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神姫たちの舞う空編・6 - (2007/02/03 (土) 23:01:29) のソース
[[前へ>神姫たちの舞う空編・5]] [[先頭ページへ>Mighty Magic]] [[次へ>神姫たちの舞う空編・7]] *交戦~十五分経過 1236時 11番コンソールルーム ディスプレイ上方に旅客機のアテンションコールのような「ポーン」という音とともにテロップが出て、マスターは大変なことになっている戦闘画面からなんとか視線を引き剥がして見た。 《レッドチーム、「航空支援カード」四十枚使用》 さらにカードの詳しい効果が続けて表示される。 《使用時の戦況に合わせた航空機を一枚につき十機召喚。効果発動までにディレイ五分。航空機は使用者の指揮下に入り、撃墜されるか燃料が尽きて墜落するまで稼動し続ける》 一度の使用枚数にも参ったが、優遇されすぎているのではないかとも思えるその効果にもマスターは度肝を抜かれた。思わず椅子を蹴って立ち上がりそうになった。 燃料切れで使い捨てるやつなどほとんどいないだろうから、つまり、撃ち落とさなければ次のラウンドも次の次のラウンドもあの吐き気をもよおすような数の戦闘機は延々と出撃し続けるのである。 四十人ものオーナーが、あらかじめ示し合わせたのか偶然に同時使用したのかは知らないが、多数対多数戦における物量の優位性を忠実に実行したのであった。そのおかげで、拮抗状態であった戦力差が、三倍というほぼ絶望的な状態にまで開いてしまった。 戦力の三割を損耗した時点で全滅、とはよく言う。というのも、残った戦力に相手側の三割り増し分が追加投入され、ドミノ倒し的にやられていくしかないからである。 たとえば十対十ならそれぞれタイマンが張れるから勝率は五分五分。が、十体七なら七の一人に十の三人が攻撃することになる。さらに続けて六の一人に十の四人が、五の一人に十の五人がかかるという風に、七側は一人頭相手をしなければならない戦力がどんどん倍加する。逆に十側はどんどん楽になる。どんどん袋叩きになってゆく。ここまで来るともはや雪崩である。十側の損耗を考慮しても七側の負けは揺るがない。 今がまさしくそんな状況だった。ちょっと違うのは、戦力は損耗したのではなく追加されたということだ。飲めねえやつが飲み会でビール瓶一本を担当されてこれならまあなんとか大丈夫だろうと安心していたら予定変更でさらに二本まわされてきちまった、とはケンの言葉だが。 「その三本のビールを処理するにはどうすればいい?」 『決まってんじゃねえか』 ケンは即答した。 『瓶を叩き割りゃアいいんだよ。ブチ切れてな。タマは存分に付いてんだろ?』 まさしく、とマスターは腑に落ちた。何も素直に全部飲み干す必要は無いわけだ。 ブルーチーム側も航空支援カードを使い始めた表示。が、発動までに五分の間がある。 その五分を持たせる。 少なくともたった一ラウンド目で制空ポイントをむさぼらせるわけにはいかない。それは皆同じ気持ちだ。たぶん。 マスターはサイドボードをセミアクティブにした。 ◆ ◆ ◆ BGM:Contact(エースコンバットゼロ ザ・ベルカン・ウォー オリジナルサウンドトラックより) 1237時 諸島上空(VR空間) 無数のミサイルがマイティたちのすぐ上を通過した。 爆発。 オレンジ色の火の玉と散らばって墜ちてゆく被撃墜者の破片がある意味爽快な空になった。 大破を含め、戦闘不能、三十三体。生き残った手負いの神姫が基地へ下がってゆく。修理を経て戦線へ戻るのはかなりの時間を食う。戦力差がさらに開く。そんなことに考えをめぐらせている暇はしかしマイティ達には無かった。アラートが止まない。 通過したミサイルの何十発かがくるりと向きを変えてこちらに向かってきたからである。エルゴ飛行隊に落伍者はいなかったが、これでは間もなく変態は崩れて散り散りばらばらになってしまう。そうなると撃墜の危険は増す。 もっとも重武装のバーニング・ブラック・バニー、B3(ビーキューブ)が出遅れた。本当にどこかのSFの空中フリゲート艦のような巨体である。ヴァッフェバニーの本体は、船首で守り女神みたいに張り付いている。シエンのクリムゾンヘッドなんぞ目じゃない。そもそも、あの装備がメインボードに入るのだろうか? 無理やり入れたに違いない。なにしろハンガーではパーツごとに呼び出してその場で組み立てていたほどである。 エレベータには大きすぎて乗らないのでわざわざ後ろから外に出たのだ。 最初の一撃をよくも回避できたものである。 『うむむむむ。