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第九話:鉄鳥姫 - (2009/12/14 (月) 19:00:31) のソース
第九話:鉄鳥姫 「……で、何で俺が特訓に付き合わないとならねぇんだよ!?」 「いいじゃない。ケチケチする事でもないでしょ?」 「俺の自由はどうなってんだよ!?」 「知りませ~んっと」 俺は神姫センターにいた。……真那と一緒に。 盲導神姫の施設を見学して次の日、杉原から携帯電話で連絡があり、捕獲の許可が下りたとの事で神姫センターに行ったのだが、そこで真那と出くわし、こういう事になっているのである。 早速というべきなのか、真那は俺に蒼貴を指名し、サマーフェスタにルナと共に送り込んだのである。 俺は仕方なく蒼貴を送り込み、真那との戦いを始める。もし、ここにリミッター解除装置を装備した神姫が来たらまずいが、来たら来たで好都合だ。このままやるのも悪くない。 サマーフェスタに蒼貴を送り込む間に昨日の事を思い返した。 あの怪しげな研究者の義肢に関する話の後、中古神姫の販売所に行ってみたのだが、そこにいた神姫の様子が少々おかしく感じられた。 いったい誰に買われるのかという不安以上の恐怖がその顔にはあったのである。 買われるのは目や耳が不自由な神姫であるはずなのだが、これはどういう事なのだろうか。それ以外の誰かに買われる可能性があるとでもいうのだろうか。 「さぁ、行くわよ! ルナ! ボレアスで蒼貴をぶっ飛ばしちゃって!!」 「はい!」 考えている間にルナがエウクランテタイプに付属しているキャノンであるボレアスを取り出して、それを蒼貴に空中から放つ。 相変わらずの空中からの射撃は飛行装備を持たない蒼貴にとってはやっかい極まりないものだ。 装束と仮面しか装備しておらず、武器となる物が苦無と鎌しかない蒼貴は武器を投げて落とすしか手段がない。 そんな蒼貴はルナの射撃を避けつつ、苦無を放つがアーンヴァルの物とは違い、空中での重心移動がしやすいエウクランテのバックユニットはさながらヘリコプターの様に舞い、放たれた苦無を難なくかわし、ボウガンタイプのハンドガン ゼピュロスに武器を切り替えてそれを連射する。 蒼貴はそれを見て、まともに当てるのは難しいと判断して、近くにあるヤシの木の林に逃げ込んで次の攻撃をやり過ごし、その間に俺は次の一手を考える。 今回のルナは機動力を重視したらしく、新たにエウクランテの装備を追加し、それと従来のアーンヴァル標準装備を複合させたモノとなっている。 この二種類の機体の装備は性能の方向性が一致しており、それらを組み合わせて強化した装備は手軽で色合いが近い事から見た目も良いため、機動力重視の装備としては最もポピュラーなカスタマイズとして普及している。 が、このルナの行った組み合わせはそれでいて最も扱いにくいカスタマイズになっていた。それはバトルモード『グライドオンプレステイル』を発動できる様にしてあるためだ。 グライドオンプレステイルは三つの武装、脚部アーマー、バックユニットを占領する代わりに一度発動させれば強固なアーマーを破壊する事のできる程の強力な突撃が可能なバトルモードだ。 これに関してはバトルモードの中でもワースト3に入る程の扱いにくさと打撃である事からの軽減手段の多さからある種のロマン技として軽視されているのだが、彼女はわかっているのだろうか。 何も考えていない気もするが、だからといって侮るつもりはない。彼女も型にはまらなくなってきているのだから何か仕掛けがありそうではある。気を引き締めていくとしよう。 「蒼貴。お前に持たせてあるアレを苦無にくくりつけてそれをあいつに投げるんだ。一発必中でな」 「了解です」 思考を固めて蒼貴に指示を下すと、彼女は木の陰からルナに気取られない様に身を隠しながら移動を始める。 彼女は蒼貴を見つけようと周囲を見回す事で索敵を行っているが、今回は連射装備がなく、掃射で捜し当てる事ができない。 隠密戦術の俺達にとっては都合のいい話である。 蒼貴が必中の機会を狙っている間、俺はまた、あの施設の事について考え始める。 あの神姫達の恐怖の正体は正直、よくわからない。しかし、ろくなモノではなさそうなのは確かそうだった。 