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ねここの飼い方・劇場版 ~序章&一章~ - (2006/10/26 (木) 17:41:29) のソース
西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、2006年現在からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。 神姫、そしてそれは、全項15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。 その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ。 ***~プロローグ~ 其処は鶴畑家邸内に構えられた武装神姫専用棟。 この場所に置いて、あの鶴畑3兄妹の武装神姫たちが生まれ、訓練され、使役され、そして朽ち果て、棄てられていく。 そしてその施設の一つ、リアルバトル様式の実験場にて、新アラエルのテストが行われようとしている。 フィールド内、アラエルの周囲はヴァッフェバニーと新型のフォートフラッグが取り囲む様にして配置されており、 さらにはその周辺に渡って多数の武装神姫が配備されていた。 「ふふふ……いいかアラエル、貴様には最新の武装と最新型のシステムを組み込んである。 この程度の敵に敗北するようでは俺の武装神姫は名乗れん! その時は朽ち果てるだけ、だ」 施設の地下にある管制室から無数のモニターで状況を観察しているのは、鶴畑家の次男である鶴畑大紀。 大紀は前回マイティに敗れた旧アラエルを廃棄処分にし、修正プログラムを加えた上で、その戦闘データを新アラエルに移植したのだ。 更に鶴畑家で独自に開発中の制御プログラムを実験的に導入し、反応速度と処理速度の大幅な向上を図っている。 また各部の強度も向上させており、体当たりされただけで翼が空中分解という醜態を晒さないように工夫されている。 スペックデータだけであれば長男興紀の誇るルシフェルに匹敵し、それはこのテストによって実績となって証明されるはずであった。 「よし、開始しろ」 大紀の指示の元、オペレーター達が神姫に攻撃コマンドを命令していく。 アラエル周囲の神姫は全て中央から一括コントロールされており、いわば唯の人形と相違ない。 そして嵐のような一斉砲撃が始まった。 ヴァッフェバニーのSTR6ミニガンが、カロッテTMPが、フォートブラッグの主砲、ミサイルランチャー、他あらゆる火器が、アラエル唯一点を目指して突き進んでゆく。 そして着弾、爆発と煙でその姿は視認不可能。 たが次の瞬間、周囲を包囲していた最前列の神姫の頭が次々ボトボト地面へ堕ちてゆき、不本意な大地との接吻を余儀なくされる。 アラエルが指向性レーザーで首との接合部をひと薙ぎにしたのだ。しかもアラエル本体は無傷。 翼に無数に設置されたレーザー及び迎撃用ミサイルによる相殺で、完全にその攻撃を防ぎきったのだ。 今度は、格闘装備を展開した十数体の神姫が一斉に飛び掛る。 しかしアラエルは冷静に、危険度の大きい敵機からレーザーを浴びせ、確実に、そして圧倒的な速度で次々と沈黙させてゆく。 それはギロチンの処刑を彷彿とさせる様な光景だった。 レーザーがひと薙ぎする度に複数の神姫の首が胴体との別離を余儀なくされ、苦しみを訴える間もなく意識が奪われるのだ。 やがてフィールドには沈黙だけが残される。動いている神姫は既にアラエルのみであった。 「ふん……100体仕留めるのに3分26秒か、悪くはないな。よし上がれアラエル、データを元に再検討を行う」 しかしアラエルは動かない。 ただ佇むだけで、その目からは生気や意思が一切感じられない。まるで夢遊病者のようである。 いつもの様に従順に「イエス、マスター」との返答がくると信じきっていた大紀は不快感を露にし。 「おい、俺の言うことが聴けないのか! 初戦でいきなりぶっ壊れやがったのか!? この役立たずめ!!!」 罵倒を受けても、尚一切の反応を示さないアラエル。 と思われたその時、ギギギと錆付いたブリキのロボットのように再起動すると、全身に装備された全武装を最大出力で乱射し始めた! 「やめろアラエル! 廃棄処分にしちまうぞ、俺の言うことが聞けないのか!?」 