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第十三話『Howling Soul』 - (2008/01/20 (日) 22:04:08) のソース
*ハウリングソウル *第十三話 *『Howling Soul』 倉庫の薄暗がりの中、切り裂き・・・・狗怨は獲物を待っていた。 今日は以前取り逃がした犬型と、自分の邪魔をした悪魔型が揃ってここにきていた。逃がす手は無い。 悪魔型のほうは既に動きを封じた。あの巨躯から撃ち出される飛び道具や力技は彼女にしても侮れるものではない。 それを封じるためにブレードの一本を失ってしまったが痛手ではなかった。武器はそれこそ無尽蔵にあるのだ。一つくらい無くても構わない。 そんなことを考えてると、倉庫の広間にあの犬型が姿を現した。 左手にはP12ハンドガン、右手には・・・・・・・・ブレードを携えて。 僕は倉庫の中でも一番広い場所に立った。 周りには資材がビルのようにそびえている。こんなに大きなものでも、マスター達にしてみたらたいした事はないんだろう。人間ってスケールの大きな生き物だ。 「・・・・・・・・・」 耳を澄ます。 周囲は驚くほど静かで、何も聞こえない。 音を探して聴覚をより鋭くする。 と、小さな物音が聞こえた。 その瞬間僕は前へと跳んだ。受身も取らずに全力の跳躍。後ろのほうで空気を斬る音がした。そちらのほうを見ずにハンドガンを撃つ。音の主は撃ち出された弾丸を避けるように右側に跳躍した。 そして着地し、お互いに向き合う。 「・・・・・・・・久しぶりだね。切り裂き」 そこには全身が黒い一体の神姫がいた。 仮面に隠された顔。神姫にしては不自然に長い腕。・・・・そしてその腕に握られたブレード。 僕を殺そうとした神姫・・・・・・・切り裂き! 「・・・・・・・・・・・ッ!!」 壊れた倉庫の中で、僕達は同時に走り出した。 僕は右手にブレード、切り裂きも右手にブレードを携えて相手に向かって走る。 そのままお互いに馬鹿正直なほどまっすぐに、互いのブレードを交差させた。切り裂きは両手だが僕は片手だ。 力で押し負ける直前、左手に握っていたハンドガンを至近距離で一発撃つ。衝撃と反動で僕は切り裂きから一気に距離をとった。弾丸は切り裂きの腹部に吸い込まれたがダメージをおった様子は無い。 そのままミドルレンジ(中距離)でハンドガンを撃つ。しかし 「――――――っ!」 一閃 ―――僕の放った弾丸はすべてが斬りおとされていた。 信じられない。いくら改造品とは言え銃は銃だ。神姫の目でも、とても捉えられる速度ではないのに・・・・・! もうダメージを負わせることを諦め足止め目的で撃ち続ける。 しかし切り裂きはこっちの心情を理解しているかのように僕を中心として孤を描くように移動を始めた。 銃による攻撃は、直線的なものだ。 自分に向かってまっすぐ飛んでくるものは、ただ横に移動すれば当然当たらない。 敵の移動速度を甘く見ていたのか・・・・! 切り裂きがものすごい速度で僕に向かってくる。その距離はもう、銃で狙える距離じゃない。 僕はハンドガンを手放すと両手でブレードの柄を握り締める。そのまま向かってくる切り裂きのブレードを防いだ。 力と力の鍔迫り合い。切り裂きのブレードは、切り裂き自身のブレードでは切れないようだった。 「あああああああああああああ!!!!」 そのまま力任せに押し飛ばす。切り裂きは勢いを利用し後ろへと跳躍し、着地と同時にまたこっちに向かって跳んできた。 右からの袈裟切りをブレードで防ぐ。鍔迫り合いを始める前に刃を僅かにずらし、切り裂きの後ろへと跳躍した。 そこに落ちていたハンドガンを拾い、後方に向かって連射しつつ資材の陰に隠れた。 切り裂きが追ってくる様子は無い。 「(・・・・・・どうする? このままじゃ負ける・・・!)」 ハンドガンでは火力が足りない。ブレードでは勝ち目が無い。 