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ねここの飼い方・その絆 ~二章~ - (2008/01/28 (月) 02:22:34) のソース
「せやね。なら名乗らせてもらおか。ウチはあんたみたいな軟弱な飼猫とは違う、高貴なる寅。ティグリース。 うちのマスターからもろた名前は、疾風(はやて)。 アンタみたいなニセモンの流星とは違う、本物の速さに相応しい名前やろ?」 か……完璧に挑発されてる。と言うか…… 「ニセモノじゃないのっ。ねここはねここだもん!」 流石にムっとした顔で、その寅型……疾風を睨み付けるねここ。 「何遍かみせてもろたで、アンタのバトル映像。 しゅーてぃんぐすたーやったか、アンタの装備。あないなモン、ただ推力にモノ言わせて馬鹿正直に真っ直ぐ飛ぶだけのロケットやないか。 しかも古臭くてゴツいブースターに頼り腐って、美しさの欠片も無いわぁ。せっかくの翼が台無しやろ。初代在庫様が化けて出るで。 おまけに大振りすぎるレーザーライフルなんぞ2丁もくっ付けて。しかも左右の射角無いも同然やし、アンタ射撃下手なようやし……運動性落としてるだけやね」 ウンウンと満足そうに頷きながら講釈をしていく疾風。 確かにそれはそうなんだけど。 「煌めくように華麗に飛ぶ……それが流星ってものやないか。 でもアンタのはそやね……ただ愚直に落っこちるだけの、隕石やな。あないなゴミ装備。 全くあないな馬鹿装備作って使うなんて、神姫も阿呆やけどマスターも阿呆やな」 ……ッ 「ちょっと貴方、少しは……」 「……じゃないの」 その喧騒の中では掻き消えてしまいそうなほど、極小さな声。 だけどそれは熱くなった全身が一瞬にしてゾッとする程、透き通って……苛烈な意思が剥き出しになった、ココロの叫び。 「みさにゃんの作ってくれた装備は、ねここの為に作ってくれたのは……ゴミなんかじゃないの!」 それは、今まで私が聞いたことの無い、ねここの声。 ~二章~ 「フン。あないな役立たず、早めに粗大ゴミにでも出すか、値段が下がらないうちに中古にでも出した方がええんと違うか?」 ねここの叫びに臆する事も無く、アゴに指を当てて自信たっぷりに、かつかなり尊大な物言いをしてくる疾風。 コレは確かにみんな怒るよね。でも、シューティングスターの本質は…… 「今までだって、ねここはシューティングスターと一緒に戦って……それで、勝ってきたの! 口先だけな疾風ちゃんになんか……絶対負けないのっ!!!」 肩を怒らせ、疾風の姿一点だけを見つめ、怖いくらい真剣な瞳で反論するねここ。 「そりゃアンタ、今まで運が良かっただけやろ。みんなアンタより更にヘボかったっちゅう訳や。 まぁ確かに今日戦こうた相手、みんな歯ごたえの無いヤツばっかりやったしな」 チラリとギャラリーの方へ目線を走らせる疾風。そこには対戦相手になってた常連さんの神姫たちも居て、項垂れてたり、言い返せない悔しさで一杯な顔が…… 何人かはマスター共々泣いちゃってるし…… 「みんなだって強いのっ。それに一生懸命やってるもん」 「神姫バトルは結果や。 幾ら頑張った所で、所詮負けは負け。ソコでデッド・エンドや」 「結果だけが全てじゃないの! 他にも……ほかにもいっぱいいっぱい良い事があるのっ」 「はん、『私たちは一生懸命やったから満足しました』だなんて、所詮負け犬……狼の誇りを捨てた犬の、遠吠えやよ。 アンタみたいな子猫といい、人に飼い慣らされた動物の宿命なんかね。弱肉強食の世界では絶対に生き残れない、とことん甘っちょろい考えは」 フッ、と何処か低いトーンで、何処か皮肉げに笑う。 負けず嫌いなのか、ハングリー精神なのか……恐らく、勝利への執着が物凄いのだろうけれど。 「甘くなんか、ないの……ねここと、勝負なの!」 「ふぅん……猫風情がウチに挑むとは自殺行為もいいとこやね。でもまぁ雑魚相手にも退屈してた所やし、その挑戦受けたろやないか。 ……ま、ホンマは『鋼帝』や『黒衣の戦乙女』辺りとやりたかったトコなんやど、そう都合良くはおらへんかったしなぁ。 このまま手ぶらで帰るのもなんやし、この際は格下の子猫ちゃんでも文句は言わん事にしたろ」 かんっぺきに売り言葉に買い言葉ね……まぁ確かにこのまま穏便に済むとは思ってなかったけれど。 「って、そういえば貴女のマスターは何処に。1人で来たわけじゃないんでしょ?」 「ん、ウチのマスターなら、ほれソコにおるよ」 くいっと指で壁の方を指す疾風。そこには壁に背を軽く預けて立っている男の人が1人。 此方の様子に気づくと、自分の神姫に返事を返すみたいに軽く片手を上げつつ、ニコリと人当たりのよさそうな笑顔を向けてくる。 