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「小包」 - (2008/06/08 (日) 10:04:07) のソース
なんとも無い日常。普通に大学にいき、普通に夕食を買い、何事も無く家に着く。 パソコンを立ち上げ、メールをチェックし、巡回サイトを回る。 何の変哲も無く、何の予兆もなかった。 一通りパソコンの作業を終え、ぼちぼち夕食に取り掛かろうとした時。 何の変哲も無い日常とは、ちょっと変わったことが起こった。 小包が届いたのである。 「小包」 はんこを押し、小包を受け取る。 送り主は…親からである。仕送りはこの前届いたばかりだったはずだが? 不思議に思いながらとりあえず、小包を開けてみる。 中には、小包より一回り小さい箱と封筒。 とりあえず、封筒から空けてみる。 手紙が1通。それとやたらと小さい赤、緑、青色の3つの玉がでてきた。 ビーズほどの小ささだっため、封筒から飛び出してきた時は危うくなくしそうになる。 ―――先日、スーパーの福引で当たった。 だが、うちらではさっぱりわからん。 よって、一人暮らしで色々大変だろうお前に送る。後は任せた。 (短い。何を任せるというのだ?主語が無いぞ、主語が。) と、頭の中で突っ込みを入れる。相変わらず説明が下手な親である。 そう思いながら、小包の方に手を出してみる。 さらに小さい箱がいくつも出てくる。念入りすぎじゃないかい? 一番小さい箱から変わった形のハンドガン。ほぼ同じ大きさの箱からP90らしきもの。 細長い箱からは・・・ライフル?ランチャー?なにこれ? ぬぅ、小さい箱は武器らしきものばかりで、一体何が送られてきたのか全然要領を得ない。 ならばと次は一番大きい箱に手を出してみる。 最初に目に飛び込んできたのは黒。次に赤。そして白。 女性の形をした黒い素体。腹部など所々に施されている赤いペイント。白く長い髪。 15cm程度の小さな人形がとても大切そうに梱包されていた。 ここに来てようやく解った。これは恐らく「武装神姫」と言う奴だ。 2036年に発売されて以来、えらく人気の商品であり、子供から大人まで、小学校から会社まで、かなり幅広い範囲で扱われている最先端技術の結晶である夢のロボット!らしい。詳しくは知らない。 恐らくこの分であれば他の箱にもこのシリーズの装備一式が入っているのだろう。 「ふーむ。これが、神姫、ねぇ。」 手に取るどころか、こうして近くで見ることすら初めて。 つい見入ってしまう。 ………。 「………で?電源はどうやっていれるんだ?」 自分は、機械音痴ではない方だ。と思っていたが…。幾ら探しても電源スイッチらしきものは見当たらない。そもそもボタンがない。 話しかけてみる。 「おーい。おきろ~。」 …………。へんじがない。ただのしかばねのようだ。 第三者から見ていたら、恐らく、この様なというテロップが流れていただろうと思えるくらいの無反応。 届いた荷物をあさってみるも、小包の中にも封筒の中にも、説明書らしきものは入っていない。 ?。よーく覗いてみると、奥底にボロボロながらも色鮮やかな紙切れが一枚。引っ張りあげてみると、なるほど。マーカーやらボールペンやら鉛筆やらで色々メモられまくった説明書をようやく発見する。て、ここまでしてもわからんかったのかい・・・。 読みづらいことこの上ないが何はともあれ、なんとか起動方法はわかった。 説明書どおりに胸のハッチを開け、封筒に入っていたCSCと呼ばれる3つのチップを一個ずつ丁寧に差し込んでいく。 全てのCSCを差し込み終わると、3つのCSCはゆっくりと、ほのかに点灯を始めた。 まるで「トクン、トクン」と脈を打っているかのようである。 「これを差し込んで…で、ハッチを閉めて…。」 一旦テーブルの上に置き、事を見守る。 ―――セットアップ完了。 システムオールグリーン。 フロントライン製。天使型アーンヴァル、起動します。 いかにも「ロボットです。」と言わんばかりの機械音声が流れる。 「ふむふむ・・・。で、次は・・・」 と、呟きながら再び難解な説明書と格闘を始める。 ―――システムチェック、フルコンプリート。機動開始。 ゆっくりと目を開ける。一瞬まぶしさに躊躇する。 目の前には、奇妙な色をした紙切れとにらめっこしている男性が一人…。 あの人が私のマスターさん?よし、じゃぁ。 「初めまして!あなたがマスターさんですか?」 精一杯の笑顔で挨拶。何事も初めが肝心です。 「………」 あ、あれ?あっさり無視されてしまいました。 「えぇっと、もしも~し。」 「…。ココまで進んだから、次が…何でこっちに矢印がひっぱってあるんだ?…いや、こっちの説明とは関係ないでしょうに…。」 …。またしても、無視されてしまいました。あの男性は私のマスターではないのでしょうか? あたりを見渡してみるけど、他に人は見当たりません。 と言うことは、やっぱり、私を起動したのはあの人らしいのですが・・・。 「…ふぅ、ようやく読み終わった。ん?て、ことは…すでに立ち上がってるって事?」 あ!ようやくこちらを向いてくれました! 