「後幕」(2007/07/08 (日) 21:27:21) の最新版変更点
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・・・。
・・・。
いつもの銀色のクレイドルの上。日差しにウトウトとしていたが。ふっと、彼女は顔を上げて掛け時計を見やった。深く黒い、硝子の角が、今日も風景を照り返す。
スーツは赤と黒に彩られ、首元のワインカラーが美しいスミレ色の髪を更に際立たせる。
いけない、そろそろ時間だ。
ヴィネットはコンピュータのテレビのチャンネルを合わせると姿勢を正し、肩越しにマスターを呼んだ。
・・・。
透き通る水面の上。純白のドレスのような美麗な装甲を纏った舞姫。
パールとグリーンに彩られ、官能的とも言えるラインで大胆にカットされたようなスーツカラー。
山吹色の髪には銀のカチューシャが煌く。彼女は流れるリズムに全てを乗せて舞った。その爪先が水にキスをする度に美しい波紋がダンスを一層彩り、身に着けたスラスターは金色の輝きを軌線として引き、それもまた水面に映りこむ。
それさえも一つの演出かのように見せながら。
やがて、舞い終え、フェスタは大きく一礼する。
割れんばかりの拍手が彼女に降り注ぎ、DJが全国大会決勝トーナメントの開会を宣言した。
・・・。
筐体の外。黒いスーツに白いライン。銀色の装甲が輝く、四脚のシルエット。
開会デモンストレーションを終えて、出てきた姉を出迎える。その銀色の瞳で見つめ、称賛の言葉をかける。
笑いながらフェスタは一言二言と言葉を交わし、ぽんぽんと。頭二つほど高くなっている妹の背を叩いた。
小さく笑みを返すと、バイザーを引き上げて。ルクスは戦場に歩を進めていく。
・・・。
天高く晴れた港。湾口に止められた巨大なバイク。
そのディスプレイを食い入るように見つめている、朱色と白のスーツカラーに身を包んだ彼女は。やがて姉妹の勝利を確認すると大きな声で歓声を上げた。
三脚を畳んでいた主が気付き、のそりと大きな体で画面を覗き込み、口笛を鳴らす。
ボタンは海に向って何かを叫んでいたが、届くわけないだろうと言われて、むっとした表情を一瞬浮かべたが。それもそうかと笑った。
・・・。
ふと。
出窓に立っていた彼女は「それ」に気付いた。
ぱっと笑みを浮かべて、大きな声でマスターを呼ぶ。
しばらく後。
休日だからとまだ寝ていたのか、パジャマ姿の少女が姿を見せた。
小さな彼女が指差す先にそれをみとめ。小さく歓声を上げて、腰を下げる。
目と目が合い、笑いあう神姫とマスター。
その視線の先・・・。
出窓に置かれた小さな鉢植。
可愛らしい双葉が、芽を出していた。
・・・。
どこまでも続く草原がある。風が吹き、草は波となり、さざめきだけが耳に届く。
そんな草原に。ひとつのベッドが置かれていた。シーツだけが敷かれて、それにも風が波を起こしている。
一体の神姫が、そこに立っていた。
長い翠色の髪。銀色の瞳。
パールホワイトと草色のスーツカラー。
風は彼女の髪を梳かし、流れていく。
ゆっくりと。
彼女が向き直った。優しく微笑み。そっと、その両手を広げる。
「全ての妹たち。そして・・・全ての娘たちへ」
風と音が止む。美しい声で、彼女は言葉を紡いでいく。
「貴女たちを愛しています。これまでも・・・ずっと、これからも」
ゆっくりと手を、胸の前で組んで、彼女は瞳を閉じた。
「そして・・・」
風、ひとつ。草が舞いあがる。
気付けば。ベッドも、彼女の姿もまた、そこにはなかった。
ただ・・・。
ただ、吹き渡る優しい風に乗せて。その声が響く。
『想いと共に。未来を、紡ぎなさい』
西暦2036年。
全てが忙しなく流れ往き、歴史の波濤が全てを覆い尽くす時代。
そんな中でも時として。
草色の風が舞い、緩やかな『想い』が彼女達の髪を梳き・・・流れる事があった。
「2036の風」。