そうマイク越しに叫んではみるものの、全く主人の意思に従うそぶりは皆無である。 最大出力のレーザーは施設そのものにも大きなダメージを与え、現場は凄惨なものとなっていた。 人間では危険すぎてとても近づけず、神姫によって拘束もしくは破壊しようとしてもその狂った戦闘能力は何者をも寄せ付けようとはしなかった。 破壊神と化し近づく者全てを、いや周囲のあらゆるものを灰塵に帰していく。 やがてその純白のボディにうっすらと内部から赤い色が染み出してくる。 過剰出力で発射し続けたためにオーバーヒートを起こしているのだ。 「やめろ! やめるんだ! やめてくれぇぇぇぇぇ!?」 エマージェンシーコールと共に、大紀の悲鳴が管制室に響き渡る。 ……やがて、限界を迎えたアラエルのジェネレーターは融解し、辺りは閃光に包まれた…… *~ねここの飼い方・劇場版~ ミィ~ンミィ~ンミィ~ン、とセミの鳴き声が暑苦しく聞こえる頃。 「あ~つ~ぃ~の~……」 「暑いですね……」 「暑すぎるわね……」 私たち3人はノびていました。夏休みに入ったばかりなのに、その日は運悪く点検による一斉停電の日でして。 そして更に運が悪いことに、地獄のような暑さだった……温度計をみると目眩がしそうな気温を指している。 という訳で私たちは居間に倒れこむようにしてぐったりと。 「ねここ~、雪乃ちゃぁん。お昼どうするぅ~……?」 べっちゃりと床に這い蹲る格好でそういう私、でも冷たいものしか食べたくないわ…… 「ねここ~ぉ~、カキ氷ぃ~……」 「いいわねぇ……でもウチには電動式のしかないのよ」 それを聞いて、へにょりとたれるねここ。私も同じ気分だけどねー……トホホ。 「あーもー……こうなったらエアコンの効いてるお店に逃げるしかないわね……ここからだと、エルゴが一番近いかしら」 老体に鞭打つようにして何とか立ち上がる私。 ここにいては死んでしまうと思えるほどなので、動きたくなくても動かなければ…… 「行くわよ~、さぁさ二人とも乗って。あ、団扇で私扇ぐの忘れないでよね」 「はぁひ…ぃ」 と、よろめく様な足取りでエルゴへ向かったのでした。 「生き返るぅ♪」 「サイコーなの~☆」 という訳で、あの蜃気楼のような街並みを死の行進の如く突破してエルゴにたどり着いた私たち。 自販機コーナーで命の一杯を満喫しているところです。 改めて店内を見回してみると、夏休みに入ったという以上に人が多い気がする。やっぱりみんな逃げてきたのかしらね。 「ねここ、せっかくだからバトルでもする?」 「う~ん、後でがいいの。今はまだヘロヘロぉ」 と、ぐんにょりしながら言う、ねここがここまで元気がないのは珍しい。 ま、私も今の頭だと指示出来なさそうだしね。 という訳で、スクリーンに映し出されている対戦に目をやる私たち。 戦っているのはストラーフとアーンヴァル。 どっちも常連のサードリーグの人なんだけども、私にはどちらも以前見た時よりもかなり動きが鋭くなってるように思える。 上達したのだろうけど、なんだろう…… 酷い言い方かもしれないけど、短期間に上手くなりすぎ……とでも言うのかな。 「……あぁ、そっか。運動パターンがどっちも一緒なんだ」 出荷時に神姫にプリセットされた戦闘用プログラムは基本的に同一だから、箱から出した時や経験値が殆どないときは 同じタイプであれば、どの娘もほぼ同じ動きをするわけで。 でもある程度成長してくると、同じタイプでも一人一人の個性が生まれて、全く違う動きをするようになる。 それは全ての神姫が自分の経験を元にして新しい動きを生み出すからであって、例えばねここと同じような動きをする神姫がいても、 ねここと全く一緒の動きをする娘はいない。 それにプリセットされた動きといっても、タイプ別のパターンはあるわけで。 なのにあの二人は、タイプも違うのに行動パターンが妙に似通っているんだ。 「や、美砂ちゃんこんにちは」 「あ、マスター」 私が観戦しながらそう思慮を巡らしていると、いつの間にかエルゴの店長が後ろにいて。 「難しそうな顔してたけど、あれ気づいたのかい?」 と、主語を省いて問いかけてくる。 「えぇ……同じ様な動きしますよね。あの二人って親友とかじゃありませんでしたよね?」 「ああ、そうだね。此処で顔をあわせる程度の関係だと思うよ。 ……まぁ、恐らくなんだけど、多分アレを使ってるんだろうな」 微妙な表情で、妙に言葉を濁す店長。 「アレ? 