「鳳凰杯編 「器創、鬼奏、姫葬・・・即ち競う」」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
鳳凰杯編 「器創、鬼奏、姫葬・・・即ち競う」 - (2007/05/15 (火) 18:37:08) のソース
斬馬刀という言葉がある 文字通り馬すら切断出来そうな程大きな刀の事だ そこからもじって、鬼を切れそうな刀は「斬鬼刀(鬼太刀)」、戦車を切れそうなのは「斬車刀(注1)」というわけだ 同様に「斬姫刀」という言葉が、あまり一般的ではないが使われる事がある 那俄世 源八郎 稀代の刀匠であったが、彼の最高傑作はまさにその「斬姫刀」であると伝えられている つまりは武装神姫を斬る為の刀だ 「鬼葬」あるいは「姫葬」・・・いずれにしてもその為に作られ、使われるのが「銘刀」であるならば、 「鬼奏」あるいは「鬼操」の為に作られ使われるのが「魔剣」であろう 神浦 琥珀 神姫の為の魔剣を打つ事が出来る、現在唯一の「ナイヴスロッテ」 鳳凰杯決勝リーグ第二試合・・・ この闘いは 二人の刀匠の闘いでもあった *鳳凰杯編 「器創、鬼奏、姫葬・・・即ち競う」 翠と白の刃が、舞う はなから小細工を弄するつもりは、クイントスには無かった 携えるは『鳳凰』彼女の音速剣を無制限に使用可能にする、『不壊の刃』だ だが、武器の優位に頼んで勝ち切る事は今のクイントスには不可能だった 那俄世 源八郎の・・・斬姫刀 そして使い手は「白い翼の悪魔」・・・!! 今大会のレベルの高さを象徴するひとりである 「どうやって位置を!?」 残影と虚像、特殊ステルスシステムを駆使して隠れる『ミチル』の位置を把握出来たのはこの攻撃で二度目、ただし、有効打は与えられない様だが 『下がって!もう一度仕切りなおすのだ!』 落下するクイントスの剣が空を切る マスターと神姫の連携は・・・かなり悪くない (それにしても・・・かすりもしないとはな・・・) クイントスはかなり疲弊していた 視力で捕らえる事が不可能な相手を、気配と音だけで裁いている訳だが、絶対に回避が不可能なタイミングで来る事と、装甲が余り役に立たない事が、実際以上に彼女に疲労感を与えていた 結局、『鳳凰』の『不壊』に頼って無様に受け止め続ける事七度、剣が並みのものなら既に5,6回死んでいる事になる (加えて、『無風剣』とはな・・・) ミチルの剣閃は「斬られた事に気付かない」と言われる程に鋭い・・・そして事実、殆ど空気を震わせる事無く迫る二刀流は、防御に徹してすら裁き切る事が困難に極まる 流石は世界大会72位という事か 体勢を半ば崩しながらも、何とか着地に成功する、同時に飛び苦無、弾き散らすとその背後に、微かな気流の乱れを感じる 「そこかっ!?」 だがそれは『ミチル』のプチマスィーンだ。空気のゆらぎの規模で判別出来なくも無いが、経験則から言ってこの種の囮攻撃を仕掛けてくる場合、罠は三重以上に張るのが常套だ 案の弱手側に出現する『ミチル』・・・だが、『クイントス』はあえて右側面に切りつける (左は・・・映像だ!) 爆音は衝撃の後に起こった 強烈なソニックブームの中でしかし、交差させた二刀流に囚われた『鳳凰』を、クイントスは驚愕の視線で見ざるを得なかった 一振りは音速超過の衝撃と大質量に耐え切れず半壊したが、それでも尚刀としての形を保っている そこに、クイントスは対峙している当の神姫ともそのマスターとも違う、第三の強烈な執念を感じ、思わず剣を引いた 三度、軽いが鋭い金属音が響く 『鳳凰』を引き戻していなければクイントスは一瞬で四等分にされていた所だろう 剣速は勝っているかも知れない、が、反射神経が追いつかない ミチルの技はまぎれも無くクイントスの力量を超えていた だが不思議と絶望感が沸かないのは何故か? 我知らず、クイントスは口の端に笑みを浮かべていた・・・武に生きる戦士としての性、実に度し難い悪癖であろう だが、それを武装神姫にプログラムしたのは人間だ つまり、人間というものがそも度し難い闘争本能を有し、その代理行使者として作られたのが武装神姫だ (そういう様に作られたのだからそういう風に振舞うだけの事だ) マスターの為とか、栄光の為とか、そういうものはクイントスにとってはある意味不純物ですらあったかも知れない 先刻の一撃は、ミチルに致命打を与えはしなかったが、かすりもしなかった今迄に比すれば幾分か「まし」であった 日本刀で闘う相手に剣を使った「受け」を行わせただけでも、である 尤も、受け止められてヘシ折れていないのも、その後こうして立っているのも、結局『鳳凰』の御蔭といういささか情け無い側面もあったのだが 武器では、ある意味勝っていたのかもしれない 「むぅ、なかなか粘るのだ・・・」 國崎 観奈は少々の苛立ちを隠し切れなかった