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引きこもりと神姫:1-2 - (2012/06/05 (火) 17:15:31) のソース
夏特有の熱い日射しの中、公園にさしかかった辺り。妙にツヤツヤとした華凛と、すっかりくたびれた私が歩いていた。 結局あの後、華凛に身体の隅々までいじくりまわされた。もう、ゴールしても、いいよね? 「いや~、これでまた樹羽と仲良くなれた気がするわ♪ 樹羽の顔もエロかったし♪」 「……おやじ臭い」 「いいじゃん、女の子同士なんだし♪」 「よくない」 「これで今夜のオカズには困らないわね!」 「私、美味しくない」 「大丈夫、美味しく食べるから」 「意味がわからない」 「樹羽はしらなくてもいいの! むしろ知っちゃいけないの!」 「……?」 知るな、と言われたら気にはなるが、ここは素直に引いておこう。なんだか嫌な予感がする。私は話を切り替えた。 「それで、なんの筐体が入ったの?」 「神姫のヴァーチャルバトル用の筐体だよ!」 華凛は興奮気味に声を高くする。それほど興味があるんだろう。 「今まで、首都圏のゲーセンにはあったんだけど、地元には無かったんだよね~。これでくすぶってたマスター連中も暴れだすよ~?」 「ふ~ん……」 「ふ~んって、興味ないの? 神姫」 「神姫は知ってる。でも詳しいことは知らない」 そう言うと、華凛は胸をのけぞらせる。自慢したいのだろうか? 「そう言うだろうと思って……はい!」 華凛はバッグの中をガサゴソと探り、一冊の本を取り出した。武装した神姫のシルエットが表紙の少し厚い本だ。 タイトルは『神姫の今昔』。 「そこの木陰で読んでてよ。あたし、飲み物買ってくるから」 「あ、ちょっと……」 私の制止も聞かず、華凛は行ってしまった。一人残された私は、仕方なく木陰に移動。少し考えてから、本を開いた。 &size(small){2030年、異様とさえいえる加速度で発達した人類の科学は、&br()人の脳というシステムそのものを全て量子コンピューターにコピーするという半ば強引な方法で、&br()人間とさして変わらないレベルの思考を可能にしたAIを作り出した。&br()このAIは以後改良を重ね、様々な形でロボットに組み込まれていくことになった。&br()体長15cmの高性能小型ロボット。そう、2031年に発売され後に武装神姫と呼ばれる彼女達にもである。} &size(small){2040年、人はついに電子の海に人の精神を送り出すことに成功する。&br()『神姫ライドシステム』と名付けられたそのシステムは、人間の意識を機械の体である神姫の中へ、&br()つまるところCPUという仮想空間の中に繋げることを可能にした。&br()さらにはこれを応用し、神姫を介して別の電脳空間への接続まで実現したのである。&br()20世紀末などにSFで描かれていた『ネットダイブ』などと呼ばれる仮想空間へのリンクを可能にした画期的な技術。&br()だがこのような技術でさえ表立った注目をされないほど――} 「えい」 突然、頬に冷たい物が押し当てられる。それがペットボトルと気付くのに時間はかからなかった。 「冷たい」 「ずいぶん真剣に読んでたわね。やっぱり興味あるんじゃないの?」 「……ない」 私は本を閉じて、ペットボトルを受け取った。 「そう? 妙にはまってた気がしてね」 「……本はじっくり読む方」 不覚にも、華凛の接近に気付かないほどに読みふけっていたことは確かだ。 「ふ~ん、まぁいっか。まだ読む?」 「ううん、もういい」 私は本を華凛に返す。華凛は本を受けとると、バッグの中にしまった。 「じゃ、行こっか」 「うん」 木陰から出る。また熱い日射しが照りつけてくる。 神姫……か。 [[第一話の1へ>引きこもりと神姫:1-1]] [[第一話の3へ>引きこもりと神姫:1-3]] [[トップへ戻る>引きこもりと神姫]]