あの研究者の怪しい反応からしてもただ事ではない。もしかするとあのリミッター解除にも一枚かんでいるかもしれない。あまり考えたくはないが、もしそうだとするなら最悪だ。そうなると輝や石火が立ち塞がる事になる。彼らはあの施設を信じている。一部とはいえ、影があれば、あいつらは悲しむだろう。 ひとまず、この事は杉原に上手い話であるかの様に伝えてある。俺では無理な事も彼は平然とやってのけるだろうし、さらに名が売れるともなれば喜んで調べてくれるだろう。俺の方は違法神姫を捕まえて、リミッター解除装置を没収し、結果を待っていればその内、事は進む。 「せいっ!」 俺の考えが一区切りした所で蒼貴が苦無を放った。ルナに一直線に飛んでいったそれは彼女のバックユニットに突き刺さり、俺の知らない間にあらかじめ結びつけておいたらしいヤシの木に釣り糸で繋がれ、拘束された。 ルナは何とか動こうといろいろな方向に移動するが釣り糸はたかが神姫如きの力でそう簡単には引きちぎる事はできない。 エウロスで切ろうにも背面のバックユニットに刺さっているため、そうすれば自分も傷を負う事になる。 後は投げて落とすだけだ。 蒼貴は腰に仕込まれてある苦無を二つ取り出すとそれを投げつけ、さらに鎌をCSCの力を込め、放つ。 苦無は足掻くルナの予測機動をしっかり捉え、右足と左腕に一本ずつ刺さって、牽制し、さらに追撃の鎌が襲いかかる。 「こうなりゃ、バトルモード発動よ!!」 「うん! いっくよ~!!」 真那の声と共にルナのバックユニットと各武装がはずれ、飛行能力を失ったルナは落下を始めた。この時、とどめとなるはずの鎌が外れてしまう。 さらに外れた装備はパーツの一つであるエウロスが釣り糸を切断しつつ分解と再構築がなされ、機械仕掛けの鳥 グライドオンプレステイルへと変わった。 鳥は落ちゆくルナを乗せるとそのまま、蒼貴に向かってとんでもないスピードで突っ込んでいく。 「やばい! 蒼貴、避けろ!!」 俺は内心焦りながら彼女に反射的な指示を下す。 発動されたあの突撃は装甲の薄い蒼貴がまともに受けたらひとたまりもない。とにかく避けるしかないのだ。 指示を受けた蒼貴は避けようとするが、突撃をかけるグライドオンプレステイルは素早く、装備が充実していない蒼貴には避けられそうにない。 二、三秒後、グライドオンプレステイルと蒼貴が激突したのか、ヤシの木の林の中で大きな音と粉塵が巻き起こり、突撃を終えたグライドオンプレステイルが空へと戻っていった。 「よっし! 蒼貴ちゃんに勝利!!」 勝ったと確信するルナはグライドオンプレステイルの上でガッツポーズをした。 その様子を見ていた俺は蒼貴がどうなっているのかを調べるためにブースの画面を見た、が……。 「ダメージを受けていない?」 強力で、くらえば一瞬で終わるであろう突撃を受けているという判定であるにも関わらず、蒼貴のライフは減っていない。俺は不思議に思い、突撃した場所やルナの周りを見た。 「……危なかったです」 なんとルナのグライドオンプレステイルの下にぶら下がり、投げていた鎌を回収した蒼貴の姿があった。 彼女は体当たりの刹那、後ろへ倒れる事で免れつつ、掴まってそのまま、ルナと共に空へ上がっていたのだ。 「やばっ! 下よ! ルナ!!」 俺と同じく気づいた真那は慌てた様子でルナに蒼貴の場所を知らせる。 「ええっ!?」 まさかの結果にルナは驚きながら備え付けられているハンドガンを手に取ってぶら下がっている以外何もできないであろう蒼貴を探す。 「そのまま足で挟み込んじまえ!」 俺は突然舞い込んだチャンスを逃さず、蒼貴に指示を飛ばす。彼女は逆上がりの要領で身体に勢いをつけてグライドオンプレステイルの足から上がり、そこにしがみついているルナを足で挟み込み、そのまま彼女にしがみついた。 「確かにいい手です。一歩間違えれば私の身体が真っ二つでしたよ」 蒼貴はルナを褒めながら首に鎌を突きつけ、容赦ない死の宣告を言い渡す。 「そ、それはどうも……」 ルナはもう打つ手が無いらしく、苦笑しながら両手を上げた。やむを得ず降参の意を示したのである。下手に動けば、首を跳ねられるし、かといってグライドオンプレステイルを暴れさせても結果は同じだ。 「勝負あったな」 「だ~! 