これはマズい。非っ常ぉーにマズいぞビーキューブ』 チタン合金製筋金入りの軍事オタクでエルゴでは有名なオーナーが、非常にわざとらしくうなった。 《イエッサー》 無感動にB3は答える。 『この思わずちゃぶ台を三回転半させてしまいそうなほどなマズさをほっぺたが落っこちそうなくらい美味くしろ。飛行隊に貢献するのだ』 《イエッサー》 修飾の多い命令が聞こえたかと思うと、突然B3の艦体中央両舷から何発もの迎撃ミサイルが飛び出した。それも弾体を直接ぶつけるのではなく、鋭利なワイヤーのネットをミサイル前方に展開する迎撃能力の高いタイプである。 空中にいくつものくもの巣が張られ、引っかかったミサイルがまとめて爆散した。だがすべてではない。 『ビーキューブ、お前の巨体を盾にするのだ。ミサイルの四、五発など蚊ほども痛くはないはずだ』 《イエッサー》 B3は急制動をかけ、その艦体を横倒しにする。巨大なスノーボードがブレーキをかけるような動き。 ボボッ、ボッ、ボッ! 左舷装甲にミサイルが命中する。が、B3の損傷はほとんど無い。 それでも打ちもらしがあり、数発がマイティたちのところへ殺到した。 B3は良くても自分たちは一発当たれば致命傷である。避けられない! 『マイティ、お前は戦闘機じゃないはずだ!』 唐突にマスターの怒号が来る。 「くう・・・・・・っ!」 両足を前に投げ出し、マグネティックランチャーを反転させ、前推力を進行方向に噴射。 そう、戦闘機にはできない急制動が、神姫にはできるのだ。 「やあっ!」 上半身をめいっぱい反らして、両腕の拳銃とライトセイバーのレーザーガンを撃ちまくる。 自分のほうに向かってくるミサイルを全部撃ち落とす。 マイティのやり方を見た飛行隊の面々も気がつき、同じようにミサイルを迎撃した。 避けるだけが能ではないのだ。 ここにおいてはただの飛行機よりも高性能なメンバーが勢ぞろいしているのである。 戦闘機など敵ではない。 《ヘッド、アームズ、ネーバル、反撃に転じます! チェスト、レッグスはビーキューブに集結して援護を。以後ビーキューブを前線基地に任命します。ビーキューブ、いいですね》 シヅが勇ましく指令する。 《イエス、マム》 オーナーに答えるのと同じようにB3は言った。 はるか上空を南に向けてレッドチームとその戦闘機が進軍している。目の前にいる混乱したブルーチームしか目に入っていないようだった。自分たちは撃墜されたものとしてみなされているらしかった。 《あいつら、もう勝った気でいる》 シエンの忌々しそうな言葉に、スノーボウが応じた。 《では、教育してやりましょう。アームズ、戦闘上昇》 アームズフライトが先んじて飛び立つ。この飛行隊で最も腕の立つ四体が、揃って雲を引いている。 《私たちも続きましょう》 《最高のタイミングで横あいから思い切り殴りつけてやるの!》 《ねここちゃん、それってヘルシングね!? あちしも好きなのよう。特にアンデルセン神父がねーえもうダンディで最高で強力で若本で・・・・・・》 《隊長、マンガ談義は後でいいから》 《《あとでいーから!》》 ねここの言葉にチェシャが口うるさく反応し、ネーバルのメンバーがたしなめるのをバックミュージックにして、マイティたちも戦闘上昇。 『ミサイルは存分に撃っていい』 「マスター、でも・・・・・・」 『一時間気が済むまで撃ちまくれるくらいのストックはある。とにかく、五分持たせるんだ。五分後にこちらも援軍を出す』 マイティはサイドボードに入れられたオフィシャルの箱を思い出した。あの中にはありったけのスティレットミサイルが詰め込まれているに違いなかった。リアルバトルなら消耗品のミサイルも、バーチャルならば何度でも使える。たとえサイドボードにある分をラウンド内に使い切っても、空母に帰るか次のラウンドには満タンになっているのだ。 「了解!」 ロックオン可能距離外であったが、マイティはミサイルを撃った。マグネティックランチャーも連射モードで撃ちまくった。あれだけ密集しているのだ。おまけにこちらからは腹を見せているも同然である。撃てば当たるとはまさにこのことだった。 セミアクティブになったサイドボードから次々とミサイルが翼に「生えて」くる。 マイティは撃った。敵編隊に衝突しそうになるまで。 BGM:Comona(エースコンバット04 シャッタードスカイ オリジナルサウンドトラックより) 1240時 反撃 真下から殺到した予想外の攻撃に、レッドチームは反応が遅れた。その数瞬の遅れが大打撃に繋がった。 本当に不思議なくらい誰ひとりとして気がつく者はいなかった。神姫もオーナーも。