何かもっと、決定的なダメージを負わせられるもの ――――――――――! と、視界に一つの大きな赤いものが目に入った。 目をやるとそこには大きなガスボンベが置かれている。危険・火気厳禁とも書かれていた。 「・・・・・・・・冗談」 いくらなんでもそれは無い。 三人で一緒に見た映画と現実は違うんだ。そんなことが成功するはずが無い。・・・・・でも。 僕は、ボンベによじ登っていた。 切り裂き ――――――狗怨は焦っていた。 今の今まで、どんな神姫だろうと自分の刃から逃れでたものはいない。一度失敗しても、必ず二度目には仕留めて来た。 それがどうだ。あの犬型は一度逃したばかりか今も尚自分から逃げ続けている。 ――――不愉快だ。 彼女が始めて得た感情は、不快な物だった。 狗怨は仮面に内蔵されたセンサーを使い、ハウの居場所を探し始める。すぐにセンサーに反応があり、狗怨はその場所にむかって走り出す。 行き着いた場所は資材に囲まれた行き止まりだった。 大きなガスボンベの後ろから、ハウのテンガロンハットが僅かに覗いている。 狗怨は無言で足音を立てずにボンベに歩み寄る。今度こそハウを切り裂くために。 あと一歩で手が届く、そんな瞬間、隙間風に揺らされテンガロンハットが地に落ちた。テンガロンハットが隠していた場所にはハウはいなかった。 「―――――――――――――――――――」 不審に思い、とにかくこの場から離れようと足の人工筋肉に力を入れた瞬間。 爆音がとどろき、狗怨の視界は光に閉ざされた。 「・・・・・・・・・・・やった」 ハウはそう言うと、まだ煙を上げる6mm口径ライフルのスコープから顔を上げた。 ハウは倉庫の行き止まりにガスボンベの中身を撒き散らし、そしてテンガロンハットを置いてから隠れたのだ。あとはものを投げるなりして音を立て、ガスが撒き散らされた行き止まりへ切り裂きを誘導する。そして遠くからボンベを撃ち、ガスに火をつけたのだ。 密閉された空間ではないため威力はそれほどではないが、それでも充分なはずだった。 「―――――嘘でしょ」 炎の中、切り裂き・・・・・・狗怨はそこにいた。 左腕は千切れ飛び、仮面の半分は砕け散って体中のあちこちが損壊しているが、しっかりと二本の足で炎の中に立っていた。 右手には変わらずブレードを握り締めている。 「―――――――――――――――」 砕け散った仮面の奥で、何も映していないガラス玉の目がハウを捕らえる。 狗怨はハウに向かい跳躍しようとする。 その瞬間、甲高い音を立ててマイクロミサイルの嵐が狗怨を襲った。 ハウは驚いて資材の山の上を見る。そこには山に伏せた状態のノワールがいた。 「ハウ! 今!!」 ノワールはそう叫びガトリングと背面ユニットの肩に搭載された7mm砲を連射する。狗怨はその攻撃に身動きをとれずにいた。 「―――――――――――判った!」 そう叫ぶとハウはライフルを抱えたまま走り出した。 全速力で狗怨に向かい、ライフルの長い銃身を狗怨に突きつける。そのまま引き金を引き弾倉が空になるまで零距離射撃を続けた。 狗怨の腹に大きな穴が開いたが狗怨はまだ動き続けている。 右手に残った唯一の武器であるブレードを振りかぶり、ライフルの銃身を両断した。そのままもう一度振りかぶり、ハウを両断しようとする。 「―――――――――あああああああああああああ!!」 ハウは使い物にならなくなったライフルを捨て、布で腰に結び付けていたブレードを引き抜き狗怨が振り下ろすより速く、真横に抜刀した。 ハウのブレードが狗怨の体を二つに絶つその瞬間、狗怨のブレードはハウの左腕を肩ごと切り裂いていた。 バッテリーが切れたのかそれとも壊れたのか、ハウの全身の機能がゆっくりと失われていった。 狗怨は振り下ろした勢いのままハウの後ろに向かって倒れていく。そして最後にハウの視界に映った狗怨の顔は・・・・なぜか満足げだった。 [[NEXT>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1615.html]]