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ねここの飼い方・劇場版 ~九章~ - (2006/11/10 (金) 22:11:49) のソース
「くっ! 何なんですかこの数は!?」 ドラグーンで敵を蹴散らしながら前進するジェネシスが思わず叫ぶ。 「確かに……キリがありません」 バスターランチャーの一撃で道を切り開く雪乃。 「全くです……コレでは先にエネルギーが切れかねません……シールド!」 その道を侵食されないよう、CCSで簡易な防壁を道に沿って作り出すドキドキハウリン。 「でも急がないと……っ」 「進撃速度25%低下中。効率化を望みます」 大型兵装を使用するためのシークエンスに入り無防備状態な二人のハウリンをガードするように展開、次々と華麗な格闘技で撃ち漏らした敵を屠ってゆくリンとアリア。 「全員全力でやってるでしょう。一々文句を言わないでほしいわね」 レーザーライフルで危険度の高い目標をいち早く迎撃していく銃兵衛。 第四エリアに突入した彼女たちを待ち受けていたのは、地平線の彼方まで存在してるかと思えるほど無数のホイホイさんだった。 *ねここの飼い方・劇場版 ~九章~ 『確かに多いとは聞いてたが……この数は異常だな。あいつらコレだけでホストコンピュータの処理能力使い切る気か!?』 店長が思わず愚痴る。だがそう言いたくなるほどの数がこのエリアに集中していた。 普段はその可愛らしい外見から愛玩用としても人気の高いホイホイさんだが、様々な武装を施され、戦闘モードで目を赤く点滅させながら雲霞のように迫り来るその姿は、もはや恐怖としか言いようがない。 一体一体の戦闘力は武装神姫、特にここにいるエース達とは比べ物にならないのだがとにかく数が多い。 個人差はあるものの、既に全員が多少のダメージを負わされていた。 しかしそれでも尚、凄まじい速度で前進を続ける一同。それは修羅の様相を呈してきた。 飛行が可能なジェネシスだけで先行しようにも、単独で突出しても狙い撃ちにあうだけで危険度が大きすぎる。 そのため、一丸となって前進を続けるしか選択肢がないのが現状だった。 『十兵衛……そろそろ“真"の出番みたいだな』 「私も……そう思います」 千晶の提言にコクリと頷く十兵衛。 「皆さんは先へ! ここは私が敵を引き付けますっ」 「でも……」 戸惑う他のメンバー。ヴァーチャルと言え、仲間を捨て駒のように置いてゆくのは本意ではなかった。 「このままじゃ消耗しきって押し潰されてしまいます! それに……私は大丈夫です」 にこやかに微笑む十兵衛。理由はわからないけれど、それは不思議と他のメンバーの不安を和らげてくれる様で。 「……わかりました。ご武運を」 ジェネシスが呟くように言葉を紡ぎ出す。その直後には既に他のメンバーと共に離脱を開始して。 一人残された十兵衛。 その周囲には無数のホイホイさんが、その美しい流線型のボディをスクラップの鉄屑に変えてしまおうと迫り来る。 「行きましたね。では……」 すぅっと眼を閉じ、瞑想状態に入る十兵衛。 同時に十兵衛の周囲にうっすらと霧が立ち込め始める。しかしそれに躊躇する事無く、尚も接近を続けるホイホイ軍団。 やがて一体のホイホイさんが手にしたハルバードで十兵衛の首を一思いに跳ねようと振り被った。 「……我が名は十兵衛……刻め」 そう呟きが聞こえた瞬間、ホイホイさんは縦方向真っ二つに一刀両断されていた。 そしてドサリと魚の2枚おろしのように開かれて倒れる。 「……雑兵か…物足りぬ…だが友の為……御相手仕る!」 ギン! と眼帯が紅く輝き、次の瞬間にはその場から十兵衛の姿が霞のように掻き消える。 それと刻を同じくして、周囲のホイホイ軍団の首がカマイタチに遭ったかのように次々と切断されてゆく。 ほんの数秒の間に、周囲に詰めていた百体以上のホイホイさんが一瞬にして蹴散らされてしまった。 目標を探知できず、混乱するホイホイ軍団。 それでも防衛本能に任せ、比較的外周に位置する重砲撃型のホイホイさん達が砲撃を懸ける。 真・十兵衛がいるであろうポイントに向け、周囲の仲間を巻き込むのも構わず嵐のような一斉砲撃を。 一呼吸を置いて、着弾。周囲は激しい閃光と爆風に支配される。 