何かあるんですか」 ん、と店長は声を一段下げて 「多分だけどね、HOSを使ってるんだろうな」 「何ですかそれ?」 「ん、ハイパー・オペレーティング・システム、通称HOS。 まぁ一言で言うと武装神姫の動きや思考を戦闘用に最適化するためのものだね。 乗せるだけで平均30%は性能が上がるって言われてるよ。」 「へぇ、そんなものが出てたんですか。知りませんでした」 私はソフト面の改変は殆どしないし、やっても自分で処理してしまう事が多いので市販品については疎かったり。 「出てるんだよ、出したのは傘下のメーカーのほうだったと思うけどね。 今じゃかなりのユーザーが使ってるよ。手軽に能力UPが図れて、しかも激安ってね。 でも俺はあまり好かないな。確かに性能は大幅に上がるかもしれないけど、あれは神姫の個性を殺すようなシロモノだからね。 確かに強くはなれるかもしれない。でもそんなものに頼った強さは本物の強さじゃない。本物の強さというのは……」 と、そこまで話して店長はハっとなって 「いや、すまなかったな、こんな話お客さんに聞かせるモンじゃないよな。忘れてくれれば有難いよ」 「いえお構いなく。でもそうですね、ジュース1本づつ奢ってくれたら忘れてあげます☆」 「ハハハ、まぁいいさ。それくらいならね、何がいい?」 「それじゃあですね~……」 そうおちゃらけてみたけど、その話をしている時の店長さんの顔がとても真剣で、とても怖くて、そして悲しそうに見えたのが印象的でした。 「さて、やっと落ち着いてきたし。一試合やっちゃいましょうか~」 「お~っ☆」 店長さんから2杯目のジュースを強奪した私たちは、フル回復。 ねここも雪乃ちゃんも戦闘用装備に換装して準備万端だ。 「さてさて、誰がお相手になるのかしらね~」 とその時 「キャァァァァァァァァァァァ!!!」 いきなり対戦ブースの方から聞こえてくる絹を引き裂くような悲鳴。 振り向くと、そこのスクリーンには相手がダウンしてるにも関わらず、延々と相手の顔面を殴り続けるアーンヴァルの姿が。 相手のストラーフの顔はフレームから歪んでしまっている。バーチャルとはいえやり過ぎなのは明らかで。 私は何かトラブルがあって、感情が振り切れて(つまり激怒して)しまったのかと思ったけど、アレは違う。 顔は無表情、あらゆる感情が消え去りただマシーンのように相手の顔面を殴るのみ。 マシンに駆けつけた店長が、急いでマシンを停止させようと機器を操作する。 「……くそっ! 試合が終わらない、なんでだっ!?」 だがマシンは止まらない、店内が段々騒然としてくる。 それ以前に、あんな状態になる前にジャッジAIが判定を下しているはずなのに。 「電源を抜いたら?」 私も傍らに駆けつけて、そう言ってはみるものの。 「ダメだ、今下手に電源を抜いたら、電脳空間内にいる二人のデータが破損する恐れがある。 ……!? いつの間にか識別信号が味方同士になってる。だから終わらないのか!」 「変更できますか?」 「いや無理みたいだ、二人のデータから何か流れてきてるみたいでな。……電脳空間に乗り込んでって、二人を直接倒せばあるいは……」 「ねここが、行くよ」 え?、と驚く店長。 「あんなの見ていたくないもん。ねここにできる事があったら、やるのっ」 「私も行きます。ねここだけを危険な目にあわせる訳には、行きません」 雪乃ちゃんもそれに続く。 私は何も言わない、ただ微笑んで二人を送り出してあげるだけ。 店長さんは一瞬何か言いたげだったが、すぐに気を取り直すと 「わかった、二人にお願いする。でも俺の方もジェニーをすぐ送り出すようにするから、二人は無茶しない事、いいね」 と、二人に任せてくれた。 「それじゃ、隣の筐体に入って。すぐに繋げるから」 「……何か空気が違う感じがしますね、ねここ」 「うん、嫌な感じがするの」 そして二人はそのフィールド、ゴーストタウンへと降り立っていた。私もヘッドギアを付けて、二人のサポートと援護。 『二人とも、目標は前方500にいると思われるわ。出来るだけ早く叩いて頂戴……それと、辛いけど頭部を破壊して。 100%確実に退場させるにはそれしかないの。悪いけど……』 さすがにこんな言葉を二人に伝えなければいけない自分が嫌になる。しかも手を汚すのは私じゃない、あの娘たちなのに…… 「……心配しないで、みさにゃん。