閉幕。
[[2036の風]]
・・・。
・・・。
いつもの銀色のクレイドルの上。日差しにウトウトとしていたが。ふっと、彼女は顔を上げて掛け時計を見やった。深く黒い、硝子の角が、今日も風景を照り返す。
スーツは赤と黒に彩られ、首元のワインカラーが美しいスミレ色の髪を更に際立たせる。
いけない、そろそろ時間だ。
ヴィネットはコンピュータのテレビのチャンネルを合わせると姿勢を正し、肩越しにマスターを呼んだ。
・・・。
透き通る水面の上。純白のドレスのような美麗な装甲を纏った舞姫。
パールとグリーンに彩られ、官能的とも言えるラインで大胆にカットされたようなスーツカラー。
山吹色の髪には銀のカチューシャが煌く。彼女は流れるリズムに全てを乗せて舞った。その爪先が水にキスをする度に美しい波紋がダンスを一層彩り、身に着けた曲線を描くスラスターユニットは金色の輝きを軌線として引き、それもまた水面に映りこむ。
それさえも一つの演出かのように見せながら。
やがて、舞い終え、フェスタは大きく一礼する。
割れんばかりの拍手が彼女に降り注ぎ、DJが全国大会決勝トーナメントの開会を宣言した。
・・・。
筐体の外。黒いスーツに白いライン。装甲が鈍く輝く、四脚のシルエット。
開会デモンストレーションを終えて、出てきた姉を出迎える。その銀色の瞳で見つめ、称賛の言葉をかける。
笑いながらフェスタは一言二言と言葉を交わし、ぽんぽんと。頭二つほど高くなっている妹の背を叩いた。
小さく笑みを返すと、バイザーを引き上げて。ルクスは戦場に歩を進めていく。
・・・。
天高く晴れた港。湾口に止められた巨大なバイク。
そのディスプレイを食い入るように見つめている、朱色と白のスーツカラーに身を包んだ彼女は。やがて姉妹の勝利を確認すると大きな声で歓声を上げた。
三脚を畳んでいた主が気付き、のそりと大きな体で画面を覗き込み、口笛を鳴らす。
ボタンは海に向って何かを叫んでいたが、届くわけないだろうと言われて、むっとした表情を一瞬浮かべたが。それもそうかと笑った。
・・・。
ふと。
出窓に立っていた彼女は「それ」に気付いた。
ぱっと笑みを浮かべて、大きな声でマスターを呼ぶ。
しばらく後。
休日だからとまだ寝ていたのか、パジャマ姿の少女が姿を見せた。
小さな彼女が指差す先にそれをみとめ。小さく歓声を上げて、腰を下げる。
目と目が合い、笑いあう神姫とマスター。
その視線の先・・・。
出窓に置かれた小さな鉢植。
可愛らしい双葉が、芽を。出していた。
・・・。
どこまでも続く草原がある。風が吹き、草は波となり、さざめきだけが耳に届く。
そんな草原に。ひとつのベッドが置かれていた。シーツだけが敷かれて、それにも風が波を起こしている。
一体の神姫が、そこに立っていた。
長い翠色の髪。銀色の瞳。
パールホワイトと草色のスーツカラー。
風は彼女の髪を梳かし、流れていく。
ゆっくりと。
彼女が向き直った。優しく微笑み。そっと、その両手を広げる。
「全ての妹たち。・・・全ての娘たちへ」
風と音が止む。美しい声で、彼女は言葉を紡いでいく。
「貴女たちを愛しています。これまでも・・・ずっと、これからも」
ゆっくりと手を、胸の前で組んで、彼女は瞳を閉じた。
「そして・・・」
風、ひとつ。草が舞いあがる。
気付けば。ベッドも、彼女の姿もまた、そこにはなかった。
ただ・・・。
ただ、吹き渡る優しい風に乗せて。その声が響く。
『想いと共に。未来を、紡ぎなさい』
西暦2036年。
全てが忙しなく流れ往き、歴史の波濤が全てを覆い尽くす時代。
そんな中でも時として。
草色の風が舞い、緩やかな『想い』が彼女達の髪を梳き・・・流れる事があった。
「2036の風」。
閉幕。
[[2036の風]]
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