巻き添えを喰らい、次々と鉄屑への不本意な変化を強いられてゆくホイホイ軍団。 やがて戦果確認のため、砲撃を停止するホイホイ軍団。 辺り一面には凄まじいばかりの爆煙が漂う。しかし其れとは裏腹に不気味な静けさに包まれる空間。 やがて煙が晴れ出すと共に、夥しい数のかつてはホイホイさんであったと思われる残骸が姿を見せる。 しかし煙が完全に晴れることはなかった。 だがソレは煙ではない、それは霧であった……そう、真・十兵衛が発する。 やがてゆっくりと霧の中から現れる人影。其の動きにダメージは感じられない。 「…其の程度で…我を打ち倒せると…愚考したか………笑止!」 竜巻のような勢いで再びホイホイ軍団に突き進む、真・十兵衛。 迫り来るミサイルを一刀両断。レーザーをガーベラで弾き返し、尚且つ別のホイホイさんに命中させる。 一振り毎に数体のホイホイさんを薙ぎ倒し、たった一人とは思えない程の強固な抵抗を続ける。 鬼神の如き戦闘力を見せ付ける真・十兵衛であったが、その裏では限界が迫りつつあった。 エルゴ特製のボディに換装したとは言え、尚長時間の戦闘においては廃熱の問題から逃れられない。 『十兵衛! 一旦制限モードにして冷却を図れ。このままじゃ強制冷却になるぞ!』 「主よ……出来ない相談だ……其れでは囮に成らん…」 『……っく。だけど』 真・十兵衛が驚異的な戦果を上げているため、防衛機構であるホイホイ軍団は真・十兵衛を最優先攻撃目標として認識。 その為ジェネシス達への攻撃の指向性が落ち、彼女達は先程と比べ順調に前進しているのが現状であった。 制限モードであれば長期の戦闘が可能だが、今回の場合制限を加え能力をセーブした時点で押し切られる可能性が存在するのだ。 また戦闘力が低下した場合最優先目標としての設定が失われる可能性もある。ここで後には引けなかった。 そうして二人が覚悟を決める間にも、再びホイホイ軍団は迫りつつある。 『十兵衛……あとどれくらいける』 「…60秒…」 『そうか……済まなかったな。貧乏クジ引かせたみたいで』 「主よ…我の意思だ……気にするな」 普段表情を出さない真・十兵衛が微笑を浮かべる。それは何処かぎこちないが、澄んだ微笑。 「…我が名は十兵衛……刻め!」 その言葉と共に、接近していたホイホイ軍団の先頭集団をまとめて薙ぎ払う。 無表情のままにボトボトと落ちてゆく、ホイホイさんの頭部たち。 続いて左右から一斉に飛び掛ってくるホイホイさんをサブアームを駆使して弾き飛ばし、ガーベラの一撃で一体づつ確実に仕留めてゆく。 だがそのボディからは、先程までとの霞とは明らかに違う蒸気が噴出していた。今の動きで急激に廃熱システムの限界が近づいたのだ。 その多大な熱量による負荷のため、段々と動きの鈍ってくる真・十兵衛。 「残存……30…………20………・・・10……」 自己の限界を自らカウントしながら、それでも尚その切っ先で敵を屠り続ける。 「5……3…2…1…」 やがて、眠るようにその動きを止める十兵衛。 (此処までか……済まなかったな…主…皆…) 一瞬とも永遠とも思える暗黒の刻を過ごす。だが十兵衛が思い描いたような感覚は中々訪れず…… 『…兵衛!…おい十兵衛! 早く起きろ!』 「…………主…か」 ゆっくりと再起動してゆく。まだ覚醒しきらないAIを何とか動かし、周囲の事態を把握しようとする真・十兵衛。 ボディに破損は見られない、だが何故? 「気がつきましたか、十兵衛ちゃん」 その声に反応するかのように、各種機能が復帰してゆく。その声の先にいたのは…… 「…燐…か」 「はい、今回は……私が助けにきました。これでおあいこですね♪」 十兵衛を守るかのように佇み、迫り来るホイホイさんをその華麗なエアリアル技によって防ぐ、リンの姿があった。 「…馬鹿だな…」 自嘲気味に呟く十兵衛。 「えぇ、マスターと結婚しちゃうくらいですから」 『おぃ燐、何言い出すんだ!?』 「あら、本当の事ですよ。マスター♪」 「貴様では…支え切れん……」 「えぇ、確かにそうかもしれません、だけど」 にこやかだった顔を急に引き締め 「私にはまだ切り札が在ります。……行くよ、バルディッシュ」 《Yes、Sir》 リンの左手の甲に装着された、金色の結晶から返事が出される。 と同時にリンの全身が金色に輝き、次々と武装が換装されてゆく。 