何か、特徴のないのが特徴の好青年みたいな……何だろう、変な感覚。 そもそも神姫があんな考えを持ってるって事は、マスターも同じような考えなんだろうけど、そんな勝利に固執するような雰囲気には見えない。 まぁ、人を外見だけで判断するのは危ない事だけれどね。 「小野一樹です。以後お見知りおきを」 此方に近づいてきて、キラリと白い歯が光りそうな二枚目スマイルと共に挨拶する青年……私と同い年くらいか、もうちょっと上かな。 ……他にもこういう人がいたような。ちょっと寒気がしたけど気にしないことにしよう。 「それでは準備しましょうか。貴方たちもお早く」 と、次の瞬間には筐体に向かい準備をし始めている。 早いというか、なんというか…… 「それじゃ、私たちも準備しよっか」 「……うん」 こっちも何というか、大丈夫かな……ねここ。 今回ランダムで選ばれたフィールドは、丘陵地帯。 青々とした緑の芝生が一面に広がる広大なフィールドであり、方々に存在するなだからな斜面と、まばらに生えている広葉樹の樹木がそれらの風景に変化を与えている。 『ねここ、準備はOK?』 「絶好調なの」 シューティングスターをアイドリング状態にし、ごく僅かにホバリングしつつ待機するねここ。 このフィールドだとシューティングスターの推力を活かせそうではあるけれど、相手が寅型だと…… 『まだ相手の装備が判らないから、慎重に。何時も通りやれば、きっと大丈夫だから、ね?』 「わかってるの」 何時になく真剣、というかシリアスモードな表情と声のねここ。 この場合、集中してるんじゃなくて、視野狭窄になってる可能性があるから心配だけど…… 『試合開始』 「いっくのーっ」 試合開始の合図と共に、シューティングスターの推力を全開にして一気に飛び出すねここ。 って、いきなり突っ込んでるしっ。 『ねここ慌てないで。まずは上空から索敵を……』 「大丈夫っ、ねここに追いつけっこないの」 『いやそうじゃなくて』 嗚呼、やっぱり聞く耳持ってないしー!? と、そうこうしている間にセンサーに反応。前方から接近してくる……シューティングスター程ではないにしろ、結構早い。 と言うか、この動きって…… 『ねここ右前方注意。それと相手の動きが思った以上に鋭そうだから、注意して』 「平気なのっ。一撃必殺しちゃうんだからっ」 「猫如きが大言壮語。みっともないで」 「に゛ゃっ!?」 『ねここっ!?』 側面からの蹴りをマトモに食らって吹っ飛ぶねここ。 「な、なんとかっ」 吹っ飛んだ後、地面に激突する前にブースターに点火して強引に高度を上げ、なんとか体制を立て直す。 疾風は丘陵を影にして移動し、素早く側面に回り込み奇襲をかけてきたらしい。そしてそのままねここを追尾する体制に入る。 その動きはとても滑らかで、切り返しも踏み込みも鋭い。どうやら本当に口先だけじゃないって事みたいね…… 背部に装備された炎機襲の推力を活かして高速追撃戦を仕掛けてくる疾風。どうやらぱっと見た所、その装備はティグリースの基本装備そのままみたいだ。 基本装備そのままと言うと劣ってるように思われがちだけれど、その神姫の特性に適合した装備だからこそ基本装備として採用されてる訳で、基本装備を完璧に使いこなす神姫は、キメラ神姫とも呼ばれるただ単に最強のパーツを装備した神姫よりも遥かに強い。 「ほれほれ、次はアンタの番やで。 それともその隕石でただ走って逃げるのがアンタの技なんかな?」 確かに疾風はある程度シューティンスグターの特性を見抜いているみたい。ただ運用思想を間違えてるのだけれど。 『ねここ一旦距離を取って。相手が基本武装のみなら射撃はしてこないから、有利な体制で仕切りなおしを……』 「……平気なのっ!」 その足で大地を思い切り抉るほど踏み込み、同時に翼下のブースターも回転噴射させ、その場で回転するように急速ターン。って無茶を! 「ねここぉ……フィンガぁー!!!」 そのままカウンターを狙ってねここフィンガーを繰り出す。 一瞬で周囲に立ち込める雷光。全ての闇を消し去らんばかりの光と熱。 「はん、見え見えやな」 「ぇ、はわわっ!?」 力強く繰り出した、ねここの右腕。 その腕の上に、余裕綽々の表情で轟然と腕組みまでしながら立っている疾風。 「そない無茶な旋回、完全に隙だらけや。奇襲効果もあるんやろうが、そんな大振りな動きや相手に見抜かれたら全く意味がないやね」 そしてふわりと舞い上がったかと思うと、華麗に一回転まで入れて、わざわざねここの真正面に降り立つ。 「さぁ、ゲームの……いや、プラクティスの始まりや。