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引きこもりと神姫:6-2 - (2012/08/19 (日) 18:42:12) のソース
次第に開けていく視界、その瞬間にかける風と、水が高いところから落ちる音。ステージ『渓流』だ。木々の間に流れる川には少し大きめの岩が露出し、木の幹が横倒しになってバリケードのようになっている場所もある。 (シリア、どう?) (こっちは問題ないよ) 武装セットを出してもらいながら、相手のデータを確認した。 戦乙女型、アルトアイネス。かなり大きな鎧のようなアーマーを着けている。武器は小剣に大剣、さらにそれを柄の部分で連結した双剣の3種。ウェポンプールには武器はない。 (そもそも遠距離戦は想定していない。近距離戦型か) (とりあえず、ボレアスとゼピュロス出しておくね) 二爪とランチャーが姿を現す。遠距離戦を想定していないなら、何かしらの対策があるとは思うが、やってみる価値はある。 さらにデータを読み進めていくと、相手がリアライドであることがわかった。 神姫のライドには2種類の型がある。私のような『ノーマルライド』。そして、相手のような『リアライド』だ。 前者は体をマスターが動かし、火器管制やバーニアなどを神姫に担当してもらう。変わって後者は、その逆。体は神姫が動かし、その他をマスターにやってもらうのだ。 つまり、ライドシステムの出来る前の神姫とマスターの関係を崩さずより親密にしたのがリアライドと言うわけだ。 ま、それはそれとして。 (シンリーさん、さっきの勝負でもあんな感じだったのかな?) (だったら、余計に油断出来ない) あの状態で相手を捌ききったのだろう。なおさら油断など出来るはずがなかった。 (最初から、手加減する気なんてないけどね) (前から思ってたけど、樹羽ってバトルになると性格変わるよね) (……そう?) 中空に現れるバトル開始を告げるスクリーン。 『Ready……GO!』 バトルが始まり、スクリーンが消える。私はバイザーを下ろした。カメラを通して見る世界には残りの時間と残存HPが示してある。 (飛ぶよ、シリア) (任せて) 短い意志疎通。それだけで形となる。広がる双翼。後は、大地を軽く蹴るだけ。 (行くよ) ふわりと浮かび上がる。この感覚にもだいぶ慣れた。 ある程度飛んだ辺りで相手を視認。それでも、ボレアスの射程には十分入っている。 私は銃口を相手に向け、トリガーを引いた。上下2本の銃口から出た光の帯は、容赦なく相手に迫る。が、それは相手に当たることはなかった。当たる直前で相手の副腕が動き、その腕についた盾で防いだのだ。 いや、これだけなら別に驚きはしない。驚いたのは、相手が一切こちらを見ていないことだ。 (あの状態で、防いだ? なるほど、とことん近距離戦型ってことか) もはや射撃など見なくてもガード出来るというパフォーマンスなのだろう。なら乗ってみようじゃないか。 (樹羽、やっぱり性格変わってるよ) (……そう?) どうにも熱くなりすぎてしまうらしい。とりあえず様子見するのが吉だ。 私は高度をあげて、しばらく相手の出方を見た。 ---- 東雲榊は冷汗をかいていた。リアライドの形式をとっている彼は、副腕の操作もやっている。つまり、先程のボレアスの一撃を防いだのは彼なのだ。 (シンリー、せめて相手は見てくれよ) 彼の目は、神姫と共有している。よってシンリーの向いている方向にしか向けないのだ。 先程のボレアスを防げたのは、相手と自分の大体の距離に、相手の武器の弾速、あと勘だ。 (マスター……めんどくさい) (あのな……動いてないんだから楽だろ。それとも動くか?) (それもめんどくさい) (おいおい……) 基本的にマスターに従順である彼女たちだが、こういったこともまれに起こる。 (せめて相手は見てくれ、出来れば多少は動いてくれると助かる) (嫌だ、めんどい) こうなっては仕方がない。どんな計器より、やはり頼れるのは自分の目だ。だがまあ、今は計器に頼らざるを得ない。 (シンリー、一応『ロッターシュテルン』は出しておくぞ) シンリーの手に小剣を展開する。が、それを掴もうとすらしない。