アルティ・フォレストと闘うのが取り敢えず当面の目的であり、ファーストランカーも数名参加しているこの大会において、他の有象無象はいわば前座・・・そう言い切っても決して驕りではない程度には、『ミチル』の実力は確かだったからだ 加えて、『クイントス』は彼女からすれば無名でもあったし、マスターとの連携が良いとは決して思えなかった (・・・そういえば向こうのマスターは何もしていないようなのだ・・・) 今回、最初から空戦装備で出て来たクイントスに対して、川原正紀は一切の支援も支持も行ってはいない 実は普段からそうなのだが、当然その事実を観奈は知らない (何か企んでいそうなのだ・・・むむむ) 結局その慎重さが、却ってクイントスの助けになっているかも知れなかったが、明らかに疲弊しているクイントスを圧倒し切れないと考える程に、彼女は自身の神姫に対して不信を抱いてはいなかった 重い衝撃音と、鋭く耳障りな金属音が画面から響いたのは、観奈の思考がひと段落ついた瞬間であった 「!?」 鳳凰杯は全勝負バーチャルであり、現実や、次の試合にはその損傷も何も持ち越されるものではない だが、それでもその光景は彼女を焦らせるには充分足るものだった 「『ムラサメ・ディバイター』 が片方壊れてしまったのだ!!」 ミチルの反撃をいなした・・・いなしたというよりも、回避されると踏んで移動後予測地点を攻撃したミチルの攻撃に、クイントスが反応出来なかっただけに見えたが・・・クイントスは、最早画面越しに見ても判る程に凶悪な笑みを浮かべて、奇妙な文様の入った長剣を横手に構えた 『がぁッ!!』 横薙ぎに一撃。気流を大きくかき乱して、吹き飛ぶ様に後退するクイントス 深追いせずにその場に踏みとどまるミチル 『私に勝つ気が本当にあるなら・・・次の一撃で決めにかかる事を進言しよう・・・!もう二撃凡庸の攻撃を繰り出すならば、私はそれを見切るッ!!』 一瞬、ミチルが観奈を窺う様な表情を見せた 決闘ものの時代劇そのものの様な、馬鹿馬鹿しいまでに愚直なその挑発はしかし、観奈にとって好ましからざるものではなかった 「ミチル、そこまで言われて退く手はないのだ!真正面から切り伏せよ!!」 大きく頷くと、一気に駆け出すミチル。彼女は知らないが、シチュエーションとしては『クイントスVS司狼』の際の最後の相抜けの時と酷似している 否、厳密には既に試合内容そのものが酷似しているのだ・・・つまりはこの試合展開というのは『クイントスのペース』だったと言っても良いかも知れない・・・こちらも知らないが、少なくとも観奈は、これ以上クイントスに生半可な攻撃を仕掛ける事の危険性を感じていた 白影を引き摺りながら走るミチルと、蒼い矢と化したクイントスが接近する・・・剣速の相対速度は今大会屈指であっただろう *がきぃっ!! 巨大なインパルスを伴ったクイントスの攻撃を、ミチルは破損した『ムラサメ』で受け止めた・・・一瞬後にはその残った部分も弾け飛び、ミチルの肩口にも『鳳凰』がめり込んだが、その瞬を稼いだのは紛れも無く今は亡き伝説の刀匠の意地であったろう・・・。そして、剣を解き放ったクイントスの頭部にもう一方の『ムラサメ』を滑り込ませる事は、それこそミチルにとっては一刹那の時があれば充分であった とはいえ、観奈には白化し始めたミチルを目の前にして、その勝利を信じる事は、ジャッジングマシンがクイントスの敗北を断定する迄難しかった こうして、『クイントス』の名がミチルと観奈の強敵録の中に刻まれたのである・・・残念ながら、川原正紀の名はその後ついぞ思い出される事はなかったのであるが 「満足かい?」 正紀ではなく、琥珀がそう語りかけた 「馬鹿な事を!敗北して満足する訳は無い!」 「その割には随分と嬉しそうだけど?」 珍しく悪戯っぽく、琥珀は笑った 頭をかく仕草。神姫にとっていかなる意味も無いその仕草が、彼女の照れを雄弁に物語っていた 「貴女の剣が、私をあれ程の強敵と戦わせてくれたのだ・・・感謝しているさ、どちらにも」 それだけ言って、“ALChemist”で買って貰った新品のマントを羽織って、クイントスは立ち上がる 「・・・決めたよ・・・来年度を私の槙縞ランキング最後の年にする事をな」 空を見つめるクイントスの寂しげな瞳に映っている神姫を、琥珀は既に知っていた 同時に、そこに映っていない者の中で、その内映る事になるであろう者にも、彼女は心当たりがあった (宿業か・・・僕はどれだけの数の戦士達の闘争と、その果ての姿を見る事になるのだろうか・・・) 同じくブースから出て来たミチルに駆け寄るクイントスの後姿を見送って、琥珀はその場を後にした [[剣は紅い花の誇り]] [[前へ>鳳凰杯編 「武の花の咲く頃に」]] [[次へ>鳳凰杯編 「幽鬼と魔王」]] [[鳳凰杯・まとめページ]] 注1:銃夢である。因みに筆者は「バイオレンスジャック」も好きである