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8話 剣の名は - (2007/03/18 (日) 00:57:58) のソース
*第8話 剣の名は 剣を貰ってからしばらくたったが、再びエルゴに来ていた。 エルゴの二階、休憩スペースのベンチに座ってバトル映像が出ているスクリーンを見ていると声がかかった。 「よお! 治虫じゃないか」 声のするほうを見ると、久しぶりの知った顔があった。 「お! 章太郎」 立ち上がってしっかりと握手をした。 こいつは、月影章太郎(つきかげ しょうたろう)幼馴染みではないが、親友であり悪友でもある。 お互い仕事に就いて、会う機会が無くなっていた。 「どうした? こんなところで」 章太郎が俺に問い掛けると、章太郎の肩でもぞもぞ動く物を見つけた。 「しょうちゃん、だれ?」 それは章太郎の肩に乗っていたストラーフだった。 エルと違い、ツインテールユニットをつけておらず、角もつけていなかった。 「ああ、紹介するよ。悪友の陽元治虫だ」 「よろしく」 章太郎の紹介で、ストラーフに人差し指を差し出す。 「シルクだよ~」 ストラーフはそういって指を両手で包むように持った。 「で、ここに居るってことは、お前も?」 「ああ」 ベンチに座っていたアールとエルを抱き上げて、章太郎に見せた。 「アールとエルだ。こいつは月影章太郎、そしてシルクちゃん」 「えっと……あたいは、エル」 「アールと申します。マスターがお世話になってます」 性格の出た挨拶と共にお辞儀をする二人。 俺たちは再びベンチに座った。俺と章太郎の間に神姫三人が座り、神姫同士でワイワイ話している。 「お前もバトルするのか?」 「ああ、シルクは結構強くなったぞ」 そう言ってニッコリと笑う章太郎。 「アールちゃんとエルちゃんの戦績は?」 「アールは全くバトルしてない。エルは……あと一勝くらいでセカンドに上がるくらいかな?」 「お! それじゃあ、シルクとバトルしないか? シルクも同じくらいだからさ」 俺はエルの方をみた。 「がんばってみる」 しっかりと頷くエル。 一方、シルクは章太郎の肩に飛び乗り 「エルちゃんと戦うよ~」 と元気に肩の上で飛び跳ねた。 「決まりだな」 そして、俺たちはバトルスペースに向かった。 オーナーブースでセッティングをしている途中で武装の入ったケースから剣を取り出し、サイドボードに入れた。 「使うかもしれないから、入れておくよ」 「おっしゃぁ! いよいよ使えるのか!」 エルはストラーフ装備で背中にアーンヴァルの翼、ランディングギア、エクステンドブースターのいつもの装備でセットする。 - - - - - - アタイの意識が深く潜り、ヴァーチャルフィールドで再構成される。 そして、目を開けると同時にゴーストタウンの景色が広がる。 バトル開始の合図と共に、足でリズムを取り、手を大きく回しながらフルストゥ・グフロートゥとクレインをサブアームと自分の腕でくるくると回す。 いつものウォーミングアップだったが、甲高い風を切る音が聞こえてきた。 ヒュゥゥゥゥ……… 『エル! 逃げろ!』 マスターの声で、咄嗟に横に跳び、ビルの中へ転がり込んだ。 ズガァァァァン!!! ビルの中まで爆音と衝撃を撒き散らしながら、さっきまでアタイの居た場所が吹き飛んだ。 「なんだ?!」 ズゴゴゴゴ…… 続けてビルが不気味な衝撃で震えている。 『たぶん、連続で撃ってきているらしい』 直ぐに崩れることはないとみて、その場で様子をみることにした。 「いったいなんだ、さっきのは」 『……滑腔砲』 アール姉がそう呟いた。 「「滑腔砲だと!!」」 アタイとマスターの声が重なる。 それもそうだ、ほぼフォートブラッグ専用武器と言ってもいいものをストラーフが、しかもフォートブラッグが撃つよりも早い間隔で打ち込んできているのだ。 『あの破壊力は滑腔砲しか考えられません』 「じゃあどうする?」 マスターに作戦を聞く。 『そうだな……着弾点を見極めて近づいていくか……』 「よっしゃ、いっちょいってみますか」 そういって、ブースター点火準備をして、ビルに着弾と同時に飛び出した。 地面すれすれを、飛んでいくアタイ。 「おそいおそい!」 滑腔砲の砲撃は確実にアタイを狙っているが、飛行速度のほうが速く、弾丸が後方へと流れていき、遥か後ろの方で爆発音がしていた。 「居やがった!」 進行方向にストラーフ武装に、滑腔砲を抱えたシルクを見つけた。 しかし、近づくとストラーフの装備とは違うことが分った。 シルクは滑腔砲を消してサイドボードに収めると、地面に刺していた八本のアンカーのような物を引き抜く。 「それで身体を固定していたので、滑腔砲が撃てたというわけか……」 アタイはブースターを停止させて、シルクと向き合う。 しかし、まだ違うところがある。 サブアームは大型の物がついており、ストラーフ本来のサブアームはシルク自身の腕に直接接続されている。 