何でこうなるのよ!! ヤバ過ぎっしょ!!」 「俺だってヤバいと思ったさ。ありゃ運だ」 「くっそ~!!」 「女がそんな汚い言葉を使うなっての……ん?」 言葉の応酬を繰り返しているとブースの索敵画面からアラートが表示された。それを見てみるとグライドオンプレステイルに誰かが追いかけてきているのである。それもスピードがあるであろうグライドオンプレステイルを上回るスピードで。 「どうしたの?」 「何か近づいている。蒼貴、ルナ。気をつけろ」 俺に言われて敵の接近に気づいた二人は周囲を見回す。辺りは雲一つない快晴だが、何かの気配か音がする様で二人共警戒していた。 「ミサイルが来るぞ!」 ブースの画面からこちらの機体を狙ったミサイルが来たのを発見した俺は急いで蒼貴とルナに叫んだ。 「嘘っ!?」 「焦っている場合ではありません。私が撃ち落します。ハンドガンを貸してください」 「わかった!」 蒼貴はルナからアルヴォLP4ハンドガンを借りるとそれをミサイルに連射した。複数弾放たれた内の一発はミサイルにかすり、それに反応したミサイルは勝手に自爆し、落ちた。 ミサイルの爆風の中、蒼貴はミサイルの後ろから追いかけてくる機影を捉えたらしく、後ろを向いた。 「あれは……」 蒼貴が発見し、見つめる先にあるのは……丑型ウィトゥルースタイプのバトルモードを駆る紅緒タイプの姿だった。 「ファストオーガ!!」 正確にはファストオーガ激走。それが追ってくるバトルモードの名前だ。グライドオンプレステイルと違って運動性能は無いが、高いトップスピードを備えている。結果的に直線に付き合って、追いかけられていたのも納得のいく機体だ。 さらにこのバトルモードは車上射撃を得意としており射程距離に入られたら厄介である。 「敵は……おいおいおいおい……」 ブースのデータベースを調べてみると追いかけてくる紅緒タイプはあろう事かイリーガルマインド型を装備していた。直線スピードの速さからして恐らくリミッター解除装置だ。おまけに彼女は昨日、蒼貴が倒した相手と同じであり、恐らくは背後から一方的にやられたのが相当悔しく、リミッター解除装置に手を出してしまったのだろう。 まさか自分で種をまく事になろうとは思わなかったが、正直強くなるのにそれを使ってほしくはなかった。 (止めてやるしかなさそうだな……) それで紅緒は死ぬかもしれない事を彼女のオーナーは、あの少年の様に知らずに使ってしまった可能性が高い。とはいえ、肝心の性能はというとリミッター解除装置のおかげで神姫自身はもちろん、ファストオーガ激走の性能も強化されており、そう易々と行きそうにない。 おまけに武装は丑型のコンピクトU7、ビームジッテ二本に加えて『スティレット』小型ミサイルを四発、『カッツバルゲル』中型ミサイルを一発積んでいる。対空装備も万全といわんばかりの構成だ。 こちらの状況と比較したらヘリコプターと戦闘機ぐらいの差があるだろう。 「おい。真那。ルナのプレステイルの経験はどれぐらいだ?」 「け、結構練習したからやれると思うけど……」 この様子からすると俺を倒すためにあの使いづらいバトルモードを結構、やりこんでいるらしい。これなら回避をさせるには十分だろう。ミサイルは蒼貴に撃ち落させればいい。 「上等だ。今からあれを墜とす。蒼貴は攻撃、ルナは回避にそれぞれ集中してもらうぞ。……いいな?」 「う、うん」 「蒼貴。苦無の残りは?」 「五本です」 「多いのか少ないのかわからんがそれでやるしかねぇか。まずはルナからゼピュロスも借りてハンドガンと一緒に撃て。迂闊に得意武器を使い捨てたくは無いからな。それと苦無は釣り糸を繋げておけ。考えがある」 「わかりました」 蒼貴は俺の指示に従い、苦無に先ほどルナをハメるのに使った釣り糸を取り出して結び付ける。これで苦無をアンカーの様に使える様にできるはずだ。 「ルナは避けるのに集中して! ミサイルにだけは気をつけてよ!」 「了解っ!」 「よし! 迎撃開始よ!」 調子のいい真那も指示を飛ばし、勝手に戦いの宣言をした。確かにミサイルは当たったら脆いプレステイルでは致命的なダメージになるため、その判断は助かる。 回避は彼女、攻撃は俺。これでどうにか覆すしかない、か。 -[[戻る>第八話:実践姫]] -[[進む>第十話:血戦姫]]