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第5話:紅黒決着 - (2008/06/11 (水) 02:23:13) のソース
『キメろフラン!両断しろ!』 『いけぇムラクモ!お前の一撃叩き込んでやれ!』 「マスターの求めるものは、全て!」 「マイマスターの為にッ!」 オーナーの叫びが交差すると同時に、神姫たちが駆け出し、また、お互いの言葉が交差する。 紅い神姫は、手にしたリボルバーから大粒の弾を吐き出しながら、ホイールのうなりと共に。 黒い神姫は、左手でハンドガンを取り出しつつ、迫りくる銃弾を右手の大太刀で切り払いながら。 「なっ、あんな大きな刀を片手でッ!?」 『信じられねぇ、どういう間接してやがる!?オマケにスラッグを切り払うなんざ、どんなスキルだ!』 3発の銃声の後、専用ローダーで素早く弾を交換、青いショットシェルを詰め込む。 「鍛え方と、勝利への貪欲さが違うからさ!」 『勝つために培ってきた技と強化駆動系、ナメてもらっちゃ困るんだよ、三輪車が』 なおも飛来し続ける弾を切り払い、黒い神姫は走り続ける。 『スラッグじゃだめだ!バックショット、赤いヤツ!』 「い、イエスッ」 今度は赤いショットシェルを詰め込む。九つの顆粒弾が詰まったバックショット。 まもなくインファイトレンジ、銃よりも刀が勝る距離。 『ムラクモ!ナイフ!』 「オーライっ!」 左腿のスペーサーに装着されていたナイフを取りはずし、装填の終わったローダーを捨て、空いている左手に握る。 「近接戦闘でぼくと殺ろうっての?覚悟は良いけど……」 その間、既にインファイトの距離に入った黒い神姫、フランドール。 「そんなオモチャで、勝てると思うなよぉッ!」 右手の大太刀、斬破刀を上段に振りかぶり、垂直に下へと振り下ろす。 金属同士がぶつかり合う高い音が辺りに響き渡る。 「う、くぅ……ッ!」 先ほど抜いたナイフで、振り下ろされた斬破刀を受ける紅い神姫、ムラクモ。 「ふふっ、だぁからいっただろ?勝てると思うなって」 ギリギリと嫌な音を立てるお互いの刃物。 しかし、フランドールのパワーを抑えきれないのか、じわりじわりとムラクモの頭上へ迫る。 「フルパワーで振り下ろしたらすぐ終わっちゃうしね、このまま……ゆっくりと斬らせてもらうよ?」 「さ、せ……るか……っ」 2mm、3mmと少しずつ近づく凶刃、そして、刃を進めるフランドールの顔は、楽しげに嗤っていた。 「あと何秒かな?あとどれくらいで、キミのその、メットの下の柔らかーいお肌に食い込むのかなぁ……?」 ソレに対し、必死に抗うムラクモ、しかし、迫る刃を抑えているナイフはカタカタと震えている。 「(だめ、なのか……ッ)」 ムラクモがそう思ったとき、不意を付くようにマスター側からの叫び。 『今だ!バックショットならその距離でいける!』 ハッ、としたように、ムラクモはリボルバーをフランドールの腹部に向ける。 『フラン撃たせるな!ストライクで先にブチぬけ!』 舌打ちをしつつ、左手のハンドガンをムラクモの頭に向ける。 直後、トリガーを絞った二人。 2種の銃声が、ほぼ同時に轟いた。 銃声の後。 弾をもらって、お互いに倒れこむ。 辺りに立ち込める硝煙と、カツン、と1個だけ空薬莢が落ちる。 ―――ドローゲームか!?ギャラリー、オーナーともどもそう思ったそのとき。 <Win ムラクモ> 合成音声からジャッジ判定が述べられた。 それからほんの1秒程度、ゆっくりと、赤い腕が真上に上がり、親指をぐっと立てる。 「……勝っ……たよ」 そんな間抜けな勝ち台詞の後、VRスペースから排出され、筐体から現実へ。 「うぉおおおおおおすげぇえええええ」 「このヌルいセンターでこんなアツいバトル観るとはおもわなんだ!」 「ふぉぉおおおおおムラクモたんふぉぉおおおおおおッ!」 「ムラクモたん愛してるぅううううううう!」 「ムラクモー!ム、ムラー!ムーッ!」 「さすがここ期待のルーキーだ、いいガッツだぜぇ」 「(゚∀゚)むーらっくも!むーらっくも!」 「(゚∀゚)むーらっくもッ!むーらっくもッ!」 「いやぁ、あのムラクモたんでここまで苦戦する相手が現れるとはなぁ」 「うむー、あのストラーフちゃんもいいガッツだったぜぇ」 「鍔迫り合いんときのあの凶悪な笑みがたまらないわぁ」 「まったくだ、あの顔で斬られてみてェ」 「うむ、オレ超胸キュン。様付けで呼びてェ」 「ストラーフ様カッコよかったなうふふ」 「凶悪そうな感じがなんともだなうふふ」 「ムラクモたんに新たなライバル出現だな、いろんな意味でうふふ」 「いやだからそのうふふってやめろよ!?