みんな目の前の大戦果に見とれて、弱った相手にさらに打撃を与えようとこぞって前だけ見つめて前進していたのである。周囲を警戒するはずのエリント装備の神姫も、ほんのしばしの間だけその役目を忘れていた。 エルゴ飛行隊の位置取りは、偶然が混ざりながらも群集心理の隙を突いた見事な戦法であった。 油断だらけのレッドチームめがけ、ミサイル一斉発射の報復とばかりの、銃弾、砲弾、レーザー、ミサイルの雨が「下から」降ってきた。 《うあああっ!?》 《攻撃、真下から攻げ・・・・・・》 レッドチームにとっては本当に予想外の方向からの攻撃である。編隊は一瞬にして総崩れになった。 事態は自然と乱戦にもつれこむ。 《何が起こったの?》 《エルゴだ、エルゴ飛行隊がやった!》 事の変化を敏感に察したブルーチームの本体も、レッドチームの真っ只中に突入した。 ここにおいても戦力差は三割を若干越えていた。だがこと戦意に関しては、ブルーチームに圧倒的に分があった。 団体戦闘も、乱戦となると分からない。こと空中戦となると多くのランダム要素により、物量の優位力が弱まるのである。 広大なフィールドの中で、ただ一点だけが戦場と化した。 マイティは飛び交う無数の神姫と戦闘機に混乱し始めていた。 戦闘機は間違いなく敵だとわかる。 だが、神姫はどちらなのだろう? IFF(敵味方識別装置)が故障することはほとんど無いが、いちいち確認する暇が無い。かといってじっくり観察していたらあっという間に撃墜される。とりあえずミサイルロックオンができるのが敵なのだと単純に考えようとするがそれでも撃ったあとのミサイルが味方に当たる危険があった。ただの空中戦ではない。これは神姫同士の戦いなのだ。なだらかな線を描いて飛ぶ航空機的な機動だけではない。直角に曲がったり、いきなり反転して飛んだり、いろんなことができるのかもしれない。 だが思ったほど、マイティはそれを心配する必要は無かった。そういう独特の機動が上手にできる神姫がめったにいなかったのである。それをやろうとしたある神姫は、ほとんど空中静止に近い状態となり、ミサイルの良い的となって墜ちていった。 それらの機動が実は非常に高度な技であることに、マイティはしばらく気がつかなかった。何しろ自分はさっきミサイルを撃ち落としたときに、反射的とはいえ当たり前にやったのである。また飛行隊のほかの面々の何人かも、同じようにやっていた。 だから、誰でもできるものなのだと錯覚していた。と同時にマイティは、いつの間に自分がそんな技を見につけていたのかとちょっと得意になった。 『うぬぼれるなよマイティ。鼻を折られるぞ』 すると、そのことをちゃんと察したマスターに戒められた。マスターに隠し事はできないのだ。 ちょっと恥ずかしくなりながらも、マイティは集中することを怠らず、敵を追う。こういう乱戦で誤射はだいたい仕方が無いが、ブルーチームはそうも言っていられない。戦力差は開いたままだ。なるべく損失を抑えながら戦いたかった。勢いに乗りつつ、慎重に。 確実に差を減らしていけた。神姫はともかく、この乱戦下において戦闘機など敵ではなかった。そもそも真正面からぶつかり合うことが分かっている状況でカードを使った故に、現れた戦闘機はすべてMig-31Dなのだった。Mig-31Dとは超高速の一撃離脱に長けたミサイルプラットフォーム的な戦闘機(の2036年現在における改修型であるD型)で、格闘戦性能などほとんど無い。つまり全然乱戦向きではないのである。後ろについて、ロックオンもそこそこにミサイルなりマシンガンなり撃てば容易に撃破できた。もはや物量の優位は揺らぎ切っていた。ブルーチームは相手の神姫は極力無視して、戦闘機ばかりを狙った。 B3に乗った支援部隊はこちらに漏れ出した敵をあしらいつつ、蚊帳の外で状況を俯瞰し飛行隊に通達していた。 《こちらレッグス1、順調に差を縮めていけてます。このままだといいのですが》 《援軍到着まではあとどれくらいですか》 《あと二十二秒です》 「もうそんなに?」 夢中で追っては撃ち避けては撃ちを繰り返していたので、マイティはあっという間の時間の経過に驚いた。そして驚いている間に二十二秒が経ち、こちらの援軍が到着した。 乱戦という空戦において最も困難な状況に対応した、最高の戦闘機部隊が。 《こちらAWACS、コールサインは“スカイアイ”だ。お嬢さんたち、聞こえるか?》 1245時 援軍到着 ブルーチームの誰も、まさかNPCの援軍から話しかけられるとは思いもよらなかった。 [[前へ>神姫たちの舞う空編・5]] [[先頭ページへ>Mighty Magic]] [[次へ>神姫たちの舞う空編・7]]