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part2 - (2012/02/17 (金) 21:53:41) のソース
次の日、今は学校が終わり、夜9時までのコンビニアルバイトの最中。 学校でもずっとあの神姫について考えていた。なにかしてあげられないのかなと思っているが、良い案がなかなか出ない。 そんな上の空の状態だから、アルバイトの最中でも度々ミスをしてしまうし。 「……ハァ」 「どうした、青少年。溜息なんてついて、今日は覇気がないぞ。覇気が」 「あ、すみません。君島さん」 今日同じシフトの先輩、君島さんにおもわず頭を下げる。人が少ない頃を見て話しかけてくれたみたいだ。 「いや、なに。いつも生真面目に仕事しているキミがミス連発なんて珍しいのでね」 「……ちょっと、色々ありまして、悩んでいて集中できないんですよ」 「ほう。恋かね?」 「え!……いやいや違いますって」 何を言い出すんだ、この人は。アルバイトの先輩で本名は君島 縁さん。 長く伸びた髪をぞんざいに後ろでまとめていて厳かな口調が特徴。そしてなぜか僕をよくからかってくる。 「なんだつまらないな。キミくらいの年代ならそういうのが相場なんだがね」 「なんで恋愛関連に話がいくんですか。……あ、でも、一応悩んでいることは女の子なのかな。武装神姫のことなんですけど」 「あの戦わせたり、その他の用途に仕事のサポートもできるという噂の機械人形か。はたまた恋人にしたりできるとか。……ハッ! まさか、相手は神姫か!? お姉さんは許さんぞ」 「違いますって! ―――あ、いらっしゃいませ!」 お客さんが来たので、すぐさま商品をうつ。君島さんもいつの間にか商品の整理に戻っている。まったく、あの人は。 頃合いを見て、君島さんにまた話しかける。 「お客さんに見られたじゃないですか」 「クク、取り乱すキミが面白くてな。ちょっとからかってしまった、すまないな。 ……でだ、武装神姫について何を悩んでいるんだね。話してみ。ほらほら」 「……ハァ。わかりました」 二度目の溜息をついて、これまで起きたことを君島さんに話した。 「ほうほう。塞ぎ切った神姫を拾ってしまって、どう接したらいいかわからないと」 「そうです」 君島さんは真面目に取り合ってくれる人ではあるのだけど。なんかな、うまく表現できない。 「私は神姫を持っていないが、メディア情報は度々拾うな。例えば『神姫には心がある』という話が多くある」 「……心ですか」 喜怒哀楽の感情がある。そんな神姫たちであれば、そう思う人たちもいるのだろう。ミスズとか他の神姫を見てて僕もそう思う。 「所謂、AIなんだが。これには様々な議論がされている。今でも決着はついてはいない。ただの自立思考型の人形だろとかな、偉い奴とかがそういうことをのたまうのは世の常だ。 まぁ、そんなことが上では起きている訳だ。……少し反れたが、では、キミのように神姫を拾った場合はどうしたらいいか」 「……どうすれば?」 「人間の女と考えて行動しろ」 「はい?」 「人形とか、野良神姫とか、考えるな。そいつは人間の女の子だ。家出した女の子だ。そう考えて動け。で、仲良くなればいい」 「簡単に言いますけど、塞ぎ込んでいるって話しましたよね」 「一度でくじけるな。弱音を吐くな。何回でもトライだ。さすれば、道は開かれん」 勢いでそう君島さんは言い放った。 なんだか、そう思うとやれる気がしてきた。 僕は単純なんだろうか。それとも君島さんの話術なんだろうか。 「そして、いつのまにか長倉君とその神姫はめくるめく関係に。うわ、面白いし笑えるな」 ダメだ。こんな大人になったらダメだ。 ---- そして。 帰ってきて、僕の部屋に今も謎の神姫がいる。 あれからずっとクレイドルの中にいたみたいで、いまだに何があったのかは話してくれない。これじゃ君島さんの案、強引に会話で仲良くなろう作戦もままならない。 一応、僕も武装神姫をいつかは欲しいなと思ってはいたけどなあ、これを人間の女の子と考えるのか。無理でしょうに。 僕の家庭は母親は僕が幼い頃に病気でなくなり、父親は飛行機の機長をやっていていつも飛び回っているので、家を空けるばかり。世話をしてくれていた母方のおばあちゃんもいた。だけど、中学二年の時に亡くなってしまった。 以来僕はこの家に一人暮らしをしている。父親に心配をかけまいと家事などは一通り覚えて、立派にやっていることを伝えているし、高校生になってからはアルバイトもしていて、生活は充実している。でも、やっぱり一人が寂しい時があるので、淳平とミスズみたいな関係を作れる神姫が欲しかった。 この子を人間の女の子と考えると、見知らぬ所でずっと塞ぎ込んでいて寂しくはないのだろうかと思えてきた。 「一人ぼっちは寂しいと思うけどな」 考えていたことがふと口からでてしまった。 すると。 「………あの」 見ると神姫の子は顔を上げてくれていた。 「!……初めて話しかけてくれたね。どうしたの?」 「えと、その、お話を聞いてもらってもいいでしょうか」 「うん、いいよ」 どういう心境の変化なのかはわからないけど、心を開いてくれた。ただそれだけが嬉しかった。 僕は座布団を用意して腰かける。そして神姫は話し始めてくれた。 「私のマスターはバトルで勝つことが好きでした。自分で考えた武装、自分で考えた戦略、それで戦わせている神姫が勝つととても嬉しそうでした。私の前には、ストラーフのお姉ちゃんがいて、マスターとお姉ちゃんが私を買ってくれて、戦っている姿も見せてくれました。だけど私は……その……武装神姫としては欠陥品でした」 「どうして? 悪い所はないみたいだけど」 「心というか、CSCと言いますか。……私は戦うことを苦手と感じるんです」 「……」 それは戦えなくては“武装”神姫足りえないということを意味するのだろうか。 「訓練とかは普通にできるんですよ。でもバトルだと傷つけるのも、傷つけられるのも嫌に思えてしまって、フィールドに立たされてもまともに戦えなくて、結果マスターにもお姉ちゃんにも見限られて……いられなくて……それで……」 「わかった。もういいよ」 「ぐす……うぅ」 会話を止めると優しく声をかける。泣き出してきてしまったので、それを僕は指で拭う。 あの日にそんなことがあったのか。一人で外をたくさん歩いて、バッテリーが切れる寸前まで猫に追いかけられて、大変な苦労をしたんだな。 「戻れないんだね、居場所には」 「……はい」 「それじゃあさ、よかったらだけど、ここにいてよ。僕は神姫バトルとか興味ないし、話し相手……いや、いっそのこと僕のになってくれないかな」 「螢斗さんのにですか?」 「うん」 強引でしかも傍から見たらプロポーズに聞こえるが、そうではなくて、ただ単に一緒に生活するという事としてのお願いだ。 「そうですね。螢斗さんはお優しい方みたいですし、……喜んで」 「そうか。やった」 こうして、この僕の家に一つの神姫が住むことになった。