「妄想神姫:第七章」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
妄想神姫:第七章 - (2007/01/26 (金) 23:55:42) のソース
**天の妙なる響きに、しばし身を委ね ---- 夜の東京……と言っても、いかがわしいゲームの発売日でもない限り 真夏と暮れの魔境現出時以外、アキバの夜はおよそ静かなのである。 ましてやここは外れでしかも地下、換気さえ注意すれば快適な物だ。 と言うわけで今晩は、昼に虫干しを兼ね整頓した蔵書を読んでいる。 「ふぅむ、この配線パターンはこれが効率的か……なるほど」 「むにゃ……マイスター、起きてらしたですの~?ふぁ……」 「ん……?おおッ。起こしてしまったかロッテ、すまないな」 「いえ、充電も問題ないですし……わたしは構いませんの♪」 「そうか、なら曲でもかけてやろうか……パイプオルガンだ」 OK、そこの貴様。人を怪物でも見る様な目で眺めるんじゃない。 クラシックは私の好みだ、文句あるか?それに、その……ロッテも 実はクラシックを気に入っていてな?──少し違う意味で、だが。 少し待っていろ、すぐに分かるぞ……ほら、聞こえてくるだろう? 「♪普く星々は、空を照らし……」 「♪風はそっと、夢を運びて……」 「♪人は幸せに、夜を越える……」 のびのびとした明るい即興詞、透き通った水晶の様なボイス。 パイプオルガンの重厚で荘厳な音色に負けぬ、彼女の存在感。 そう……これは、ロッテが自らの意思で奏でている歌なのだ。 “プロテクト”を外されたCSCは、人と同じ感受性を宿す。 それが故に、彼女はこの様な美しい歌を唱う事が出来るッ!! 「♪……お粗末ですが、一曲マイスターに差し上げますの」 「粗末なんて、とんでもないッ!……可愛い娘だ、ロッテ」 「きゃっ?えへへ~……ありがとうございますですの~♪」 私の為に唱ってくれたロッテを抱きしめながらも、思う固有名詞。 その名は“アシモフ・プロテクト”。神姫という“魂”を縛る枷。 普通のユーザーならば極初期の段階で解除処置を受けているのに、 その現状を以てなお搭載されているのは、人のエゴ故であろうな。 社会が神姫達人工知性体を、対等のパートナーと見ていない現状。 なんとも嘆かわしい限りだ。彼女らの本質……魂、そして“心”! 「本当にお前達は、人と何も変わりがないのにな……」 「いつかみんなが、仲良く唱いあえたら幸せですの♪」 「有無、だなぁ。その為に、出来る事はせねばなッ!」 「きゃ?!ま、マイスターわきわきはだめですの!?」 「ダメだッ、私は今ロッテが愛おしくてたまらんッ!」 「きゃ、きゃぁ~っ♪くすぐったいですの~っ!?!」 胸元に優しく抱きしめた“妹”を、私は心を込めて撫でてやる。 ロッテはいかがわいい愛玩用ではないのだが、何故か喜ぶのだ。 本人曰く『メモリがいっぱいになっちゃいますの』だそうだが、 センサーが感じずともそのCSCとコアが“幸せ”を覚える…… 躯は人造でも“魂”が天然自然に備わる証と、私は思っている。 「は、はふぅ~……マイスター、もうギブアップですのぉ~」 「う、うむッ。今日はこの辺で勘弁してやろうか、ロッテ?」 「……はい。だって、マイスターもお顔が真っ赤ですの~♪」 「う゛ぁ!?き、気のせいだ照明のせいだなんでもないっ!」 本に顔を埋める。いかん、昔からどうにも私は素直になれない。 特に神姫……しかもロッテの事となると、胸が締め付けられる。 でもこれじゃ、検査後に戻ってくるクララに嫌われちゃう……。 ……って貴様、人の心の声を聞くなッ!言い訳は、無用だッ!! 何、『自分で言ってるんだろう』だと?ええい、そこに直れぇ! 「ごほんごほん、げふげふ……いかんいかん、暴走寸前だ」 「もう。マイスターってば、クララが驚いちゃいますのっ」 「うむ、分かってはいるんだが“妹”への想いが……なぁ」 「それはちゃんと、クララも分かってくれると思いますの」 事実その通り、こういう暴走をするのはロッテと打ち解けてからだ。 クララとも最初の内はぎこちなかろうが、ロッテが証言するのならば きっと判ってくれるのだろう。無論私が彼女を理解するのも重要だ。 久々に挫けそうになったが、すぐ持ち直した。これは私の長所だな。 「眠気が冴えてしまった……これをもう少し、読むとするか」 「じゃあわたしももう一曲、マイスターに捧げますの……♪」 「ああ、頼む。冬の夜は長いからな、良い歌が聴きたいぞ?」 「はいですのっ!……♪華咲く心、踊る私、愉快な調べ……」 ──────あなた達がいるだけで、私は満たされるの。 ---- [[次に進む>妄想神姫:第八章(前半)]]/[[メインメニューへ戻る>妄想神姫]]