「あ!は、初めまして!えぇっと、あなたが私のマスターさん?」 「おお!動いてる!いつの間に…。」 本当に気付いてもらえてなかったんですね…。 「すまんね、親がやたら奇妙な説明書をよこしたものだから、読むのに時間がかかっちゃって。あ、じゃぁ、ちょっと待ってね。今、紅茶とお菓子持ってくるから。」 そういいながら、立ち上がり始めます。 「え!?あ、い、いえ!あの、おかまいなく!」 「あれ?紅茶とお菓子。必要ないの?」 「は、はい。それよりもできれば先にマスター登録の方を…。」 「?。でも、立ち上げ時には必要って書いてあるけど?」 そういいながら、彼は手にしていた紙切れを見せてきました。 彼が指差している部分の矢印をたどってみると… →立ち上げ時には、紅茶とお菓子が必要。 注意:お菓子はできれば、外国製のチョコ。 と、赤いボールペンで書かれていました。注意にはマーカーまで引いてあります。 …なんで? 「えっと、とりあえず、私に関しては無くても問題ないです。」 「あ、そうなの?」 そう言って彼は元の位置に座ると、またまじまじと説明書を見つめ始めます。 「じゃぁ次は…さっき言ってたマスター登録と言う奴か…。」 「はい。では、マスターである、あなたのお名前をお願いします。」 「えっと。名前は遠野明彦。」 「遠野明彦様。………はい、マスター登録かんりょ」 「で誕生日が、12月の4日で、歳が、えっと、20歳。で、趣味は…ん~。げ、秘密のパスワードも必要なの?。えーっと…。」 恐らく、これらも説明書に付け足されているのでしょう。次々と情報が列挙されていきます。 「あの…。マスター登録は名前だけで…完了してます。」 「あ、そうなの?」 「で、あとは君の名前か…。」 「はい!お願いします!」 そういいながら、彼女はテーブルの上から期待のまなざしで見つめてくる。凄いプレッシャー。 「ん~…。」 目を閉じて頭をひねってみる。 赤いから、ルビー。どちらかといえば黒くないかい? 天使型っぽく、スピカとか。天使型っぽくってどんなのだろう? 単純に、エンジェル。いや、単純すぎだろう? ………うーむ。あ、そうだ。 彼女の方に向き直る。 「キミは、どんな名前が欲しい?」 「え?」 彼女の目がきらきらした期待の眼差しから、きょとんとした目になる。 「例えば、ほら。宝石の名前とか花の名前とか。かっこいい名前とか、可愛い名前とか…。」 「え、えーっと………。」 彼女は腕を組み、顎に手を当てて必死に考え込む。「考える人」の完成。座ってないのが残念。 とかいってる間に、3分、5分、10分…。 「…すいません、思いつきません。」 「そうか、すまんね、変な事聞いて。本当ならマスターの私が決めることなのに。」 「い!いえ、そんな…。でも、一つ強いてお願いするなら…。」 そういいながら、彼女はこちらをもじもじと見つめてきた。 「ん?強いて言うなら?」 「…マスターに、ちなんだ名前が欲しいです。」 「私に、ちなんだ名前?」 …聞く前より難易度が上昇した気がする。 「あ、その、ごめんなさい!本当に何でもいいんです!宝石でもお花でも!でも、その、できるなら…マスターにちなんだ名前とか…。ちょっといいな~…。なんて…。」 最後の方は尻すぼみ状態。言ってしまったことを後悔とばかりに顔を真っ赤にしながら思いっきり恥ずかしそうに顔を伏せる。 「ん~…。私にちなんだねぇ。…あっ!」 ピンポン!と言う効果音と共に頭の上に電球がともる。 「ラピス。ラピスなんてどうだろう?」 「ラピス…。」 首をかしげながら、彼女が復唱する。 「うん、宝石の名前なんだけどね。正式な名前はラピスラズリっていって、12月の誕生日石なんだ。」 と、語るが別に宝石に詳しいわけではない。ただ単に自分の誕生石だから覚えてただけだったりする。 「12月の誕生石…。あ!」 「どう?気に入ってもらえた?安直過ぎたかな?」 「いえ!そんなこと全然無いです!!私スッゴク気に入りました!マスター!ありがとうございます!!」 満面の笑みとはこういうことを言うのだろう。気に入ってもらえた用でほっとする。 「そか、それはよかった。じゃぁ、これで一通りセットアップ完了かな?」 「はい、今のでセットアップ項目は全てクリアしました。」 「よしよし、それじゃ、これからよろしくね。」 「はい!こちらこそこれからよろしくお願いします!」 人差し指で握手。 「よし、それじゃぁ…」 そういって立ち上がる。と、目の高さに時計が現れる。12時。 うわぁ、いつの間にこんな時間に…。 (大学から帰ってきて、夕食を取ろうと思ったら小包が届いたわけだから…。あ、夕食まだ食べてないよ。) そう思い、台所に向かおうとする。と、今度は悲惨な部屋の状態が現れる。 過剰梱包されていた、箱、ビニール、箱、ビニール、箱………。 (…立つんじゃなかった。) 「…とりあえず、夕食にしようか?こんな時間だからたいしたものはできないけど。」 「あっ、はい!お手伝いさせてください!」 これが、私こと遠野明彦とラピスの出会い。 うちらの場合の俗に言う第1話はこんな形である。