キモいって!?」 「ふぃー……おつかれ、ムラクモ」 「ん……マイマスターこそ、おつかれさま」 溜息を長く吐きながら、筐体から這い出るように出てくる神姫とオーナー。 「おつかれムラクモたーん、あと晃」 「いいバトルだったぜー、熱かったぜムラクモたーん、あと晃」 「なんでオレの名前が後なのよお前らは」 口を尖らせる、ヒカルと言われた高校生くらいの少年。 「そらおめー、男よりかわいー女の子に言うほうがいいべ?」 「ムサい男にいってもなー、なんかなー」 「だよなー、ムラクモちゃんのがかわいーもんなー」 言いたい放題のギャラリーたち。 「ちぇー、まいいけどさ。あとムラクモちゃんはかなりお疲れみたいよ、いつものツッコミ返ってこないもん」 胸ポケットの中で、ぐったりとした紅い神姫。表情からも疲労感が伺えるほど。 「あんだけ派手にやりあえば疲れもするか……オレのために、本当におつかれさん」 桃色の髪を撫でながら、オーナーが今日の勝者へ賛辞を送る。 一方勝者は、疲れた顔から少し気持ちよさそうに賛辞とオーナーの指を享受している。 「そんじゃ行きますか」 「……行くって?」 「対戦相手ンとこ。あの子といろいろと話、してみたいぜ」 「まさか……あんな僅差で負けるなんてね」 一方、未だ筐体の中で、中のシートに寄りかかるゴシックパンク調の少女。 小さめのその身体から、溜息と共に自嘲気味に言葉が吐かれた。 「マスター……その……ぼく……」 少女は、その視線を消え入りそうな声の主に向けた。 「……ごめん、なさい……」 試合前の覇気はすっかり無くなり、黒い神姫はただうなだれるだけ。 そんな神姫に対し、少女は柔らかく微笑んだ。 「怒ったりしないから大丈夫」 「で、でも、また……壊されたら……ぼくは」 その言葉を指で制し、もう一度溜息。その後寄りかかった身体を起こしつつ、少女は語る。 「……そのときは私が守る……体差し出してでもね」 筐体から排出されるオーナーズカードを取る。 「でも、こういうのはある意味望んでたことだろ?こっちが負けるような強敵に出会えたんだ」 手を、黒い神姫の方へ。 「おいでフラン、アイツの名前、聞いとこう」 「ども、おつかれさーん」 少年は軽い口調で、対戦の相手の少女に声を掛ける。 「おつかれ、今日の勝者」 対する少女は、棘を含ませるような言い方で返す。 「アイヤー、強いねキミ、勝てる気がちょっちしなかったわーHAHAHAHAHA」 「イヤミ?勝ったくせに」 エセっぽい外人笑いとまたも棘を返す少年と少女。 「あーいや、勝てる気がしなかったのは割りとマジ。自分でもこの結果にはびっくりさ」 「結果が全てじゃないか、負けたやつが悪いのさ」 「そーいう言い方は少し関心できないぞお兄ちゃん、そんな歳からそういう考え方は良くない」 「でもそういうセカイだろ?ここは。どっちが強くてどっちが弱い。それで勝った負けたじゃないか」 少女の物言いに、少年は少し困った顔をした。 「でも、負けたほうが得られるものが大きかったりするんだぜ?どこが悪かった、とか、いろいろ考えることもできるし」 「生憎と、負けて次があったことがないんだ……失ったことしかない」 少女と、黒い神姫の表情が少し曇った。 「なんだそれ……とりあえず、なんだ、場所変えよう」 急に小声になって、少年は少女に提案を申し付ける。 「ここじゃギャラリーが多すぎる。ゆっくり話できないだろ?」 少女がふと、周りを見渡すと、先ほどまで観戦モニターに釘付けだったギャラリー連中が集まっていた。 ―――視線は主に少女と神姫二人に集中してるようだが。 「な、ここはヘンタイという名の紳士が多いから」 「……どこまでヌルいんだここのバカどもは」 「い、いま罵った!バカどもって罵った!」 「オレだ!オレに言ったに違いない!」 「いやオレだ!というかバカどもだからここのみんなに違いない!」 「うぉおおおおン!もはや説明不要!」 「その目イイヨイイヨー」 「そらいくぞ!いつまでもこんな紳士どもの視線にこの子晒せるか!」 「ちょ、ちょっ、引っ張るな!聞いてんのかコラ!?おい!?」 少年と少女は駆け出した 「逃がすな!追え!地球の裏まで追うんだ!」 「おのれさせるか、オレがいくんだ!」 「てめぇ抜け駆けすんじゃねェこのくそはなせぇ!」 「ひかるぅー!次会ったらブチ殺してくれるぅぅうう!」 「うぉおおおおおン!」 [[トップへ>Black×Bright]] [[ねくすと>第6話:少年少女]]