軽い音と共にロッターシュテルンが地面に落ちる。 (それもめんどくさいのか……) もはやシンリーは答えない。一瞬棄権を考えたが、秋已にあんな大見栄切ってしまった手前、今更棄権するわけにもいかなかった。 (休符だらけの勝負だな、これは……) 榊は黙って大剣『ジークムント』を副腕に展開した。 ---- (やっぱり動いてこない。近付く気すらない?) 小剣と大剣を展開して以来、目立ったアクションは一切ない。やはり神姫の調子が悪いのだろう。 (今がチャンス?) (かもね、シンリーさんには悪いけど、絶好の的であることは確かだよ) さっきのもマスターがぎりぎりでフォローが間に合ったという感じであった。 つまり、今相手は計器でしかこちらの様子がわからない筈。 (エウロス2本。何かあるかもしれないから後ろから行こう) 両手に剣を持ち、相手の後方で高度を落とし、地面に水平に飛ぶ。そして、相手の無防備な背中に向かってエウロスを突きだした。 堅い物同士がぶつかり合う鈍い音がする。だが刃は相手に届いていない。 当たる寸前で現れた赤いバリアに阻まれたのだ。これは既存のバリアじゃない。 (ならっ!) その場に着地し、数発切る。が、やっぱりバリアはビクともしない。 その時、相手がゆらりと動いた。 「鬱陶しいなぁ……もうっ!」 足元にあった小剣の先を踏みつけ、僅かに浮かんだそれを掴むと、すさまじい速度でなぎ払われた。ぎりぎりで離脱する。そのまま距離を取り、岩陰に隠れる。 (つ、追加バリア?) シリアの声色がこわばる。確かに追加バリアなんて聞いてない。 確か、アルトアイネスの鎧に10ヵ所ある赤いクリアパーツは、小型のコンデンサ――つまり発電気だったはずだ。それを利用し、各所で独自の電力を供給し、高機動が可能になるというもの。それをバリアに使うなんて……。 (なんと言うか、荒いね) (うん、なんか無茶苦茶だよ) 今だって、相手は追って来る気配はない。あくまで迎え打つ気だ。今度はシンリーも少しは動いてくるだろうが、やはり問題はあのバリアだ。耐久力が設定されているのか、はたまたある一定以下の攻撃は無効化してくるドリームオーラなのか。 (どっちにしても、大火力をぶつけるしかない) (でも、ボレアスのフルチャージでもあれを突破できるかどうか……) 前回のイーアネイラのように、相手がバリアを張れない状況であれば、ボレアスのフルチャージショットも致命傷なのだが、今回はさらに追加バリアがある。突破は難しいだろう。 (なら、アレが使えるかも) (アレ……?) (テンペスト) 三種の武器にリアテイルパーツを組み合わせた大型ランチャー。それが『テンペスト』だ。その威力は――まだ試したことはないが、柏木さん曰く「まさに戦隊モノのとどめの一撃」クラスらしい。とりあえず一撃でボレアスのフルチャージを軽く越える攻撃力は出るらしい。あくまでらしい。 (でも、アレでもチャージしないとキツイんじゃ……) (だから、軽くバリアを削いでから) 両手の剣を持ち上げて見せる。耐久値の上限が決まっているなら、これをする価値があるだろう。 (じゃあ、さっそく……) (ちょっと待って) ブースターを起動させようとするシリアを止める。 (ちょっと、すごいこと考えた) ---- (頼む、相手を見てくれ。じゃないとジリ貧になってこっちが負ける) (……わかった) なんとかシンリーを説得し、視界を確保した。ようやくこれで戦える。 その時、岩陰から相手がタイミングよく飛び出してきた。大丈夫だ、迎撃出来る。 近付いてきた頃合いを見計らって、大剣を振る。が、ブースターで細かく回避される。 (シンリー!) (むっ……) シンリーは手にした小剣を振る。これも当たらない。相手の剣が迫る。それをバリアでガードする。 (そこだっ!) 相手の動きが止まったところへ大剣を振る。しかしそれも予想していたのか、すぐに離れられ剣は空を斬った。そこからさらに右へ左へ細かく動く相手。 (くそっ、ちょこまかと……) 大剣を振ろうにも、相手の動きが速すぎて捉えきれない。シンリーも相手を見るだけで精一杯なようだ。相手が視界から消える。バリアを全面に張るのと、衝撃が来るのがほぼ同時だった。