レッグパーツの膝には湾曲剣がついていて、つま先のナイフも二本になっている。 そして、顔のゴーグルは口元しかみえないほどで、スリットから覗く赤い点が一つ目のように見えた。 シルクがゆっくりとこちらを向く。 「あは♪ 滑腔砲、かわされちゃった」 明るく振舞うシルクだが、目の表情がわからないので、真意は不明だ。 シルクの背後でアンカーに使っていた触手が不気味に蠢いていた。 『あれって……装着してる所を初めてみた……』 「あ?」 『フォルテストラーフだ!』 マスターの声と同時に跳びこんでくるシルク。 「く! はや……!」 ドゴォォ!! 一瞬消えたかと思ったが、アタイの懐に飛び込むとサブアームで思い切りわき腹をぶん殴られた。 そのまま吹っ飛び、ビルの壁に激突する。 「くぅ……効いたぜ」 瓦礫から這い出すと、シルクがアタイを見下ろしていた。 そのまま膝を狙い、蹴りを繰り出す。 ガキ! 鈍い音が響き、シルクのレッグパーツと膝の湾曲剣に挟まれる形になる。 「くそぉ!」 フルストゥ・グフロートゥを両手に持ち斬りつけるが、フルストゥ・グフロートゥの倍ほどの剣で防がる。 そのまま、シルクが横に凪ぐようにするとアタイのフルストゥ・グフロートゥは砕かれ、再び吹っ飛びぶ。 バキバキ! アタイのレッグパーツが挟まれたままふっとんだので、膝の剣で膝関節が砕かれた。 「あああ!!」 激痛が襲う。 「勝っちゃうよ~」 シルクが巨大なフルストゥ・グフロートゥを構えて迫る。 『逃げろ』 「く!!」 足が使えないのでブースターで飛ぶが、触手のビームソードで翼とブースターを切り刻まれた。 片方の推力を無くし、見当違いの地点に墜落する。そのまま転がるようにビルに逃げ込んだ。 レッグパーツを外し、素体の足に交換すると痛みはひいた。 『しかたない、あれを使うか……』 シルクはビルの外で、尻尾状になっているライフルを外して構え、エルの逃げ込んだビルを狙う。 「おわりにするよ~」 そういって、大出力で撃った。 一瞬で爆発と炎に包まれるビルから、武装を全て外したエルが飛び出す。 『いくぞ!』 「OK!」 アタイの頭上に虹色に輝く剣が現れ、しっかりと握り、軽く振り回した。 「そんな剣一本だけ~?」 「ふっ…」 シルクの不満そうな声に笑う。 アタイはゆっくり近づき、シルクのライフルを軽く凪いだ。 「ええ~? うそ~」 綺麗に真っ二つになったライフルをみつめるシルク。 「これで、いくよ~」 再び巨大なフルストゥ・グフロートゥを両手に持ち、触手もあわせて迫ってくる。 カンカンカンと金属音を響かせて剣が合わさる。 「ふん!」 力強く上段から斬りつけると、グフロートゥごとシルクのサブアームも真っ二つにした。 「しょうちゃ~ん、あの剣斬れないよ~」 シルクが泣き声で叫んだ。 『剣に魂が宿っているからな』 マスターが章太郎にも聞こえるように言う。 『魂?』 『ああ、そうだ。剣には魂が宿る。名前がつくことにより、神姫用だが本物に近づくんだ』 『それは?』 『エル! 教えてやれ、お前の剣の名前を! 剣の魂を!』 アタイはマスターが喋っている間も、シルクの触手を斬り、片足の膝を突いていた。 「おう! よく聞け!! ア メ ノ ム ラ ク モ ノ ツ ル ギ だ!!」 アタイは右手で剣を持ち、剣先を顔の前で立てて構える。 左手を持ち手部分の根元に添え、剣を横にして先までゆっくり滑らせる。 すると、虹色で輝いていた部分が強い光を放つように変わっていく。 左手が剣先に到達した時には、剣全てが強く光を放っていた。 右足を引いて両手を広げるように構えて、一呼吸置く。 剣を大きく回すように上段に構えると、大きく足を一歩踏み出して、剣を振り下ろした。 剣が、シルクの肩から切り裂き、光となってフィールドから消えていくシルク。 剣の強い光も消えて元の虹色の刀身へと変わる。 アタイは足でリズムを取りながら剣を振って、ポーンと高く放り投げる。 虹色の線を残し上昇から下降へ、その間アタイはクルクルと回転しており、回転を止めると同時に頭の上で剣を掴んだ。 そして、そのままのポーズで足を二回鳴らした。 『試合終了。Winner,エル』 勝者コールで、アタイの意識は再び深く潜り、現実へと戻る。 オーナーブースを出ると、章太郎さんも出てきて、マスターと握手しました。 「おめでとう」 「おう! サンキュー」 「しかし、あんな剣を隠し持ってたとは……」 「シルクちゃんも強かったぞ」 二人で笑いあいます。 「おねえさまぁぁぁ!!」 「きゃ!」 シルクちゃんが、あたいに抱きついてきました。 「強かったですおねえさま。エルおねえさまって呼んでいいですかぁ~?」 「あ、あの…もう呼んでるような」 「おねえさまぁぁぁん」 この試合でエルは、セカンドに上がった。 章太郎のシルクちゃんが、エルに懐いてしまったようだ。 章太郎とも、ちょくちょくバトルしようと約束をしてエルゴから帰っていった。 [[戻る>アールとエルと]] [次へ>9話 鳳凰杯への挑戦]]