重量級のサブアームは排除され、変わりに防御効果の高いマントと篭手、それに腰には一見スカート上の追加装甲が設置。 そして右手にはバルディッシュの名に相応しく、リンの身長に匹敵する長さを持つポールウェポン状の武器が現れる。 《Assault Form, cartridge set》 「カートリッジ…ロード!」 《Load Cartridge》 刃の根元に取り付けられているリボルバーが回転、やがてジャコン! と装弾される。 「バルディッシュ、プラズマランサー……」 《Plasma Lancer》 リンが命令すると、バルディッシュから膨大な電気エネルギーが発生。それは偏向フィールドによってリンの周囲に複数の電撃の矢となり現れる。 バチバチと物凄い放電現象が周囲に発生。 「ファイア!」 リンがホイホイ軍団に向け手をかざす。同時に周囲に浮遊していた電撃の矢が、一斉にホイホイ軍団へ向けて一直線に襲い掛かる! 直撃を喰らい次々と堕ちてゆくホイホイさん。だが何体かは奇跡的に回避し、無防備なリンへと飛び掛ってくる。 「ターン!」 再び命令を発するリン。すると回避された矢がストップ、その場で方向をくるりと変化させホイホイさんを後ろから貫く。 後背からの予測不能の攻撃に回避できたホイホイさんは皆無。その悉くが地に堕ちた。 「これなら何とかなるじゃないかと思うんです。……少なくとも十兵衛ちゃんが回復するまでは持たせられます」 十兵衛を気遣いつつ語り掛けるリン。 「…頼む…」 「……では、いきますっ! バルディッシュ、ハーケンフォーム」 《Haken Form》 バルディッシュの応答と共に斧部分が90度回転、ポールとの接続部分より長大なビーム刃が射出形成される。 一瞬の内にハーケンの名に相応しい大鎌が完成する。 「はぁぁぁっ!」 気合一線ダッシュをかけ、大振りにしたハーケンを鋭く横一線! 動きの鈍いホイホイ軍団をまとめて複数、上下分断する。 リンが大鎌を一振りする毎に、まるで草でも刈るかの如くホイホイさんの首が複数吹き飛んでいく。 だが然し数が多すぎる。エアリアル技中心の時とは比べ物にならない殲滅速度なのだが…… 『燐、アレを使うぞ!』 「あれですか……あれはまだ出力調整が不完全で使うなとマスターが」 『大丈夫! 今回くらいは持つ。旦那の言うことは聞くもんだぞ!』 「……はぃっ!」 うるうる目になって、心底嬉しそうに答えるリン。 「バルディッシュ、ザンバーフォーム!」 《Yes,Sir Zamber Form》 ポール部分が伸縮して縮み、斧状のパーツが左右に分解、あっという間に変形を繰り返し、鎌は巨大な剣の柄に変形。 そしてヴン! と言うかすかな起動音の後、先ほどの鎌より巨大な、今度はリンの全長をも上回る巨大なビームブレードが展開される。 プラズマランサーの時とは比べ物にならない程の放電現象が大剣より発生。そんな中リンは平然と肩まで担ぎ上げ…… 「撃ちぬけ、神雷!」 鋭く一閃を放つ! 剣より開放されたその莫大なエネルギーは大地を抉りつつ直進。触れた物全てを巻き込み粉砕してゆく。 その閃光が収まった後、真正面に展開していたホイホイ軍団は、全て跡形もなくこの世界より存在を抹消されていた。 「……この威力は予想外です」 呆、と思わず溜息を漏らすリン。高出力による一時的なパワーダウンと余りの高出力ぶりに思わず漏れてしまったのだ。 と、左右に展開したため生き延びていたホイホイさんが、エモノを手にリンに飛び掛ってくる。 一瞬反応が遅れるも、せめてカウンターで倒そうと体制を整え…… カウンター寸前、相手のエモノが粉々に砕け散る。そのためアッサリとバルディッシュザンバーで一刀両断にするリン。 「十兵衛ちゃん!」 「待たせたわね。今度は私の番……燐はそこで少し休んでなさい」 真眼システムを完全に復帰させ、レーザーライフルで絶妙の狙撃を行った銃兵衛がそこにいた。 「いいえ、私も一緒に戦います。二人で補え合えば……絶対に勝てます」 「青臭い台詞ね。……でもいいわ、今回だけは其れを聞いてあげる」 彼女たちの戦いは、終わらない。勝利の鐘の鳴り響く、その刻まで…… [[続く>ねここの飼い方・劇場版 ~十章~]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]