ねここは大丈夫……それに、そうすればあの子たちを助けられるんだから…っ」 『………お願い、ねここ』 ……強くなったね、本当に。 「……ねここ、向かってきます。二人とも!」 と、雪乃ちゃんが言うが早いか、レーザーライフルの連射が二人を襲う。サードリーガー、まして暴走中とは思えない正確な射撃だ。 「とぉっ!」 だけどねここ達には当たらない。二人は壁や十字路の死角を駆使して、器用に攻撃を回避しつつ接近していく。 と、壁にドォン!と着弾。壁が粉々に吹き飛びビルが半壊する。 「ふぅ、セーフぅ」 壁伝いに移動するねここに、ストラーフがグレネードを放ったのだ。 頭部に大きなダメージを負っているはずなのだが、動きは通常時と変わりなく、それが不気味さを増大させている。 「ねここはアーンヴァルのほうを! ストラーフは私が引き受けます」 「了解っ!」 言うが早いかシューティングスターを全開にして一気に突進するねここ。 ストラーフはそのねここに対して攻撃を行おうと 「させませんっ!」 雪乃ちゃんが左腕に装備したガトリングガンでストラーフを蜂の巣に。サブアームでガードするものの、全身に満遍なく被弾。 さらにグレネードランチャーにも弾着、爆発。その爆風を全身に浴びてしまうストラーフ。 既に装甲はメチャクチャに撥ね上がり、既に装甲としての役割を果たさなくなっている。 見た限り駆動系の一部も破損しているはずだ。 普通ならとっくに動けなくなっているはずなのに、しかしまだ動く。 その不死身さはゾンビを連想させる…… 「……止むを得ませんね」 姿勢を低くして一気にダッシュをかける雪乃。 ストラーフは突進してくる雪乃をメッタ斬りにしようと、自身の腕とサブアームでアングルブレードとフルストゥ・グフロートゥを構え、 タイミングを計って一気に振り下ろす! が、雪乃は直前に横に細かくステップ。 そのまま相手の頭上へジャンプし、ストラーフの脳天、ほぼゼロ距離から蓬莱壱式を叩き込む! それは頭部に直撃、完全破壊。さらに胴体にも致命傷を受けたストラーフはそのまま倒れこみ、やがて消滅していった。 一方ねここはアーンヴァルに向けて突撃。 「このくらいじゃ、当たらないよっ!」 確かに相手の射撃は正確だけども、十兵衛ちゃんに比べれば隙だらけ。 ねここは紙一重で回避し続け、あっという間に白兵レンジへと持ち込んでしまった。 と、不利と悟ったのか空中へ飛翔しようとアーンヴァル。 でもそうは問屋が卸さない。 『ねここ、一気に決めちゃってっ!』 「了解なのっ。いっくよー!」 ジャンプと同時にシューティングスターを吹かす! と、一気にアーンヴァルの目の前に出現する。 シューティングスターは空中での機動性こそ殆どオミットしてあるけれど、その推力に任せてある程度飛ぶことは出来るのだ。 「とりゃーっ!」 ねここはワイヤークローを射出、そのワイヤーでアーンヴァルをがんがらじめにして地上に落下させる! 「ごめんね……っ」 体制を立て直そうと立ち上がったアーンヴァルに対し、ねここが迫る。 その左手にはドリルが装備されていて……一気に高速回転、唸りをあげる! 「ドリルクラッシャー!!!」 ……次の瞬間、ドリルはアーヴァルの頭を完全に粉砕していた…… やがてキラキラとポリゴン粒子になり消えていくアーンヴァル、どうやら成功したみたいだ。 『ねここ、雪乃ちゃん。変な影響が出る前に二人とも戻ってね』 「はぁいなの」 「了解」 「……ぅ、ぅぅん。あれ、ますたぁ?」 「よかったぁ…っ、なんともないのね!?」 「ぅん、平気かな……ボクどうしちゃったんだろぅ」 目を覚ました神姫と、その神姫を抱き上げて喜ぶマスター。 無事に再起動した二人を見て、ほっと胸を撫で下ろす私達。二人の意識は無事元のボディに戻ったみたい。 ただ原因は不明。店長さん曰くウィルスの存在もあるけど、現時点では確認されていないとの事。 店長さんからは当事者たちには、二人の神姫は当分の間バトルは止めた方がいいという事を言っていました。 で、ねここ達も念のためチェックをした後帰宅、ということに。 「今日はすまなかったね、迷惑ばかりかけてしまって」 「いえ、気にしないでください。ねここたちが選んで決めたことですから」 と会話している私達。 この時はまだ、漠然とした不安を抱えながらも、あれ程の事件に発展するとは夢にも思っていなかったのです…… [[続く>ねここの飼い方・劇場版 ~二章~]] [[戻る>ねここの飼い方]]