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鳳凰杯編Ⅰ 「蒼い翼」 - (2007/03/26 (月) 18:13:48) のソース
私を動かすのは闘志 マスターに命令されたからやるのではない 私自身が闘いを望むから 私は征く 鳳凰の翼の一翼として *鳳凰杯編 「蒼い翼」 差し込む日差しは青白い まだ奥様は寝ている様だったが、正直高揚していた私は充電もそこそこに起き出していた 高揚している・・・か 理由は一つ、間近に迫っている鳳凰杯だ 結局、私は選手として参加する事に決めていた 奥様と、この家に住む他の神姫も一応会場までは足を運ぶつもりの様だが、それは同時に開催される諸々のイベントの為だ 私は・・・そういう所では心からこの家の住人達と判りあう事が出来無い 否、それはある意味ではマスターにしても同じかも知れない 「神姫に人権を」と叫び続ける私のマスター川原正紀・・・そんなマスターだからこそ私の好き勝手にやらせてくれているのだろうが、同時にその行動原理に埋め様の無い私とのギャップを感じる 武装神姫は武装神姫・・・人ではないのだから人権等に意味は無い これが私の今の所のスタンスだった 人が命懸けで闘うと、悲しむ人が多いが、私達武装神姫は闘う為に作られたのだから、少なくとも戦う事に関しては、誰からも何も言われない 私達が私達らしくある為に必要なのは、人と同じ様な権利等では無い様な気が、私はずっとしていた 「つまりそれは戦士が戦士らしくある事の権利にも似て・・・か?」 馬鹿馬鹿しい。戦士である事に権利等要らない・・・自分が戦士らしくあろうとすればそれで良い 闘争を望む人々の熱狂と視線の中で闘う事が幸福だ 勝利の感動に酔い痴れる事が祝福だ 敗北の苦痛と屈辱に塗れる事が必要だ 何よりも幸いな事に、我々には戦場が与えられているではないか・・・! それで充分だった 「いかんな・・・考え過ぎだ。誰かに似てきたかな?」 私に必死になって闘う理由を問うて来た神姫の顔が浮かぶ 私の理由は、今はもうただ「戦士でいたいから」に絞られていた 闘いたいから闘う、そして戦う場は用意されている・・・闘う術も武器もあり、勝利の栄光もある それだけで既に私達は、人間より余程幸福だとすら思える 「・・・ん・・・おはよう御座いますクイントスさま・・・」 「ん?あぁ、おはよう、ヌル」 窓際に腰掛けた私の姿が、今の彼女にはどう見えただろうか? カーテンを揺らす風が、どこか熱い息吹を孕む春だった ぎしゅっ!ぎぃんっ!! 白刃が、閃く ほう、受けたか・・・真っ二つになると思ったが・・・ 受け止められたそこを支点に、私の体が宙を舞う・・・やはり彼女が、才能面では最高だ だがまだまだ・・・それを生かし切れていない 空中で姿勢を変え、落下ではなく着地の構え・・・襲い来る「魔女の剣」・・・そんな見え透いた攻撃にはあたってやれんな 私が、空中で、回避運動が、出来無い等と、何時言ったのだ?エルギール! エルギールの防剣を支えに、腕力で再跳躍。空中で太刀を振り、魔女の剣を迎撃、無事着地には成功する 着地点に打ち込まれる銃弾・・・『ストリクス』か。馬鹿め、私を狙う時は弾幕を使えとあれ程言っておいたのに、まだ「ワンショットワンキル」等と言う夢物語を追いかけているのか? ぎぃん 銃弾を受け止め、両断。そのまま刀身を跳ね上げて再び迫る「魔女の剣」を迎撃する 狙撃点の割れた狙撃手と、距離を取られた柔使い等、どうとでもなる 爆散する「魔女の剣」・・・面白い武器ではあるがその耐久力ではな 再度打ち込まれる銃弾・・・狙いが甘過ぎる。受ける迄も無い 掴みに掛かって来たエルギールを逆に掴んで、その力を利用して振り回す。 もう少し『待ち』に徹する事を覚えろ、余りにもこらえ性が無さ過ぎるぞ・・・エルギールの体に三発目が着弾する 狙撃がそんなに好きならミサイルで蟻でも射つのだな!凄まじい長距離と凄まじい小目標物だぞ 大体 私程度の動きを負えない様では 本当に高速戦闘に特化したアーンヴァル等相手では 射つ前にやられるぞ!! 2発射って外してしまった時点で、ストリクスは私に射撃の呼吸を読まれるという愚を冒している・・・これでは本来サイドボードを導入する意味も薄いが、今回は練習だ、使っておく事にしよう 「エンジェール!カームヒアーー!!」 ダッシュしながら叫ぶ。