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第三十二話『遠吠え』 - (2008/04/26 (土) 00:01:40) のソース
「おじいちゃんっ!」 大雨の中駆けつけた春奈は、病室のドアを勢いよく開け叫んだ。 「・・・少し静かにしたまえよ。ここは病院だよ?」 そこには彼女の姉である都が、ベッドの脇で腕を組んで座っていた。 都の目の前にあるベッドに横たわるのは・・・彼女たちの祖父である記四季だった。 が、春奈はその光景に何か違和感を感じる。 まるであるべきものが無いような・・・。 「おじいちゃん・・・大丈夫なの?」 「今は問題ない。近日中に手術が必要だそうだが・・・それには本人の同意と親族の同意が必要なんだと」 春奈の言葉に都は冷静に答える。 「・・・それって」 「親族なら私や両親で足りる、しかし同意を取ろうにも当の本人は意識不明。・・・代理人として同居人でもいいそうだがね。神姫が同居人扱いされるかどうか・・・それに、彩女はここにいない」 言われて春奈は違和感の正体にようやく気づいた。 いつも祖父と共にいたあの銀の狼が、いない。 「・・・彩女ちゃんは?」 春奈は震える声で、姉にそう問うた。 「・・・・・・恐らく、おじい様の屋敷だろう」 苦虫を噛み潰したような顔で、都はそう呟いた。 *ホワイトファング・ハウリングソウル *第三十二話 *『遠吠え』 ・・・雨の音がする。 彼女が目を覚まして一番初めに思ったのは、そんなどうでもいいことだった。 パソコンの脇に設置されたクレイドルから上半身だけ起こし、彩女は周囲を見渡す。 部屋は真っ暗だった。 「・・・・・・」 無言でクレイドルから降り縁側の方へと足を運ぶ。 ガラス越しに見た外は真っ暗で、時折雷鳴が轟いていた。台風でも来たのだろうか。 そういえば、主は洗濯物は取り込んだだろうか。どこかに出かけるくらいなら取り込んでいる筈だけれど ――彩女はそんなことを考える。 「・・・この調子なら、主が帰ってくる頃には道はぬかるんでますね。転ばなければ良いのですが」 そういいながら彼女にとっては長い廊下を歩く。 行き先なんて、無い。 ただ単に歩くだけ。 「そういえば、主はいつ頃帰ってこられるのでしょうか。・・・連絡もありませんし。不安です」 そういいながら歩く。 「・・・主」 彩女は歩みを止めその場に座り込む。 細い膝を小さな腕で抱きしめ、雨の音に耳を澄ます。 「・・・今、どこにおられるのですか?」 記四季が一人で家を開けることなんてめったになかった。あっても彩女に書置きの一つくらいはしていく。しかし今回はそれも無い。 そうなると考えられるのが、何かトラブルに巻き込まれた可能性。 だがそれは無い。こんな山奥に強盗なんて来るはずもないし、来たとしても記四季なら問題は無いだろう。 ・・・一体記四季に何が起こったのか、彩女には見当もつかなかった。見当もつかないからこそ余計に不安になる。 帰りを待っていてくれている人が忽然と消えた。自分にはその理由なんて見当もつかないし、小さな身体では探すことも出来ない。 恐らく、今ほど自分の小さな身体を呪ったことはなかっただろう。昨日の時点で既に記四季の携帯に電話をかけてみたが、繋がらなかった。どうもこの雨のせいで回線が不通になってしまったらしい。ネット回線も同様だった。 今の彩女は外部への連絡手段も無く、ただ暗闇で記四季の帰宅を待つしかないのだ。 「主・・・・・・・・!」 情けないのは判っている。みっともないのは判っている。 初めて世界を認識したあの日から、彩女を含む神姫は既に大人として生まれてきた。だが、それでもこの気持ちはいつだって変わらない。 記四季に会いたい。 あって頭を撫でてほしい。名前を呼んでほしい。 その大きく無骨な手に抱かれて眠りたい。 「主・・・・・・!」 闇の中呟いたその言葉もやはり、空しく反響して消えた。 [[前>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1820.html]]・・・[[次>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1827.html]]