周りにしかないだろう、という話だ。食事中の諸兄には詫びよう。
む、着いた様だ。ドアが開き、眼前に鉄格子付きの分厚い扉が現れる。
「よし、開くぞ。ビル風に吹き飛ばされない様、しっかり掴まれ!」
「はいですの……う、うわわっ!ちょっと風が強すぎますの~!?」
「ボクはポケットだから、実害無いんだよ。アルマお姉ちゃんは?」
「う、うぐ。どうにか……踏ん張ってますけど、きついですね……」
そう言えばそうだ。小柄とは言え人間の私には十分耐えられる風でも、
圧を受ける面積が小さいとは言えど、軽い神姫にこの突風は堪えよう。
慌てて両肩のロッテとアルマを、クララのいる胸ポケットに押し込む。
万一転げ落ちてしまえば、どんな物理的ダメージを被るか計り知れん。
「すまんな。手伝い用の飛行ユニットでも持ってくればよかったか」
「気にしなくていいんだよ、マイスター。その心だけで嬉しいもん」
「それに、皆で肌を寄せ合って初夏の夜を過ごすのもいいですの♪」
「ちょ、な……何言ってるんですかロッテちゃんっ!?もうっ……」
「変な事を言うなッ!さ、そこのポールに竿を立てようではないか」
そうして騒ぎつつも、私は釣り竿を伸ばして屋上の一角に用意している
ポールに突き刺す。ちなみに隣では、他の入居者向けに用意した稲荷が
小さな祠を風に晒している。これも掃除してやらんとバチが当たるな。
後で、ふき掃除でもしてやるとするか……ともあれ次は、飾り付けだ。
「よし。ではまずこっちの飾りを、しっかりと結びつけて……OKだ」
「篠の葉さらさら、野際……じゃなくてビル際に揺れる~、ですの♪」
「いっぱい紙製の飾りを作った甲斐がありますね、クララちゃんっ!」
「情緒があるのかは分からないけど、気分の問題なら上出来なんだよ」
「さて、後は皆の願い事を書いた短冊か……まずは、私から出そうか」
そして私は、別のポケットに忍ばせていた短冊を余剰スペースに付ける。
その途端、神姫たる三姉妹達がくすくすと笑い出す。その事情を知るのに
さほど時間は掛からなかった。全く、恥ずかしいが嬉しい限りだな……。
「ん?……さ、次はクララのだな。貸してくれ……なるほど、そうか」
「そう言う事なんだよ、マイスター。次はロッテお姉ちゃんの分だね」
「ふふっ……わたしのも見て驚いてくださいですの、マイスターッ♪」
「これは……全くお前達と来たら。アルマもひょっとしてそうだな?」
「は、はいっ!……みんな同じだなんて、滑稽だけど嬉しいですね♪」
──────『みんな、ずっといっしょにいられますように』。
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