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ねここの飼い方・光と影 ~ニ章~ - (2007/01/12 (金) 05:48:20) のソース
「な、何なのですかぁぁぁ!?」 背中に装着された、ビームによる光の翼=M・D推進器をフル稼働させ、最大加速を行う1体の神姫。 「マオチャオ……殺…す…!」 そしてそれを地獄の業火に叩き落さんと猛追する、漆黒の翼。 その眼に宿るは憎悪、純粋に想うが故の儚く悲しい怒りの炎。 「ティキは怨まれる覚えはないのですよぉ!」 ねここの飼い方・光と影 ~ニ章~ 『くっ、何でこんな事になっちゃうんだ!?』 思わず彼の口からは、怨みにも似た言葉が飛び出す。 高校生なのだが、まだ若干あどけなさの残る顔つき、メガネをかけておりその奥には優しげな瞳が宿っている。 その彼=藤原雪那にして今回は相手に怨み節を言う事になっていた。 『ティキ、相手も早いけどあの大型のユニットじゃティキみたいな細かい機動は無理なはず。もっと動いてかく乱して!』 「わかってるのですけどぉ……思ったより動くのです……よぉ!?」 2人が今後の展開についてやり取りする間にも、果断なく攻撃を仕掛けてくる相手の黒い神姫。 レーザーライフルの先端からレーザーブレードを展開、直線的に体当たりを仕掛けてくる。 ティキはその驚異的な運動性でブレードを回避、だがそのまま突進してきた相手の翼と接触。ぐらりと一瞬大きく体制を崩す。 一方相手も翼を損傷し多少の挙動の乱れを見せるものの、元々の重量が違いすぎるためあまり深刻なダメージは負っていない。 そして2人が困惑しているのは、何より相手の攻撃方法だった。 自己の損傷も厭わない無謀な特攻戦法。それはまるで旧日本軍の神風特攻を連想させる。 いくら仮想空間とはいえ、此処まで過激な戦法を取る神姫は滅多にいない。 それに……と、ティキに指示を出しつつ雪那は慌しく回想する。 (さっきまでの戦闘だとこんな事してなかったのに、何で僕とティキの時だけこんな事するんだ!?) 流石に声に出すには躊躇されたが、そう思う他に無い。 その日、雪那とティキはすっかり恒例になった月2回のエルゴへの遠征を行っていた。 「よーし、エルゴの皆さんにティキの新しい力を見せてあげようね!」 「ティキと~っても頑張っちゃうのですよぉ☆」 まるで楽しい遠足に行くようなハイテンション気分の2人。足取りも軽くエルゴの店内へと吸い込まれていく。 「こんにちは店長さん、ジェニーさん」 「こんにちわですぅ」 軽やかにハモりながら挨拶を掛ける2人。此処数ヶ月通いつめており、すっかり常連となっている。 「やぁ藤原くん、いらっしゃい。ティキちゃんもこんにちは」 店長さんがにこやかな笑顔と共に挨拶を返してくれる。 「今日はまずバトルかい? 例のユニットをお披露目にきたんだろ?」 ニカっと爽やかに、2人の来た目的を見抜く店長。すっかり顔なじみである。 「はい! その節は色々とありがとうございました。それじゃ早速行ってきます!」 その常連ならではの対応の嬉しさを噛み締めつつ、2人は2Fのバトルスペースへと上がってゆく。 「何時も盛況だねぇ、しかもレベル高いし」 「ですぅ。見てるだけでも勉強になるのですよぉ☆」 マルチスクリーンに次々と映し出されていく試合映像に一心不乱に見入っている2人。 彼らの地元地域でも武装神姫は盛んではあるが、平均レベルで言えばエルゴには今ひとつ及ばない。 尤も其れは、エルゴに出入りする人々の平均レベルが抜きん出ているのではあるが。 卵が先か鶏が先かのようなもので、入り浸りになっている内に自然と鍛えられ実力を身に付けた者、噂を聞きつけた他地域の腕自慢、取り扱いの少ない希少パーツを求めて辿り着いた者、初期から武装神姫関連を扱っていたため極初期から通い続けているテスター上がりの古強者ete…… 強いて言うならば50年以上昔にベーマガ紙上のスコアランキングで上位を独占した人々が集っていた、伝説の巣鴨キャロットのような状態だろうか…… 兎も角、2人はすっかりその場の雰囲気に呑まれ、かつ満喫していたが、やがて1つの試合がその目に止まる。 