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**零より来る者──あるいは準々決勝(前編)
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ボク・クララ……槇野梓と晶お姉ちゃんの神姫・ロッテお姉ちゃんは
“鳳凰カップ”の、ついに準々決勝まで勝ち上がったんだよ。でも、
これが最後の戦い……ここで勝っても負けても、ボクらは進まない。
それは晶お姉ちゃんと会った時、改めて確認した“約束”なんだよ。
そう言えば、その時に“面白い賭けをまた行った”って言ってたね。
『という訳で、勝った暁には改めて私の言う通りにしてもらうと』
『千空さんに詰め寄ったんだね、晶お姉ちゃん。でも負けたら?』
『……む、そこまで決めていなかったな。まあ勝てば問題ない!』
『マイスターってば、変な所だけアバウトですの~……全くもう』
『大丈夫ですよ、対戦するまでに相手が負けた場合も……ですし』
敗北を認める為、渡瀬美琴さん達“黒葉学園神姫部”の面々がブースを
訪れた時のやり取りらしいんだよ?千空さんの顔が、目に浮かぶもん。
そう考えている間も、ボクはロッテお姉ちゃんのメンテナンスをする。
ハンゾーさんとのバトルによる影響は、まだ少しだけ残ってるんだよ。
「……稼動効率は八割半。この差が響くかもしれないよ、大丈夫?」
「大丈夫ですの、梓ちゃん。わたしは自分の誇りある戦いをします」
「槇野さんー、槇野梓さんとロッテさんー?そろそろお時間ですよ」
丁度セッティングが完了した所で、呼び出し係のお姉さんが入ってくる。
そう。ここから先は、マスターと神姫に一つの個室が与えられるんだよ。
流石に大きなトーナメント戦、ってだけはあるかもね……緊張するもん。
「大丈夫ですの、梓ちゃん?何だかさっきから動悸が激しいですけど」
「ボクの胸に、耳を押し当てるのは感心しないよ……でも嬉しいもん」
「じゃあ、此処に立って!合図したら上がってください、御武運を!」
ADらしき人が、忙しなくボクらの立ち位置を決めて下がっていくよ。
舞台袖と言える階段の裏に立って、ボクらの名前が喚ばれる時を待つ。
多分、呼ばれるのはロッテお姉ちゃんの名前だけかもしれないけどね?
でも先に呼ばれたのは、ボクらの思いがけない名前だったんだよ……!
『──────弁慶選手、マスターの凪千空選手と共に入場です!!』
「……えッ!?ビンゴなんだよ、ロッテちゃん……ここが正念場かも」
「ちょっと出来過ぎですの、八分の一の確率とは言っても……でもっ」
「やるしかない、そうだもんね?……呼ばれたね。行こうよ、一緒に」
肯くロッテお姉ちゃんを抱え、ボクは大群衆の中へと一歩ずつ進み出る。
もうアナウンスの声は聞こえない。ボクは、彼らの分析を始めていたよ。
弁慶さんは軽装のハウリンタイプで、マント風のバックパックと鎖だけ。
千空さんの方は緊張で青ざめている……その内に倒れないか、心配だよ。
スタッフに案内されるまま、お互いに特注のオーナー席に座って、神姫を
エントリーゲートに導く……ここで漸く、相手との通信が開いたんだよ。
「まさか当たり籤を引いちゃうとは思ってなかったんだよ、千空さん」
『う、うぅ……でも、僕らだって相応の意地がありますっ。ね、弁慶』
『……大丈夫。弁慶、絶対負けない。ハンゾーの仇、きっと取る……』
「わたし達だって、戦乙女の誇りに賭けて……この戦い、取りますの」
『お待たせしました!これより準々決勝第三試合を、開始しますッ!』
ゲートが閉じられ、舞い踊る二人の為の台(うてな)が用意されるんだよ。
ステージは……港湾地域の倉庫ブロック。それなりに障害物が多いもん。
でも、臆する事はない……そう思って、ボクは“SSS”をセットする。
……でも戦闘開始前に、マイクパフォーマンスの時間があるみたいだね。
「……最初に、言っておく。弁慶は……かなぁーり、強いッ!!」
バックパックに仕込まれていた多数の武装を大きな剣に変形させてから
地面に鋭く突き立て、ロッテお姉ちゃんを指差して宣言する弁慶さん。
ハンゾーさんもだけど、“神姫部”の娘達は変わった性格なのかもね?
……だって、宣言の後に武器をまたバックパックへ戻してるし。うん。
「“零”に等しい軽武装で、ここまで来てますしね……でも」
「煩いッ!……お前もここで、打ち砕くッ……さあ、始める」
「……人の話は聞いてくださいですのっ!始めましょうッ!」
『弁慶・ヴァーサス・ロッテッ!!レディ──────ゴー!!』
開始の合図と共にボクはサイドボードを起動して、さっきセットしてた
“SSS”を投下する。さっきの戦いで、“切り札”は見せたんだよ。
だから、隠し立てする必要もない……代わりに、ここからは実力だけが
求められる……本当の“正念場”かもね。だから、ロッテお姉ちゃんは
投下した“SSS”を装備して、弁慶さんと睨み合ってるんだよ……。
「さぁ、何時でもかかってきてくださいですの!」
「……今、行く!……明鏡止水……ッ!!」
「きゃっ!ハンドガンの猛攻……!ですけどっ!!」
バックパックに仕込まれた数種の武器をスタビライザー代わりにして、
二挺のハンドガンを抜いて、軽やかに乱射を仕掛ける弁慶さん。脚部に
ツガルタイプのブースターが仕込まれているらしく、機動性を持たない
バックパックでも、その移動力は馬鹿にならないんだよ。だけど……!
「……避けている!?弾丸を……!!」
「アーンヴァルは射撃と機動戦闘の寵児。射線は見えていますの!」
「これでは、仕留められない……でも、距離……詰めたッ!」
『いけない……ロッテちゃん、離れて。相手は、白兵戦特化だよ!』
「──────なっ!?」
「アイン!ツヴァイ!!ドライッ!!!フィーアッ!!!!」
そう。確かに互いの距離は詰まっていたんだよ……白兵武器で戦える、
最大限の距離までにはね!そしてアルマお姉ちゃんに匹敵する早業で、
バックパックから武器を取りだして振るう弁慶さん。その手に握られた
ブレードは正確な狙いと速さで、ロッテお姉ちゃんに刺さるんだよッ!
「きゃぅっ!?しまった、“ライドボード”に刺さってますの……!」
「掴まえた、逃がさない……!」
「それは、こっち側も同じですのっ!!」
『だめっ、弁慶離れて!』
「CMMランチャー“ギャッラルホルン”、フォイエルッ!!」
「……!?熱い、煙い……ッ!避けるの、面倒……!」
右の“ライドボード”を貫通されたロッテお姉ちゃんは、手元の
小型煙幕ミサイルを近距離で炸裂させて、距離を取ったんだよ。
でも貫かれた右肩のレーザーガンポッドは、機能停止してるね。
刺さっていた剣も、今の爆風で飛ばされて拾われちゃったもん。
……最大の技を封じられて、ちょっとピンチなんだよ。でもッ!
「……なかなか手強いですの、ハンゾーさんもでしたけど」
「あの戦い、弁慶もしっかり見た。だから……勝つ!」
「そう簡単には、勝たせてあげませんのッ!!」
──────戦う時は最期まで。それが“戦乙女の誇り”だよ。
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