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「初陣」 - (2006/10/26 (木) 16:57:19) のソース
*そのよん「初陣」 「なーっはっはっはっはァ! ぅワガハイの最高傑作! バーニング・ブラック・バニー、 略してB3(ビー・キューブ)よ! 今日も最高の成果を期待しておるぞォ!」 「サー、コマンダー」 何でこの人はこんなにハイテンションなんだろうねティキきみはどう思う? 目の前には全身これでもかっ! てくらいにミリタリー調で統一された、特殊なファッションセンスの持ち主が高らかに笑ってる。 一気に思考が平板化し、言葉は口から出ることなく脳内をただ空転するだけ。 「ウサギさんなのですよぉ! すごいのですぅ♪」 ティキきみは何でそんなところを感心してるんだい? 彼の前にはまるで武器が動いてるんじゃないかと思うくらいに武装された、ヴァッフェバニーが仁王立ちしている。 「しょ~~~ねんっっっ! ワガハイのB3に恐れをなし、言葉すら失ったかっっっ!!」 失礼にも人を指差し、そう言い放つ。 あーー言葉を失っているのは確かにあんた様のせいですよそのテンションについていけなくて。 「聞けば少年! 今日が初陣と言うでは無いかっっ! なーっはっはっはっはァ! このぅワガハイと! ビィィィィキュウゥブがっ! 本当の戦いの恐ろしさを教えてしんぜようぅぅぅっ!!」 「サー・コマンダー」 武装神姫のオーナーって、基本アレなのか? ティキには言えないが、僕は少しだけティキ――と言うより武装神姫――のオーナーになった事を後悔したりして。だって、あんなのと同じに思われるのって、ねぇ? 僕と対峙しているお兄さん――今日の対戦相手――が人目を気にすることなく大笑いを続けているその脇を、いかにも慣れた風に店員のお姉さんがものすごく冷淡な声で言う。 「選手の登録をお願い致します」 「あ、ハイ」 そこだけテンション普通なのかよ! 「それでは君も選手登録お願いね」 先ほどお兄さんに見せた冷淡な態度ではなく、にこやかに対応してもらい、僕は胸を撫で下ろした。 今日はいよいよ僕とティキの初陣。近所にある武装神姫取扱店へと足を伸ばす。そこは簡素ながらもバトルが行えるシステムがあったから、数日前にバトルの受付を済ましていたんだ。 最初からリーグ戦とか、そういうのはチョット怖かったので、店舗主催の初級者用バトル大会なるものに参加。 と、気合を入れて来たらこれだもんなぁ…… 『ぬあーはっはっはっはァ! どうだ! どぉぉぉだっ!! この弾幕からは逃れられまいっ!!』 開始早々B3はティキに向かってミサイルの雨をお見舞いしてくれる。 見事なまでに再現された廃墟に無数のミサイルが飛ぶ。 しかしそのミサイルが命中する事は無かった。 ウイングユニットにアームで接続されたレーザーライフルがミサイルのことごとくを嘗めるように掃射。そしてそのままトリガーを引いたままB3にライフルの銃口を向ける。 『そんな見え見えの攻撃があたるものかァっ!!』 その言葉通り、B3は危なげも無くかわす。 「当然だよなぁ。コッチも当たると思ってないし。当たったらラッキーぐらいでしかないし」 ティキとしても避けられる事が前提だったので、正射しながらも移動する。 僕はわりと冷静だった。……正確に言うと興奮してるおかげで、冷静さも増した感じ。 「ティキ、サブシステムとリンクして。……今の君には死角は無い」 『ハイですよぉ♪』 ティキの背部に装着されている情報集析ユニット、実はアレ、神姫のコアと同じくらいの容量と演算能力が備わっている。今は亡き親父が何処から手に入れたのかは謎だが、僕はそれを有効に使わせていただく事にした。 コア二つ分の演算能力を有したティキは、情報収集、現状把握を集析ユニットに任し、自身はそれに基づいて適格に動く事だけに専念する。 するとどうなるかと言うと、ティキは反応行動の鬼と化す。市販品(それは確実)なのにもかかわらず、ティキは反応が飛びぬけていて、それを十分に活かす機体性能を持っていた。 元々マオチャオは、敏捷性に優れているのだけれども。 『いっくでーすよぉ♪』 ウイングユニットの機動力だけではなく、朽ちた建物の壁を蹴りながら勢いをつけ接敵を開始する。 彼我距離を縮められる事を嫌ってか、ガトリングガンを打ち続けながらジリジリと後退するB3。 しかしその事ごとくをティキはかわしながら距離を縮めてく。壁を蹴って移動の勢いを増すのと同時に、壁を蹴る事でジグザグとフェイントの様な動きをして近づいているんだから相手も大変だろう。 大体一発でも、当たり所が悪ければティキはKOしちゃうんだから、当たるわけにはいかないんだ。機動性を重視して、思いっきり軽装にしてあるんだから。 『ヤツは3倍の速さで動けるというのかぁぁぁっ!』 『ティキは赤くも無ければ角も無いですよぉ♪』 相手のお兄さんと僕には意味のわからない会話を交わすティキ。 ……チョットだけ疎外感。 そんな間にもティキとB3の距離は縮まり、瞬く間に白兵距離。スラリと西洋剣を抜いたティキと、ガトリングを投げ捨てるタイミングさえ失いコンバットナイフで応戦しようとするB3。 ひゅん 空気を切り裂くような音が聞こえたのは気のせいか。 そこにはコンバットナイフを振り切ったB3と、見事にそれを屈んでかわし、B3の喉もとに剣を突きつけているティキの姿があった。 『当たらなければどうという事は無いのですよぉ☆ 勝負ありですぅ♪』 にこやかに笑うティキに、B3は不敵な笑みを返す。 がしゃん そう聞こえたかと思った瞬間、ティキは反応していた。 ぱんぱんぱん 続いて聞こえる軽い発射音。 『おイタはダメなのですよぉ~』 投げ捨てられなかったガトリングガンをB3が構える前に、ティキは左手に持っていたリボルバーでそのガトリングガンを打ち抜いていた。 B3は諦めの表情で、両手を上げた。 「しょーねんっ! 今日はヒッジョーォに有意義であったァ!」 にこやかに笑みを浮かべながら握手を求めてくるお兄さん。テンションは未だ高めだが、バトル前に比べると幾分か落ち着いて見える。 「こちらこそ、ありがとうございます」 僕は素直にそれに答える。 「うむ! しょーねんんっ! なかなかに見所があるぞ! 今日の試合を糧に、ますます精進するがイイッ!」 んん? 「それではまた戦場で会おうッ! なーはっはっはっはっ!」 そういってそのお兄さんは背を向けた。 ……なんだか僕らが負けたみたいになってないか? 僕らは釈然としない思いを抱えつつ、高らかに笑いながら立ち去るミリタリールックのお兄さんを見送った。 [[終える>せつなの武装神姫~僕とティキ~]] / [[もどる>「良く晴れた日」改訂版]] / [[つづく!>「思春期男子なんだから時にはそういう事もある」]]