それは、黒いアーンヴァルと白い通常のアーンヴァルが激しい空中戦を繰り広げている映像だった。 黒いアーンヴァルが背部に装着しているユニットが通常のものではなく、アーンヴァル用パーツで組み上げられた、まるで重戦闘機のようなシルエットになっているのだが、それが喉の奥に挟まった魚の小骨のように記憶に引っかかる。 「ねぇティキ。あの黒いアーンヴァルの武装なんだけれど、どっかで見た記憶ないかな? なんとなく見覚えがあるんだけれど思い出せなくて……」 う~ん、と軽く腕組みをして考え込む雪那。 ティキも真似するようにう~んと腕組みをした後、頭に電球がピカーンと光ったかのように明るい表情になって 「あ、ねここちゃんのシューティングスターにソックリなのですよぉ♪」 「なるほどー、言われてみると同じだね。ティキよく覚えていたね」 「えっへん、なのです♪」 ちょいん、と胸を反るティキ。威張っているようだが、その実とっても愛らしいポーズを取っている。 「……っと、勝負が着きそうだ」 スクリーンには黒いアーンヴァルが、相手のウィングをレーザーライフルで撃ち抜いた瞬間が映し出されていた。 飛翔する為の羽をもがれ、無残に地上への接吻を強要される白いアーンヴァル。 こうなっては彼女に勝ち目は殆どなくなる、空戦用の機体が肝心の飛行能力を失ってしまっては意味がない。 程無く相手のマスターのギブアップ宣言で試合は終了。 相手に対して丁寧に一礼をしてから、フィールドを去ってゆく黒いアーンヴァル。 束ねられた長髪が風になびき、それだけが静止した場面の中での唯一の動きといえた。 「マスタ、ティキはあの人と戦ってみたいのですよぉ☆」 「え、ティキから戦ってみたいだなんて珍しいね」 ティキは、んー……と唇に指先を軽く当て、考えるしぐさをしてから 「あの人の戦い方とか、ねここちゃんに似てる感じがするのですよぉ。なのでティキにとっても参考になるかなと思ったのですぅ♪」 「なるほどね。なら胸を貸して貰うつもりでどーんと行っちゃおうかっ!」 「はいですぅ!」 おー! とガッツポーズを取って気合を入れる2人。近くにいた人たちは一瞬何事かと振り向くが、それもすぐに沈静化。 『それじゃ、宜しくお願いしますね』 『宜しく』 相手はエルゴ内の人ではなく、同一エリア内のセンターからアクセスしている人らしかった。 簡単なバトル手続きをした後、通信でマスター同士が軽い挨拶を交わし、戦闘準備に入る。 「……お手柔らかに」 「はじめまして♪ お手合わせお願いしますですぅ」 ……その時2人は気づくべきだったろう。 ティキの姿を確認した瞬間、先程まで氷の様な冷徹な表情を浮かべていた神姫=ネメシスの瞳に、溶鉱炉の炎にも似た光が宿ったのを…… 「ひゃっ!? あ、あぶなすぎるのですよぉ…!」 またしても特攻を仕掛けてきたネメシスを辛うじて回避するティキ。 今度は翼ではなく、本体ごと体当たりする勢いで突っ込んできたのだ。いくら質量に大きな差があるとは言えその戦法は自殺的行為。 今の攻撃もティキの驚異的な運動性能でなければ回避できないほどの鋭く深い=それはつまり危険の大きい自殺的な攻撃。 2人がつい先程まで観戦していたバトルでネメシスは、冷静沈着かつ確実に戦闘を進め、云わば『華麗な』高速戦闘を行っていた。 それが今回の特攻戦法である。2人が混乱するのも無理ないと言えた。 『ティキ、低空に逃げるんだ!』 「了解なのですぅ!」 MD推進器をフル稼働させ、まるで地表に落下する隕石のように急降下! 特徴的な光の翼が更に大きく強く羽ばたく。 それに追従し、執念深く追撃をかける漆黒の翼。 (低空であんな事をしたら地面に激突しちゃうはず。さっきまでみたいには動けないだろうから、その分ティキが有利なはずだ) 「マスタ! 何か距離が開いてきてるのですよぉ!?」 『え……』 ティキのその悲鳴のような報告にはっとなってスクリーンを凝視する雪那。 