同時に転送されて来るサイドボード、バーチャルの空気に溶けて消えるエルギール 気に入りの濃紺のマントが消滅し、代わりに装備される白い翼と長銃 別に取り立てて珍しいものでもない。加速のみが目的の背負い型のダッシュブースターと、飛翔のみが目的の羽根付きグリーヴだ 右腋にホーンライフルという名の槍を構えて空中から殺到する羽根付き騎士か・・・使い古された絵面で面白くも何とも無い 両脚を振り回してジグザグに飛びながら、ダッシュブースターを目一杯に吹かす・・・ようやく四発目。仰角に修正するのが遅過ぎる 場所は既に割れている、あとは普通に狙いをつけて ぱすんぱすんぱすん 終わった 別にそんな長大でいかつい砲を装備せずとも、少し工夫してやれば市販ライフルでも充分反撃されにくい攻撃は可能だ・・・「ツガル」が何の為にこういう装備をしているか考えた事も無かったのか? ジャッジマシンの勝利宣言を、私は殆ど聞かずにログアウトしていた 「随分厳しく言ったじゃない?相当頭にきてたわよ?ストリクス」 「頭に来てくれないと困る」 兜を腋に抱えつつ、大げさに肩を竦める 「何でよ?」 「ストリクスがもっと技術を磨いてくれないと、私は誰から狙撃の技術について学べば良いんだ?」 噴出すエルギール。割と本気で言ったのだがな 「何それ?セカンドランカーの大物に習えば良いじゃない・・・ホント貴女ってちぐはぐだわ」 「気心の知れた相手から学んだほうが気が楽に決まっている・・・それにストリクスは堅実で努力家だ。やればもっと伸びる筈なんだよ」 「いっその事キャロねえやヌルにならってみたら?」 「キャロは狙撃は苦手なんだ・・・当然ヌルじゃ話にならん。むしろあの子はもっと蹴り技の訓練をだな・・・」 「あぁはいはい。ホントもうお腹痛いわ。神姫なのに笑い死にとか勘弁して欲しいっての」 相手が私だろうと下位ランカーだろうと同じか・・・私はこの子のそういう所がかなり気に入っている 「大体皆私を褒め過ぎるんだ。天才とかゆらぎとか、そんなものは大昔の負け犬が考えた逃げ口上だろうに」 「それ、あいつにも言ってたわね、もう耳にタコよ。婆臭い!」 「楽しそうだね」 団欒風景に割って入る十倍ストラーフ・・・じゃない神浦 琥珀 「注文の品、出来たよ」 言いつつ神姫大の黒いケースを三つ、私の前に並べる 「これはマイスター、ありがたい」 言いつつ早速開けて見る 「これは・・・」 出て来るのは計4振りの刀剣類だ ギミック付きの鞘に収められた厚手のダガーが二振りに、私が今使っているものよりやや柄の長い日本刀が一振り、そして「コルヌ」にはやや及ばないものの、かなりの長さと幅を持つ青錆色のロングソードが一振り 「密着戦での防衛力を重視した『ディフェンダー』と、少し居合いに使う事も考慮した『神薙Ⅱ』・・・そして君の音速剣を無制限に放てる耐久力の『鳳凰』だ」 『鳳凰』を手に取り一度振るう・・・心強い重みと重厚な外観が、強烈な破壊力と強度を予感させた 「振ってみて良いだろうか?」 「構わないけど、店の外にしておいた方が良いと思うよ」 相槌だけ打って店の裏手に回り、大き目の小石に向かって振り下ろす 硬い音は、両断の手応えより僅かに遅れて聞こえた 刃毀れは・・・無い 減衰したインパルスが、数十メートル先の電柱の張り紙を揺らしたのが確認出来た パワーロスが大きいが・・・まぁ慣れでなんとかなるだろう 「少し先太りになってて小回りが利きにくいけど、結構刃は薄いから、なるべく鍔迫り合いはしないでね・・・まぁ並みの武器には負けやしないと思うけど」 「パーフェクトです。マイスター。有難う御座います」 「『クイントス』お墨付きとあったら、ここいらじゃそれだけで凄い箔が付くからね。売名行為だよ。あんまり礼を言われると心苦しいな」 長大な割りに直線の刀身を鞘に収めるのは難儀したが、腰に佩いて見ると「コルヌ」よりは様になっている・・・それでも少し長いか?マントとあわせるのが難しいな 「鳳凰杯、あさってだね」 「あぁ」 「君みたいなのに僕みたいなのがこういう事言うのもなんだけど、頑張ってね」 「マイスターのこの剣と、私の誇りに賭けて!無様な闘いは曝しません」 一息に・・・抜けた。『鳳凰』を胸の前で両手で構え、掲げて見せる 青緑色のつやの鈍い刀身が、夕日に煌いていた [[鳳凰杯・まとめページ]] [[剣は紅い花の誇り]] [[次へ>鳳凰杯編Ⅱ 「二人のナイヴスロッテ」]]