すぐに視界が動くが、すでに相手の姿はない。 衝撃が右から、あるいは左、上から来る。レーダーを見る、視界が役に立たない以上、計器に頼るまでだ。 だが、俺は困惑した。計器がぶっ壊れたのかと思った。 (な、なんだよこりゃ……) レーダー上で、自分の周りを物凄い速さで飛び回っている影が一つ。相手のエウクランテだ。だが、この速度は尋常じゃない。 周りからくる衝撃はさらに激しさを増し、全方向から毎秒7発単位で攻撃されている。 (レールアクションか? 違う、ならレーダーに最初から映らないはずだ……) 次の瞬間、強い衝撃が上から来た。それを最後に、相手は離れていく。だが、同時に強いエネルギー反応を後ろから感知した。 (後ろだ、シンリー!) 視界が後ろに回る。その瞬間、視界が真っ白に染まった――。 ---- 速度を落とさず相手に向かっていく。相手が構える。大丈夫、かわせる。相手の大剣が振られる。だが、私はかわさない。かわそうとしない。やることは、プースターを起動させるだけ。 大剣が迫る。その瞬間にブースターを起動する。すると、体が上に浮かび上がる。 (次、右!) (っ!) シンリーの手が動く。それを右に避ける。そして、私はエウロスを突き出す。が、やはりバリアに阻まれた。 それをみこしてか、すぐに大剣が動く。かまわない、私はブースターを入れるだけだ。 体が後ろに引っ張られる。 (次に行くよ!) 今度はブースターを細かく入れる。体が左右に揺れる。続けて長く、短く入れ、相手の後ろに回る。そこからエウロスで再び突く。またブースターを入れ、左、また右、時に上に移動しながら、相手のバリアを削っていく。 私はさらにブースターを入れる。視界が目まぐるしく動くが、不思議と相手は見失わなかった。 そして、若干高く上がりそこから一気に振り下ろす。そしてブースターを一杯に入れて相手から離れる。 (いくよ樹羽!!) 一度リアテイルパーツとエウロスをしまう。そして、ボレアスを中心にエウロス、ゼピュロス、リアテイルパーツを展開する。 (テンペスト、起動確認! システムオールグリーン!) 大地を踏みしめ、相手に銃口を向ける。 「「発射っ!!!!」」 銃口から解放されたエネルギーの奔流は、相手の体をいとも容易く飲み込んだ。爆煙すらあがらない。 テンペストを撃ちきると、落とす勢いで置いた。以外と重い。確かにこれは5人で支えて撃つ物だ。 相手を見る。相手はまだ立っていた。副腕が神姫の体を覆うように守っている。あれでノーダメージな訳がないけど。 (守り切られたの……?) (でも、バリアは消えた) 相手を覆っていたエネルギー反応が消えた。あの赤いバリアはもう使えないだろう。 (決めに行く、エウロスを……) (待って、相手の様子がおかしい……) 見ると、相手の肩が僅かに震えていた。そして、 「あは……はははは」 笑った。 「あははははははははははははははははっ!!!」 ---- 奇跡的にやられていなかった。ただし、バリアはもう使えない。 (シンリー、お前大丈夫か?) 腕と肩のコンデンサのエネルギーを全部バリアに使ったから、ダメージは最小限に抑えられた。 だがシンリーは予想外にも笑った。ダメージで妙な事になったんじゃないだろうな? (ごめんごめんマスター、ボクは大丈夫) いつものシンリーの声だ。明るくて、ハツラツとした声。 (ねぇ聞いてマスター。ボク、ついに新曲のイメージを思いついたんだ。一見無理だって思ったことでも、地道に努力すれば乗り越えられるって言うの! 王道だけど、それ言ったらみんな王道だもんね!) 一気に巻くし立てる。ああ、いつものうるさくてやかましいシンリーだ。 (ったく、遅いっての。じゃ、ちゃんと動いてくれよ) (うん、任せてよ!) シンリーはやる気になっている。これなら、行けるだろう。 相手はかなりの機動力がある。なら、対抗するまでだ。 (『ノインテーター・フリューゲルモード』起動!) 鎧であるノインテーターは、別の姿を持っている。それを解放した。 (さぁ、本当の勝負はここからだ……!) [[第六話の1へ>引きこもりと神姫:6-1]] [[第六話の3へ>引きこもりと神姫:6-3]] [[トップへ戻る>引きこもりと神姫]]