アンタが無能じゃない言うんなら、精々気張ってウチに追いついてみぃ」 疾風はそのままくるりとターン、炎機襲でブーストを掛けて一気に加速する。 「言われなくてもっ!」 ねここも一気に最大加速を掛け、追撃に入る。 「重いクセによぅ加速するわ。でもこんなのは……どうやろねっ」 一直線に突き進む疾風。最大加速を続けるねこことの距離はあっという間に縮まっていく。 やがてクロスレンジにまで接近した時、ヒュっとねここの眼前から一瞬で消え去る疾風。 『って、ねここ避けて!』 「にゃ。へぶわっ!?」 叫んでみるも回避しきれず、正面に生えていた木の葉の中へ突っ込んでしまうねここ。 そんな急に止まれるわけもなく、結局そのままベキベキと枝葉を折りながら強行突破する羽目になってしまう。 「うぅ……擦り傷いっぱいになっちゃったの」 「あはは、やっぱり鈍重な隕石やねぇ。そないなモンも回避出来ないなんて情けないわ」 疾風はいつの間にか直進するねここの前方に戻ってきている。これは完全に弄ばれてるわね。 『ねここ、相手の土俵で勝負することはないわ。シューティングスターを切り離して受動戦術に切り替えを……』 「なんや、やっぱりそのメカはゴミやったか。ガッカリやねぇ」 あ、余計な一言をっ。 「……このまま、いくのっ!」 逆にこれでもかとブースターを全開にして一気に間を詰めるねここ。だけど疾風は軽いタッチで方向転換して難なく回避してしまう。 『切り離さないならせめてもうちょっと抑えてっ。そのままじゃシューティングスターが持たないからっ』 疾風は特定のリズムで炎機襲を一瞬だけ吹かしている。彼女は最大重量が軽いから、その程度の使い方でも十分な加速が得られるし、常に出力を出さない分、負担も少なく、旋回時に吹かすようにすれば小回りも効きやすい。 一方ねここは常に出力全開だから速度は出てるけれど、旋回半径が大きくなって無駄な動きが増え結局はマイナス面が大きくなっているし、最大重量も重いから常に推力を出していないといけないし、さっきみたいに無茶な旋回をしていたら機体も、ねここ自身も…… 「鬼さんこちら、手のなる方へっ」 「馬鹿に……するなぁぁぁぁ!!!」 『ねここ止まってぇ!』 両門のビームブレードを最大出力で展開、エンジンの出力もリミッターを解除してエネルギーの暴風と化して一気に疾風に突っ込む! 「なっ!?」 圧倒的な速度により、その刃が疾風を捉えようとした。その瞬間 「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 突然リアウィングの推進器の1つが閃光と共に砕け散る。 その爆発は一瞬のうちに他の推進器、更には燃料遮断装置が働くより早くブースターにも引火して。 『な!ねここっ!?』 驚愕と共に画面に映し出されたのは、一瞬のうちに空中で火達磨と化したシューティングスター。 そして次の瞬間には、赤色巨星のように真っ赤な火球へとその姿を変える。 「……なんや、あっけない」 醒めた表情で火球を見つめる、疾風。 その時、火球からドサリとゆるやかに落下してくる人影が。 「あ……ぅ」 真っ黒になってしまっているけれど、その姿は紛れもなくねここ。でも身に纏った鎧は完全にボロボロで、戦闘力は既に完全に失われているみたいで。 「まだ……終わってないの」 『ねここ、もういいから。勝負はついたよ……』 「うぅん……ねここは、まだ……」 ねここは思い通りに動かない身体で、それでも何とか立ち上がろうとする。そんなねここの前に、つかつかと歩いてゆく疾風。 「終わりやよ。 ……アンタは、マスターの命令に背き、自分の信念も貫けへんかった。 アンタのやった事はマスターの為でも無ければ、自分の為ですらあらへん。只の恥の上塗りや」 「そんなこと……!」 「在るわボケぇ! 最善の戦術を考えてくれとうとるマスターを無視、挙句しゅーてぃんぐすたーに無茶させすぎての自爆かぃ。自分の限界すらみえてなかったと言う訳や。 おちょくられた程度でココまで暴走。 ウチに実力を見せ付ける所か、1人芝居で自爆とは……ホンマに期待はずれ過ぎるわ。 アンタは自分自身で、自分の装備をゴミにしたわけやからな」 ねここの表情がたちまち暗くなる。それ以上は…… 「アンタは自分自身を……マスターすら裏切った、最低の、神姫や」 「ねここ…は…………みさにゃん……を……ぁ……あ……ああああああああああ……」 ガクガクと壊れたように震え出すねここ。その瞳からは、止め処なく溢れる悲しみの流れが…… [[続く>ねここの飼い方・その絆 ~三章~]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]