そこにはレーザーブレードの展開を解き、ティキの少し後方にピタリと付けたネメシスの姿。 「消し飛べ……私の前から、消えろ!」 ネメシスの呟きと共に、いや呟きが掻き消えるほどのレーザーライフルの発射に伴う甲高い駆動音と共に、2本の死神の槍がティキを破壊せんと一直線に猛進する。 2人とも最大速度での急降下中だったため、ティキは迅速な回避行動が殆ど行えない。 『ティキ、光の翼だ!』 「光の翼なのですぅぅぅぅ!」 次の瞬間、ティキの周囲は膨大な熱量の嵐に支配される。 やがて熱量は拡散し、焼き尽くされた空間に現れる影。 「……大丈夫なのですよぉ♪」 そこには自らをビームの鎧で包み込み、ダメージを打ち消し今だ健在なティキがいた。 背中より突き出た2門の攻撃ユニットは跡形もないものの、本体へのダメージは軽微。 ティキの両肘に装備されていたビームシールド発生装置と背中のMD発生装置を共振させ、4つのビーム発生装置で1つの巨大なビームのカーテンを演出し作り出したのだ。 だがそれは…… 「獲物……掛かった……!」 ティキの眼前には既にゼロ距離にまで接近してきたネメシスの姿。 射撃直後にレーザーブレードを展開させ、砲撃の陰に隠れる形でスピードを殺すことなくそのまま接近していたのだ。 ネメシスのブレードとティキの光の翼が、華麗で危険な火花を散らしながら激しくぶつかり合う。 そして2人は、その形状を構築しているフィールド同士が激しく干渉しあい、結果2人の刃はそれ以上押すことも引くことも出来なくなる。 「え?、きゃぁぁぁぁぁ!」 突如フィールドに響き渡る百舌のような小鳥の悲鳴。 ティキの愛くるしい顔に、ネメシスの手が覆い被さり、メキョメキョと気味の悪い軋みを立てさせている。 それは、ネメシスが己のアイアンクローでティキの頭部を粉砕しようとしている悪夢の如き光景。 ネメシスは干渉現象でお互い身動きが取れなくなった瞬間エトワールファントムから分離し、光の翼のもっとも薄いポイントをその腕のみで強行突破してティキの顔へと到達したのだ。 「その顔……醜く潰れろぉ!」 戦闘前の憂鬱な表情は過去の物となり、禍々しい狂気の笑みを浮かべながら、尚ティキの顔を粉砕せんと締め上げるネメシス。 だがメキメキと内部機構が異音を立てているのはティキの顔だけではなかった。 通常の武装神姫の手は然程パワー、耐久力の高い物ではない。 しかもビームを強行突破した時点で外装にもかなりの傷を負っている。そんな状態で耐久性の高い頭部を握りつぶそうというのだ。 ティキの顔がミシミシと歪む都度、ネメシスの指先からも異常パルスの閃光が走り、人口筋肉が付加に耐え切れず裂け千切れ、断絶の悲鳴を上げる。 「や……やめるのですよ……ぉ……っ……」 必死にもがくティキだが、光の翼は既に制御不能に陥っており辛うじて動く手で抗うしか方法がなかった。 だが、その圧力にゆっくりと力を失ってゆくティキ。その抵抗も空しく、限界を超えた頭部が粉砕されんとした、その時 「試合終了、フィールドアウト、WINNER ティキ」 フィールドに響き渡るジャッジAIのアナウンス。 同時に強制リングアウトされ、ポリゴン粒子となって消えゆくネメシス。 「……た、助かったのですぅ……?」 『そうみたい……かな……?』 後に残されたのは、急激な事態の変化がいまいち飲み込みきれず呆然とするティキと雪那の2人だった。 「……どうして、あんな事をしたの?」 少女の透き通った声が部屋に響く。だがそれは可憐と言うには余りにも負の感情が大きすぎて。 「………」 「ダンマリなのね。……まぁいいわ。もう二度としないと……誓いなさい」 「………」 「返事は?」 「……イェス、マスター」 短いその会話。 少女は果たして、気づいたのだろうか。 その神姫……ネメシスが、初めて彼女を、名前以外の敬称で呼んだという、その事実に…… [[続く(18禁注意>ねここの飼い方・光と影 ~三章~(18禁]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]