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いつか光り輝く 1.0話 別のなにか - (2006/11/02 (木) 19:52:49) のソース
*1.0話 「別のなにか」 ---- 1 やたらと消防車のサイレンがうるさい日の翌日だった。 なんでも国立の研究施設だか何だかが火災になったとかで、 隣の地区どころかその向こうの地区からも消防車が来ていたらしい。 幸いにも俺の済むアパートからは離れているので危険は無かったのだが、 かなりの規模の火災だったらしく、朝方まで五月蝿くて眠れなかった。 おかげで寝不足です母さん。 仕事中も問い合わせの電話が山程山程。 地区違うっちゅーねん、部署違うっちゅーねん。 しかしどんなに忙しくても定時上がりなのが公務員のいい所。 ちゃっちゃと寝ちまうぜー…と目論んでいたが、 そうも行かない理由が俺に申し訳なさそーな視線を送っていた。 2 「すると何? キミの面倒を見ろ、という訳ですか親父殿は」 正座したそいつの前には親父からの手紙。 内容は『マオを頼む』。 こんだけ。 あ―――――――も―――――――。 思えば母さんの葬式にも来なかった親父が、だ。 あげく、仕事に専念する余り家に帰ってこなくなった親父が。 今になって『マオを頼む』ですと? いやいやいや。 親父のことは軽蔑しているし、やっとこさ縁がきれたかなーとか思っていましたよ? それでも『マオを頼む』と言われりゃあ何某(なにがし)かの切迫した事情があるのかもしれないと思うじゃあないですか。 でもねぇ…多分このコがマオなんだろうけどさ。 俺、このコの事見下ろしてるんだよね。 それはもう物凄く。 「あうぅ、スミマセン; ですが私、他に行く当ても無くて…」 泣くな。 泣かれると多分、すっげぇ困る。 こんなんでも女の子の涙は強力ですね、母さん。 親父からの手紙を持ってきた彼女は… 神姫でした。 orz 3 俺は柏木浩之、20歳のしがない公務員でございます。 親父は失踪して音信不通だわ母に先立たれるはと、程々に波乱万丈な学生時代を歩んでまいりましたが、めでたく就職浪人にもならず安アパートながら質素ながら、それなりに平穏に暮らしてまいりました。 1時間ほど前までは。 労働を終え、愛しの我が家のノブを回したところで呼び止められた。 「ヒロユキ様ですね?」 透き通った、それでいて少し甘さのある少女の声。 おいおい、これって『貴方の事ずっと前から見てましたv』か? いやさ、気が早いぞ俺。 キャッチセールスな可能性もあるし、ここは当たり障り無く… 「どなたですか…って、あれ?」 いない。 だーれもいない。 前も後ろも、見渡す限り360度。 空耳だったのかも。 がちゃり 扉を開け、部屋に入ろうとする俺のズボンの裾を何かが引っ張った。 「ああ~、待ってくださいぃ~」 んな?! さっきの声! 足元から聞こえるし、ズボンの裾わ引っ張られてるし、いったい何が…… 「あ」 見ればそこには、緑色の髪と瞳の人形が泣き出しそうな顔で俺を見上げていた。 4 柏木家 居間兼寝室兼色々 「泣くな。 泣かないでお願いだからっ。 君をウチに置くのは構わないんだけど…」 そう。 犬猫人間に妖怪の類であれば、安月給の身ではとてもじゃないが支えられる筈も無い。 だがこの子は武装神姫とかいう玩具だ。 たぶん。 かかったとしても精々充電の電気代程度で経済面での問題はないし、 ちっこいので狭い我が家でも面積を圧迫する事も無いだろう。 問題はそんな事じゃないんだ。 構わないと言われてぱぁ…っと花が咲いたような笑顔に。 可愛いなー。 なるほど、これでは子供ばかりでなく、いい年した大人が熱を上げてもしかたない。 「もう一度確認させてくれ。 君が親父が俺に面倒を見るように頼んでいるマオなんだね?」 ここだ。 身勝手にも程がある。 自分の妻の葬式にすら顔も出さないで、今になって頼みごとを…しかも人形の世話ですよ?! 「はい、私は開発コード ”Maxwell-X01”通称マオ。 貴方のお父様によって作られた武装神姫です。」 くぁ、確定かよ… 俺ら家族をほっぽいといてまでしてた仕事がコレ? なまじ目の前のこのコ…マオが可愛いだけに、余計にムカツク。 …あれ? でもこの外見はたしか… 俺はPCをスリープモードから復帰させるとブラウザを起動し、 ホームページに設定してある検索サイトに[武装神姫 猫]と入力した。 …武装神姫 猫 の検索結果 約 58,000,000 件中 1 - 10 件目 とりあえず公式らしき所をクリックする… あった、これだ。 「なぁ。」 「は、はい?」 画面には猫型MMS[マオチャオ]のデモンストレーションムービーが映されている。 そっくりだ。 なのにコイツは確かに…言ったよな? 「君を作ったのは俺の親父で、しかもコードナンバーにX?」 「え、ええ。」 ちょっとうろたえてる。 あきらかに「余計な事言っちゃたよ~」な顔だ。 感情は豊かな様です。 置くのはいいだろう。 作り物であろうとも、ヒトの形をしてヒトの様に振舞う存在を寒空に放り出すのも気が引ける。 けどな、ひとつ納得できねぇんだよな。 「君はコレとは別の”何か”なんだな?」 「う、あ、ぅ~、はぃ…」 「置いてやる。 だがその代わり、親父が俺達をほっといてまで作った君が何なのか、 なんで俺に所に来なきゃならなかったのか、話せ。」 5 朝。 とりあえず。 マオの事は「父親が同じなんだから俺達は兄妹じゃね?」で落ち着きました。 落ち着いたという事にしておいて下さい、いやマジで。 マオから聞いた話はヘビーすぎてなんと言うか。 「兄妹じゃん!」とマオを暖かく受け入れた俺ですが、内心はぐっちゃぐっちゃな訳で… しかし個人の事情で仕事を休んでいては(除、冠婚葬祭) お給料の元を収めていただいてる国民の皆様に顔向けできないというものです。 真面目だな、俺。 でもなー、コイツを一人にするのはなー… うん、連れて行こう。 内ポケットに入ってりゃなんとかなるだろう。 「マオ、仕事いくけど…一緒にくるか? 見つかるとまずいから ポケットの中で大人しくしてもらわなきゃならないだろうけど…」 彼女は振り向くと、苦笑いしながら「隠れてるのは得意ですから」と答えた。